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6-8.悪魔の囁き

2週間ぶりでございます、皆さま如何お過ごしでしょうか?

このスパンだと何とか書いていけそうだと思います。

ハヤト達は王都入り目前です。

次回更新日は3月6日となります。

 死んでしまった兵士達の遺族への軍人恩給、功労者への褒賞、城の復旧作業、塹壕の復旧作業、焼かれたり壊れたりして使えなくなった家屋の復旧作業、恐らく発生する教会建築費用とお布施、何より皆の無事を祝うパーティー代・・・


 セトの国の経理官吏は目を白黒させながら蜂蜜酒(アの国から頂いたものだ)を口に運んでいた。命が助かったと言って喜んでいたのは半時も前だったような気がする。もう落としは無いだろうか?予算なんかとっくに執行されているこの時期に、降って湧いたこの不幸。いや。王家を始め我々だって多く助かっているんだ、これで文句を言ったら死んでいった仲間に合わす顔が無い。しかし、この項目のどこかで国庫は破綻する。宝物庫に多少の財宝があるが焼け石に水というもの。


 これは誰に相談すればいい?王かそれとも王女様か?


 本来彼の主人は国王であり、その忠義は鉄である。しかしこういった、いうなれば細かな現場のやりとりについては「お前に任せる。」となってしまう。任された以上彼も最善を尽くすのだが・・・古今東西、無い袖は振れない。


 では王女様にお話を持っていくべきか?

彼女の場合、おそらく割引き国債を発行するだろう。

国が保障する借金の証文のようなものである。

これを貰った者達は1年(あるいは2、3、5年)間現金にすることが出来ない。

ただし1年間待てば本来100万円のところ110万円が得られる。

この場合、早く現金化して欲しければ両替屋等で国債を「割って」もらう。

すると1年後なら110万円貰える代わりに、99万円の現金がすぐ手に入る。

両替屋は1年間何もせず待ってるだけで11万円を手に入れる。


 この問題で性質たちが悪いのは、

割引き国債の対象とされるのが褒賞金である場合が多いことだ。

特に遺族への褒賞金などすぐにも現金が欲しいのだ、

だから割増部分には最初から目を瞑って「割る」のである。

これでは褒賞の意味が無くなってしまう。

それに翌年、国はこの割引き国債を買い戻さなければならない。

当たり前と言えば当たり前の話なのだが、

翌年の税収によっては買い取りに支障が出てくる。

すると翌年にまた割引き国債を発行しなければならない。

自転車操業になってしまうのだ。

余程の豊作に恵まれ税収が上がりでもしない限り、

割引き国債を買い戻すだけの資金が不足することになる。


 それだからこの方法に問題があることは誰でも知っている。

だが無いのだ、代案が。いや1つだけ方法はある。

皆、それが劇薬だと分っているので自分からは口にしないのだ。

言いだした者のせいにされるに決まっているから・・・

 

 かねを造るのだ!国家だけはかねを造れる。

今の金貨の金の量を半分だけでも銀にすれば・・・

これは最低の解答である。こんな答案を書いていたら、

彼は官吏登用試験において真っ先に落ちていただろう。

まして伝統あるサトの国においては建国以来通貨をいじったことはない、

というほどの徹底ぶりである。悪貨はたちどころに良貨を駆逐するのだ、

そして失った信用は2度と帰ってこない。


 ここは無難に王女様を頼り、

割引き国債を発行し税収が回復するのを待つしかないか・・・

わが国には特産品というものが無いからな。

すぐに売れてしまうような魅力的な特産品は無いものだろうか?


          ★            ★             ★  

 

「父上!無事で何よりでございます。」

「ローザも無事で何より、リクオ様におかれましてもご無事なようで。」

「今回俺達は何もしていない、安全なところに居ただけだ。今こうしていられるのはセトの底力だ。」


「そう言っていただければ亡くなった皆も浮かばれますでしょう、王としてお礼申し上げる。」

「1日も早くこの国を正常な姿に戻さなくては・・・鉄砲造りが遠のいてしまいました。」

「それは仕方あるまい。俺にまつりごとは分からぬが、傭兵や移民の受け入れなどは如何か?」


「それは毎年議会に諮られるのですが・・・是も否も結論がでず、毎年先送りになっておるのです。」

「それに移民等はこの国に慣れるまで税を払うことさえままならず、むしろ国の補助が必要なのです。」

「素人が知った風なことを言ったようだ、お詫びする。このような時期では「痛い」わけか・・・」


「侘びの必要はござらん。むしろリクオ様には自由に発言して頂き、仙境の知恵を拝借できればと・・・」

「移民の欠点を速やかに理解しすぐに詫びまでいれるとは、何処かの官吏に聞かせてやりたいものです。」

「それほどのことではないが、鉄砲造りが遠のいたのは確かか・・・」


「実を申せば鉄砲どころか、来年の税収時までにおそらく国庫は空になるでしょう、宝物殿も然り。」

「む、やはり左様でありましたか・・・今年も割引き国債の発行が避けられませぬな・・・」

「財政難か、やはり時代は変わっても人の暮らしようは変らぬか・・・1つ提案があるのだがな。」


「何でありましょうか?」

「・・・」ローズは返答せずにいた、いや返答が出来なかった。何故かリクオが怖かった。

「俺の提案を採用する、しないを決めるのはもちろんお二方だ。この話、運用を誤ると国が潰れる。その代り上手くゆくなら国の借金は無くなり、新たな産業が増えて雇用が生まれる。」


