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6-6.弾幕射撃

 それは全く急な進軍であった。

ランス王国内でも騒がれたくらいである。相手国がサトの国であったから。

人口も少なく、国も小さくこれと言った産業も無ければ特産品もない。

正にないない尽くしの国である。


 そんな国を貰っても統治に金がかかるだけで何も面白味がない。

 なら何故我が陛下が出陣したか?

 それはつい先日完成したと噂に高い新型兵器の実戦試験らしい。

 そのため負ける要素が無く、

 後から中原で問題にされないようにひも付きでない国を選んだのだ。


 もっとも国民すべて皆殺し若しくは奴隷になるだろうことは、

 口にこそ出さぬが誰もが知っていた。

 後顧の憂いを断つためである。

 どんな小さな国でも油断はしない。

 つまり彼はサトを狐に見立て、狐狩りをするつもりなのだ。 

 最後の一匹まで容赦はされないだろう。


 サトの国では南の村から鳩が飛んできたため、村人の避難が始まった。

 予め用意はしてある、後は北山に登るだけである。

 そして250名の兵士達。

 これは150名と100名に別れて城の外・内に配置された。

 外には新たに設けられた塹壕ざんごうに150名。

 塹壕ざんごうは畑を放って農民たちがこしらえてくれた。

 そしてそこには9丁の鉄砲が存在した。

 元々試作品の3丁しかなかったが、リクオが音頭をとり、

 国の鍛冶屋が一丸となって残りの6丁を仕上げたのだ。

 

 これで50名の3部隊を構成し、

 そこで9丁の鉄砲を順番に使っていくことにより、

 絶えず3丁の鉄砲が稼働するスタイルが完成する。

 問題は弾と火薬の量である。 

 弾の数以上の人間が押し寄せてくるのならば、

 これはもう消耗戦となり、人の多い方が勝つであろう。

 

 しかし今回はそこまでいかずとも

 「光の神」教団の聖帝十字軍が駆けつけてくる手筈になっている。

 教団の十字軍はさまざまな名称が付けられているが、

 聖帝十字軍とは精鋭中の精鋭でありその数およそ2,000名。  

 この部隊が本気で動くと知れたらそれだけで治まる争いもあると言われる。

 とてもではないがこんな田舎の争いに首を突っ込む部隊ではない。

 その彼らは船によって輸送され、

 ようやく港に着いたところであった。


「本当に気の短い陛下だな、もう出陣したのか!こちらも別段のんびりしていたわけではないのだが。」

「全員騎乗!点呼の後出発!」

「やれやれ、少し兵を休ませたがったが・・・」


「兵は船の上で十分休めただろう。」

「余り遅れると、サトの国を救うと言う大義名分が無くなるぞ。」

「まあ、仇討ちと言うことでもいいのではないか?」


 彼らの手にはやはり王都でも最新の鉄砲が光っていた。


「こいつらの実戦試験さえできるのならどうでもいいがね。」

「今回はどちらも異教徒あくまなんだろ、どうでもいいではないか?」

「どちらも皆殺しにすればよい、我々は神罰代行者であるのだから。」


「待て待て。サトの国は教会の建設と、国教としての「光の神」教団を正式に認めた大事な子羊だ。」

「そうであれば話は違う。」

「城で籠城している哀れな子羊を助けに行かねば。だが時間的に危ういかもしれんな・・・」


 サトの進軍で一番驚いたのはランス陛下自身である。

 道々抵抗する人間はおらず、家は無人。

 試しに火を点けさせても誰もでてこない。

 その理由はサト城の手前まできた時に知れた。

 城の前の土は盛り上がっており、恐らく鉄砲の弾を通さないだろう。

 そして驚いたことにその土の隙間から、

 敵兵が鉄砲で応戦してきたことであった。

 彼らの鉄砲の威力は軽鎧の1番隊の男が死んだことによってある程度分かった。

 理由は不明だがこちらの進撃は読まれていた。そして敵にも鉄砲がある。

 それだけ分かれば十分だ。

 宣戦布告をしていない争いである以上負けることは許されない。

 だが勝てば・・・そう、勝てばどうにでもなるのだ。


「カーンの鉄砲程度の威力だ。盾部隊、前へー!」 

 ランス陛下が鼓舞する。本人はフルアーマー姿だ。


 ランス軍は盾に守られながら弾を込めた鉄砲を撃ち手に渡し、

 撃ち手は盾をバイポット(※12)代わりに使って発砲し、

 撃ち終えた鉄砲を弾込め当番に渡し新たに弾の込められた鉄砲を受け取る。

 この繰り返しだ。

 

