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6-13.剣の誓い

 俺が考えたのはハヤブサ用の義体のスペアをレイメイに接合できないか、

 と言うことであった。   

 ハヤブサの素体はクローンヒューマン、  

 レイメイはデザインヒューマンである。

 この適合性については面倒でも毎月免疫抑制剤を飲んでもらうしかない。

 腕のサイズについては、

 ハヤブサの義体のスペアを造る調整槽の中から近似の大きさのものを選んだ。


 後は俺には何もできない。

 自動医療カプセルにレイメイと義体を収納してカバーを閉じた。

 手術そのものは1時間もかからないらしい。

 本人が酷く疲弊しているので1日おいて明後日に手術だ。


          ★            ★             ★  

 

 1日が経ち手術終了後、カプセルカバーを開ける。

 一糸纏わぬ姿のレイメイがいた。

 俺の趣味ではない、これは医療行為なのだ。

 医療用の貫頭衣を着せる。一見してちゃんと腕がついているように見える。

 だが本人が目を覚ましてみなければ何とも言えない。

 小一時間ほど待つと息遣いが変わってきたのが分かる。

 もうじき目を覚ますだろう・・・


「・・・んっ、いててて。」

「お早うレイメイ。」


「お、お早う、ハヤト。あれ、アタイ・・・腕、腕がついてる!---ツッ、痛いっ、痛いっ!」

「出来る限りやってみた。いま腕が痛いのは我慢しろ、じきマシになる。」


「腕が・・・アタイの腕が・・・ちゃんと動く。また弓も握れる・・・またハヤトに抱いてもらえる!」

「泣くな!それに俺はレイメイが隻腕でも抱くぞ?」泪を流しているレイメイを抱きしめる。


「バカ・・・でも、ありがとう・・・これ、何か注意点とかあるの?」

「そりゃあ、ね。毎月薬を飲むんだ、これは一生の間だ。それとその腕は力が強い、無理すると体の方に負担がかかるから注意しろ・・・それから多分、寿命が少し削られただろう。」


「そんなもんなの?」

「そんなもん?・・・そんなもんだ、だが今だって相当痛いはずだが?」


「こんなのはただ痛いだけよ、慣れりゃいいのよ。これでまた弓が持てるわ!」

「あれから1日経ってるが、今日1日もゆっくり休むことをお勧めするよ。」


「でも、もう動いて大丈夫なんでしょ?」

「ああ、痛みがあるだけだ。ただし左腕は一週間使うな、何なら固定してやる。」


「ん、分かった。使わないよ。それより早くハヤブサに戻りたい!」

「まあ、そんだけ元気ならいいだろ。とりあえず今月分の薬を飲んどけ。」


 水と一緒に薬を渡してやる。ついでにお姫様抱っこで医療カプセルから出してやった。

 ハヤブサと一緒に3人で戻ってくるとフレイとニーが目を回していた。


「これが神代の技術なんですか?・・・もう何でもアリですねぇ。」

「すごいなハヤト、この腕はもう使えるのか?」

「一週間は使わんほうがいいだろう。少しばかりの訓練ならいいだろうが、今でも相当痛いはずだ。」


「そうなのか、レイメイ・・・レイメイ?」

「自分の部屋に行きましたよ。」


 戻ってきたレイメイは右手に弓を握っていた。


 俺は慌てた。

「レイメイ、さっきも言った通りまだ本格的な訓練は控えなくては駄目だ。」


 レイメイは俺の前へ来ると片膝を立てしゃがんだ格好となり、

 弓を口に咥えて右手で俺の右手を掴んで自分の頭の上に押せた。

 フレイとニーが緊張したのが分かる。

 口に咥えていた弓を右手に持ち替えると、

 滔々(とうとう)と誓詞を述べ始めた。


「我、レイメイ=フォウはハヤト=ミズキの剣となり常に傍らにあり共に歩ゆまんとするものである。この誓いは剣の誓いであり命の誓いである。よって死が2人を別つまでこの誓いは果たされん。汝、是か否か?」


 そう言うとレイメイは右手の弓を肩に通し、 

 頭に乗せた俺の手をとって甲に口づけをした。

 幾ら俺でもこれが騎士か何かの儀礼的な作法であることぐらいは見当がついた。

 だから、ついこう答えたのだ。


「この誓い、確かに受けた。」と。


 レイメイは欣喜雀躍きんきじゃくやく

 フレイとニーが微妙な顔をしたことなんて気づかなかった。


          ★            ★             ★  

 

「やっぱり何も知らなかったんですね?」

「それで何で「この誓い、確かに受けた。」なんてズバリ言えるんだ?」

 

