8-4.再び王都へ
俺の名案がハヤブサに一蹴されてから次善の策を考えている。
船は「サの国」、サザンカの港に向かって航海中だ。
ツバイからは「俺はどうすればいい?」コールが日増しに強くなってくる。枢機卿1人で我慢してもらえないだろうか?そうすれば最終プログラム『エデン』が発動することはない・・・
しかしこれでは問題の先送りだ、自分でも分かっている。なぜなら元々枢機卿達4人はいつか必ず死んでしまうのだ。最終プログラムは必ず発動することが前提なのだ・・・
王都とそこに住む人々を取り引きの贄にするのなら話は別だが。
王都は10万都市だと言う。10万人を犠牲にして最終プログラムの発動を阻止すべきか?あるいは最終プログラムの発動を是とするか?人と犬のハイブリッド種となれば知能は下がり、体は頑健になるのだろう・・・恐らく。
そして壊滅的な事態に至らない争いならば、それは1つの問題解決手段と捉えていいのではなかろうか?人類の戦争がヤバいのは西暦時代であってもそれが洒落で済まないからである。反応兵器が使われるようになると、最終的には地上に誰1人住めない荒野が待っていることになる(もっとも今の人類には放射線耐性がある)・・・これが不味いのは誰でも分かるだろう。人間は剣と弓矢で争っているくらいが丁度良いのである。神様の設計図に誤りがあったのだろうか、それとも俺達はバグなのだろうか?こんな問題はそれこそヤーンに解決してほしい。
だが彼らは俺の決定に従うと言う・・・俺の、だ。俺は聖人でもなければ君子でもない、勿論悟りを開いた覚えもない・・・・・・一体俺にどうしろと?枢機卿達はこの問題をどう考えているのだろうか。一度話をしに行ってみるか・・・
俺だけ悩んでいるのが何だか面白くなくて、ハヤブサに生魚丼を夕飯に出すように言った。ツバイは笑いながら食っていたが3人は青い顔で引き攣っていた。ふん、俺の気苦労が少しは分かったか!
「冒険者たる者、好き嫌いはいかんよな?」
「やっぱりハヤトが出させたのね・・・恨むわよ・・・」
「まあ、本気を出せばこのくらい・・・」
「えぇ、僕もやれば出来る子なんですよぉ・・・うっぷ!」
「普通に旨いと思うがな、お前さん達ちゃんと味わって食べてないだろ?」
「食えないものを店で出すわけないだろ、お前等諦めて食え!ツバイなんて2杯目じゃねえか。」
「あんなガサツなのと一緒にしないでよね・・・うぅ。」
「・・・この山葵ソースを醤油と一緒にかけて食すと・・・以外にイケるぞ!」
「ほぅ、では真似をしてみましょう・・・食材を無駄にするとハヤブサさんが半端なく怒りますからね。」
「要するにコリャちらし寿司だな・・・」
「僕らの国は内陸部だったので、魚が口に入ることが無かったんですよねぇ・・・せいぜい祭りの日くらいの贅沢品で。」
「確かにな、新年の祝いに干し魚を少し千切って食べたのを覚えている・・・たいして美味くもなかったが。」
「初めてオーホックへ行って、食った魚の美味かったこと。特に海鮮串は絶品でしたねぇ。」
「おお、そうだったな。あれは何というか衝撃だった。」
俺が3杯目を食い終わる頃には、レイメイも1杯目を完食していた。
「どうだレイメイ、食ってしまえば美味い物だろ?」
「ま・・・まぁ・ね。」
少し涙目のレイメイが可愛い。
思わず欲情したが、ハヤブサもツバイもいるのに夜這いなどかけられないことは言うまでもない。
★ ★ ★
遠目にサザンカの港が見えてきた。あの港の朝焼けを見たのはつい最近だったはずだが・・・
とりあえず上陸してヤーンの神殿に顔を出し、遠からず4人の枢機卿達にも会わずばなるまい。
港に入ると早速徴税役人が走り寄って来た。
「「サ」の国へようこそ。船は白の5でいいよ。居続きなら2日前には言ってくれ。入国税は1人白の6に上がった。俺の名はミール、よろしくな・・・しかし最近似た船を見たなあ。」
「また戻って来たのさ、人は全部で5人で白の35でいいか?船の分を先払いするか?王都まで行くんだ。」
「なら追加で白の20も貰っておこうか。預かりを出すから出国する時清算してくれや。」
「分かった、白の50だ。確認してくれ。」
「うん、問題ない。ほれ、預かり証だ。」
「ホイ、確かに。ところでミールさんよ、最近何か面白い話はないかね?」
「面白い話?」
「俺達は見ての通りの冒険者なんでね、これでも金なんだぜ?」と言って白5を差し出す。
「成程そういう事かい。実は今ちょうど厄介事が持ち上がっていてね・・・」白5をスッと懐へしまう。
「厄介事は冒険者の仕事だなあ・・・詳しく話してくれるかい。」
「それがさ、何とも妙な話でな・・・」それは要約すると次の様な話しであった。
