7-5.新式鉄砲
何度も俺と一緒に神殿に行っているうちに、フレイもニーも顏と名を覚えられてしまったようで、
今では俺の代わりに神殿に行ってくれたりする。
久しぶりに来たヤーンの巫女からの連絡は、相変わらずの一片の紙切れであった。
だが内容は俺を仰天させるには十分だった・・・
「新式鉄砲」
どういう事だ?
APCは有効に機能している。
現にヨゴスの村でだって火薬は・・・
早急に事の真偽を確かめたくなった俺はエムトの港に向かうことにする。
「一身上の都合でエムトに向かいたくなったんだが・・・」
「カミーユの都合でしょ。まあ、アタイはハヤトの剣だから・・・何処へでもついて行くけどね。」
「・・・この地でお主に借りがあったな、これでチャラにしてもらえると助かる。」
「僕はハヤトさんに貸し一つですねぇ。」
とにもかくにもエムトに向かうことになった。
緊急事態と言うわけではないので水流ジェットは使わず、目立たぬように風任せであった。
勿論通常の帆船よりはずっと早くエムトに着くことが出来た。
久しぶりのエムトで皆は酒場に直行だ。
俺だけヤーンの神殿にお参りだ・・・そしていきなり怒られた。
「あのー、カミーユさん?何か怒られるようなことしましたっけ?」
「そこの荷物をご覧下さい。」
その木箱にはエムト、ヤーン神殿カミーユ宛・・・差出人は『白き星』とある。
勿論俺には覚えがない。だが心当たりならある。
「・・・もしかして中身は武器かな?」
「もしかしなくとも武器です!神聖なるヤーンの神殿に武器を運び込むとはなんたる不敬、なんたる罰当たり!」
「ま、まあそう言うな、いろいろ事情が・・・」
「ギルド宛にすればすむことでしょう、こんなことに『白き星』の名を使うなんて!」
「恐らく理由は2つ。1つは俺が真っ先に向かうのがここだから。もう1つはこの武器の秘密を守るため。」
「納得できませんが、荷物が届いてしまった以上仕方ありません・・・責任もって速やかに引き取って下さいね。」
「ああ、分かった・・・しかし俺達がいろいろやってるのってヤーンのせいなんじゃ・・・」
「何か仰いましたか、『白き星』のお方?」
「いや、何も・・・少し合わないうちに性格が変わったんじゃないか?」
「北の果てで依頼が大失敗、と聞けば嫌でも心配します!」
「ははあ、もう伝わってたか・・・大失敗、と言うわけでもないんだがな。」
「どういうことでしょうか?」
「北の果てには火星の王達が造った結界があった。人を滅ぼす結界だ、それを潰してきたのさ。」
「・・・貴方がそう言うのなら、そうなのでしょうね。」
何故かカミーユの背筋はゾクリとした。
「そして結界は恐らくあと3つ。そのどれもが人を滅ぼす結界だろう。心当たりを訊いても?」
「北の果てにあるのなら南の果てにもありましょう・・・後は「浮遊大陸」。」
「南の果ては分かるが「浮遊大陸」だと?」
「この世界のどこかにあり、宙に浮かびながら旅する大陸だと・・・見た人はいないようですが・・・」
「しかし話に残っているくらいであれば何らかの存在根拠があるはずでは?」
「海賊たちの言い伝えです。「浮遊大陸」はいずこの海の上に在り、そこには「しほうの宝」があると。」
「「しほうの宝」とは?」
「想像もつきません。海賊たちは単なる宝物だと考えているようですが・・・」
「他に何か心当たりは?」
「残念ですが・・・」
「あと1つ、火星の王達の指先一つで多くの人々が滅びる仕掛けがあるはずだ。・・・恐らく。」
「何故そのようのことを・・・」
「人類をより良き道へと導くため、かな。少なくとも彼ら自身はそう考えていることだろう。」
「それは傲慢ではないのですか?」
「俺は俺の答えを探さなければならない。何が正しいかは後の歴史が証明するだろう。」
「ああ、貴方は「答えを探す者」でしたね・・・」
「話が遠回りしてしまった、新式鉄砲について聞かせくれ。」
「帝都の一部の部隊に新式鉄砲が正式に装備されたと、帝都にいる信徒から連絡が入りました。」
「一部の部隊とは?」
「恐らく聖帝十字軍、 ベルギー=N=パウロという者が指揮をとっています・・・その数約2,000。」
「サトに来た奴か・・・」
「ご存知でしたか?」
「異能者ばかりの隊を率いる面倒そうな奴だ。本人は先祖返りらしく以前の鉄砲の記憶を持っている。」
