8-1.しほうの宝
矢は放物線の頂上あたりで視えない何かにぶつかり海に落ちた。
「ハヤト!あそこに何かある。」何回かの試行のすえ、ついに捉えた。
分ってる、「しほうの宝」なんだろう。俺は片手を挙げてレイメイに応えた。
「ご苦労さん、やっぱり何か在るみたいだな・・・」
「「浮遊大陸」?「しほうの宝」?」
「2つは多分同じ物だ、多分な・・・」
「どうやって行くの?視えないし・・・」
「人除けの結界だろう。行く方法ならあるさ。」
俺は自分の左手首を見た。こいつで触ればあるいは・・・
それから俺達は全員で裁縫を始めた。
縫うのは神代のお宝の不燃シーツであり、造るのは熱気球だ。
バーナーだけはリヨンの「ファクトリー」から持ち出してきた作業用バーナーを使い、
クラムの木箱をバスケットの代わりにする。
これほど周りに人の目が無ければ、アマツカサを呼んで楽に接舷出来たであろうが・・・
この頃になると、様子見していたらしい先着の3隻からアプローチがあった。
驚いたことに彼らは金ランクパーティー『ハイネス』達だった。
後の2隻は水と食料だそうだ。かれらはその水と食料と引き換えに共同探索を申し出たのだった。
俺達のしていることが分かったのだろう。
彼等に熱気球の知識があったかどうかは謎だが、経験と材料が足り無いのだろう。
目の前でできていく熱気球を見ては気が気でなかろう・・・
かといって、材料を取りに港に戻れば何日もの差がつくことになる。
だがうちのチャンバー(糧食用の冷蔵庫)はでかいのだ。
おまけに宇宙食なんて反則技まである・・・当分食料には困らない。
終いには魚釣りを始めるだろう。何しろ生魚好きが1名乗ってるからな・・・
だからこの申し出は断った。
すると彼等は「冒険者の流儀」を持ち出してきた。
つまりこのまま俺達が作業を続けると、熱気球に「流れ矢」が当たることになるらしい。
そんな事態を回避するために「冒険者の流儀」で話をつけよう、と言う事らしい。
「船首左回頭、相手船着け!」
「サーッ! 船首左回頭、相手船着けます。」
船首から見知った顔が乗り込んできた。
「金ランクパーティー『ハイネス』参上!リーダー、コバルト。」
「同じく剣士ソレイユ。」
「同じく槍士ミレイユ。」
「同じく弓士コノハ。」
「金ランクパーティー『つばさ』、リーダー、ニー。」
「同じく剣士ツバイ。」
「同じく槍士フレイ。」
「同じく弓士レイメイ。」
「同じく無手ハヤト。」
(何が「無手ハヤト」だ、思い切り小太刀を使ってたじゃなねーか!)
(煩いな、俺に小太刀を使わせるのはお前かリクオぐらいなんだよ。)
「久しいな、「つばさ」の面々。いつの間にか金ランクになっているとは重畳。新しい剣士のおかげかな?」
「そんなところかな。さて、この度の仕儀は5対6とあいなるが宜しいかな先輩方?」
「無理を通したのはこちらだから、そのくらいは覚悟の上です。逆の場合だってあったわけですからね。」
「話が早くて助かる。それで?」
「さすがに本身を使うわけにもいかないでしょう。訓練用の木剣、木槍、そして木矢があります。」
「なるほど。」
「矢は毒矢を前提とし、当たったら退場。その代り矢はお互い10本づつ。こんな感じでどうでしょう?」
「どーする、ニー。」
「ん。そんなもんじゃないか?」
★ ★ ★
相手はコバルトを中央に据え、左右にソレイユとミレイユ。コノハはコバルトの後方だ。
こちらの布陣は先頭にフレイ、後にニー、その左右にツバイと俺、後方にレイメイだ。
「では、冒険者のメダルに懸けて!」
「メダルに懸けて!」
言葉が終わるか終らないかのうちに、コノハの曲がり矢が左右からニー目がけて襲ってきた!
