7-8.帝都
「その幸運な御仁は赤いリボンの主かな?」
「勿論よ。」
「私はこの仕事について長いが、冒険者のこれは・・・初めて見たね。それに君、先程本気で矢を射ませんでしたね?」
「冒険者だもの、手の内を晒すようなことはしないわ。」
「はっはっはっ、気に入りました・・・本気をださずに300メトルとは。参考までに名前を訊いても?」
「銀ランクパーティー『つばさ』のレイメイよ。」
「あの「ハイネスの親友」の?噂は聞いていますよ。」
そこに俺は近づいて行った。
「お話し中申し訳ないが、一つお尋ねしたい。先程の手配の男、あれは何者であろうか?」
「くっくっくっ、このパーティーはびっくり箱かい?今度は俺の愛馬を後に下がらせる男が出てきた。」
「あの手配の男も只者ではないはず、問題の無い範囲でよろしいのでお話願えませんか?」
「いいとも、あれは今話題の帝都の賞金首で名を「ツバイ」と言う。おそらく偽名だろうがな。」
ツバイ―――ここにきて出会うか、神代人よ!
「お前達も冒険者であれば見事取り押さえてみせろ!生きて捕わば金貨で200枚、殺さば100枚だ!」
「なお伺いますが、あ奴は一体何をやらかしたのですか?」
「聞いて驚け、何とこの世に4人しかおいでにならない「光の神」教団枢機卿様の御命を狙ったのだ!」
「それは、また・・・(そうか、「光の神」教団の枢機卿4人が火星帰りの4人か・・・)」
「これで分ったであろう!」
「お話はよく分りました、ありがとうございます。」
「うむ、時も移った。我らも戻ろう・・・レイメイよ、その気になったらいつでも来るがいい!」
やって来た時と同じく、7つの騎馬は喧しく去って行った。
「レイメイ、人気者だな。」
「さすがだ、レイメイ。」
「レイメイさん、やりますねぇ。」
「マスターはハヤブサが守る。」
「ふんっ!アタイはまだこんなところで立ち止まる訳にはいかないのよ。城に行ってる暇はないわ!」
本来であれば冒険者が王都の城勤めとなるのは大変な栄誉なのである。
それをレイメイは赤いリボンのために惜しげもなく断ったのだ。
そんなレイメイの心中を知ってか知らずか、
何事もなかったかのようにハヤトは残りの飯を食い始める。
つられて皆も残りの飯を食い出した。
ハヤブサは船でもこの生魚丼の味を再現してくれるだろう。
俺はとりあえず5杯食って満足した。
ようするに海鮮ちらし丼である。この時代に来て初めて食った鮨は旨かった・・・
忘れる前に俺はハヤブサに先ほどの男をサーチ対象にするよう指示しておく。
まあ、まだ火星帰りを1人も殺れてないようだが・・・こちらも彼等には話があるからな。
まだ天国へ行ってもらっては困る・・・いや、彼らが還るのは地獄かそれとも火星の大地か?
この日、サザンカに宿をとるとレイメイとハヤブサを同室にした。俺達は3人部屋だ。
どうせハヤブサは眠らんのだろうが、ハヤブサだけ床に寝かせるわけにもいくまい。
明けて翌日、5人で飯を食っていると(基本的にハヤブサは俺が食っているモノ、興味を示した
モノしか食べない)店の子、店に泊まっている子が集まってきて俺達に冒険譚をせがんだ。
まあ、恰好から一目で冒険者と分るからな・・・そう言えば以前もこんなことがあったな・・・
ニー達が難しい顔をしている。無いのだ、話せる冒険が。
アマツカサで火星に行ったことなど話せんし、北の集落で大虐殺したことなどもっと話せん。
ハイネスと会ったのは俺1人だし・・・
俺が見ていると皆は銀ランクとなった時の冒険を1人づつ話し出していた。
レイメイは害獣の卵を持って帰って来たときに、
「少し」左手をついばまれて大変だったと笑っていた。
俺自身は「ハイネスの親友」の名は伏せ、武者修行の剣士に勝負を挑まれ見事に勝った話をした。
最後に全員の目がハヤブサに集中したが、料理番と言うことで納得してもらった。
「王都行き、馬車が出まーす!王都行き、馬車が出まーす!」
さて、馬車の立つ時間である。
そこにはいつの時代も変わらぬ「送る者」と「送られる者」の姿があった。
俺達は幌無しの乗合馬車だ。天気がいいのもあるが周りの変化に敏感でいられるからな・・・
とは言っても俺の半径3㎞はヤーンを通して熱源、放射線、電磁波、磁気、薬物等合わせて実に数
十種類ものフィルターを通してハヤブサが目を光らせている。
この「碧の道」は王都へ向かう道の中でも極めて治安が良いため、
街道沿いに物売りが多い。
現代日本のおでん屋の屋台のようなものを想像してもらえばいいだろうか?