「彼らが今度、害獣退治を行うそうです。しかも相手はレベル9!」
「レベル9!俺の記憶が確かならT-REXだ、幾らなんでも無茶だろう。」
「サトの野焼きに誘われて、番がこちらに向かっているらしく見張り台の狼煙が上りました。」
「まだ野焼きをやっていたのか・・・」
「元々資源の無い国で、蒔きも油も生活ギリギリのところに1,000人近い死人がでたものですから・・・」
「少しずつ、時間をかけて処理しているうちに害獣の気を引いてしまったと・・・?」
「おそらく・・・。貴方にお願いすれば何とかなると思うのは、私の贔屓目でしょうか?」
「なぜサトを?」
「あそこは以前から敬虔なヤーン信徒ばかりなのです。教会が建ったくらいで変わりはしないでしょう。」
「俺は火星の王達とお会いするまで悪目立ちできん。彼等の立ち位置が分からん以上こちらの札は明かせないからな。だが、最悪の事態にならぬよう見守ることはできる。」
「十分です、ハヤトよ・・・」
「では俺は行く、仲間を待たせているからな・・・」
「待って下さい・・・これを。」
見るとカミーユが琥珀のブレスレットを握っている。
目がマジで少し怖い。
「レベル9 と向き合うのです、このブレスレットを差し上げますのでどうか身に付けてください。」
左手にはシルバーリンクが装着されているので右手を差し出した。カミーユが右手首に通してくれたあと、何やら呟きだした。するとサイズが合っていなかったブレスレットが手首にぴったり合ったのだ!まるでシルバーリンクの時のように・・・
「こ、これは『ヤーンの祈り』と言って聖巫女だけが作ることのできるお守りです。一度だけ主に代わって命の危機を救ってくれると言われています。あ、あくまでお守りですけど・・・」
「そうか・・・ありがたく頂戴していく、次に会うまで息災でな。」
もう少し何かを話したくなったのだが、彼女はヤーンの聖句を唱えた。
・・・それは彼女の別れの挨拶。
★ ★ ★
俺はお土産の木箱を抱えながら飲み屋へ向かった。
端の方でにぎやかに飲んでいるのですぐに分かった。
「これレイメイだろ!人の名前を勝手に使いやがって・・・」
「うそー、もう着いてたんだ。ごめ~ん、明日にでも様子見に行くつもりだったんだよ~」
「ヤーンの神殿に届けさせるとは・・・いい度胸だ。」
「しかも武器ですよね、それ。さすがですねぇ『白き星』の名は。」
「あれ、そう言えばハヤトの右手首・・・」
「「「ヤーンの祈り!!!」」」
「ああ、そう言えばそんなこと言ってたな。一度だけ主に代わって命の危機を救ってくれるとかなんとか。でもただのお守りなんだろ?そんなファンタジーがあるわけないしな。」
「分かってない、分かってないよハヤト!これは聖巫女が3年もかけて作る特別のお守りで、値がつかないモノなんだよ!信徒の連中はもちろん他の連中もどれだけこれを欲しがっているか!」
「そうだぞ。これを手に入れた者は決して手放さない、だから値段もつかない。Sランクのクエストだ。」
「何しろ殺して奪おうとしても『ヤーンの祈り』が主を守り、奪う意味が無くなりますからねぇ。」
「何だ、みんな信じてるのか?ありえないだろ、そんなこと・・・普通に考えて。」
「アンタに普通に考えて、と言われてもね・・・」
「お主に普通に、とか言われてもな・・・」
「ハヤトさんに普通、と言われてもですねぇ・・・」
3人とも微妙な顔をしてハヤトのことを見やった。
「とりあえず気持ちのこもったお守りだと思ったから貰って来ただけだ、他意は無い。」
「うわー、初めてカミーユを可哀想だと思った・・・」
「こ奴これで本気だからな・・・」
「こういう男は一度ぐらい爆発した方がいいかもしれませんねぇ・・・」
散々な言われように耳を貸さずエールで乾杯をした。
この世界にはまだラガービールは無い。
早く発明されてほしいものである。
それからみんなで飲んだ後・・・ゆっくりと間をおいて俺はきりだした。
「 なあみんな、レベル9の害獣退治を見学に行かないか?」
猛暑日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
次回更新予定日は8月21日となります。
お読み頂けて嬉しく思います。




