7-4.帰路。その4
この7日の間ですっかり覚えてしまった市場への道を急いだ。
ハヤブサに限って「もしも」のことは無いと信じているが、念のため小太刀は腰に差しておく。
ニーに砥ぎに出してもらったのだが、何故か砥代は要らないと言って代金を受け取らなかった。
急ぎ青果市場の方へ向かうと、船着き場と市場の間で揉めている団体が見えた・・・
恐らくアレだろう。
「ハヤブサ!」
「マスター!!!」
ハヤブサは6人の体格の良さそげなお兄ちゃん連中に囲まれていた。
良かった、まだ互いに手出しはしてないようだ。
俺はハヤブサより、相手の心配をしながらここまで来たのだ。変な噂は立てないに限る。
「何がどうしたんだ?」
「それが・・・最初はクラムの最後の1樽は自分達のものだと言い張り、次にはクラムは半分ずつにするから船に運んでやると言いだし、船の中に入れないことが分かると乗船させろと言いだしたんです。」
(目的はハヤブサ(本体)か?)
(分かりません、しかし私には統率のとれた頭脳的集団と思えません・・・要求が支離滅裂です。)
シルバーリンクで会話を終えると、周りにいる男達に話しかけた。
「なあアンタら。俺は冒険者パーティー『つばさ』のハヤトと言うんだが、彼女に何か用があるのかな?」
「ああっ?用があったら何だってんだ!!」
「俺が代わりに話を聞くよ、彼女はウチの大事な料理番なんだ。」
(マスター、悪い顏になってますよ?)ハヤブサが突っ込みをいれてきた。
「あいつは俺達のクラムを横取りしようとしやがったんだ!」
「そうなのか、ハヤブサ?」
「いえ、そのような事実はありません。」
「違うと言ってるが?」
「アホかお前は?はいそうです、と答える奴がどこにいるんだ!」
「俺の知る限り、ハヤブサほど嘘を吐かない奴はいないんだが・・・結局どうしたいんだ?」
「おお、そりゃオメエ「冒険者の流儀」ってやつだよ。」
「「冒険者の流儀」?」
「何だオメエ、惚けてんのか?いや違う、怖いんだな、ビビッてるんだな?」
「いや・・・」
「そーだろ、そーだろ、「冒険者の流儀」と言えば力ずくの代名詞だ。いま謝れば勘弁してやるぞ?」
連中はでかい声でわざと市場中に聞かせている。
きっと俺が「ハイネスの親友」と言うことも知っているんだろう。
俺に勝って、自分達の評判を上げたいというとこか?
「一体アンタらはどこの誰なんだ?」
「おおっ、聞いて驚け。俺達は金ランクパーティ『荒野の6人』だ!!」
「1人足りないな・・・20ドルで誰かに雇われてるのか?」
「馬鹿野郎!何をわけの分からんことを言ってやがる!闘るのか、闘らんのか?」
「俺達2人でアンタら6人の相手をすればいいのか?」
「あぁ、何だテメエは!あんな女の料理番に加勢させようってのか?男なら恥を知れ!」
・・・お前だけには言われたくないな、その台詞。お前実はユル・ブリンナーか?
「決着は何をもって?」
「おう!どちらかが詫びを入れて謝るか、謝ることさえできない状態になるまでだ!」
「「冒険者の流儀」と言うのは1対1ではないのか?」
「ああ、いつも自分の敵が1人とは限らんからな!さあ、闘ろうか「ハイネスの親友」!」
やはり只の売名行為のようだな・・・
ハイネスの名に泥を塗るわけにはいかないが、本気で死合うわけにもいかないだろう。
金ランクだしな・・・そこそこはやる、のだろう。こちらも闘る以上は真剣だ。
ハヤブサは俺の左隣に位置どった。
俺はシルバーリンクを使ってハヤブサに確認をとった。
このシルバーリンク、使っているうち少々不便に感じるようになった。
ハヤブサからの通信は骨伝導で俺にだけ声が聞こえるのだが、
俺からの発信は声に出さなければならない。
だから俺は左手で口を覆うような所作をして小声で話しかける。
慣れとは怖い、以心伝心と言うわけにはいかないのだ。
(左の3人を任せてもいいか?)
