6-12.義体
急激な燃焼(=爆発)と言う事象がこの世界から無くなってから数日。
やはりというか、弓矢や投石器といった遠距離用の武器の開発が加速していった。
弓矢は強弓が求められ、投石器には鉄砲の弾がそのまま使えた。
しかしどちらも人の為すことであるから、
今のところ500メトルの射程は望むべくもなかった。
今一つ、人々に求められたのが毒・解毒の知識であった。
戦場で必ず敵を屠るため、
あるいは武芸の拙い者でも敵を仕留められるよう刃に塗布するのである。
もっともこれは以前から行われていたことであったが。
サトの国の王も王女も鉄砲の記憶を無くしたため、
今のリクオには錬金術師としての働きは期待されていない。
いま彼は古くより李家に伝わる薬草・毒草の知識を以って王家に仕えていた。
むしろ今の方が役に立っているとも言えた。
余りに貧弱なこの国を見捨てて何処かへ行く気になれなかったのと、
物言わぬシズカの眼差しに応えたかったのだ。
「そうだ、その草の根を煎じて飲めば胃の薬となるが量を誤ると死ぬぞ。」
「し、師匠は錬金だけでなく薬学も学んでおいででしたか。」
「つまらんことを言っとらんで、しっかり記帳しておけ。俺がいなくなったら全てお前がやるんだ。」
「いなくなったらなどと、おっしゃらないで下さい。リクオ様はもうこの国の名医であられます。」
実際、リクオ程の薬学の知識があればある程度の内科処方はできる。
また、リクオ程の武術の知識があればある程度の外科処方は可能であった。
結果、リクオはサトで最も忙しい医者となっていた。
通常は内科と外科で別れるものである。
だからこの時代の医者には内科・外科を同時に診るリクオと言う存在が信じられなかった。
だが言っていることは臨床と化学に裏付けられた事ばかりであるから、
その治癒率は際立って高かった。
優れた武術家というものは人を壊しもするが、
治しもするということをリクオは実感していた。
もっとも現実は厳しいもので、
肺炎やら虫垂炎やらといった抗菌剤や外科手術を要する者も多かった。
まして癌になると完全にお手上げで何もすることはできなかった。
手の打ちようがない事を伝えると、
患者たちは喜んでリクオに感謝するのだった。
これで残りの命果てるまで悔いなく暮らせます、と言う。
最後にお医者様に診て頂き感謝していると。
そうでなければまだ何とかならないものか考えていただろうと。
これが辺境に生きる者の死生観なのだろうか?
リクオは自身もかく在りたいと強く望んだ。
実を言えばリクオ自身も病んでいた。
正確に言えば対放射線措置をとらないでいることによる放射線障害なのだが、
リクオにはそこまで分からない。
ただ、吐血が続き胸を病んでいるのかと疑っている程度だったが、
最近ではもっと重症の何か得体の知れぬ病にかかっていると思っている。
だから自身の知識を少しでも多くアーサーに伝え、
シズカのことを頼む気でいたのだ。
これは今まで診てきた患者の態度によるところが大きい。
シズカはシズカでリクオの行動を、ほぼ正確に見抜いていた。
このままでは自分は置いて行かれてしまうだろう・・・自分の運命に、
自分の神様に、リクオに。
仮にリクオが死んでしまうのであれば自分も後を追いたい、
だがそれは許してもらえないだろう。
それにシズカには小さな命が宿っていた。
そのため後を追いたくても追えずにいることになるだろう。
いまシズカは初めて心から神に祈っていた・・・
★ ★ ★
夜が明けるとエムトの港にフレイとニーが立っていた。
「ようやく戻ったか。」
「随分待たされましたが、また何かしていたんですか?」
正直に答えるわけにもいかないので、
お茶を濁しているとレイメイがいないことに気が付いた。
「そういえばレイメイはどうしたんだ、一緒じゃないのか?」
「冷たい人ですねぇ、もっと早く尋ねてくださいよ。」
「あいつは銀メダルが獲れるまで戻ってこない。」
そう言うとフレイとニーは懐から銀メダルを取り出してハヤトに見せた。
「2人とも、銀ランクになったのか、凄いじゃないか!」
「僕達3人が、ハヤトの足を引っ張ることが無いよう銀ランクになろうと決めたんです。」
「思ったより手間をとらされたがな・・・」
「しかし、2人はともかくレイメイは辛いんじゃないのか?」
「銀ランクになろうと決めたのはレイメイです。」
「お前にそう言われることが嫌だったのだろう。」
「・・・」
「僕達は何の集まりですか?仲良しグループですか?違いますよね?」
「俺達は冒険者パーティ『つばさ』だ。それもフルメンバーが銀ランクだ、必ずそうなる。」
「レイメイを信じて待っていればいいのか、俺達は?」
「とりあえずは、そういうことでしょうね。」
「信じて待つこと以外、必要ない。」
そこへハヤブサが現われ、2人に挨拶をした。
「お久しぶりですフレイさん、ニーさん。」
「ハヤブサも久しぶり。」
「久しぶりだ・・・何か、少し変わったか?」
ハヤブサは外行きの服装で、ポニテのメガネっ娘。どこにも変わりはないはずだが・・・自立進化を始めたハヤブサの微妙な変化を感じ取ったのか?