サザンカの港から「碧の道」を通って王都へ向かう道は安全なことで広く知られている。王都の兵士たちの見回りも頻繁に行われており事件らしい事件など起こった試しが無かった。それが今回ついに事件が起きたのだ。被害にあったのは商人の小さな馬車で、人は皆殺し(と言っても2人であるが)で積み荷は全て奪われていた。ここまではよくある山賊騒動なのだが商人達を射たであろう矢や、馬を牽制したであろう矢が全く見つからないのである。勿論矢が使われていない可能性は無く、賊が矢を全て回収しているらしいのだ。せせこましい山賊もいたものである、あるいは見られると困るような矢を使っているとも考えられる。剣や槍の遺留品もなく、つまり賊の手がかりは皆無であった。もっとも賊にしてみれば商人2人の馬車など剣と槍、弓矢だけで十分であっただろう。
レイメイは思うところがあるらしく、難しい顔をしていた。
積極的に事件に関わりあいたいらしく、ニーと何やら話をしていた。
「どうした、レイメイ?」
「お客が見つかれば事件に関わることになってもいいって!」
「関わりたいのか?」
「弓の使われ方が気に入らないからね。」
成程、同じ弓遣いとして思うところがあるんだろう。しかしこの事件、俺の予想通りだと・・・
「予想通りだと、レイメイでも危ないかもな・・・か?」ツバイが俺に近づいてきた。
「お前、何故・・・」
「お前こそ普段は抜けた顔をしているんだな、簡単に読めるぞ。」
「そんなに読みやすい顔をしていたか?」
「闘いの時と落差が大きすぎるな・・・そこがいいのか?」
「何の話をしている?」
「女の話に決まってる。・・・ハヤブサちゃんにレイメイまで・・・」
「ま、待て、お前だってアインとかユーレイとか・・・」
「あいつらはそんなんじゃねぇ。俺は未だに愛とは何かを知らん。」
「・・・そんなこと死ぬまで考えても答えは出ないと思うぞ。」
俺はツバイを放って、レイメイが商隊と交渉中にヤーンの神殿に行くことにした。その間にニー、フレイ、ツバイは昼間から飲むそうだ・・・「銀の渡し」と言う店で集合という事になった。
ツバイではないが、俺の考え通りだと少し厄介なことになりそうなのでハヤブサを連れて行く。石畳を15分も歩いた頃にヤーンの神殿は見つかった・・・市街地から離れたそれは、これまでの中で一番こじんまりとしていた。やはり王都が近い事と関係があるのだろうか?神殿の人をつかまえて尋ねた。
「「白い星」宛に文は届いておらんかね?」
「「白い星」・・・「白い・・・星」・・・おお、ありますね。しかもこれはカミーユ様からの!」
「ありがとう。」 俺は礼を言ってヤーンの聖句を唱え、少し多目の布施をしておく。
「いえいえ、まさかこの地でカミーユ様の文を手にすることが出来ようとは・・・初めて目にしました。」
開封すると
「?」
俺は、知る限り世界一短いと言われた手紙をどうしてくれようかと考えていた。このまますぐにエムトに飛んで行って小一時間ほど問い詰めたいが、さすがにニー達との合流の時間に間に合わない。仕方ない「!」とでも返事を出しておくかな?
港のすぐ傍にある「銀の渡し」には昼下がりだと言うのに結構な人だかりだ。
我がメンバーは・・・隅の方にいた、レイメイも戻ってきているようだ。
「よう、やってるな。」
「ハヤトも早かったな。」
「とりあえずエール頼んどきますよぉ。」
「勝手に飲らしてもらっている。」
「ハヤト~、仕事とってきたよ。」
「仕事?」
「商隊の護衛!金ランクの5人組と言ったら喜んで契約してくれた。」
「幾らで?」
「・・・・・・」
「分かってるよ、金よりも事件そのものを追いたいんだろう?」
「さすがハヤト、愛してるよ!」
「だがこの事件、俺やツバイの考え通りなら簡単には済まないぞ?」
「えっー、もうハヤトやツバイには事件のあらましが分かってるの?」
「簡単な見当がついてるだけだ、証拠もない。」
「ハヤトよ、その見当を訊いてもいいか?王都までの護衛契約なんだ。」
「僕も聞きたいですねぇ。」
「そもそもそいつらに出会うとは限らん。ツバイにでも訊け。」
「「「えぇっ?!」」」
「・・・役人だ。」 ぽつりとツバイがこぼした。
「矢を決して現場に残せぬ理由、見回りが頻繁なのに裏をかかれる理由、どちらも同じだ。だが事が事だけに人前では公に口にだせないだろう・・・こんな男でもな。」
「「こんな」は余計だ・・・」
「しかしそれが本当だとすると、やつら見回りの最中に正面から堂々とやって来て矢を射かけるわけか・・・」
「王都の部隊が使う矢には刻印がありますからね、現場には残せませんねぇ。」
「そんなの同じ弓遣いとして許せない!」
相変わらず読んで頂けているのでしょうか?ノミの心臓の筆者は冷や汗を流しています。
このお話で楽しんで頂ければ幸いです。
次回更新は5月11日予定です。




