7-2.帰路。その2
「アンタよく平気な顔してエール飲んでられるわね!」
「気にしたら負けですよ、レイメイ。僕等でさえ信じ難い事なんですから、ほっとけばいいんです。」
「それが本当のことだと分ってるだけに、余計に腹が立つのよ!」
確かにハヤトは1,000人は斬ってない、だが素人相手とはいえ500人は確実だ。
それにアタイは知っている。あの時ハヤトは少しも息が上がってなかったんだ。
もしハヤトが最初から剣を持って戦っていたら・・・
そう考えるとアタイの中の女の部分が熱を帯びてくる。
こんな男を剣の主としたのだ、自分は置いて行かれたくない。
置いて行かれたくないんだ!
だから街の武器屋にも無茶を言ったし、限界までトレーニングをするようにもなった。
特にこの左腕は強い武器となるし、私の絆だ。今回の戦いは無様を晒したがこの次こそ・・・
・・・てなことを考えているんでしょうねぇ。良くも悪くも真っ直ぐですね、嫌いじゃありませんけど。
おかげでこっちまでらしくないことを始めてしまいました。武器屋は一体どれだけ吹っかけてきますかね?
ハヤトは元々ハヤブサの中で鍛錬をしていたが、
いまじゃメンバー全員が内緒で鍛錬をしているようだ。
あ奴からすると丸分かりなのだろうが、リーダーの俺が何もしないわけにはいくまい。
俺は剣士で人斬りではないと思っていたが、実際どれほど違うものだろうか。
武器を持って向って来る者は全て敵と見做し容赦しない・・・
頭ではそう思っていても、若い娘には剣が鈍る。幼子が弓をつがえていれば、躊躇してしまう。
ハヤトは対照的だった。一切のブレなく老若男女の全てを叩き斬った。
それはもう、見ていて清々しいほどである。
だが武器を持たぬ女や幼子は、彼の刃にかかることはなかった。
見境なく剣を振るう男だったら、俺の方が耐えられなかっただろう。
剣士とは女子供を斬らない者ではなく、覚悟を持って武器を取る者を斬る者のことだったのだ。
俺は自分に覚悟の足りないことを知り、フレイとレイメイと3人で輪陣を組み毒矢に備えた。
ハヤトとハヤブサに痛みを任せてしまったのである。あの時に俺の中の剣士は死んだ。
俺はもう一度、剣士として立ち上がらねばならない。
そうでなければ二度とハヤトと肩を並べて戦うことが出来なくなってしまう。
とか、みんな考えてるんだろうな・・・いい方向だからほっておくか。
ハヤトは元来洞察力に抜きんでた男で、その正確さはリクオも舌を巻くほどであった。
洞察の早さ・正確さは防御の要となるもので、
相手の目を覗いた時の洞察の鋭さは他の追随を許さない。だから・・・1対1で負けを知らない。
ようやくみんなが再起動を果たし、
レイメイがフライドポテトとエールのお代わりを頼んだ頃合いに、その団体さんはやって来た。
団体と言っても俺達と同じ4人組である。
俺達のテ-ブル近くまで来るとへりくだって挨拶を始めた。
「突然の無礼、お許しを。初めてお目にかかる、私は金ランクパーティー『ハイネス』のリーダー、コバルト。」
「同じく剣士ソレイユ。」
「同じく槍士ミレイユ。」
「同じく弓士コノハ。」
「・・・自分達はプライベートで仲間と飲みに来ているんだが?」
「やあ、君がリーダーのニー君だね。パーティーネーム『ハイネス』の僕らとしては、「ハイネスの親友」とは是非一度挨拶をしておきたかったんだよ。」
「「ハイネスの親友」とはハヤトのことだ。」
「だが、君のパーティーメンバーだ。」
「・・・今更だが名乗ろう、銀ランクパーティー『つばさ』のリーダー、ニーだ。」
「同じく槍士フレイ。」
「同じく弓士レイメイ。」
「同じく無手ハヤト。」
「あれ?噂ではもう一人女性がいると聞いていたのだが。」
「ああ、それはハヤブサだ。俺のパートナーで、パーティーメンバーとは少し違う。だから留守番だ。」
「そうか、会っておきたかったが。」
「縁があればまた会えるさ、それよりパーティーネームが『ハイネス』とは。」
「4人の実力をハイネスに見てもらい、パーティーネームに使う許可を貰ったんだよ。」
「それは凄い、彼のお墨付きか・・・」
「よく本人のパーティーと誤解されてしまうけどね。だが依頼は確実に果たしているつもりだ。」
「そうだろうな・・・」
「ところでハヤト君、ハイネスとやりあったと言う君のことが知りたい。」
「2人で葡萄酒を飲んだだけさ。」
「その話は聞いている。しかしそれだけではあるまい?」
俺は肩をすくめると、彼の背後に飛んでくる矢をイメージして投影してやった。鬼気の応用だ。
その瞬間、コバルトは立ち上がりざまに細剣をふるってイメージの矢を斬り落とした。
「見事な細剣捌きだ・・・」
「今のは何だ、確かに矢の気配だった・・・」
