6-14.最北の遺跡
風が台地を走り抜ける―――生あるものを拒むかのような真なる最北の地。
一年の半分以上を冬将軍が統べる村。
年に3月は太陽が沈まない、また不思議な色のカーテンが空に浮かぶ日もあると言う。それでも人々は淡々と日々の営みをおくっている。
この村を越えへ北へ行ったら、もう人は暮らすことが出来ないと言われる村。冒険者パーティー『つばさ』のメンバーは、その真なる最北の地ヨゴスに来ていた。
「ここから1日も馬車で進めば、もう犬ゾリが必要だって言ってましたね。」
「うむ、そこまでは猟師たちも狩りに出かけるようだな。」
「今回は探す範囲が広すぎンだよ、もう少し絞り込めないのハヤト?」
「んー、試してみてはいるんだが・・・」
そう、遺跡を探すのであれば「神の目」かアマツカサやヤーンがいれば楽勝だと思ったのだが・・・なぜかどんな探査にもかからないのである。勿論、探索範囲を広げてみたりX線や赤外線等の不可視光を用いたスキャンも行った・・・しかし結果は捗々(はかばか)しくない。全くの誤算である。ハヤブサも何も言わない。こうなると、前提そのものを疑いたくなってくる。しかし「北の遺跡の「新規」調査」とギルドにハッキリと明示してあったのだ、何らかの確認はとれているのだろう。
「光の神」教団が関わっている遺跡、それは取りも直さず火星の王達が関わっているはず・・・それはいったい何なのか?俺の勘を言えば『地』『水』『火』『風』に関連するものだと思っている。『地』を失い、『水』『火』『風』を奪われた奴らは焦っているはずだとふんだのだが・・・要塞のような遺跡もないし、宇宙船も見当たらない。やはりこれは北に遺跡が有るか無いかを含めた「新規」調査なのか?
一週間が過ぎ、さすがに皆に焦りの色が見え始めてきた。
「やっぱり、ここには新規の遺跡なんて無いんじゃありませんかねぇ?」
「うむ、自分はコロボ・クールの住まう地こそ最北の地と思っておったが。本当にこの地で良いのか?」
「ハヤトもハヤブサも同んなじ意見?」
「最北の地は、恐らくここで合っている。」
「・・・」
俺達にはアマツカサからの報告で、北極点へ行っても何も無い事が分かっている。人の住まう最北と言うならこのヨゴスだ・・・んー、何か引っかかるな。何だろう?考え込んでいるところにレイメイから声がかかった。
「ねーハヤト、オーホックで聞いたヨゴスの噂でさ。嫁の行き来が全然ないって言ってったけど、それって・・・血が濃くなり過ぎない?いくら3,000人でもさ・・・」
何気ない一言だったのかもしれない。だが堂々巡りを続けていた俺には天啓となった。
「逆だ、血を濃く残さなくちゃならないんだ。村は結界だったんだ!」
「えっ、それってどういう・・・」
しかし、俺の推論について確証を得るのは難しい。まさか試しに誰かを殺してみるわけにもいくまい。ハヤブサに訊いてみると俺の考えは確度52%でイエスとのことだ。何てことだ、半分かよ・・・こうなったら強硬手段だ。俺は頭の中が冷えていくのを感じた。
翌日の明け方、3人をおいて俺とハヤブサはこの街の猟師の後を追った。後をつけていることを知られたくなかったので、絶えず1㎞の間を空けた。街から3㎞程で猟師は足を止め、獲物を狙い出したらしい。さすがに1㎞も離れていると気配が感じられない。この状態でアマツカサを呼び出し、彼を補足する。別に手荒なことをするわけではない、催眠音波で少し眠ってもらうだけだ。1㎞離れていれば俺達に影響はない。彼が寝込んだことを確認するとハヤブサと一緒に回収に向かう。俺は1㎞を2分で走るがハヤブサも遅れずついて来る。
彼をアマツカサの医療室に運び込み、盲腸の手術を行う。手術はオートだが、途中でアラートが響いたため俺達は彼を覗き込んだ。本来盲腸のあるべき場所には、見たこともない紫色の臓器が脈打っていた。
「アレがマスターの推論したものなのですね?」
「おそらくは。」
「医療コンピューター、この臓器の解析を。」
「イエス、マスター」
待つこと数分、結果が出たようだ。
「コノゾウキハ、セイタイハンノウヘイキデス。」
「生体核爆弾だと?そんな物が・・・可能なのか?」
「イエス、オヨソ1kメガトンニソウトウスルモノトオモワレマス。」
「どうしたら起爆する?本人の死亡が起爆条件なのか?」
「ゲンジョウヲミルカギリ、ホンニンガシボウシテモ、コノブイヲハソンシテモキバクシマセン。」
「では、どうしたら起爆するんだ?」
「データブソクデス。」
「手術は中止だ、痕が残らんようにな。」
「イエス、マスター」 俺はハヤブサを見やって言った。
「聞いた通りだ、村人が約3,000人なら3,000kメガトン相当の爆発が起きる・・・この地の氷が溶ける。」
