6-15.修羅
あいつは何だ?無手なのに、無手のくせに。
剣を持った仲間達がかかってゆくと ヴンッ!と大気が哭いて、数でこちらを上回り仲間を挟み死止めてくるのだ。
そして仲間から剣を奪うと、剣士か騎士かと見まごうばかりの無類の強さを見せるのだ。
もしかしたら本当に剣士なのかもしれない。
だが剣を以って相手の剣を斬るような技、この齢まで知らなんだ。
むろん仲間は剣ごと真っ二つにされた。それに時折2メトルの距離を飛び越えて仲間を刺しに来る。みな不意を突かれて串刺しだ。稀に5メトルの距離まで飛び越えて来ることもある。
飛んでくる間が見えないのだ。これにも、仲間は刺し貫かれてしまう。
左右の仲間を両手の剣で死止め、3人目の仲間が奴の首を狙った時など逆に頭突きのように頭を突き出し、その口で仲間の喉を噛み千切っていた。
仲間の剣は何故か奴の左手の掌で止められていた。何か細工(※15)があるに違いない。
次に正面から来た5人には5メトルの距離を飛び越えて来る技で1人目の喉を潰し、
寸瞬で遅れてきた2人目の剣先を髪の差で躱し、
剣を踏みつけながら左手で仲間の喉を潰しに行った。
同じように他の3人も屠られた。奴が両手を放した時、5人とも掌の形に喉が抉られていた。
ついには少人数で攻める愚を悟り、10名を越える人数で迫った時などヴヴンッ!と大気が哭いて、
なんと12人に分かれたのだ、これは魔法というやつなのか。
奴は魔法使いという者なのか?
気を抜いたつもりはないのだろうが、剣を振り抜くと味方に当ててしまってたり、
槍で突こうとすると今までいた場所から忽然と消え、味方を刺してしまっていたりするようだ。
そうして気が付くと人数が削られており、全滅していくのだ。
はたまた集団で追いかけっこをし、適当に間隔が空いたのを見計らうと、奴は先頭から順番に投げをうってくるのだ。
この投げ技は相手の腕を巻き込むように行われ、肩口と頭の間から地面と激突する。
首がみんな嫌な方向を向いている。あっという間に200人ぐらい削られた。
遂には待機していた弓隊まで出番となり、20メトル先から射ているのだが全然当たらない。
頭にかすりそうな矢など素手で掴まれる始末だ。背後から狙った矢など、
振り向きもせず剣で払い落としている。何故背後から来る矢が分かるのだ?
せめて10メトルの距離で狙わないと駄目だ。
そして悪夢が始まった。
10メトル先から狙いを付けた弓隊の10人は奴の投げてきた剣に一瞬気をとられてしまったらしい。
ハッとして正面を見るが奴が見えない・・・どこへ行ったと思う間もなく10人全員が斬られていた。ここから見ていた俺には理解できた。
信じられないことに奴は10メトルを跳んで、距離を詰めて瞬きの間に10人を斬ってすてたのだ。
落とし穴に追い込んだ時も確かに奴が足を踏み込んだと思ったのだが、まるで体重が無いかのように何もないはずの空間を蹴り、飛び上がって罠を回避した。
この時に周りにいた仲間たちは奴の妖しの術で、
腕を向けられただけで剣も触れずに倒されてしまった。
何故か奴に腕を向けられるだけで仲間達が倒れていくのである。
これは魔法か、話しに聞いた魔法なのか?これで300人ぐらい削られた。
そして未だ悪夢は続いている。
俺は村長として、「仕留めろ」の鐘を撞いてしまった。
この鐘は女子供、年寄りまで参加が決まりだ。
だが、あいつは一切の情なしに全てを斬り捨てるだろう。今まで見ていた俺には分かる。
あいつは人ではない。少なくとも俺の知る人ではない。あいつは修羅だ。
幼い頃、物語で読んだ一人の修羅なのだ。
あいつの後ろに剣を使う者がいる。仲間だろう。
この2人だけで信じられない事に400人近くの村人が犠牲になっている。
村人3,000人と言っても女子供、年寄り含めてだ。
戦える若い衆は精々が700人。かなり削られてしまっている。
他の仲間はどうしているのだろうか?あんな奴が2人いたら、それだけで村は潰れてしまう。
弓遣いと槍遣いはまだよかった。強いが、俺の知る人の強さの範疇であった。
だが最後の1人・・・女は夜叉であった。いや、女だから夜叉女か?
