アブノーマル!
夏休み8日目。
まだ陽も昇りきっていなく、昼間に比べると比較的過ごしやすい陽気だ。
「今、お持ちします!」
そんな中、オレはオープンしたての雑貨屋で忙しく店を駆け回っていた。
夏休みとほぼ同時に再オープンしたこの雑貨屋。
今は夏休みということとリニューアルしたというもあり、オープンと同時からショッピングモール自体が多くのお客で店は賑わっていた。
「ふぅ……ふぅ……」
息を切らしながら、裏に戻り、無くなっていると問い合わせのあった雑貨の在庫の箱を探し、それを店に持っていく。
海外の有名なブランドとコラボしたというアイテムは瞬く間に売れていくので、先程から問い合わせのあった商品を持っていき、また別の商品の問い合わせを受けるということのくり返しだった。
オレはバイトが初めてで、レジのトレーニングもまだしていなく、レジが打てないのでひたすら品出しなのだが、頭を使うレジより体力勝負のこっちの方が向いていると思った。
とはいえ、品出しはかなりハードであり、夏休みが始まってからろくに身体も動かしていなかったので、正直きつかった。
朝の9時から2時までの短時間のバイトだったが、果たして予定通り上がれるのか分からないというくらい終始、激混みだった。
「はぁー……疲れた……」
フラフラと力なく、裏口から店を出る。
時間通り終わるわけもなく、オレがバイトを終えたのは2時間残業したあとの午後4時。
店が一番のピークの昼間を過ぎ、時間が経つにつれて、店も落ち着きを取り戻してきたので、解放されたのがたった今だ。
「はぁ~……」
先程からため息ばかりしか出てこない。
忙しさのあまり、休憩の時もご飯が喉を通らなかった。
とりあえず帰ってベッドで横になりたい。
帰り際に店長からもらったペットボトルに入ったオレンジジュースをぐびっと一口飲みながら、帰り道を歩いていると、フラフラしていたせいか、すれ違い様に誰かと右肩をぶつけてしまった。
「あ、すいません……」
反射的に振り返り、頭を下げる。
ぶつかったのは、女の子みたいで顔はよく見えなかったが、ゴスロリの服を着ていた。
少し怪しい感じがしたが、この時のオレはさほど気にはしなかった。
「クックック……」
その女の子はオレとぶつかったであろう左肩をを右手で擦りながら、俯きながら、怪しく口を歪ませ、笑いはじめた。
「え、と……」
女の子がいきなり笑いだしたので、オレは少しだけ身体をビクッと震わせ、半歩後ずさりした。
このまま、逃げてしまおうか……
そう思った次の瞬間。
ばっとオレの前まで踏み込んできた女の子は、両手でオレの手を握った。
「ひっ……!」
悲鳴にも似た声が小さく漏れてしまう。
女の子に手を握られて、普通なら嬉しいはずなのに、今は全く喜べなかった。
しかし、それをかき消すように女の子は大声でこう言った。
「ようやく見つけた!我が主よ!!」
そして続けざまにオレをぎゅっと抱き締めてくる。愛おしそうに頬をオレの胸に擦り付けながら。
「ちょ、ちょっと?!」
突然の行動に当然ながら困惑してしまう。
しかも駅前に近いため、先程から何人
ともすれ違っている。
そして皆、すれ違いさまにこちらをチラチラと見ている。
これじゃ、ただの公開処刑だ……
ひとまず、場所を変えないと……!
「とりあえずこっち!!」
一旦女の子を引き離し、そのまま手を掴みながらオレは走り出した。
突然のことで先程までの疲労もどこかへいってしまったようだった。