食べ物に飲料あるいは馬用の飼い葉や水、塩等が売られている。
また、そういった場所にはトイレや簡易宿泊所が常設されており旅には欠かせぬ場所となってい
る。
トイレの権利は農家が有しており、下肥は周りの田畑へ還元されるというシステムである。
この辺りまで来ると塩害も無く、見渡す限り肥沃な田畑が続いている。
なお、この時代に下水と言う概念は存在しない。下肥は肥料として田畑に還元されるのだ。
そのため川は汚染されずにすむ。
上流に住む人間が下水として川を使ってしまうと、
下流に住む人間がどういうことになるかは考えるまでもあるまい。
従って川の水はそのままでも飲めそうなほど澄んでいるし
(実際は煮沸しないと飲用にはならない)、淡水魚も豊富である。
なお、軍事都市である王都の下肥は自己消費できず、
余ったものは「サの国」を始めとした直轄領地へ「売られて」いく。
ここでは下肥さえも商品なのだ。
人工肥料、除草薬、農薬等の無いこの世界の農作物は美味い。
収穫できるものは旬のものばかりであるのだから当然だが、
何というか味が濃いのである。勿論農薬を一概に否定する気は無いが、
小さな島国が世界でも有数の農薬消費国だという事実が問題なのだ。
もっとも農薬を使わないと虫害がひどいのと、
経口での寄生虫の感染が増えること等にも触れておかねば片手落ちだろう。
さて王都の直轄領であり、
王都の台所とも称される「サの国」だが馬車で3日も行くと王都の外壁が見えてくる。
「アの国」を上回る外壁であり、まさに城郭都市であることが分かる。
それも・・・でかい。まだ王都まで距離があるにも関わらず、
いや、距離があるからこそ大きさが分かるのだ。それは「都」と言う名の国であった。
成程「都」の中の「都」、「王都」である。そしてそこには皇帝陛下がおわしますのだ。
馬車は速度を上げた。今日中に王都に到着させる気らしい。
もう一泊して稼ぎを増やす気は無いようだ。
実際、夕刻には馬車は王都「羅城門」に着いた。表からの出入り口はここだけで、
後は大内裏に3つの門があるらしい。王都の周りは約24メトルの堀に囲われ、
王都内に流れる2本の川と合流しているそうだ。
馬車の乗客は皆降りて入国審査の列に並ぶ。
しかし、割といい加減な審査のようで農作物を積んだ荷馬車がゆうゆうと通っていく。
余りに人の出入りが多いので、厳密にやっていたらたちまち大行列になってしまうのだろう。
城壁を見ると「アの国」より高く厚い・・・
これはティラノが来ても本当に大丈夫なのではと思わせた。
幅12mの入国用の跳ね橋の前で、皆は衛兵から身分証明書の提示を求められた。
我々は冒険者であるのでギルドのメダルを見せると、それで審査完了であった。
ハヤブサだけは冒険者ではないので俺の妻だと言っておく。
ハヤブサは微笑んでいたが、レイメイは怖い目をしてこちらを睨んでいた。
そうして王都に入国してみると・・・サザンカの港さえ静かに感じるほどの活況だった。
門を入ってすぐに朱雀大路と呼ばれる中央通りがあり、
幅は約84メトルで大内裏まで続いているとのことだ。
何しろ道と言うより広場のようなものだから、
みんな勝手に商売を始め、曲芸を見せる者、刃物を砥ぐ者、何やら怪しげな薬を売る者、
