6-10.あるべき姿
次回の更新予定日は4月3日となります。
今回のお話が気に入って頂ければ幸いです。
10代後半ぐらいにしか見えないハヤブサから、
ネコ耳のまま注意されるのは俺の心が耐えられない。
大人しく話を聞くことにする。
「それで、一体この先如何お考えか?」
「鉄砲の技術は仙境の秘術故、封印してしまおうかと考えている。」
「そのようなことが可能なものですかな?」
「仙境の秘術でも至難の業だ。不可能かもしれん。」
「それでは如何なさるおつもりで?」
「今、それを考えているが・・・この場では答えがでないので一度仙境に戻ろうと思う。」
「それは・・・しかし覚えておいていただきたい。我が国は鉄砲でもって中原に覇を唱える気は無い。」
「それは理解した。だが相手がより強力な兵器を造れば・・・それは血を吐きながら続ける悲しい・・・・だ。」
「は、悲しい・・・・何ですと?」
「いや、こちらのことだ。我々はそろそろお暇しよう。ハヤブサ、行くぞ。」
「イエス、マスター。」
俺たち2人は小さな王宮を後にした。後に手つかずの紅茶を残して・・・
★ ★ ★
「あーあ、やっぱりだ。リクオとの勝負は一応の決着を見たと言っていいだろう。だが、古き国の王が悪魔の囁きに乗ってしまった。しかし誰があの王を責められる?10人が10人同じ選択を為すだろう。ここでお俺が犯す誤った選択とは何だ?あるいは最良の選択とは何だ?」
「分からないから仙境・・・ヤーンの神殿に向かっているのでは?」
「うん。火薬問題の解決ならマクスウェルの悪魔(※15)を使えばいい。そうすれば火薬はできても爆発はしない。ナノマシンを含んだ大気を世界中にまき散らせばいいんだ・・・そうすれば火薬は爆発すると言う事実は嘘になる。一度拡散した事実はそうでもしないと改変不可能だ。だが今回のように物理法則を捻じ曲げる事が必要なんだろうか?それでは世界はどんどん歪な箱庭になっていく、それで人間は幸せか?」
「私は鉄砲の有る世界と無い世界、どちらかを選べと言われたら鉄砲の無い世界を選びます。」
「ハヤブサ・・・」
「それは鉄砲が疫病や洪水、日照り等と違って人災となるからです。鉄砲は人殺しの道具そのものです。」
「まあ、剣や弓に比べたら比較にならない被害をもたらすだろうなあ。」
「鉄砲を造りだせるのなら後は簡単です、すぐに反応兵器に行き着くでしょう。」
「それは少し話が飛躍してやしないか?」
「いえ、時間の問題です。そして造られた兵器は・・・必ず使われます。」
「必ずか?」
「必ずです。」
「たまらんなあ・・・ユートピアで暮らせると思っていたら、一握りの人間のおかげで現実に引き戻されちまうわけか。」
「レイメイさんのような異能持ちや、カーンのように先祖返りした人間が簡単に過去の技術を復活させる。人間と言うのは良くも悪くも進化する生き物ですね。」
「お前、レイメイのこと・・・」
「あの射撃を見せられて、知らん顔ではいられません。他国の情報ともつき合わせて確信に至りました。」
「それじゃヤーン神教も・・・」
「「光の神」教団もそうだと思います。ヤーンの聖巫女も「光の神」の媛巫女も恐らく同じ異能持ち。」
「機械文明を捨てれば、人類はファンタジーワールドで暮らせるのかもしれないな・・・」
「機械の代わりに魔法を手に入れる?そんな世界も素敵かもしれません・・・」
そんなこんなでヤーンの神殿に着いてしまった。サトの国は狭いのだ。
「白い星宛に文は届いておらんかね?」
「ちょっと待って下せえ・・・あ、あった、あった。」
「ありがとう。」 俺は礼を言ってヤーンの聖句を唱え、布施をする。慣れたものだ。
「文には何が?」
「真昼の花火。」
「それだけですか?」
「いつもこんなもんさ、見るか?」
「いえ、結構ですが・・・これ、あのことでしょうか?」
「そうだろうな。今頃になってどうしたって言うんだ?とりあえず会いに行くか。」
★ ★ ★
「今度の旅はどちらまでいらしたんですか?」
最近、カミーユはこういった物言いをするようになった。
そして遠い目をするのだ。
すると俺は何だかいたたまれない様な申し訳ない様な気分にさせられる。
「今回はセトの国だ。鉄砲を用いた戦があり、帝国が一枚噛んできた。シズの場合と違って全ての痕跡を消すのは厳しいぞ。それから『黒き星の子』、リクオとの古の決着はつけてきた。」
「古き国の王はサトのことでしたか・・・かの王は悪魔の囁きに耳を貸したのでしょうか?」
「貸したな・・・俺は何をすればよかったんだ?」
「今はまだ何も・・・」
「何もするなと?」
「以前の予知と異なりはじめました。予知の通りならサトは滅び、その後に帝国軍が来るはずでした。」
「どういうことだ?」
「貴方の働きで未来が変わり始めている、と言うことです。誇っていいのですよ?」