「ハイネスとはこんな遊びをしたのさ。」
その時、弓士コノハが矢を射るのが視界の隅に入った。
さすがに練習用の矢ではあったが、矢の軌道が直線ではなく半円を描いて俺を襲ってきた。
俺は戦いのときには八方眼と言う流派独自の物の見方をする。
上空から俯瞰して見るところをイメージしてもらえば一番近いだろうか。
だから俺は最小限の首の動きだけで矢を躱し、
左手で矢を掴むとコノハ目がけて投擲した。
コノハはそれを両手で掴んで矢筒にしまった。
レイメイは爪を噛みながら、一連の動きをずっと睨みつけていた。
「アンタのとこでも遊んでるじゃないか。」
「・・・ウチのコノハが失礼した。」
「こんなところで分かってもらえると嬉しい。」
「ええ、分かりましたよ。あなたがどうやらリーダー以上に曲者だってことがね。」
「買い被りだ、俺達は今回の依頼が達成できなかった。」
「「光の神」教団の依頼でしょう?アレは毎年この時期になると決まって出るんですよ。けれど依頼を達成した奴はいません。」
「アンタらもその口かい?」
「その通り。いったい何を考えているのやら。」
(俺とハヤブサで「遺跡の中のモノ」を散々にしちまったからなあ。来年の依頼は出んかもしれんな。)
「質問は以上で終わりかな?早く飲みたいのだが・・・」
「とりあえず以上だが、アンタ達はもっと自分達が注目されてるんだってことを気にした方がいい。」
「忠告ありがとう。」
「いずれ、また。」
何だか知らんが俺達は注目されているらしい、迷惑な話だ。
彼らがいなくなってからようやく話の続きが出来るようになった。
「フライドポテトが冷めちゃたわよ!」
「何の用だったんでしょうねぇ。」
「まさか本当に顔見せだけではあるまいよ。」
「とりあえず、本物の顔を知っておきたかったんだろう。」
「それって、アタイ達の偽物がいるってこと?」
「レイメイさん、そこ喜ぶとこじゃありませんよ?」
「うむ、偽物がでてこそ一流の証というからな。」
「俺達は銀ランクの依頼に失敗しているわけだからな?(いろんな意味で)」
結局この日の飲み会はグダグダになってしまった。
帰り道にふと思う、こんなところを襲われたらひとたまりもないな・・・
そう考えると、酒はハヤブサで飲むのが一番なのだが。
「この気配はソレイユとミレイユか、何の用だい?」
闇の向こうから人影が姿を現われた。
「・・・本当に気配で誰か分かるのね。用は言わなきゃ分からない?」(ソレイユ)
「察しはつくけどコバルトには内緒なんだろ?」
「内緒やけどゴールドがシルバーに指導するんはようあることなんや。」(ミレイユ)
「残念だがうちのメンバーはすっかりできあがっているようだ・・・」
「そーゆーのを、戒めたろ思てな。酒場で正体なくすなんてな・・・」(ミレイユ)
「なるほど、ありがたいお説教だ。今日のところは俺が聞いておく。」
俺の全身から鬼気が滲み出す。
それはメンバーの目を覚まし、ソレイユとミレイユの足を止めさせた。
「この鬼気・・・アンタ、ホントに人・・・か?」(ソレイユ)
「けどいまさら止まらんなあ。」(ミレイユ)
ミレイユの槍がのびてくる。本人の言った通り殺す気では無いらしい。欠伸の出る突きだ。
戻しざま3段突きがきた、今度は少しまともな突きだ。だが俺には一寸届かない。
目が真面目になってきたようだ。
「突き技、虚空!」(ミレイユ)
ほう、槍が消えるか。だが槍に殺気がある分、逆に俺には分かりやすい。
だから、また一寸届かない。
「どうした、まだやるかい?」
「アタシが代わるわ。」(ソレイユ)
宣言と同時に剣げきが襲ってきた。ほう、殺気を消して斬りに来たか。
だが、この程度のスピードでは視えてしまうなあ・・・
「剣技、稲妻!」(ソレイユ)
おう、これも見えない太刀か。稲妻だものな・・・だが俺には視える!だから一寸届かない。
「何なの、この男。戦ってる気がしないわ。」(ソレイユ)
「同感や!」(ミレイユ)
「おーい、コバルトさんよ。この辺でもうよかろう。アンタの弟子一通り相手にしてやったぞ。」
「嫌だな人が悪い、バレてましたか。」
バレてるも何もコノハの殺気がダダ漏れであった。曲がってくる矢に注意していたくらいだ。
「次はリーダーがやるのかな?」
「いやあ、僕は勝てない相手とは勝負しない主義なんですよ。」
「ほう。俺と同じだ・・・長生きの秘訣だな。ところで今日の稽古代は誰に請求すればいいのかな?」
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次回更新日は7月10日となります。
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