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6-11.パラダイムシフト

「火星の王を狙う彼も、世界がもたらしたイレギュラーな存在なのかもしれない。」

「世界に選ばれた存在だと?」


「天文学的な確率を越えて生き延ぬいた男だ、あながち誤りではなかろう。世界に選ばれたのが白と黒の星だけとは限るまい。そして俺も素直に妖精達を返す気は無いしな。」

「4人の王に宣戦布告ですか?」


「今まで通りの対応では本気で世界が滅びるのだろう?それが俺がここにいる理由のはずだ。」

「『黒き星の子』はいいのですか?」


「彼についてはひとまず保留だ。俺はやはり鉄砲は止めたいと思う。火薬は人類にとって麻薬と同じだ。」

「麻薬が何を意味するか分かりませんが、言いたいことは分かります。」


「この世界のことわりを捻じ曲げることになっても、ここはまかり通る。」

「大丈夫ですよ、ハヤトさんは「運命の子」なのですから。」


「俺が無理を通せば道理が引っ込むと言うのか?それはいい・・・」

「私達ヤーンの巫女は本気でそう信じています。」


 そう言うと、彼女はヤーンの聖句ルーンを唱えた。

・・・それは彼女の別れの挨拶。


          ★            ★             ★  

 

「と、言うわけで俺はこの世界の物理法則に足枷をつける。化学方程式に喧嘩を売ることになる。」

「マスターの考えを実行するには手持ちの材料だけではとても足りません。」


「分かってる。リヨンの「ファクトリー」へ向かう。更に足りなそうな物があればリストにしてくれ。」

「リヨンの「ファクトリー」なら十分と思われます。荒らされていなければ。」


 こうして俺達はリヨンに飛んだ。懐かしい遺跡が中央広場に立っている。

 夜を待って光学迷彩を施したアマツカサを横付し、

 ハッチからハッチへと資材を運び込むことになった。


 そうはいってもここにいるのは俺とハヤブサだけだ。

 2人だけの配送作業が始まった。

 そもそも「ファクトリー」は横になるべく宇宙船が縦になっているわけだ。

 そんな環境で荷物を運ぶなんて俺かハヤブサしかできないだろう。

 (もしかするとリクオの奴もできるかもしれないが。)

 繰り返すが俺とハヤブサしかできない重労働だ。

 作業は夜間しか出来ないし、1日では到底無理だろう。

 結局7日間もかかってしまった。


 後はハヤブサがアマツカサの工房で頑張る番だ。

 「ファクトリー」の工房を使いたいなどと我儘を言っていたが、

 何しろ材料は既に運び出してあるのだ。観念して製作にいそしんでもらおう。


「出来ました、マスター!」


 ハヤブサが工房にこもって5日目の朝だった。


「褒めてくださいマスター、やっぱり私は天才です!」

「おぉ、よくやったな。ハヤブサはやればできる子だ。」


「むー、どうもマスターは私を軽んじている傾向があります。」

「そ、そんなことはない。ちゃんと凄いと思ってるし、感謝だってしていぞ?」


「まぁ、今日のところはいいでしょう。このAPCアンチ・パウダー・クラウドをご覧下さい!」

「そんな量で足りるのか?」


「何とこれは自己増殖機能を備えているのです。太陽エネルギーさえあれば半永久的に・・・」

「これを『風』に乗せ、世界へばら撒けば火薬は急激な燃焼(=爆発)をしなくなるんだな・・・ざまあみろ!」


 俺は誰となく悪態をついた。

 鉄砲を何千、何万と持ってる奴らがいるだろう、

 全て無用の長物となるのだ。

 反面、必死に開発しようとしている方々にはご愁傷様だ。

 この世界で鉄砲が火を噴くことはもう無いのだ。


「ハヤブサ、早速これをばら撒くぞ。そして『風』に乗せ世界中に・・・」

「イエス、マスター。」


 最初からこうしておけば良かったのでは?