お決まりの団子や汁粉、甘酒を売る者などそれはそれはさまざまであった。
そういう状態であったのでとても道を真っすぐ歩くことはできず、
気が付けば彼らの商売を見学している4人であった。
正面の道が喧しくなり、人が分かれ騎馬の一団が現われた。
王都検非違使兵士隊である。
彼らは城下の揉め事をおさめたり、不正な商売人などを摘発するのが役目だ。
以前レイメイと揉めた衛士隊とは役どころが違うのである。
「貴様たち、城下では見ない顔だな。薬売りの鑑札を持っているのか・・・見せてみろ!」
「はい、こちらでございます。」
「馬鹿者、貴様ら舐めておるのか!鑑札の期限はとうに過ぎておろう!」
「そのようなことが・・・良くお改めください。」
見ていると薬売りの爺さんが兵士隊の隊長さんに金貨を1枚渡していた。
「成程これは迂闊であった。これはまさしく正規の鑑札。親父よ、すまなかったな。」
「いえいえ、分って頂けて何よりでございます。」
こうして兵士隊はまた別の物売りと話を始めるのだった。
「どこも同じようなものなのね。」
「兵士隊は給金が安いと聞くからな。」
「いいんじゃないですかねぇ。」
「俺も好きだ、分かりやすい。」
「それで大図書館はどこにあるんだっけ?」
「大内裏の通り向かいの大学寮だ。今日は朱雀大路を歩けるだけ歩こう、そして宿をとる。」
「それが無難ですねぇ」
「俺は勝手が分からんのでまかせる。」
★ ★ ★
「今までで一番の活気だったねえ。」
「うむ、さすが王都と言ったところか・・・」
「風呂場も大きかったですねぇ。やはり川を2本も引き込んでいると違うのでしょうか?」
「うん、生活用水は浅井戸。飲用は深井戸を使っていた。ここは本当に軍事都市なんだな。」
「朱雀大路を全部石張りとしないのは、土地を乾かさないため。この都を造った人はとても優秀。」
「そりゃあ皇帝陛下のお住まいがあるところだからねえ。」
「ここであればレベル9も平気とは、本当のことかもしれん。」
「王都内にも畑があって、3年は籠城できるって話しですからねぇ。」
「それはすごいな・・・」
「マスターはハヤブサが守る。」
(マスター、索敵ターゲットの№2がヤーンの警戒網により発見されました。外壁をよじ登っています。)
(夜陰にまぎれて忍び込むのか・・・お尋ね者のくせに、働き者じゃないか!)
(更に言いますと彼は変装しているようです。眉、鼻髭、顎鬚ですが識別確度には問題ありません。)
(分かった。どこかの建物に侵入したら教えてくれ。)
夜でも城壁の守りは固い。
常に一定時間ごとに弓兵が城壁の上を巡回し、問題が無いかを確認している。
これは24時間行われる監視作業である。
しかしまさか10メトルを越える城壁を人が1人で登ってくるとは思っていない・・・
篝火と篝火の間・・・歩哨の時間の隙間を縫って、
全身が黒ずくめのその男は現われた。
そして寸瞬を惜しむように10メトルを越える城壁の上から城内に飛び降りた!
普通の人間であったらば、どこかに致命的な怪我を負ったかもしれない。
だがその男は当たり前のように起き上がると、夜のしじまに消えていった。
お久しぶりでございます。
覚えていていただけたでしょうか?
次回更新日は11月11日となります。
今回もお読みいただきありがとうございます。




