7-10.「私のために死なないで。絶対に自殺はしないでね。」
剣を捨て、ツバイは両手を挙げた。
「俺の勝ちでいいのか?」
「剣の師匠が言っていた。1合目で剣を知り、2合目で剣そのものを断ってくる化物がいると。」
「化物か・・・」
「そいつは人間じゃない、決して闘うなと。「万物の刃筋」、初めて見せてもらった。鋼鉄の剣を同じ鋼鉄の剣で断ち切る技、か。身の内に狂気を棲まわせねば習得はできないと聞いた。人でないモノから逃げるのは恥ではあるまい・・・俺はここで命を懸けるわけにはいかない。」
「師の教えを守るか・・・」
「この勝負、俺の負けだ。好きにしろ。」
「ありがたい、これで1番人死にが少なくなるだろう。問題は4人の枢機卿だな・・・人類の半分を殺されては敵わん。」
「マスター、もう出ていっても宜しいですか?」 近くの繁みでハヤブサの声がした。
「ああ、構わんぞ。それから手持ちのモノでもうちょいマシな変装が出来ないか試してみてくれ。」
「了解。」
「誰だ、そいつは?」
「ああ、ハヤブサと言う。俺のパートナーだ。」
「こんな奴がいたのなら、加勢させればよかったろうに・・・俺に気配を感じさせなかったぞ。」
「それで俺が勝ったとして、お前は負けを認めたのか?」
「・・・」
「そおいうことだ。」
「・・・いつまでもここで話しているのもどうかと思うが。」
「 ユーレイの屋敷は?」
「そこまで知っているのか・・・彼女は俺以外信用するまい。」
「なら俺達の宿屋に来い。外から入れるだろ・・・みな冒険者だ、驚きゃしない。」
★ ★ ★
「前に話したことがあると思う、神代人のツバイだ。」
「そ、それってサザンカの港で・・・金貨200枚よ、200枚!」
「またお主、面倒な相手を引っ張り込んで来て・・・」
「本物の神代人ですかぁ・・・相変わらず飽きさせない人ですねぇ。」
「マスターはハヤブサが守る。」
「改めて紹介しよう。こちらがパーティリーダーのニーだ。」
「ニーだ。剣士をやってる。」
「僕はフレイ、槍士だよぉ・・・一応。」
「その槍、ただの槍ではないな・・・」
「ただの槍に似せて造ったんだけどねぇ。」
「曲者め・・・」
「私は弓士レイメイ。ハヤトを害する真似はしないでね・・・背後からでも射るわよ。」
「アンタの剣の主はハヤトか?」
「そうよ。」
「アンタの男を見る目は確かだ。」
レイメイは一週間機嫌がよかった・・・
宿屋には1人仲間が増えたことを告げ、部屋割りを変えてもらった。2人部屋1つに4人部屋1つだ。
なお、レイメイの化粧道具(と言うほどのモノではないが)を借りてツバイに変装させておく。
さすがハヤブサ、これでかなり気づきにくくなった。
なお、ツバイが金ランクの冒険者であったので、『つばさ』はあっさりと金ランクパーティとなった。まあ一時的なことではあろうが。
「それで、言いづらいのかもしれんが4人の枢機卿を狙うわけを訊いてもいいか?」
「4人の枢機卿が憎いわけではない、彼等が火星帰りだから憎いんだ。」
「火星帰りだと何故憎い?」
「火星は俺とアインが―――アインと言うのは同時期に生まれたデザインヒューマンだ――― 一緒に住むはずだった場所だ。仮に1人になっても2人分そこで暮らすことを誓った場所だからだ。」
「今も昔も火星には人が住んでいない事を知っているか?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りだ。火星のプラントドームで未知のウィルスが発見され、―――いや、発見はされなかったんだが―――火星に降りた地球人はみな死んだ。」
「本当の話か?では火星帰りだと言うあいつらは何だ?」
「全て本当の話だ。俺達は実際に火星まで行って確認してきた。火星帰りというのは・・・火星まで行き、降りるに降りられず、結局また地球に帰って来た奴等のことだろう・・・推測だがな。」
「火星まで行った?・・・やはりアンタらが遺跡を動かしたんだな?・・・と言うことは・・・」
「その剣呑な殺気をどうにかしろ!アンタの言いたいことに察しはつくがリクオに会ってるんだろ?」
「アンタも西暦人か!?」
「その呼ばれ方は初めてだな・・・だがそうだ、俺は西暦の昔から時の流れを越えてやって来た。」
