あくびが出るのは酸素不足
週明け。
「ふぁーあ……」
大きなあくびをしつつ、登校する。
昨日は日曜だし、やることもなかったし、柊に勧められて買ったゲームを一日中やっていた。
柊が勧めるだけあってかなり面白かった。
そのおかげで寝不足だけど。
「ふぁーあ……」
今日、何度目か分からないあくびをした時。
「おっきなあくびだねぇ」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
「杉原か……」
首だけを後ろに回す。
「杉原だよー。おはよ。ものすごく眠そうだね?」
言って隣に並ぶ。
「ああ、久々にゲーム買ったらすっかりハマっちゃって、この様だよ」
「へー。ゲームかぁ……僕はあんまりやらないなぁ」
「オレも滅多にやらないんだけどさ。柊に面白いからって勧められて……」
そこまでいったところで全身が凍りつき、ハッと気づく。
柊がゲーム好きなの言っちまった!!
他の人には内緒って言われてたのに!
さっきまでの眠気はどこへやら。完全に目が覚めた。
「へー。柊さんってゲームやるんだー。意外ー」
だが、杉原の反応は至ってシンプルなもんだった。
「あ、ああ……」
生返事をしながら、心の中でほっと胸を撫で下ろす。
あー助かった。
杉原と共に校門をくぐり、階段を上り、そのまま教室へ。
ドアを開けると、その中には既に何名かのクラスメイトが。
その中には柊もいた。相変わらず、自分の席に座って本を読んでいる。
そんな光景を見つつ、自分の席に座った瞬間に事件は起きた。
「どう?!ハマった!?」
柊がかなり興奮した様子で話しかけてきたのだ。
「え……」
その声に横を向くと、カバンを机の上に置いた杉原が驚いた表情をしていた。
そりゃそうだろう。
週を明けたら、まるで別人のように話しかけてきたのだから。
そして、ハッと気づき、周りをよーく見てみると、さっきまで楽しく談笑していたクラスメイト達が全員、こっちを見ていた。いや、正確にはオレと柊を。
「……」
ヤバい。全員がオレの次の一言を待っている。
背中に嫌な汗がじとっと出るのを感じつつ、口を開いた。
「ハマったってあれのことだよな?めちゃくちゃハマっておかげで寝不足だよ。アハハハ……」
頑張って笑ってみるが、最早、乾いた笑いしか出てこない。
ちなみにゲームとは言えないので「あれ」と言ってみる。
「そっかー!よかったー!!で、どこらへんまで進んだの?」
柊はクラスメイト全員がオレ達を見ているなんて、夢にも思わず、ノリノリで楽しそうに喋ってくる。
その笑顔はものすごく明るくて、可愛くてこっちも元気になりそうなくらい……
なんだけど、それ以上に周りからの絶対零度に匹敵する視線が痛い……!
生きてる心地がしないってのは、こういうことかな……
なんて思いつつ、地獄の時が過ぎるのを待つばかりだった。