表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/96

7-7.帝都への道

エムトからハヤブサに乗り、北上したところに「サの国」がある。

港にハヤブサを係留すると王都までは「みどりの道」―――敷石にみどり色の石が用いられているため、この名がついた―――を馬車で行くだけである。

これは街道がよく整備され安全が確保されていることを物語っている。

もっとも一番の早馬車を使ったところで4日はかかる道のりだが・・・


このサザンカの港は王都の食を賄うため、ひっきりなしに魚介を積んだ馬車が行きかっている。

王都までの行程の都合で鮮魚を届けられないので、全てサザンカで下処理をした加工品を届けるのだ。

主に燻製や干物、塩漬けなどである。港町のプロが手掛けるだけあって、王都でも大好評である


―――そもそも王都では生魚を食べる習慣は無い―――だから、というわけでもないが港で働く男達の食堂には生魚をだす店があるらしい。もちろん港の傍には魚河岸が軒を連ね、威勢のいい声を張り上げている。更には魚介を煮たり焼いたりして、その場で食べられるようにあつらえた屋台がいくつも並び、まるで祭りのような賑わいを呈している。健康な男女なら屋台で買い食いの一つもしたくなるような、サザンカはそんな港町であった。


「うわぁー、ここってこんなに活気があったっけ?」

「うむ、しばらくぶりだからな・・・」

「確かに凄い活気ですねぇ。」

「あの貝の串焼き、食ってみたいな・・・俺、貝が好きなんだよな。」

「買って参りましょうか、マスター?」


ハヤブサはメガネ無しのネコ耳装備でポニーテイル、そして未来繊維の服と靴。

これらは少し目立つので外套で誤魔化している。

基本的には俺も同じだが・・・皆は手持ちの得物と腰回りのモノの他はいつもの服装である。

今回は都に行くのであるから背負い袋に飲料水などを持って移動する必要はない。

金さえあれば現地調達可能なものばかりだ。言ってみれば観光に近い。

考えてみればこちらの世界に跳ばされてからというもの、優雅に観光などしたことがなかった。

たまには自分にご褒美をあげてもいいような気がする・・・

どこかの巫女の影がちらついたが気にしないことにした・・・

その影はどこか怒っているようだったが。


「よし親父!この貝の串焼きを1本だ。」

「へい、毎度!」


「ちょっとちょっと、なにいきなり買い食いしてるのよ・・・着いたばかりだってのに!」

「自分はこの「味噌煮」という奴を頼む。新しい調理方のようだな。」

「僕は海鮮串ね。」

「へい、少々お待ちを!」


「うん、旨いぞ!ハヤブサも食うか?」

「食べる。」

「あーもう、最初っから・・・アタイは海鮮汁をお願いね。」

「この「味噌煮」という奴、何故か懐かしい味がする。」

「海鮮串もコーホックのに負けてないね、魚介は北が一番だと思っていたけどねぇ。」


「この貝なら生でもイケるんじゃないかなあ。」

「おっ、兄さん通だね。この河岸の一番奥に公営の食堂がある、そこでは生魚を食わしてくれるぜ。」


「なにっ!本当か?」

「おおよ、飯の上に生魚の切り身を載せたモノや・・・あれっ、兄さん?」


「マスターが消えました。」

「僕の絶対知覚にも捉えられなかったですねぇ。」

「まあ、行き先は知れとるがの・・・」

「・・・アレが私の剣の主・・・アレが私の剣の主・・・アレが私の剣の主・・・ブツブツブツ。」


その店は通りの突き当りにあった。大きく「まんぷくしょくどう」と看板を掲げていた。

4人が中に入っていくと1人の男が飯をかっこんでいた―――ハヤトである。

よく見るとハヤトのテーブルには既に2つの丼が空にされており、

今まさに3つ目に手をつけようとしていた。

飯の上の魚の切り身にザアッと醤油をかけるや否や猛スピードで食していく。

4人はポカンとしてハヤトを見やった。

 