 相手は土の壁の隙間から代わる代わる発砲してくる。

 が、やがて誰もが気ついた。奴らの鉄砲はそんなに数が多く無い・・・

 1番隊に100メトル前進の命令が下された。

 移動時には盾に隙間が空く、指揮官なら逃さない隙だ。

 あいつらが撃ってきたのは9人。

 すなわちあいつらは9丁前後の鉄砲しか持っていないのだ。

 彼らは鉄砲を撃ち終わると跳ね橋を下げてさっさっと入城してしまった。

 彼らの持つ盾は鉄砲をよく防ぐようで、

 運悪く足に弾を受けた兵士が引っくり返っていたぐらいだ。

 しかし、これで奴らは袋の鼠だ。


 もともと勝ち戦なのだ。

 あいつらが鉄砲を持っていたのは少し驚いたが、もう何も問題は無い。

 このまま押し囲みサト王の首級をあげるだけだ。

 ランス軍の士気は揚がった。


 ランス軍は城まで100メトルの位置まで近づき、正門の跳ね橋までやって来た。

 ここに来るまでには弓矢や投石器といったいつもながらの歓迎があったが、

 鉄砲を撃つと大人しくなった。ここで新兵器の出番である。

 ランス陛下に叱責された3人組が考え出した物であり、

 一言で言ってしまえば鉄砲を50丁ほど束ねたものである。

 これを手押し車に載せ、

 なるべく門に近づき跳ね橋を破壊してしまおうというのだ。


 そしてその後、梯子をかけ橋の代わりにして乗り込もうという大胆な、

 相手を舐めきった作戦である。


「パパパパパパパパパパパパパーーーーーン!!」


 新型鉄砲の凄まじい音である。

 重さと言い、大きさと言い、とても個人では扱いかねる代物である。

 ところがこの新型の威力をもってしても跳ね橋部分が落とせないのである。

 跳ね橋そのものはバラバラになったが、

 その後ろに控えていた黒い壁が鉄砲を受け付けないのである。

 50連発を撃ってみたが弾が下に落ちるだけであった。

 ここを抜けて梯子をかけ一気に乗り込もうとしていただけに出鼻を挫かれた感じである。


 一体あの黒い壁は何であるのか?

 この疑問に答えを出したのがランス王国3鬼が1鬼の弓鬼であった。

 彼はその異能を持って、300メトル先の的を射抜くことが出来たのだ。

 彼は鉄矢に火薬の竹筒を括り付け、黒い壁目がけて射かけたのである。

 鉄砲の通じぬ相手を弓矢で粉砕しようとは何とも剛毅な話しである。

 鉄矢は黒い壁に突き刺さり、そこで火薬が爆発をおこした。

 砂ぼこりの後にはもうあの黒い壁は無くなっていた。

 あの黒い壁がたっぷりと水を含ませた布であると何人の人間が気が付いたであろうか。


「やったぞ、さすがは弓鬼。さあ梯子を掛けろ!」


 前線では堀に梯子を掛けようとしている。

 梯子が掛かってしまえばもうランス王国の流れであろう。

 サトの城では9丁の鉄砲をフルに使って梯子掛けを妨害しているが、

 いかんせん多勢に無勢で押され気味である。

 

          ★            ★             ★  

 

