ずっと1位
「ようこそ、我が家へ」
言いながら、玄関のドアを開ける。
「「おじゃましまーす」」
靴を丁寧に脱ぎ、揃えてから二人は中へ入っていった。
「綺麗にしてるんだねー。何気に僕の部屋より広いかも」
部屋に入るや否や、キョロキョロ眺めながら杉原が言う。
「まぁまだ引っ越してきて日が浅いってのもあるけどな。あ、カバンはベッドの上にでも置いてくれ」
キッチンの方でお茶請けを用意しながら声をかける。
「「はーい」」
二人の返事がシンクロしながら返ってくる。
なんかやたらハモるな、この二人。それだけ気が合うってことかな。
「こ、これが男子の部屋……!」
ベッドにカバンを置き、部屋を見渡しながら、柊は少し興奮した様子だった。
あんまりそう、マジマジ見られるとちょっと恥ずかしい気もする。
「別に変なものはないから安心してくれ。はい、お茶とクッキー」
そう言って皿に乗せたクッキーとマグカップをテーブルの上に置く。
「あ、クッキーだ。ありがとう~」
ふふ。と少しはにかんでから杉原はクッキーをかじった。
「い、いただきます」
それに続き、柊もクッキーをかじる。
「薫君は一人暮らし慣れてきた?」
サクサクと聞こえのよい音を立てながら、杉原がそんなことを聞いてきた。
「慣れてきたけど、毎日ご飯とか一人でしなきゃいけないのがめんどくさいよな」
「あー、そうだよね。たまにスーパーで売ってるお惣菜で済ませたい時とかあるもん」
オレの言葉に共感できるとばかりに、杉原は大きく頷く。
「一人暮らしって大変なんだね……」
すると、オレ達の会話を横で聞いていた柊が小さく呟く。
「楽ではあるんだけどな。でも親の大切さがよく分かるよ」
そんな会話を織り交ぜつつ、その後は学校についてとか、雑談をしながら楽しい時間は過ぎていった。
そして陽も陰り、辺りもすっかり暗くなってきた頃。
「ここをこの数式で解けば……」
柊が教科書に載ってる数式をノートに書き写す。
「あ、なるほどな」
スラスラと流れるようなに動くペン先を見ながら感心する。
色々話している途中で思い出したのだが、今日も宿題が出されており、どうせなら3人でささっと片付けようということになり、ノートにペンを走らせている次第である。
「流石だね~、綾香。難しい問題もスラスラ解いちゃう」
オレとは逆の柊の隣にいる杉原が敵わないといった様子で、はぁ。とため息を一つ吐く。
「相変わらずって中学の頃も柊は頭よかったのか?」
確か柊と杉原のいた中学はそこそこレベルの高い中学だったと聞いている。
「ものすごくね。常に学年1位だったからね」
「ずっと1位?!そりゃ、すげぇな」
思わず、ノートを見ていた顔をパッと上げ、柊の顔を凝視する。
「や、やめて。恥ずかしいよ……!」
誉められることに慣れてないのか、柊は赤を真っ赤にさせていた。
「ほんとは嬉しいくせに~」
ニヤニヤと笑いながら、杉原はウリウリと肘で柊の腹を突っつく。
「も、もう~……!」
と、柊が杉原に対して抗議の声を上げた時。
ピンポーン。と、玄関のチャイムが鳴った。
「なんだろ?」
ゆっくりと立ち上がり、玄関まで向かう。
この時、インターホンで来訪者を確認しておけばよかったと後に後悔するハメになるのだが、この時のオレは知るよしもない。
「はい……」
ガチャと玄関を開けた瞬間。
「おにいちゅわーーーん!!」
誰かが思いっきり、抱きついてきた。




