ごすろり
夏休み11日目。
「待っておったぞ、主よ!!」
「……」
バイトに行くため、玄関を開けるとそこにはいつぞやの中二病少女が目の前で正座をしていた。
その上、今は昼過ぎだというのに、汗もかかず、前と同じゴスロリ衣装に、その横には真っ黒な日傘が置かれていた。
「何やってんの……?」
頬をピクピクと引きつらせながら、そう聞く。
「何って決まっておるではないか!主に会うためにここで待っておったのだ!」
ふふんと誇らしげに鼻を鳴らす。
いや、別に威張るとこではないのだが……と、その様子を見ながら心の中で突っ込む。
「家の前に来るならインターホン押してよ……」
玄関開けた先に居るからびっくりしたぞ……
「おお、そうだな。今はそのような便利なものがあったのだったな」
パンと手を叩き、ほうほうと頷くが、その動きが妙にわざとらしく見えた。
絶対知ってるだろ!
今時、幼稚園児でも知ってるよ!
と、心の中で突っ込むがあえて口にはしない。
それはもちろん、確実にめんどくさい展開になるからだ。
「はぁ……まぁいいや。とりあえず今はバイトに行かなきゃいけないなら、終わってからにしてくれる?」
ようやく玄関の鍵をかけてから、腕時計で時刻を確認する。
時間的におしゃべりをしている余裕はなかった。
「おお、そうだったのだな。すまぬ。では、そのばいととやらが、終わるまで我もどこかで待っておくとしよう」
そう言ってから西園さんはゆっくりと立ち上がり、置いていた日傘をばっと開き、てくてくと歩き始めた。
そして、奇しくもその道はオレがバイトに行く方向と同じであり、そのことにがっくりと肩を落としながら、その後に続いた。
だが、とぼとぼと歩いているうちにいつのまにか西園さんはどこかへ行ってしまったようで、オレはようやく安心することができた。