「おのれランスの連中め!」

「俺が見る限りよく凌いでいる。後は投石器用の石で通路を塞いでしまえば・・・」


「おお、リクオ殿の仰る展開になってきましたぞ!城壁の上の石が内側に消えていきます。」

「サトにもいい軍師がいるようだな・・・だが、これで助けを待っているのだと白状してしまったな。」


「・・・ということは?」

「時間との勝負だ。ランス軍が損害を厭わず攻め込めばサトは落ちる。それまでに十字軍が来るか?」


「ああっ!ランス軍が無理やり梯子をかけ突入を・・・あれでは被害が大きいだろうに。」

「被害の大きさより時間をとったか。優秀な軍師がいるのはサトだけではないか。」


「もう、城の中のことは分かりません。」

「救いの手がいつ来るか分からんが、国民だけは何とかしたいものだ。」


 今いる場所は国民と一緒に逃げた山の中腹である。ローズもリクオも視力は良かったが救援の部隊はまだ見えなかった。


「リクオ、あっち・・・」


 シズカが指さす方を見ると約2,000の軍勢が見えた。


「何故こちらから?海路か、やつら陸路でなくわざわざ船で来たんだ・・・それでもこの時間かよ!」


 リクオの目には聖帝十字の旗印がハッキリと写っていた。

 それはランス側も同じことであった。


「陛下、北の街道から聖帝十字軍が!セトの奴らが待っていた援軍とは十字軍のことでは?」

「むう、しかしセトが「光の神」に下ったという話も、何らかの条約を交わしたという話も聞かぬぞ?」


「しかし現に奴らはそこまで来ています。兵が浮足立つ前に方針を固めませんと!」

「む、聖帝十字軍と言えば約2,000。人数的には互角、後は奴らの噂が誠かどうか・・・」


「陛下、ご決断を!」

「全軍進撃!サト王の首を晒し出せい!」


 ランスの肚は決まった。聖帝十字軍はたまたま居合わせただけ、

 何がなんでもセトを堕とすのだ。

 堕としてしまえば、後で何とでも言い訳はたつ・・・

 最初から全軍突撃が良かったのか?今更だ!


 この行動を見て面白くないのは聖帝十字軍である。

 自分達は無視されたのである。


「ほー、俺達を完全無視か。えらく舐められたもんだな・・・城を落とせば何とかなると思っているのか?」

「これだから異教徒ばか共は・・・何故、自分達は攻撃されないと考える?」

「俺達が我が盟友たるサトに仇なす異教徒あくま共を見逃す筈ないだろ。」


「長距離射撃部隊、前線に整列!準備完了次第各自の判断で発砲せよ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 とはいっても彼らがいる北の街道から城までは500メトルは離れていた。

 一般的には射程の限度いっぱいである。

 だが見よ、横一線に並んだ彼らの目は等しく琥珀色であった。

 そして射撃の瞬間、全員目を閉じていた。

 そう、彼らはレイメイと同じ異能を持った狙撃兵であった。

 狙い違わず全てランス兵に着弾した。


「精密射撃部隊、街道上のランス兵を狙え。フルアーマーを狙うやつは新型の弾を使え。以上、撃て!」


 狙撃兵たちは1分に3~4回のペースで死神を500メトル先へ送り届けていった。

 ついに焦れてきたのかランス軍が聖帝十字軍に向かって攻撃を始めてきた。

 そこには今まで何度も死を運んだ黑い矢が混じっていたのだが、

 この黒矢がピンポイントで撃ち落とされてしまうのである。

 最初は何かの間違いかと思った弓鬼であったが、

 三度自分の矢が落とされるに至り考え方を変えてきた。

 精密であることを捨て数の勝負に出た。1度に5本の矢をつがえ、

 その一つ一つに火薬を吊るしたのである。

 そこへ精密射撃部隊の一斉射撃が始まった。


 運の悪いことにその弾の1つが、矢に吊るした火薬に命中してしまった。

 なお悪い事には他の4本の竹筒にも火薬は入っており、

 導火線に火がついているのである。

 火薬の爆発でちょっとしたパニックになっているところ、

 残りの4本分の竹筒が破裂した。

 空中で破裂しなかっただけ幸いであったのだが、

 事態を正確に把握しているのは弓鬼と導火線に火を点けた兵士くらいで、

 他の者は敵の新兵器だと騒いでいる。

 しかも火薬の中にはまきびしや棒手裏剣が詰まっていた。

 もちろん毒入りで、現場は右往左往している有様だ。

 ああ、この状況を今は亡きアの国1番隊の人間が見れば何と言うだろうか?

 正に因果応報である。

 城にのり込もうとするとはるか後方から撃たれ、

 本陣近くでは火薬の小爆発が5回も続いた。

 早急な立て直しが必要であった。

 しかし聖帝十字軍の本格的な攻撃はむしろこれからなのであった。


「全兵、弾幕射撃(※13)用意!」

「全兵、弾幕射撃準備!」


「全兵、弾幕射撃準備よし!」

「発射!」


「パパパパパパパパパパパーーーーーーン!」 


 2,000名、横二列の弾幕射撃が進撃中のランス軍に襲いかかった。




バイポッド(※12)

        銃に取り付ける2本の脚を持つ支持装置。

        所謂2脚のこと。

        銃の荷重を地面に伝え、狙いに集中することが出来る。


弾幕射撃(※13)

        特定箇所を狙わず、敵の妨害・無力化を目的とし戦

        線に対して横位一列に並んだ砲撃をくわえる射撃のこと。


先週、後書きを書き忘れてしまいました。

気にされた方がいたらごめんなさい。

ダブルワークとなったため、思うような執筆時間が取れなくなりました。

次回の更新予定日は2月7日となります。

このお話で喜んで頂ければ幸いです。

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