「全部が終わったら褒めてくれ。『黒き星の子』との古の決着はどうなんだ?」
「貴方が力ずくで勝っていたのなら、サトの国はランス王国との全面戦争を行い、サトの国に多くの死傷者をだした。けれど、そうはならなかったのでしょう?」
「ああ、話し合いで決着がついた。以前では考えられなかったことだ。」
「人が皆、変り始めているのです。だから先読みが特に難しくなってしまった・・・」
「アンタの先読みが外れたとしても誰も責める奴はいない。それより真昼の花火だ。」
「これは中央の信徒からの情報ですが、「光の神」教団がこの言葉の意味を探っているという話です。」
「つまり「光の神」教団が俺達を探している、と。何が目的だろうか?」
「恐らく爆発した何かが問題なんだと思います。」
「カミーユには話しても問題ないと思うが、この世界に4人の妖精の王がいてな。人間が間違った方向へ進化しようとするとリセット・・・つまり、この世に火山の噴火や大津波等をひきおこし人の数を減らすんだ。それが『地』『水』『火』『風』と呼ばれる妖精の王の真実だ。」
「カーンはその中の1人を手に入れ火の山の噴火をおこさせ、奇跡を演じてみせた。ところがその後貴方によって、その妖精を倒されてしまった。」
「呑み込みが早くて助かる。あいらつは『黒き星の子』の力を借りて、古の妖精を捕まえた。もっとも他の妖精達は俺が3人とも捕まえてしまったがな・・・」
「妖精達は、人間が間違った方向へ進化しようとすると天災をもって人を減らす・・・」
「ああ、その認識で問題ないと思う。」
「カーン亡き後、残りの妖精達は貴方の支配下にあるわけですね?」
「まあ、そういうことだ。」
「なら話は簡単でしょう。「光の神」教団が、かつて妖精達の支配者だったのでしょう。」
「なに?」
「・・・火星から戻りし4人の王、この世を支配せんと深くこの地にとどまらん。この先読みが示すものは4人の妖精達を、火星から戻った4人の王が従わせていたことを表しているのではないでしょうか?だから深くこの地にとどまり人間を観察しているのでは?」
「「光の神」教団の後ろに4人の火星の王がいるってことか。」
「そう考えていいと思います。」
「妖精が1人攫われたので目を覚ましたか・・・俺は鉄砲による戦が原因だと思ったが。」
「あるいはその両方かもしれません。今頃慌てて新しい妖精の主人を探しているかもしれません。」
「妖精達を返せ、と言うつもりか?だとしたら昔から人間達を見守ってきた火星の一族か?」
「人間が自ら滅びるのも困りますが、誰かの手によってやり直しをさせられるのもいい気がしませんね。」
「しかし人は今や火薬と鉄砲を手に入れた。次は内燃機関だ、そうすれば破滅はもう目前だ。」
「「内燃機関」とは何か分かりませんが、人が良くない方向に向かっているのは分かります。」
「だから今、リセットをかけるつもりなのか?人の数を10分の1ぐらいに減らせば問題は解決だ。次に問題が発生するまでには数千年かかるだろう。」
「何だか昆虫を飼っている子どものような発想ですね、無邪気で残酷です。」
「本当に火星の王ならば、今の人類を造った連中だからな・・・そんな気になってもおかしくはないさ。」
「これまでに、彼らの手によって人がやり直しさせられた事があったのでしょうか?」
「分からん・・・だが神皇暦12,090年では・・・1度や2度はあったのだろうな。」
「その結果がいまならば、彼等の選択は正しかったと?」
「いま生きているところを見れば、そうなのかもしれない。だが人々のあるべき姿なんてものはないんだ。何を選択しようと、その結果生きようが滅びようがそれは選択者の自由であるべきだ。だが俺は世界に「生きる」ためにこちらに呼ばれた・・・今回はヤバいんだろうな。だから、生きるための選択をするよ。」
「生きるための選択?」
「俺にもよく分らんが・・・今まで通りの火星の王達のやり方で問題が無いのなら、俺はこちらに呼ばれてないだろうって話さ。」
「今までにない、新しいやり方で解決していこうってことですね?」
「これまでにどんな手法がとられていたか分からんがな・・・従来通りっではダメってことなんだろ。」
「何だか想像がつきません。多分、誰も知らない結末になるのでしょう。」
「面倒をかけそうだ・・・よろしく頼む。」
「何を今更。そういえば火星の王を倒すためツバイは旅立ちましたが『黒き星の子』と別れたのですね。」
「『黒き星の子』は、この世界で生きがいって奴を見つけちまったよ・・・」
「ではツバイはいま一人ですか。どこか貴方に似た感じの男でしたが、どうしていますかね・・・」
マクスウェルの悪魔(※15)・・・分子の動きを観察し、
かつ干渉することの出来る存在。