何とか凌いだつもりのニーにフレイが叱責する。
「あと1ッ本、上からだ!」
咄嗟に上を見るニー。しかし視界は太陽に遮られてしまい、その肩に向けて矢が1本落ちてきた。
「9本矢を捌いたんじゃない、捌かされたんだ・・・あの場所に追い込むために・・・くそっ!」
ニーが脱落し、開始早々5対5にもっていかれてしまった。面白い、もっと俺に見せてくれ・・・
等と考えていると、俺の左肩が熱い。どうやらレイメイはここに矢を通したいらしい。
おれは軽く腰を落としレイメイの気が爆発するのを待つ。瞬時に俺は1歩分右横に体をずらした。
そこを矢が2本絡まるように飛んで行く。
俺をすり抜けフレイをすり抜け、矢はコバルト目指して飛んで行く。
さすがにコバルトは身を捻って躱したが、矢は線上のコノハに向かっていく。
コノハに矢は既になく、持っていたショートソードで叩き落とした・・・までは良かったが頭上か
ら矢が1本落ちてきたのだ。
何のことはない、ニーがやられたのと同じ手法でコノハは脱落させられたのだ。
もう後は乱戦である。ツバイの相手はソレイユだが彼女には荷が重かろう。
俺はとりあえずミレイユと対峙した。
「さて、こちらも行きますか。」
「・・・」
俺は全く無警戒に歩き出したかに見えたであろう。
俺の拳足が届く間合いとなる前にミレイユの槍が突き出されてきた。
木製だから少しは軽いのだろうが、こんな速度では掴めてしまうぞ・・・
俺はミレイユの腕が伸びきったところで飛天を使い、同時に水月へ寸勁を叩きこんだ。
そのまま彼女は糸の切れたマリオネットのように地面に崩れ落ちた。
ツバイに目をやるとニヤニヤしながら俺を見てやがる。
「八極拳か、骨法か?」
「似たような術理だ。」
やはりソレイユ1人ではこの男は止められまい。枢機卿に喧嘩を売る男だからな。
かくして中央で戦うコバルトとフレイの対決を残すのみとなった。
「ここまでとは・・・正直コノハまで失うのは想定外でしたね・・・」
「ここで止めてもいいんじゃないのぉ?」
「金ランクパーティー『ハイネス』が「冒険者の流儀」で1人しか倒せませんでした、では困るんだよ。」
「それでぇ?」
「悪いが君の他にもう1人は刈らせてもらう。」
「それは多分無理ですねぇ。」
「何故そう言い切れる?」
「初めてお会いした時のこと覚えてますかぁ?酒の入ってない時に会うべきでしたねぇ。」
「何故そう思う?」
「僕等が潰れているのを見て、呆れていたんじゃないんですかぁ?」
「・・・」
「酒の力を借りないと、眠れないような経験をしたからだとは考えませんでしたかぁ?」
「・・・」
「その経験は僕等を強くしてくれましたよぉ。さあ、試合ましょうかぁ?」
コバルトは細剣の代わりに木剣、フレイは槍の代わりに木槍。
リーチはフレイにある。
コバルトの目が細くなると木剣を横に薙いだ。
目にも止まらぬ一撃であったがフレイの反応は速かった。
1歩踏み出し、木槍の中央で見事に受けている。
「今のは君に届かない斬撃だったはずだが?」
「貴方に剣を振り切らせると不味いと、何か嫌な予感がしたんですよぉ。」
「・・・初見で躱されたのは「ハイネス」以来2人目だ。」
「ここには多分、3人目も4人目もいると思いますよぉ。」
「だが一合で分かる。君の槍術は傭兵のそれだ、残念ながら正規の剣術を学んだ私の敵ではない。」
「正規の剣術を学んだのなら、剣が槍に勝てるわけがないとはご存知ですよねぇ。」
「君が正規の槍術を学んでいるのならなぁ!」
「じゃあ試してみましょうかぁ?」
言うだけあってフレイの槍は遠・中・近とも上手い。特に足薙ぎは得意としているようだ。
剣術に足薙ぎに対する術理は無く、対槍(長巻・薙刀)戦を想定している者のみが対応し得るの
だ。そういう意味では確かにコバルトはよく凌いでいる。
だが冒険者が剣・槍・弓を持つのはチームプレイを考えるからだ。
もともと対人戦闘は考えておらず、対害獣・野獣に特化されているわけだ。
まあ、野盗相手の仕事や対人護衛などと言う仕事もこなしたりはするが。
つまり個対個において剣対槍などは元より想定されていないのである。
勿論遣い手に左右はされるが、槍側有利で論を俟たない。
だから驚いた、フレイが負けたのである。ハッキリ言えば初動の差であった。
フレイは絶対知覚のせいで人の動きは読めてしまう。だがそれでは届かない次元がある。
俺もそうだが恐らくツバイも人の動きなど見てないだろう、見ているのは気配である。
行動される前に気配によって相手の先手が取れなければ勝てなくなる時が必ず来る。
そこそこの強さで妥協できるなら問題ないが、一段上の強さを目指すには避けて通れない。
コバルトとフレイは武器の優位性をひっくり返すぐらいの実力差があったらしい。
どうやらコバルトはそこそこ以上には「やる」のだろう、
「ハイネス」の称号を許されたのだから。
ツバイを見ると笑いながら立っている。ハッとして気づくと俺も笑っていたようだ。
「「で、どうする?」」
俺とツバイの声がハモった。俺も無手でいいぜとツバイが言う。
コバルトのプライドが崩れていくようだ。
だが勝負はあっけなく決まった。レイメイの矢がコバルトを射たのである。
咄嗟に胸に木剣をあて防御したのだが、
レイメイは残りの7発を心臓にまとめて連射してのけたのだ。練習用とはいえ弓は遺跡武具。
その威力は大きく6発目で木剣を割き、7発目で見事胸を射たのである。
相当痛そうであった・・・
だいぶ余計な回り道をしたようだが、ようやく熱気球を完成させた。
とは言ってもやっつけ仕事の上に造ったのはほとんどハヤブサだ。
まあ細かいことを気にしてはいけない。
レイメイの矢で「紫峰の宝」の端部分を見極め、だいたいの位置にハヤブサを寄せて、ロープをつ
ないで気球で舞い上がる。最悪帰りは海に飛び込めばいいだろ・・・さあ、やっと宝とご対面だ。
あけましておめでとうございます。
お付き合いいただける人は、どうか本年もよろしくお願いします。
次回更新予定日は2月11日です。
楽しんで頂ければ幸いです。