「何と、そのような話がわが国に?」

「それは人として、その行いが許されるものなのですか?」

「王女様は心配性だな。実際、名案がそうそう転がっているわけもない。だが今回は地に埋まっていた。」


「埋まっていた?我が国に鉱山でも見つけられたのですか?」

「もしやその鉱山は鉄砲に連なる物でありますか?」

「正解だ。鉄と木、硝石、硫黄、木炭そして腕の良い鍛冶師と木地師で鉄砲はできる。この中で最も入手が困難なもの・・・それは硝石だ。俺はいくさ時に山へ逃げた時、偶然そいつを発見してしまった。」


「それは大発見ではありませんか!それのどこがいかんのですか?」

「父王殿よ、正気で言っておられるか?サトは鉱山目的で狙われますぞ。下手をすれば帝国にさえ。」

「さすがに分かっているようだな。俺も偶然見つけた時は見なかったことにしようかと思ったほどだ。」


「な、ならば内密でサトの鉄砲製造のみに役立てれば良いのではないか?」

「秘密が守られるならばそれが一番確かでしょう・・・しかしわが国にはやがて教会が建ちます。」

「そうだ、教会へ硝石の情報が漏れるのは時間の問題だろう。知れば帝国は横取りにくるだろう。」


「くっ、本来であれば宝の山のはず・・・他国にさえ輸出できる特産品にさえなりうるものを!」

「リクオ様はどのようにすべきと考えますか?」

「教会が出来てから鉱山の露天掘りを始めて、産出された物の半分を帝国に売る。他国には売らない。」


「先にこちらから差し出すわけですか。」

「成程、恩を返して恩を売るか。確かに今回我が国が無事であったのは帝国のおかげですからね。」

「そうだ、価格は帝国の言い値でいいだろう。半分は恩返しだ。後の半分はサトの国で使わせてもらう。」


「ランス王国が動いたのはまさか硝石の鉱山のせいか?」

「・・・今となっては何とも言えません。」

「それよりも硝石を帝国に売る、この意味をもう一度良く考えてから国の方針を決めてくれよ。」


「そえは・・・どういうことですかな?」

「帝国に硝石を売るは火薬を売るも同じ。今回は我々を助けてくれたが次はどうなるか分からない。しかし、我々は目をつむって帝国と取り引きしようとしている・・・と言うことでしょうか?」

「認識してるならいいが、これは一歩間違うと悪魔と取引きすることになる。後から俺のせいにされてはたまらんからな・・・」


「今回起きたことが次に又起こらぬ保証はない。その時十字軍が間に合う保証もない、ならば・・・」

「自分の家の庭は、自分で手入れをするものです。」

「そうか・・・」


 こうして、古き国の王が悪魔の囁きにのることになった。


「ケイン、入るぞ?」

「これはローズ王女、こんなむさくるしいところにようこそ。」


「また損益計算書バランスシートとにらめっこか?」

「そうはおしゃいますが王女様・・・今回も割引き国債を発行せねば財政は立ちゆきませぬぞ?」


「ところがその必要が無くなったのだ。あるいは軽減されると言うべきか・・・」

「それは如何なることで?」


「実はな、わが国に鉱山が発見されたのだ。」

「な、何と。いったい何の鉱山がありましたのでしょうか?」


「すまんが、今はまだ詳細を語れん。だが帝国が取引先だと言っておこう。」

「おお、帝国が相手にしてくれるようなものなのですね!朝に祈ったかいがあった。」


「朝に何を祈ったのだ?」

「いえ、誰もが欲しがる特産品はないものかと・・・」


「ふーむ。」

「い、如何なさいました?」


「いや、鉱山の名前なのだがな・・・少し早いが「ケイン鉱山」と命名しよう。」

「王女様~~~。」


「いいではないか。お前が特産品を望んだ同じ日に見つけられた鉱山だ、これも縁と言うものだぞ。」

「まあ、誰も私の事だとは思わないでしょうから・・・いいですけどね。」


「割引き国債の発行に頭を悩ませているであろうお主に聞かせたかったのだ、許せ。」

「仰せのままに、マイプリンセス。」


 どうやらもう一杯ぐらいは蜂蜜酒が飲めそうだ・・・

ケインはふとそんなことを考えた。


          ★            ★             ★  

 

「アーサー、見たか奴らの新型を。」

「はっ、およそ500メトルから当てにきておりました。それにあの威力・・・」


「射手の腕もいいのだろうが、ライフリング(※14)を切っているな・・・本体もでかい。火薬も・・・」

「師匠、そのライフリングと言うのは?」


「ああ、飛距離を伸ばし命中精度を高める工夫のことだ。現物があれば早いのだがな・・・」

「なんとそのような工夫がございましたか!」


「だから初めに言ったろ、俺達の鉄砲はまだまだなのさ。だが初めの一歩からいかねえとな・・・」

「アレに追いつくには如何ほどの時間が要りましょうか?」


「俺とお前がかかりきりになればそれほどの時は要らんだろうさ。だがローズの奴は数が欲しいんだろ。」

「そ、それは確かに・・・」


 話しをしていても、リクオは決して油断していたわけではなかった。

だから自分を凌ぐ隠形の使い手かと、

少し気を引き締めてアーサーに注意を促そうと思っていた。

だが、それはあまりに突然でリクオの口をついたのは全く別の言葉だった。


「ハヤト!お前が何故ここに?!」




ライフリング(※14)・・・銃の砲身内に施された螺旋状の溝のこと。

           弾丸の直進安定性を増す。

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