「そう言えば、以前生魚を食べるって言ってたわよね・・・」

「飯の上に載ってるのが生魚の切り身ですか・・・」

「ヤーンよっ!」

「マスターが好むのであれば、今後は船の食事でも提供したいとハヤブサは考える。」


「しなくていーから!てかハヤトにだけ作ってあげて!私達はいつもの食事で十分よ。」

「そーだぞハヤブサ、過ぎたる親切は時としてお節介になる・・・気持ちだけで十分だ!」

「だねぇ。」


「仕方ない、少し早いけど夕飯をすませましょううか。」

「そうだな・・・」

「仕方ないねぇ・・・」

「ハヤブサはマスターと同じ物を。」


「さすが冒険者だね!」

「いや、ハヤブサは冒険者登録しとらんぞ。」

「でも僕等の中で一番強そうですがねぇ・・・。」

「マスターはハヤブサが守る。」


というわけで食事とあいなった。

全員の注文が揃ってみなが食べ始めた時、店の前が騒がしくなった。

全員が自然と獲物に手が伸びる。今回ハヤブサはハヤトと同じタイプの小太刀を持って来ている。

そこへ飛び込んできたのは若い―――とはいえレイメイよりは年上、つまり皆より年上だろう――

男だった。後ろ手で戸を閉めると大声で訊いた。


「親父さん!この店に裏口はあるかい?」

「このカウンターの奥が裏口だよ。」さすが港で働く男、いささかも動揺していない。


「すまんな、これは迷惑料だ。」男はカウンターに金貨を1枚置いた。


男がカウンターを飛び越す瞬間、ハヤトと目が合った。

その瞬間目の前に日本刀を突き付けられた気がした・・・

これは相手の男も同じ感想を持ったことだろう。

こいつ、只者ただものではない。

だがそんな思いも束の間、戸が開かれると店にドヤドヤと6人の男が入ってきた。


「今さっきこの店に男が1人入って来ただろう、隠すとためにならんぞ?」


見るからにこの国の衛士であろう、尊大な態度であった。そこに7番目の声が軽やかに加わった。


「こらこら、そんな態度じゃ市民に嫌われてしまうよ。民あっての我々なのだから・・・とはいっても訊かないわけにはいきませんね、何しろ帝都で手配されている賊なのですから。」


 馬から降り、つかつかと店主の前までやって来ると


「私は帝都衛士隊長のハガネといいます。どうですか、怪しい人を見かけませんでしたか?」

「怪しいかどうかは知らねーが、俺の料理も食わずに出て行った奴なら1人いたよ。」


「ほう、どちらに行かれましたか?」

「どちらもなにも、あっと言う間に裏口から出て行ったよ。」


「なっ、突き当りにあるこの店に更に裏口があるのですか・・・これは迂闊でしたね。」


 金貨1枚分の時間を稼いだ店主は、カウンターのそれを懐に入れた。


「しかしここまで追ってきて手ぶらで帰るわけにもいきませんね・・・」


 不意にレイメイの方を見やると、こう言い放った。


「そこの女、遺跡武具であるその弓は我が帝都軍が貰い受ける!」


 『つばさ』の全員が色めきたった。


「どういう意味だ?」

「何言ってんの?」

「何の話だ?」

「どういうことですかねぇ?」

「馬鹿なの?」


「申し訳ないが、これは正式な公布なのだ。嘘だと思うならこれを読むがいい。」


そう言うとハガネは懐から一枚の公布の写しを机に置いた。


「先の害獣退治において大弓の威力が見直され、正式に帝都軍の中に大弓部隊が結成されました。ところがあまりに急な話だったので大弓の数も遣い手の数も足りないのです。もともと誰にでも扱えるものではありませんでしたし・・・そこで既に出回っている遺跡武具である弓を接収することにしたのです。大弓ほどではありませんが、飛距離も威力も劣るものではありません。それに手入れが不要だ!大きさも手ごろだし言うことがありません。分かったら差し出しなさい・・・もちろんタダとは言いません。今なら相場の値に金貨1枚を上乗せできますよ。」

「あいにくだけど差し出すわけにはいかないわ。私はこれをもって誓いを立てたのだから!」


「残念ですがあなたの話を聞いている暇はありません。力ずくは趣味ではないのですが・・・」

「あら、あなた公布に逆らうつもりかしら?但し書きを御覧なさい。」


「公布は暗記している!但し書きの特例はその者が弓の力を十全に引き出せる場合においては、その限りではないということだ。」

「そうよ、だから私は弓を引き渡す必要が無いの!」


「な、女のお前が使いこなせるというのか?私の部下のカロでさえ、引き切ることが出来んのだぞ。」

「男か女かは関係ないわ、出来るか出来ないかよ・・・表に出なさいな。」


「まんぷくしょくどう」の前にちょっとした人だかりができた。

帝都検非違使衛士隊7名に『つばさ』5名、食堂の親父に通行人が3人程やじ馬をしている。


「あんたらの持っている中で一番強い矢を頂戴。」レイメイが決然と言った。

「・・・これを使ってくれ。」カロと呼ばれた男が1本の矢を差し出した。


ごく標準的な普通矢である。無理もない、彼らの弓も全て普通弓だったのだから。

レイメイは矢を受け取って弓を構える。美しいフォームだ・・・

見よ、きちんと引き切っているではないか。


 ブンッ!


 素人目に見ても矢は300メトルは先の海中に到達していた。弓道では押大目引三分一おしだいもくひけさんぶいち(※16)という、左手の力が強いレイメイにとっては有利に働くのだろう。


「こんなところでどうかしら、隊長さん?」

「見事だ。初めて遺跡武具を引き切った持ち主を見たぞ・・・12人張り相当だろうに。まあ相手は素人ばかりだったがな。侘びと言っては何だがこれを渡しておこう。その誓いの横にでも付けておけばこれから先、同じことを言われんで済むぞ。」


「分かった、ありがとう。」レイメイは白いリボンを弓に付けた。

「私としては君にはすぐにでも王都検非違使衛士隊に入隊して欲しいな・・・推薦状を書いてもよいぞ?」


「ごめんなさい。私、売約済みなの!」今日一番の笑顔でレイメイが答えた。




押大目引三分一(※16)・・・押す力が3分の2、引く力が3分の1の力配分によってバランスをとること。

感想ありがとうございました!

次回更新日は10月11日となります。月刊になってしまい申し訳ありません。

今回も読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