不思議だ
「いらっしゃいませー!」
店に入ると同時に店員の元気の良い声が店内に響き渡る。
柊に連れられてやってきたのは、アキバにある大きなゲーム屋さんだった。
またゲームだけでなく、家電やフィギュアなども手広く販売しているらしく、ここにはよく来るのだそうだ。
柊はBL好きではなく、ゲームやアニメも大好きのいわゆるオタクだったようだ。
柊が先頭に立ち、新作ゲームの置かれているフロアを抜け、階段を上がり、中古ゲームが置かれている3階にやってくる。
そして、一直線に目当ての場所に向かっていく。
「ゲームかぁ……」
柊が棚を物色している横でオレもいくつかのソフトを手に取っては、裏面に記載されているあらすじを読んでみる。
ゲーム自体をやらないわけではないが、仕送りの金も限られているし、仮に買ったとしても面白くなかった時が最悪なんだよなぁ……
売るのも未成年だから親の許可とか必要で面倒だし。
「これとかオススメだけど……」
すると、オレが悩んでいるのに気づいたのか、柊が一つのソフトを手渡してくれた。
「あ、ありがとう」
それを受け取ってから、タイトルを黙読する。
コールオブ……って……
「18禁ソフトじゃん!!」
たまらず、大声で突っ込んでしまう。
「ダメダメ!これは面白いらしいけど、買えないわ!!」
慌てて、ソフトを元の置いてあったところに戻す。
「井上君……固い。今時、みんなやってる……」
その言葉と同時に柊はむすっと顔を膨らませる。
その表情が妙に子供っぽくて、怒ってても可愛い……と思ってしまう。
まぁ本人には絶対に言えないけど。
「これ以外でオススメはないのか?」
機嫌を悪くされても嫌なので、慌てて取り繕う。
「じゃあ………これ」
柊は少し悩んだあと、一つのソフトを渡してくれた。
それを受け取り、タイトルを黙読する。
王国の心4……?
あー、聞いたことある。
確か全世界が待ち望んでいた王道RPGゲームの最新作だっけ。
でもこれ、最近出たばっかりだったような……?
パッケージの下の方に貼ってある値段のシールに目を通す。
あー、やっぱり。思った通りだった。
いくら中古とはいえ、発売されたばかりの商品。
定価から1500円ほど安くなっている程度だった。
「んー……」
ソフトを掴みながら唸る。
今日は非常用にとサイフに多く入れてきたから手持ちは大丈夫なんだが、この出費は予想してなかったから、結構キツいなぁ……
かといって。
オレの横にいる柊の様子をチラッと伺う。
眉を少し、八の字にして買わないのかなぁ……と残念そうな表情をしているようにも見える。
それに柊とは、これからも仲良くしていきたいしな。
「わかった。せっかくオススメしてくれたから買うよ」
オレはそれだけいってカバンからサイフを取り出した。
「……!!
オレの言葉に柊の目が少しだけキラキラと輝いた。
どうやら、かなり嬉しいらしい。
それにしてもどうして柊はこう、オレに色々としてくれるのだろう?
LINEの件といい、今日のデートといい。
オレが何かしたといえば、本を探したくらいなのに。
オレの疑問は深まる一方だった。