1-8.リッカトーンの街
ギルドのあるこの街はリッカトーンと云って、港町でもある。
俺が街を見学したいとダダをこねたので、絶賛物見遊山中だ。街中を練り歩き、露店で買い食いをした。なるほど、焼き魚は美味かった。
ギルドで冒険者セットを購入してもらった俺は、武器屋に連れていかれた。Bランクパーティーで唯一Bランカーである俺が、無手のままというのは恰好がつかないらしい・・・というか無手のままだと「料理番」、つまりパーティーの食事係兼荷物運びと勘違いされるそうだ。
ふぅん、そういう役目もあるのか・・・などと考えているうちに武器屋に着いた。
この世界の武器については俺も少なからず興味がある・・・中に入ると・・・節操のない武器屋だ、和洋中の見本市だ。騎士剣の横に日本刀や青竜刀まで並んでやがる。
一通り店内を見たが、俺の探し物はなかった。そう、銃火器である。拳銃もライフルも小銃も、いや、火薬を用いる武器そのものがない。
なかば予想していたこととはいえ、残念だ。使い方によってはレベル6以上とやりあえるのだが・・・仕方なく俺は自分用の得物を探し始めた。
結局おれは小太刀を一振り手にいれ、腰に・・・後腰に差すことにして武器屋をあとにした。
「それだけなの?」
「やっぱり体術の邪魔になるんですか?」
「金がかからんのは結構なことだが、本当にいいのか?」
一応俺の心配をしてくれているのだろう、礼の一つも云っておくか。
「ありがとう、だけどこれで十分だ・・・それより・・・砥ぎはいいのか?」
そう、だれも得物を砥ごうとしないので少し気になっていた。
「ああ、僕たちの得物に砥ぎはいらないんだ。」
「砥ぎがいらない?刃物なのに?」
使用した刃物には手入れが必要だろう?
「正確に云えば砥ぎがいらないのではなく、砥げないのさ。血油は落とすけどね。」
「どういうことだ?」
「遺跡から発見された武具は、みな砥ぎがいらない。砥げる砥石がないのさ。」
さらっとすごいことをおっしゃる。何だその不思議金属、いやセラミックか?
「欠けたり、折れたりしないのか?」
「そんなことないよ、欠けも折れたりもするさ。ただ、欠けた部分を砥いでも変化がない。だからみんな砥がなくなったのさ・・・それでもそこらの鉄剣より、よほど軽くてよく切れるんだ。」
「発掘武具を持っているのは一流冒険者の条件だ、すぐにハヤトにも見つけてやる。」
なるほど、やはり超硬合金かセラミックのようだ。
「みんなはどこでその武具を手に入れたんだ?」
「スンの遺跡よ。」
「スンの遺跡さ。」
「スンの遺跡だよ。」
うん、久しぶりだねこのパターン。
「変なことを訊くけど君たちは・・・兄弟にはみえないが、どういう関係かな?」
「私たちはスンの街の幼馴染よ!」
ちらっと視線がニーにとぶあたり、可愛いじゃないか残念女。
「あなた今、すごく失礼なこと考えなかった?」
「とんでもない、話の続きを聞かせてくれよ。」
「僕らは年齢も近くて、よく一緒に遊んだのさ。3人とも長男や長女でなくて・・・いつのまにか、それならやりたいことをやろうって話になって・・・」
「それで冒険者に?」
「極端な話、冒険者なんて名乗ってしまえばもう冒険者さ。」
おぅ、いきなりぶっちゃけたなフレイ。
「さすがにそういうわけにもいかないから、1年間暮冒険者として暮せらせたら認めてやるって両親に・・・」
「暮せたのか?」
「とーぜんよ!」
「雑事系の仕事から初めて、簡単な採取をこなし・・・最後は街の遺跡にもぐり、神代の武具を手に入れたんだ。おかげで最短でランクCまでになった。本当にヤーンに感謝だね。」
「フレイがいうほど簡単ではなかったがな。特に神代の武具は、3つ目が入手できずに成人の儀を迎えてしまった。」
「だが、ついに手に入れて・・・3人とも冒険者になったのか?」
「そうよ!」
「街の外に行くのは商人でなければ冒険者くらいですからね。」
「自分たちは、まだ見ぬ何かを見たかったんだ。」
なるほどね、こいつらのルーツが少しだけわかった気がする。世界最強を目指してひたすら死合ってるより、はるかにまともだ。
「そういうアンタはどうなのよ?」
「どう、とは?」
「何を目指して何をしてきたの?」
「それは僕も興味があるな。」
「自分もだ。」
やっぱりそーなるよね、話の流れ的に・・・
「世界最強!」
「アンタ馬鹿なの、死ぬの?」
「さすがに、それは・・・」
「本気か?ハヤト。」
うん、そーだよね普通。分ってたけど。もし訊かれたら1度はいってみたかったんだよ・・・そんな残念な目で見ないでくれ、お願いします。
しかたなく俺は、一族の話をきかせた。ただし俺が親父と死合ったことと、その結果は秘密にしておいた。何でも話せばいいというものではない。
「はぁ、なにそれ?」
「随分と難儀な一族ですねぇ・・・」
「それ、いつ終わるんだ?というか終わりがあるのか?」
ですよねー、平成の世の中ならまだしも神皇の世の中で・・・俺は何を成せばいいのだろうか?この世界で俺は何を目指すのか?武神ってヤツとは死合ってみたいが・・・それだけだ。
この地で子をなし流派を継がせる?だめだ、想像できない。もしかして、この時代の俺ってただのダメな子じゃ・・・いや、俺はやればできる子なんだ。この世界では本気だすんだ。
とりあえず、どこかの宿に落ち着きませんか?という俺の提案は生暖かい目に囲まれて、了承された。