「信じられんな・・・」
「未だに俺が一番信じられん。だが信じられる奴もいる。ヤーンの巫女でカミーユとスーと言う奴等だ。」
「カミーユならば俺も知っている、あいつは本物だ!」
「俺はその本物にお墨付きを戴いちまった。」
「なら、アンタも本物か・・・俺は、俺とアインとの約束をフイにさせた奴等に復讐がしたいだけだ。」
「そんな復讐をしてアインが喜ぶとでも?」
「喜ぶはずはない。あいつから聞いた最後の言葉は「私のために死なないで。絶対に自殺はしないでね。」だ!突然死することを知っていたに違いないんだ。」
「復讐のためにお前が死んだら2重の意味で約束を破ることになるぞ・・・間接的な自殺だからな。」
「それは分かってる・・・向こうへ行ったら100万回でも謝る。」
「自殺では、お前とアインは同じ処へ行けないだろう。」
「・・・・・・」
「とにかくもう暫く待ってくれ。結界を全てうち破り、それでもなお彼等が俺の前に立つのなら・・・お前の好きにしろ。」
「もう暫く、とは?」
「時間を短縮したいなら「浮遊大陸」と「しほうの宝」の謎を解いてくれ。」
「「浮遊大陸」は知らんが「しほうの宝」は「紫峰の宝」ではないのか、筑波山の宝のことだろ?」
「な・・・に?「至宝の宝」じゃおかしいとは思ったが「紫峰」?こんな単純に謎が解けていいのか?」
「謎が解けたかどうかは知らん。俺は可能性の1つを言っただけだ。」
「それは確認する。ハヤブサ!」
「イエス、マスター。」
「マッピングデータの照合だ、西暦当時の筑波山の位置データは残っているか?」
「推測することなら可能です、マスター。」
「よし、それを現在のマッピングデータに落としこめ。そこになにがある!」
「何もありません、マスター。・・・海だけです・・・帆船を3隻確認。」
「帆船?・・・そこにステルス化された「浮遊大陸」か何かがあるはずだ・・・乗り込むぞ!」
「それは勿論、金ランクパーティ『つばさ』に対して言ってるのよね?」
「無論、こんなところで待つつもりはないがな。」
「あーあ、せっかく王都に着いたばかりなのにねぇ。」
「マスターはハヤブサが守る。」
★ ★ ★
さすがに王都上空にアマツカサを呼ぶわけにはいかない。
俺達は夜明けを待って「碧の道」を逆戻りした。
4日かかってサザンカの港に戻ると食料とキャフェイン豆を買い込みハヤブサに乗り込んだ。
ツバイはハヤブサの名前がダブっているので何やら訝しんでいたが、
そういうモノだと思ったらしい。
今は船での料理のほとんどをハヤブサに任せている。
だから彼女が料理番だと言う事は納得したようだ。
しかし、彼女の気配を感じ取れなかったことが気に入らないらしい。
何度か背後をとろうとして失敗し、俺の弟子だと聞いて気がすんだようだった。
ちなみにツバイには倉庫にて寝起きをお願いしている。
敷物と毛布を置いておいたので問題あるまい。
こうして俺達は旧筑波山跡目指して航海を始めた。
なお、「碧の道」で結局アマツカサを呼ばなかったのは4人の枢機卿達に悟られるのを恐れたからだ。
航海は水流ジェット推進を使い、マッピングポイントに急いだ。
帆船を数隻確認した、と言う情報が気になったからだ。
「マスター、間もなく索敵ポイント3㎞圏内です。」
「水流ジェット推進停止、帆を張れ。」
「そろそろ帆船が3隻、肉眼で視認できます。」
「さて、誰が何の用で来た船やら・・・」
「全索敵システム稼働、オールグリーン。ヤーン、ビッグ・アイとの連携も順調、やはり何も感知できません。」
「あいつらがいなければ、アマツカサを呼ぶんだがな・・・」
やがて索敵ポイント1㎞圏内に到達した。
「レイメイ!あの帆船めがけて高く遠くに1本、矢を射てくれ。」
「分かった!」
何の理由も聞かずにレイメイは矢を射てくれる。
400メートルは飛んだだろう。だが矢は放物線を描いて海に落ちただけだ。
「もう少し近づいたら同じように1本、矢を射てくれ。」
「分かった!」
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次回更新日は1月11日予定です。




