友達
ゲームを買い、フィギュアを色々とじっくりと眺めたあと、近くにある喫茶店に二人で入る。
といっても、普通の喫茶店ではなく。
「初めて入った……」
思わず、そんな感想がこぼれる。
そこはメイド喫茶だった。
ほんとにメイド服を着て仕事してんだな。
呼び込みのお姉さんもメイド服着てたし。
「何飲む?」
オレの向かいの席に座る柊がメニューを渡してきた。
「あ、ああ……じゃあコーヒーを……って!!!なんじゃ、このメニュー表!」
たまらず、大声を上げながら突っ込んでしまう。
暗号か!!!
そう思うのも無理もなかった。
何故なら、メニューには、わけのわからん文字ばかりで料理名が書かれていたからだ。
「ここでは基本……」
目を瞑ったまま、柊の冷たい突っ込みが返ってくる。
「こ、コーヒーはどう頼めばいいんだ……?」
「じゃあこれを頼めばいい……」
柊が身を乗り出しながら、スッとドリンクの一つを指さした。
「さ、サンキュー……」
一応お礼を言う。
なんの迷いもなく、指さしたぞ。
ずいぶん、慣れてるように見える。
柊はこういうところに一人でよく来たりするんだろうか。
その光景を想像して、ミスマッチな雰囲気だなと思わず、苦笑した。
そんなことを思いつつ、飲み物が運ばれてくるまで、オレは今のうちに気になっていたことを柊に聞いてみようと思った。
「なぁ、あのさ」
「ん……なに?」
窓から外を眺めていた柊が顔をオレの方に向けてくれる。
「なんでオレと仲良くしてくれるんだ?あ、いや、変な意味じゃなくて。ただ、一緒に本を探しただけなのに、LINEのアドレスや今日みたいに出かけようって誘ってくれたからさ、少し気になって」
「……」
少し間、無言の時が流れたあと。
「そ、それは……」
柊がうつむきながらも、口を開いた。
オレはその先の言葉を固唾を飲んで待つ。
「井上君が私の趣味を知っても軽蔑しないでくれたから……あ、あと普通に話しかけれてくれるのも……ある……」
その言葉を絞り出すのに、かなり勇気が必要だったのだろう。柊の顔はうつむいているのに、真っ赤だとわかった。
趣味を知ってもって……
あ、BL本、見せられた時か。
さっきのゲームのこともあるかな。
それから話しかけたのは、校門前の時のことか。
それを聞いて思ってしまう。
ずいぶん、些細なことを嬉しがるんだなと。
「む、むかし……」
その疑問を解決するのように、続けざまに柊が口を開いた。
「中学で初めて友達ができて……でも私が……その…オタクってことを知ってから、全然仲良くしてくれなくなって……だから井上君が今日きてくれたのも、すごい嬉しくて……」
「……」
オレはただ黙ってそれを聞いていた。
そっか。
この子は好きで一人でいるわけじゃないんだな。
きっとオタクであることに悩んだこともあるだろう。
恐らく、柊と仲良くしてたって子は柊がオタクだから軽蔑したのではなく、オタクと仲良くしてる自分もオタクだと思われることが嫌で離れていったんだろうな。
そんなこと、どうでもいいのに。
「なるほどな。だったらさ……」
オレの言葉に柊がうつむいていた顔を上げる。
その顔は少し不安と期待が入り交じっているように見えた。
「オレとは友達でいてくれよな」
そう言って思いっきり、笑ってやった。
「う、うん……!!」
それを聞いて柊は顔を輝かせるように笑ってくれた。