(問題ありません。)
この場合、俺は発声をしているがハヤブサは全くの無発声であるということだ。
俺がヘアバンドでもすれば無発声通信が出来るようになるのだろうか。
ネコ耳になるのはご免だが・・・
そんなことを考えていたら6人とも俺の方へ向かって来た。
そりゃそうだ、「ハイネスの親友」は俺だものな。勝って名を上げたかろう。
足場は突起の無い市場の石床だ、飛天に支障はない。
起伏にとんだ場所では使えぬ技だからな・・・
一気に片を付けてもいいのだが、悪目立ちしたくない・・・
しかしボクシング初心者のような足運びだな。
俺は飛天で先頭の男の懐に飛び込みざま、頂心肘を水月にヒットさせそのまま裏拳を顔面に決めた。
まあ死ぬようなことはあるまい。今回、頸は使っていないからな。そのまま次に近い男に向かう。
2人目と3人目の男の仕掛けが同時になりそうだ・・・仕方ないな。
ヴンッ! 大気が哭いた。
2人目と3人目の男の前に同時に立った俺を見て驚いた2人は、正拳で殴りかかってくる。
2人の拳を避けて、だがその拳を取りに行く。
ポーン、ポーンと2人の男が宙に舞った。気を合わす、というのはこういうことだ。
所謂合気という奴だが、ここまで実戦で使える奴はそうはいないだろうと自画自賛する。
ハヤブサの方を見てみると(八方眼で見てはいたが)3人分け身で一足跳びに相手の懐に飛び込み、
有無を言わさず寸勁を決めていた。我が流派の技がまた一つ盗まれたらしい。
俺は投げ飛ばされて呻いている奴に近づくと、こう訊いた。
「クラムは俺達が持っていっていいんだよな?」
「・・・好きにしてくれ・・・それより他の仲間は・・・」
「安心しろ、しばらくすれば目を覚ます・・・こんな真似はもうしない事を忠告しておく。」
「・・・俺達はもうしないさ・・・だが、この街ではアンタ達は目立ち過ぎた。他の奴等も・・・」
「それなら心配ない、俺達は明日この街を発つ。」
「噂って奴は厄介なんだぜ、せいぜい気をつけるんだな・・・」
「そうするよ、じゃあな。」
「待て、最後に聞かせろ!あの女も使っていたが己の姿を増やす技、あれは何だ?」
「企業秘密だ。」
「キギョウヒミツダ?」
「正直に相手に尋ねる姿勢は感心するが、何でもかんでも教えてもらえると思うなよ?」
「・・・」
(ところでハヤブサ、もうすっかりモノにしてるじゃないか?)
(とんでもありません、マスターのように12人になることなどできません。)
(十分だ、俺の動きを見ただけで覚えたのか?)
(体の動きや加わるGは、バイタル等と一緒にシルバーリンクが教えてくれますから。)
くそ、本当にハヤブサの方が強くなるんじゃあるまいな・・・俺は嫉妬してしまった。
弟子としてはこれほど優秀な弟子もないだろう。
戦場どころかベッドの中まで付き合ってくれるしな・・・
俺ができることは全てできるようになりそうだな・・・時間の問題で。
だが瑞樹流の後継者でない限り奥義を見せる訳にはいかん、見た者は皆死んでいるのだ。
しかしハヤブサは俺のためなら平気で死にそうだ。
大体あいつの本体は船なのだ、船にある量子コンピューターだ。
今の体は代替えのきく人型インターフェイスにすぎない。
船のコンピューターが作動を止めた時、それが真の意味でハヤブサの死なのだろう・・・
やはり俺より先に死んでほしくない・・・そして俺達はクラムと共に港に戻って来た。
「無事か?」
「無事そうね?」
「無事そうですねぇ?」
「俺もハヤブサも問題ない、心配かけたな・・・特にレイメイ。」
「な・・・なんのこと?」
「別に隠すことはない。あの場にいただろ、お前?」
「うぅっ・・・300メトルは離れていたはずなのに・・・」
「レイメイの弓の気は独特だからな、すぐに援護に来たんだと分かったよ。」
「そ、そうなんだ・・・結局必要なかったけど・・・」
「そんなことはない、来てくれればやはり嬉しい。」
「そ、そう・・・ならよかった。余計なことだったかもって・・・」
レイメイがテレテレしている。こうゆう表情も悪くない・・・
「いい雰囲気のところ悪いんだがな・・・」
「僕たちはヤーンの神殿に行ってきたんですよ。」
「何かあったか?」
「手紙が一通。」
レイメイの表情が一気に氷点下まで醒めていった。
学生さんは夏休みですか、そうですか。
次回更新予定日は8月7日となります。
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