出鱈目な女であった。こいつも無手であったのだが、剣で向かって来る者を見ると、
非常な素早さで相手の脇に近寄って剣を持つ手を片手で握り潰すのである。
そして片方の手で剣を手にすると相手を1刀のもとに切り捨てるのである。
そして次々向い来る者を、本当に1刀のもとに切り捨てていく。
そして刃毀れした剣を替えては、また立ち向かうのである。
だが、こいつの出鱈目さはそこではない。こいつは後ろに目があるがごとく、
不意打ちや待ち伏せあるいは罠と言ったものに全く引っかからないのだ。
こいつも人ではない。女のくせに、もう200人以上は削りながら疲れるそぶりも見せない。
そしてこいつや、弓遣いの女も我らの女子供、
年寄り相手に何の躊躇もなく斬りかかるのである。
むしろ男の槍遣いの方が大人しいくらいである。
いくら村人が訓練した兵士でないからといって、こんなことがありうるのだろうか?
ああ、こうして鐘付き場から見ていられるのも後わずかだ。
我らの若い衆がほとんど削られてしまった。
これ以上村人を失えば我らの血を伝えることが出来なくなる。
村長として決断せねばならない。
くっくっくっ、まさか5人の人間相手に600人を削られるとは・・・いや、2人は人でなかったな。
新たな鐘の音が村に響いた。
すると屋根と言う屋根の上で女、若しくは子供が乗り弓をつがえていた。
「トコトンやる気か、バカ野郎ども!相手がジルバを踊るなら俺もジルバを踊るしかないか・・・」
ハヤトは身近な屋根からの攻撃を避け、ふわり屋根の上に乗った。
そこから先はまさに修羅であった。
矢を気にせず、というか全て躱して一直線に女子供を蹴り殺してゆく。
向こうの屋根が終わったらこちらの屋根、そしてあちらの屋根というように手当たり次第である。
ニーとフレイが若干フリーズしている。戦場の中で死にたいのかとレイメイに一喝されていた。
ハヤブサも同じように屋根の上で敵を削ってゆく。
「何故だ?何故奴等にはヤマトリカブトの毒が効かない!?もう死んでもいい頃だ!」
ハヤブサは囮役も兼ねて屋根に上っていた。
レイメイ、フレイ、ニーに攻撃が向かないようにワザと派手に動いているのである。
実際彼らは一塊となって周りを、毒矢を警戒している。
レイメイは早々に矢を使い果たし、敵の槍と盾を使っている。
だが、毒矢を警戒し相手を思うように削れないでいる。
フレイも槍を振るうが、2人を絶対知覚の中に置き毒矢を監視しなければならない。
その結果、思うように戦えない。
唯一ニーだけが比較的自由に剣と盾をふるえていたが、
相手は遠巻きに矢を射かけてくるばかりである。
「ハヤトさんが冷静なのが怖くもあり、頼もしくもあるといったところですかねぇ。」
「ハヤブサも存外に強いな・・・ハヤトと稽古してるのは知ってたが。」
「ふん、さすがにアタイの惚れた男とその女だよ。」
「やはりそうでしたかぁ。」
「だがハヤブサは・・・」
「そう、人じゃないからね。妬いても始まらない。どこかの巫女の方がよっぽど危ないよ!」
実はハヤブサは機械の先へ行ってしまったのだが彼等に知る術は無かった。
・・・こんな話をしている場合か?
