じゃあって?
「ふわーあ」
朝。
学校への道を歩きながら、たまらず出てきた大きなあくびを噛み殺す。
「今日もおっきなあくびだね」
オレの隣を歩く杉原が握り拳をつくって、オレの大きく開いた口に入れようとしてくる。
「まぁ、色々あってな……」
杉原の手を払い除けながら、目を擦る。
陽愛をなだめるのに体力をやたら使ったみたいで、しっかり寝たのにまだ眠い。
「そういえば、部活は決まったの?」
「あー、いや一応、一覧見てきたんだけど、特に入りたいって思える部活や同好会が無くてさ。無理に入る必要もないから帰宅部でもいいかなって感じ」
「そうなんだー。じゃあ、僕も帰宅部でいいかなー」
じゃあ?じゃあってどういう意味なんだ?
その言葉に疑問を抱きつつ、オレ達は学校へと着いた。
そして、下駄箱で上履きに履き替えたところで、トンと後ろから誰かがぶつかってきた。
「ん?」
誰だと思い、後ろを振り返る。
「おはよ……」
するとそこには、まったく覇気のない柊が歩くのもやっとという感じで立っていた。
「おい、大丈夫か……?柊」
よく見ると目の下には隈ができている。
「夜更かししちゃって、ほとんど寝てないの……」
力なく、下駄箱から上履きを取り出す。。
「夜更かしってテレビでも見てたのか?」
とりあえず倒れないように柊の肩を支える。
「ううん……新作の本、たくさん買っちゃって。おかげで金欠……」
ははっと力なく笑う。
「ったく、なにやってんだよ。教室まで歩けそうか?」
「多分、大丈夫……」
しかし、言ってるそばからフラフラとした足取りだった。
「ああ、僕がカバン持つよ!」
それを見ていた杉原がすかさず、オレと柊のカバンを持ってくれる。
支えながらも、なんとか教室にたどり着き、席についた途端、柊は机に突っ伏してそのままあっという間に眠ってしまった。
「ぐー……」
昼休み。オレの隣に座って寝ている柊が盛大にいびきを発てる。
「可愛い顔が台無しだね」
そんな柊の顔を見て、杉原が苦笑する。
「全くだな。それにしても授業中も寝てたのに、まだ寝るのかよ」
後ろの席だから、先生に見つからずに済んだから良かったものの。
まぁ、クラスメイトはそんな柊に、めちゃくちゃ驚いてたけどな……
弁当のウインナーを食べながら、その時のことを思い出し、オレもつい苦笑してしまう。
「それにしても一晩中読んでたなんて、どんな本を買ったんだろうね?」
「さ、さぁな」
杉原の問いに危うく、喉にウインナーを詰まらせそうになった。
多分、BL本なんだろうな……
とは言えず……
「あ、そういえばさ、薫君って一人暮らししてるんだよね?今日、遊びにいっていい?」
「ん?ああ、別にいいけど」
あ、そういえばまだオレの家の場所言ってなかったな。
言おう言おうとして忘れてた。
杉原が怒んなきゃいいけど。ま、そんなことで怒るようなやつじゃないと思うけど。
「ぐえ……焦げてる……」
朝、試しに焼いてみた卵焼きが焦げていて口に頬張った瞬間、思わず、顔をしかめてしまう。
対して杉原の卵焼きは綺麗に焼き色がついており、これが女子力なのかと感じ取った。
かったるい午後の授業も終え、放課後に突入。
三人連れ立って学校を出たオレ達は同じ道を歩いていた。
「楽しみだなー」
オレの右隣を歩く杉原はウキウキとした様子で口を開く。
「私、友達の家行くの初めて……」
杉原とは打って変わって、左隣にいる柊は少し緊張した様子だ。
「あんまり騒がしくするなよ。他の人の迷惑だから」
それをたしなめるオレ。
「「はーい」」
二人揃って元気良く返事をする。
確か、この前買ったクッキーがまだあったはずだから、それをお茶請けにしよう。
てか、何気に女子が家(実家を含める)に来るの初めてだな。
「……」
なんかオレまで緊張してきた。
あ、いや、違う。杉原は男か。うっかりしてた。