 と言う疑問が湧いたが気づかなかったことにしておいた。

 やはり物理法則を捻じ曲げるのはやり過ぎだ、

 と言う気持ちと良くやったと言う気持ちが拮抗している。

 そして、ああ俺はもう普通の人間ではないのだなという気持ち。

 元々世界最強を目指していた俺だ、いろいろ普通の人間ではない。

 だが、それとは少し異なる感傷だった。

 強いて言うならもう後戻りは出来ない、と言う気持ちか・・・


 一番鉄砲保有量が多そうと言う理由で、

 王都からAPCアンチ・パウダー・クラウドを撒いていった。

 中央から辺境へだ。


 俺が興味を持ったのは火薬が急激な燃焼(=爆発)をしなくなった時に、

 ステルスジャマーやピンポイントアムネジアはその効果を発揮できるのかと言うことであった。

 アマツカサのドローンに収集させた情報によれば、

 ほとんどの者が火薬と鉄砲の記憶をなくしている。

 だが一部の先祖返りと思われる者達はしっかりと記憶を持ち続けており、

 周りの人間を叱咤している。

 聖帝十字軍のベルギー=N=パウロなどはその最たる者であったが、

 肝心の火薬が爆発しないので部下達はただ話を聞いているだけであった。


「うぬぬ、どうして火薬が爆発しない?どうして弾がでないのだ?つい先日活躍した新型ではないか!」

「隊長の言ってること分かるか?」

「多分、俺らの持ってるのが鉄砲と言う武器なんだろう。使い方がさっぱり分からんが・・・」


 と言ったような会話が、あちらこちらで交わされていた。

 もちろん、火星倶楽部においても同様だった。


「なるほど、こういった手段に出る人物か・・・」

「鉄砲には同じ文化レベルの鉄砲で、対処してきた我々だったが・・・」

「完全に往時の科学レベルを再現、あるいは凌駕しているぞ。」

「なんにせよベクトルは我々と同じようじゃないか、なによりだ。」


「確かに効果的ではあるな・・・」

「我々のやり方では生温いと思われたか?」

「爆発と言う事象が消えてしまったんだ、文明に与える影響は大きいと思うがね。」

「とりあえず敵対しないでおこう、少なくとも相手の意図と正体がハッキリするまでは。」


「しかし、これは・・・」

「我々の仕事を奪う、あるいは我々の立場と取って代わろうと言う可能性があるね。」

「我々はこれまでずっと上手くやって来たはずだ。」

「ここにきて退場勧告される理由は?」


「これ以上はここで論議しても始まらないね。」

「確かに。」

「また媛巫女を連れてくるかい?」

「先日の「真昼の花火」も分かっていないのにかね?」


「あー、今日はもう解散だ。」

「賛成。」

「賛成。」

「・・・まだ言いたいことはあるのだが、賛成だ。」


 王都から遠く離れたサトの国でも、まっとうな嘆きの声が聞こえていた。


「分からん、なぜ爆発しない?昨日までは何も問題は無かったはずだ。」

「それよりも王も王女も鉄砲のことを忘れています。そちらの方が薄気味悪いのですが・・・」


「そうだな、俺とアーサー以外に鉄砲を覚えている者がいない。どう考えても不自然だ。」

「もう幾日も前になりますが、師匠の同郷であるハヤト様が鉄砲の技術を封印すると言っていたことがひどく気にかかるのですが。」


「確かにそんなことを言っていたが、ここまでのことが出来るとは思えん(というか絶対無理だろう)。」

「では、どうしてしまったのでしょう。私は頭がおかしくなりそうです。」


「アーサーにも錬金術師としての立場というものがあろうな・・・」

「そんなことはどうでもいいのです。ただ、今までの苦労が消えて無くなったのが悔しいのです!」


「燃焼はするのだ、全ておかしくなってしまったわけではない。新たに何かを混合させれば、あるいは。」

「いずれにしろ、今すぐと言うわけにもいきませんな。」


「そういえば硝石鉱山の話も無くなっちまったなあ。」

「ケイン官吏が叫んでいましたよ、わが国に鉱山が見つかったはずだーって。」


 かくのごとく中原中に悲鳴があがっていた。

 やはり一番は王都を抱える帝国だろう。

 2万丁と言った鉄砲が木の棒、鉄の棒に変わったのだ。

 仕方がないので先端に小刀を付けて槍の代わりとしているが、

 通常の槍の方がマシだと現場はブーイング状態である。

 王都に貯蔵してある膨大な木炭、硫黄、硝石等は今ではマッチの材料と化した。


          ★            ★             ★  

 

「今にして思えば、これがパラダイムシフトなのかもしれないな。」

「急激な燃焼(=爆発)をなくすことがですか?」


「そうじゃない、急激な燃焼(=爆発)をするのが当たり前だった世界がそうでなくなることがだ。」

「価値観あるいは事象・論理の反転・・・」


「そうだ。パラダイムシフトは多分それを指していた・・・」

「92%の確度で肯定します。」


「では行くか。」

「どちらへ?」


「俺の巫女へ報告だ。」

「・・・」

          ★            ★             ★  

 

「それでわざわざいらしたのですか?」

「そんな言い方は無いだろう、世界のことわりを曲げてまで鉄砲を無力化させたんだ。」


「ここに居ても世間の様子は耳に入ります。もっとも大半の人々は忘れてしまっているようですが。」

「そうだ、最初から火薬や鉄砲のことなど無かったかのように忘れてしまうんだ。」


「さすがは「運命の子」ですね・・・帝都の十字軍あたりに知れたら大変なことになりそうですが。」


 彼女は楽しげに「ほほ。」と笑ってみせた。そうだ、俺はこの顔が見たくてやって来たんだ。


「なにやらお顔が二ヤついていますが?」

「俺が「運命の子」ならアンタは俺の「運命の巫女」だ、覚えておいてくれ。」


 普段は透き通るように白い彼女の顔が、

 耳まで真っ赤になるのを俺はあきずに眺めていた。


何とか間にあいました、ご機嫌いかがでしょうか?

ポイントを下されました方、ありがとうございます。

次回につきましては4月17日の予定でございます。

この物語で楽しんで頂ければ幸いです。

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