「お二人がお変わりになられたのでは?明らかにお強くなられているのが分かりますよ。」
「そう言われると・・・」
「照れくさい・・・」
表の技なら俺にも引けをとらないくせに、ハヤブサもよく言う。
だが強くなっているのは事実だ。
「軽く模擬戦でもやってみるか?」
「いやー、いきなりプライドが粉々になりそうなんでやめときます。」
「うむ。我々とハヤトは目指しているモノが違うからな。基本的に人間相手は想定していない。」
「そうか・・・強くなっているのは確かなんだがな。」
「いま不意打ちしても、ちっとも一本とれる気がしませんねぇ。」
「俺もそんな自分がありありと想像できるぞ。冒険者は勝ちを拾うより生きて帰るのが鉄則だ。」
「みなさん、朝食の用意が整いましたが・・・」
「食べます。」
「食べよう。」
「食おう。」
そんな朝を過ごした次の日の夕方のことだった。
1人レイメイが戻ってきたのは・・・夕方のトレーニングを終えて、
船上で晩飯を考えていた時に目に入ったのだ。
俺が手を振ると小さく手を振り返してくる。
一瞬の違和感。すぐに分かった。
レイメイの体のバランスがおかしいのだ・・・
左腕が、肩から先が無くなっていた・・・
そんな彼女の胸には銀メダルが揺れていた。
「最後の最後にヘマやちゃって・・・でも、こうして無事に帰ってこれたから。」
3人とも何と言っていいのか分からなかった。
「ハイネスだって隻腕だったし、他にもきっと隻腕で頑張っている人はいるわよ。だから・・・」
後の言葉はもう声にならなかった。
本当は銀メダルを見せたらそれで故郷に帰ろうとしたのだ。
銀ランクの仕事を、
女が隻腕でやっていけるはずがないのをレイメイは誰より知っている。
だからメンバーの足を引っ張らないように、
自分から故郷に帰ろうとしたのだ。
それが自分が惚れた男に対する最後の矜持だと考えたのだ。
しかし実際に顔を見ると、
このまま一緒に旅を続けたいと強く願ってしまうのだ。
「右手と言うことであれば細剣がいいですかねぇ。」
「そうだな・・・対人戦闘となったら毒を塗布して使うべきだな、レイメイは毒使いだし。」
「・・・」
「ハ、ハヤトはどうして何も言ってくんないの?やっぱり無理だと思ってる?」
「無理とは思わんが、お前の異能は細剣ではない。」
「それは分かっているけど、アタイ、アタイ・・・」
「死ぬ程の痛みに耐えられるか?お前の命を削ってもいいか・・・俺はやはりお前の弓が見たい。」
「!」
「どうだ?」
「やるよ。このまま生きていくより、どんな痛みだって今のアタイなら耐えてみせるよ!」
俺はハヤブサにシルバーリンクで指示を出し、
睡眠薬と栄養剤を持ってこさせた。
「まず、この薬を飲むんだ。多分、今のお前は疲れ過ぎている。」
「・・・分かった。」
睡眠薬がたちどころに効いて横になったレイメイを、
俺は両手でそっと持ち上げた。
所謂お姫様抱っこ状態だ。
「どこに連れて行くんです?」
「何をする気だ?」
「心配するな、大事なメンバーだ。神代の技術でできるところまでやってみる。3日はかかる。」
俺はハヤブサを連れてアマツカサに移動した。
「可能だよな?」
「可能か不可能かで言うならば可能です。が、素体が違います。かなりの痛みを伴う可能性があります。」
「それは本人も了解済みだ。」
「彼女はマスターの・・・星の運命に完全に巻き込まれてしまいましたね。」
「レイメイだけじゃないさ、自覚はないだろうがあの2人も・・・」
「この世界で初めて会った3人ですものね・・・人ではありませんが、私もですか?」
「勿論だ。そしてヤーンの巫女様も、だ。」
「これ以上増やさないで下さいね?」
もちろん、何のことを言っているのか俺にはさっぱり分からなかった。
次回更新予定日は5月1日(日)となります。
今回のお話で楽しんで頂けたのなら幸いです。