「アマツカサのデータにある氷床が全て溶けると概算したなら、海面が今より約32mは上昇します。」
「人類を滅ぼすために、血を守っている一族か・・・」
「アマツカサの大口径プラズマカノンなら、村ごと一撃で排除できますが?」
「それで誘爆しなけりゃいいがな。」
「マスターが御命じになれば、私は3,000人を残らず鏖にしてご覧に入れますが?」
「気持ちは嬉しいが・・・それは最後の手段な。それにその時は俺も手伝うさ。」
「・・・・・・」
「北極がこうなら、南極もこうなんだろうな・・・前に行った時には気付かなかったが。」
「その確度は92%です。海面が今より約72mは上昇します。」
「恐らくこれは『火』か『水』だろう、残りは『土』と『風』だが黒子を探したほうが早そうだ・・・」
「とりあえず彼を元の場所へ。」
彼を元の場所に横たえると、俺達は姿を消した。手術後の違和感の無さはレイメイで確認済みだ。
腹が少し突っ張る程度だろう。
宿に戻ると丁度朝飯の時間だったようだ。俺達は仲間の座っているテーブルの脇に腰かけ一緒に飯を食った。3人の眼差しが痛い。ハヤブサは平気な顔でお茶を飲んでいる。俺も暫くお茶を飲んでいた。
「お前が何も言わないということは、俺達は何も知らなくていいと言うことだな?」
ニーが言ってきた。
「そうなるかな。」
「お前が何も言ってくんなきゃ、村人3,000人を屠ると言っても俺達は手伝えないぞ。」
「・・・なんでそれを。」
「お前がここに来た時に、俺たち以外の人間全てに殺気がとんでいた。3,000人と言ったのは勘だ。」
「それが分かるか・・・お前等、強くなったな。」
「それでどうなんだ?本当に3,000人か?」
「斬る覚悟はあるか?5対3,000など正気の沙汰ではないぞ。」
「斬る理由があればな。それにお前は既に覚悟しているだろう?」
「女、子供、年寄りもいるぞ?」
「冒険者を舐めるなよ?武器を持って向って来る奴は敵だ。」
「レイメイもか?」
「あいつが一番躊躇いが無いだろう。お前が赤子を1,000人殺せと言えばそうするだろうさ。」
「・・・・・・」
「どうなんだ?」
「証拠が無い。」
「なに?」
「俺には十分でも、お前達を納得させるに足る証拠が無い。」
「そいつは困ったな。」
「だから本当はここを、村を出ようと言いに来たんだ。」
「なに?」
「少なくとも俺とハヤブサは納得できた、それで良しとするさ。それとな、最北の遺跡とはここなのさ。」
かん、かん、かん、かん、かん ・・・鐘の音が響く
「な、説明しろ!」
「今夜な・・・と言いたいが、村人の方が帰しちゃくれないらしい・・・本当に5対3,000になっちまったかな。」
ゾロゾロと宿屋に村人が入ってくる。みんな手に手に得物をもっている、
このままでは不味い。
「レイメイ、フレイ、聞こえていたな?少なくとも向って来るやつは敵だ。無理はするな、逃げられるものなら村の外へ逃げろ。死ぬなよ!」
通路から外に出ようとすると、逆に外から内に剣を持った3人の男が入ってきた。
レイメイとフレイは自分達の得物を取りに部屋へ戻った。ニーは既に剣を構えている。
「食事中に、さすがだな。」
「前に、どんな時でもいいからかかってこい。と言っていた男を知ってるんでな・・・」
「そいつはいい心がけだ、フレイとレイメイはやはり今一つだな。」
「言ってやるな・・・お前の役に立ちたいんだよ。それにはやはり自分の得物でないとな。」
剣を持った3人が俺の前にやって来た時だった。ヴンッ!と大気が哭いて、ニーは3人に分かれた俺を見ただろう。3人の俺は同じように剣を両手で挟み、左にへし折り、切っ先をそれぞれ相手の心臓にめり込ませていた。瞬間で1人に戻った俺はニーに向かって叫んだ。
「外に出るぞ!あの2人は窓から出てくるだろう。それと刃に何か塗ってあった、おそらく毒だろう。気をつけろ!」
「分かった・・・が・・・今の技は何だ?」
「分け身だ。」
「ワケミ、ワケミダ?」
ハヤブサがいない、既に外に出て俺達が戦いやすくしてくれているのだろう。5対3,000なら1人当たり600人を相手にすればいい。1,000人を相手にしたことを思えば大したことはない、相手は素人だ。ただし今回は止めを刺さねばならない。逆に言えば手加減の必要無く殺し技を使える。何でもありで戦えばよいのだ!久しぶりの愉悦に頬が歪む。心が撓む。不謹慎だが俺は小さく笑いながらそっと宿屋の外に出て行った。
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次回更新予定日は5月29日(日)となります。
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