「女子供等の弓でもダメか!奴ら平然と冷静に死止めていったな・・・ヤマトリカブトに解毒薬なぞ無いはずだ!」
村長は最後の鐘を撞いた。
村の人口バランスは完全に崩れてしまった。
他所からの血をいれなければ村はもう立ちいかないだろう。
その時に果たしてお勤めが務まるかどうか・・・
最後の鐘は戦いたいものは戦い、そうでない者はその場で待機の意味であった。
夫を殺された妻が鉞を片手にハヤトに襲いかかり、無表情に投げ殺されていった。
ハヤブサの方も同じように弓で射られるも、
毒矢を手掴みしそのまま投げ返すという荒業で返り討ちにしていた。
「おーい、鐘付き台の男。お前が長だろ、降りてきて舞台の幕を引け。」
「やあ、バレてましたか。」
「これだけ若い男を屠られたら新しい血が必要だろう。大丈夫なのか?」
「そこまでご存知でしたか・・・大丈夫じゃありませんよ・・・この村は終わりです。」
そう、村中至る所に死人の山だ。
レイメイ、フレイ、ニー達もこれだけ凄惨な戦場を知らない。
本当の大戦の実戦経験が無いのだ。
だから自分達がこの現場の当事者であることに対して実感が薄い。ピンとこないのである。
しょせん冒険者は何処までいっても冒険者で騎士や兵士とは違うのだ。
もっとも彼らを一方的に非難することはできない、むしろよく対応した方である。
今回はハヤブサを別とすればハヤトが規格外だったのである。
「普通の村として生きればいいだろう。」
「今更そんなことは・・・」
「もう何百年、あるいは何千年とこうやって生きてきたんだろ。そろそろ解放されてもいいだろう。」
「それが出来れば、どんなにか楽でしょうね。」
「何か問題があるのか?」
「私達はお役目が果たせなくなるほど血が薄まると、その者は死んでしまうのですよ。」
「戦って死ぬことと変わりあるまい。戦いの質が違うだけだ。村の者は良く戦ったぞ?」
「成程、物は考えようですね・・・」
「それでどうする?俺は続きをやっても構わんのだが・・・」
「いえ、これ以上は・・・本当に村が無くなります。」
信じられないことにこの男、息が切れていない。
何かで不覚をとらなければ本当に鏖にするだろう。
血に塗れているが、自分の血ではあるまい。
あれだけ人を屠って何故これだけ冷静なんだろうか?
「では・・・」
「ええ、新しい戦いを始めてみようと思います。」
「そういえば、俺達が襲われたのは何故だ?」
「なっ、襲われた理由も知らずに戦っていたのですか?・・・猟師の1人が腹を弄られたと。」
「成程、余所者に腹を弄られるのは禁忌に触れるか。」
「昔からの伝承です。」
「では俺達は村を出て行く・・・が、その前に風呂を借りたい。」
「はぁ?」
★ ★ ★
「死ぬかと思った。全くよく生き残れたな・・・ヤーンに感謝だ、それにしてもよく剣がもったもんだ・・・いくら突きに専念したとはいえ。」
「僕なんかもう現実感がありませんよ・・・いったい自分は何と戦っていたんだろう?何人斬ったんだろう?ってね。」
「さすがに・・・今度ばかりはヤバかったよね、よく死ななかったもんだわ。」
「それにしてもハヤトもハヤトだ。いくら血糊で汚れているからと言って・・・この敵地で風呂だと?」
「だから僕等が順番で護っているんじゃありませんか・・・この恰好のままでは血塗れですからね。」
「無事に済んで良かった。誰にも怪我がない事が一番嬉しいよ、アタイは。」
「マスターとハヤブサがいる限り、みんなは守る。でも、みんな凄く強くなっている。少し驚き。」
「まあ、とりあえず一汗流すか・・・その辺から火矢が飛んできそうだがな・・・もう、こんなのは御免こうむりたいな。」
「タタミでも立てかけておけばいいんですよ・・・こんなこと、そうそうありませんよ。」
「逆に周りが見えなくなるんじゃないの?・・・私は何もできなかった自分が悔しい。」