 あれからフレイとニーに詰め寄られている俺がいる。

 やはりあれは「剣の誓い」と言って騎士以上の位階の者、

 例外としてシルバーランク以上の冒険者に認められた作法であったのだ。

 生涯に一度だけ行うことが許されているこの誓いは、

 シルバーランク2人以上が立ち会えば略式として正式に認められるものらしい。

 この誓いを受ける者は「剣のあるじ」と呼ばれ、

 誓いを是とするならば「この誓い、確かに受けた。」と答え、

 否とするならば「この誓いに縁はない。」と答えるらしい。

 つまり今回はどういう偶然か全ての条件をクリアしてしまったらしい。

 しかもこの「剣の誓い」は「命の誓い」とも言うように、

 こと戦場においては「婚姻の誓い」よりも強いものとされるらしい。


「誓いが成立しちゃたんですから、しょうがないですよねぇー。」

「いや、あれは無効だ。やり直しを要求する!」


「ハヤトさんに誓いを受ける気があるのなら、同じことですがねぇー。」

「不条理だ!」


 しかし、これはレイメイの立場からすると当然の成り行きであった。

 そもそもハヤトは強く、海の上を走れば、遺跡の解明もできる、

 そして何より自分の左腕を取り戻してくれた。

 ここで「剣の誓い」をしなければ、

 一生その機会は訪れないだろうと直感したのである。

 もともとが直情型の女であった。


 それから一週間が過ぎレイメイは気がふれたように弓の練習と、リハビリをしていた。

 彼女につられる形で他の3人の鍛錬にも熱がこもっていた。

 やがてハヤブサでの生活が一月を数える頃、彼女は言った。


「そろそろ新しい依頼を受けてみない?」

「いつ、そう言い出すかと思ってた。」

「もう、以前のレイメイだと思っていいんですよねぇ?」

「よし、新生・シルバーランクパーティー『つばさ』の初仕事だ。」


 俺達は揃ってギルドへ向かった。


 レイメイの弓には赤い紙縒こよりのようなリボンが結ばれていた。「剣の誓い」を示すこの赤は、血の赤である。

 勿論、自分には「剣のあるじ」がいるのだと言うことを物語っている。

 いくらシルバーメダル以上の冒険者に認められた作法であるといっても、

 冒険者の間で行う者は極めて珍しかった。

 と言うより、皆見るのは初めてであったろう。


 だからだろうか。

 どこにでもひねくれたやからというのはいるもので、

 4人の行く手を阻んで来る集団があった。

 その中で一番軽薄そうな男が前に出て通路を塞いだ。


「邪魔なんだけど?」


 先頭のレイメイが全く臆することなく、当たり前のように応じた。


「まあ、そういうなよ。女ならあるじの剣になるより、鞘なんじゃねーかと思ってよ。」


 男の下卑た冗談に反応することなく、レイメイは一歩進んだ。

 相手の男は頭一つでかい。


「どーしたよ、何か言ってくれないか?」


 レイメイは更に一歩進むと左腕で男の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 明らかに軽量のレイメイが、である。


「何を言って欲しいって?ママに言って飴玉でも貰って来たらどうだい?」


 男は細身の女の片腕一本で持ち上げられていることが理解できずにいた。


「いや・・・ちょっとまってくれ、これはちょっとした間違いなんだ・・・そう、間違いなんだよ!」

「ふーん、間違いか。そんじゃしょうがないね、私もこれから間違ってアンタを放り投げてしまうわ。」


 言うが早いが男は胸ぐらを掴まれたまま、何もできずに宙を舞った。

 行き先はギルドの受付カウンターである。

 残りの連中は慌てて、

 カウンターに頭から突っ込んだ男を介護室まで運びに行った。


「1月ぶりだけど・・・(シルバー)ランクのいい仕事はないかしら?」

「1月ぶり?腕を食われながらも依頼の卵を獲ってきた女がいたが、止む無く隻腕になったと・・・」


「あら、それは別の人だわ。きっと「剣の誓い」さえすませていないお子様よ。」

「いや、どうみてもアンタだ・・・その迫力と胆力は同じ人間のそれだ。」


「じゃあそういうことにしておきましょう。いい依頼はあるの、ないの?」

「自分が何を言っとるのか分っておるのか?四肢の再生は今は失われたSランク級の技術・・・」


「あなた、耳が悪いようね。良く聞こえるように話してあげましょうか?」


 いつの間にか、職員の胸元を捩じりあげている。


「分かった、落ち着いて話し合おう。君とあの娘は別人だ、きっとそうだ。」

「そうよ、分かればいいの。それで適当な依頼は?」


「うーん、まるっきり別人のようですねぇ。」

「カッコいいと・・・言えば言えるんじゃなかろうか?」

「あれが本来の自分なんだろう。」


「ゆ、雪見草の採取、リヨンの中央遺跡の再調査、新しいところでは最北の遺跡の新規調査・・・」

「ハヤト!」


 俺は小さく頷いた。最北の遺跡の「新規」調査か・・・

 オーホックよりも北と言うことか、面白い。


「依頼条件は、どうやってもいいから遺跡の中に入ることだそうです。ただし、内部の物には手を付けないでほしいそうです。その代り・・・1人金貨50枚!」


 周りにいた男たちがざわめき始めた。

 1人金貨50枚なら4人で白金貨2枚だ、目の色も変わる。

 遺跡の規模にもよるが、

 中にある神代の品を売ればそのくらいにはなるだろう。

 もっとも、その辺を見込んでのランク制限なのだろう。

 

 依頼主は「光の神」教団・・・俺でなくとも因縁を感じるだろう。

 期限の定めは特にないらしい。俺達はこの依頼を受けることにした。

 この遺跡には俺の求める、そして奴らが欲しがる情報がきっとあるはずだだ。

次回更新予定日は5月15日(日)となります。

今回のお話を楽しんで頂けましたら幸いです。

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