「私が見守っている、安心して風呂に入るといい・・・みんなは健闘したと思う、毒矢と毒剣の中で。」
「そ、それはそれで安心できないと言うか・・・何というか・・・ねぇ。」
「ハヤブサには背中を向けていてもらおう・・・それで問題あるまい。」
「フンッ、いろいろと気の小さい奴等だね!」
「いざという時に、私の長槍が届く範囲に居てくれればいい。」
話をしているうちにハヤトが戻って来た。
実際、火矢でも射かけられないかと心配していた皆がホッとした。
「別に敵襲は無いぞ?それより湯は入れ替えないと駄目だな。ハヤブサ、すまんが頼む。」
「イエス、マスター。」
「別に私達、自分でできるわよ?」
「ハヤブサは火を起こすのが上手いのさ。それよりみんな、今回の騒動をよく凌いだな。感心した。」
「多分、毒を使って来ると思ってのびのび戦えませんでしたね。」
「うむ、自分もハヤトの殿を務めただけだ。」
「アタイも、もっと矢があればこんな無様は・・・」
「それでも、だ。だいたいこんな戦、そうはあるまいよ。」
「それはそうかもしれませんがね・・・」
「うむ、活躍したとは言い難いな・・・」
「アタイはとにかく無様を見せるような真似は嫌。」
「そう思うなら今回を教訓にして、次回を頑張れ。」
「「「分かった。」」」
「しかしこれでは誰がリーダーか分からんな・・・」 ニーが1人ごちた。
「湯が沸きました・・・」
ハヤブサが呼びに来ていた。そしてみんなが風呂に入ると、ハヤトは何と食事まで作りだしたのだ。
「食事の途中だったからな。」
呆れるハヤトを見ながら、それで自分達も無理やり食事をとっていよいよ旅立つことになった。
村外れまで村長とその取り巻き、そして3人の少女たち・・・
村長はハヤトに花束を、少女3人はフレイ、ニー、レイメイに花束を差し出していた。
「駄目だよ村長、銃口はもっと上手に隠さなきゃ。それに、火薬はもう使えないんだ。」
「これが私の最後の仕事なんですよ。みなさんには済みませんが付き合って頂きます。」
木の葉が一枚枝から地面に落ちる間に、村長以外の3人の娘達は躊躇いなく斬り捨てられていた。背後にいた人達はヤーンの祈りを唱えるばかりである。
「ど、どうして秘蔵の短筒が?まあ、今更どうでもいいのですが・・・」
「あんたも死ぬつもりだったのか?」
「当たり前ですよ、これだけの損害をだした責任はとらねばなりません。この娘達は私の子供です。」
「新しい村を創るんじゃなかったのか?」
「それは本当です。でないと本当に村がなくなってしまいますから。ああ、安心して下さい。この村での出来事は決して外の連中には漏れませんから・・・だから、貴方に・・・」
「俺に・・・?」
「この村の『総掛かり』を初めて切り抜けた貴方に村の末を見届けてほしいのです。そしていつの日か再びこの地に来ることがあれば・・・きっと貴方を・・・この日のことを・・・」
「約束しよう、俺が生きている限り・・・世界の末と共に見届けよう。」
次の一瞬、横一閃に銀線が走った。
ハヤトが腰の小太刀を抜剣し、瞬時に納剣したことはハヤブサとフレイが知るのみであった。
「や・く・・・そ・・く・・、わたし・・は・・フランク・・ア・・ロー・・・ン・・・」
男は娘達の後を追うように静かに倒れていった。フランクは何を言おうとしていたのだろうか。
ハヤトの表情からは杳として知れない。
ハヤトと3人の仲間は男の名を胸に刻むと、最北の地を後にした。
寸鉄・隠剣(※15)・・・我眉刺等の暗器のことで小さい物を指す。
ハヤトは指に通す輪を付け掌につけている。
31日で投稿してからちょうど一年になります。
お読みいただいている読者の方に感謝です。
次回投稿日は6月12日です。
このお話を気に入って頂ければ幸いです。




