6-5.会議は踊る
「本当かい、グノーム?」
「さすがにこんな冗談は言わないよ、ウンディーネ。」
「それはマシントラブルかい、それとも物理的な攻撃かい?」
「あるいは自爆装置の誤作動とか。」
「僕に分るのは『切れて』いた『繋がり』が『消えて』しまったということだけだ。みんなはどうだい?」
「ウンディーネとは『切れて』いる。」
「シルヴェストルとも『切れて』いる。」
「ヴルカンも『切れて』いるな。」
「やはり全員『切れた』ままか。『繋が』ることが条件で選ばれた4人だったが。」
「神代の兵器にマシントラブルは考えられない。」
「可能性としてはより上位の適合者が現われた、と見るべきかな。」
「そんな者がいつ、どこから現われた?」
「可能性の話をしていても仕方がないと思っていたが・・・これ以上の様子見は無意味か。」
「そうだな、より上位の適合者が現われたと考えて行動するべきだろう。」
「火星倶楽部に連絡をとってこないところを見ると、アンチ火星派か?」
「それはいささか早急に過ぎる判断だ。単にニュートラルなだけ、あるいは無関係な第3者の存在。」
「妖精達には火星を代表し、文明のリセット装置としての位置づけを望むがそうでない場合は厄介だな。」
「大概扱いづらい力ばかりだがな。どの力でも世界征服ができる、と言ったものでもない。」
「ヴルカンは比較的使いやすそうだ、敵対者を順番に片付けて行けば最後は世界の王様だ。」
「人の妖精だと思って好き勝手を言うものだな。そんなお山の大将に誰がなりたがるものか。」
「論点が少しズレてきたようだな。グノームが消えたのが真実なら宇宙船の攻撃ぐらいしかないだろう。」
「少なくとも地球上にはそんな設備は無いはずだ。遺跡の宇宙船を除いてね。」
「そういえば前にリッカトーンの遺跡の話をしたと思うが?」
「外宇宙戦艦「天司」のことか、消えてしまったとかいう?」
「何者かが「天司」に登録し、マスターになってグノームを堕とした・・・と?」
「そんな者の存在の可能性の低さに加え、グノームを堕としたという事実が矛盾を感じさせるな。」
「そうだね、「天司」に登録できてマスターになれる者がグノームを堕とす意味が無い。」
「この件は別々の事象として捉えるべきだな、グノームは堕とされ「天司」は飛立った。」
「謎が2つに増えただけかい?エネルギーの自動補給プログラムでもあったのじゃないかい?」
「これまでのところそういった事例は一例もないな・・・知っているだろう?」
「だがそうじゃないと更に困ったことになると、ウンディーネは言っているのさ。」
「つまり我々のあずかり知らぬ第3者が、意思をもって「天司」のマスターになった。」
「そして「天司」以外の宇宙船にグノームは堕とされた、というわけかい?」
「謎だらけだね、さすがにこれはまいった。我々の巫女に問い合わせでもしてみたらどうだね?」
「王都最大の宗教にして火星倶楽部の表の顔「光の神」教団。中央宗教の6割を越える圧倒的支持率だ。」
「辺境に行けば行くほどヤーンの人気が高くなるようだがね。」
「ヤーンの話はいい。我々の巫女の具合はどうなのだ?」
「知っての通り文明に対してガラスの天井を設けた結果、人類は超心理学的な異能を獲得しはじめた。」
「今のところ我々が確保しているが、人数が増えるようだと何か手を考えなければならないな。」
「「千里眼の菊理媛」を呼ぶかい?彼女のキルリアン値は凄いものだよ。」
「現状が打開できるのであればこの際手段は問わん。聴聞しようではないか。」
「我が教団一の異能者だ。必ずいい結果を出してくれるだろう。」
「ヤーン教団の連理の翼、カミーユとスーを上回る力と聞いている。是非この機会に見ておこう。」
「手っ取り早く言えば彼女の力は、そのカミーユとスーを足したようなものだからな・・・」
★ ★ ★
「光の神」教団のトップである4人の枢機卿。
その枢機卿の住まう大きな屋敷に馬車に乗った1人の媛巫女が吸い込まれていく。
そしてその様子を陰から伺う人物がいた。
「やはりここが当たりのようだな。しかし自分達は表に出ずに全て人を呼びつけるのか・・・」
安全かもしれんが、生きていても面白くなかろうとツバイは思う。
研究施設にいたころずっと同じ実験棟に住まわされ、そこが世界だと思っていた。
そうではなく外の世界があることを知った時、
ツバイは初めてもっと生きたいと感じたのだ。
別の実験棟に住まわされていたアインと出会う、少しだけ前の事だった。
「しかしさすが火星の奴らの隠れ家だ。あのレンズは恐らく赤外線・・・外から気づかれずに忍び込むにはいささか無理がある。確実なのは出てきたところを叩くことか。4人の枢機卿よ、待っていろ。」
とりあえず今は引こう、幾日も居られるわけもない。
それより客人の帰りを待って後をつけよう。
★ ★ ★
「それで私は何のために呼ばれたのでしょうか、枢機卿様?」
緊張しながら媛巫女は問うた。
「今日は折り入って「千里眼の菊理媛」に「視て」もらいたい大事があるのだ。」
「王都の東西南北を護る我が4人の枢機卿には、実はそれぞれに定めの星があるのだよ。」
「ところが北を司る我が地の星が、最近消えてしまったようなのだ。考えられないことだ。」
「そこで一体何があったのか、君の千里眼で「視て」ほしいのだ。」
「分かりました、枢機卿様。そういうことでしたら・・・私の両の手を取って下さい・・・」
「これでよいかね?」
「はい、大丈夫です。では出来るだけ定めの星について考えるようにして下さい。」
「心得た。」
「では・・・いきます!」
「む・・・」
両者の間に他人には窺い知れない何かの交流があったのだろうか、
グノームが汗を垂らす。
「北天にありし定めの星。海からの矢に射止められん、これをもって真昼の花火となす。」
「海からの矢?真昼の花火?・・・・・まさかIDASが生きているというのか?」
「矢を射たるは狼の目を持つ少女・・・「運命の子」と共に糸車を回す者。」
「矢を射たるは少女?運命の子?糸車を回す者?」
「・・・い、以上です。」
「君は自分が何を言ったか覚えているのかね?」
「いえ、私自身は完全に覚えがありません。始めてからどのくらい経ったかさえ分かりません。」
「そうか・・・ご苦労だったな、大変役に立ったよ。」
「はっ!光栄であります、神の導きのあらんことを!」
「うむ、ご苦労である。神の導きのあらんことを!」
「神の導きがほしいのはこちらだ・・・抽象的すぎるね。」
「しかし海から射抜いたとはっきり言ったぞ。」
「うむ、条件さえ揃えば彼女の的中率は凄い。ほぼ100%を叩きだすのだ!」
「因みに、その条件を聞いてもいいかな?」
「対象が自分の知っているモノに限られるのさ。人であれ、物であれ。」
「IDASなんて知るわけないってことか。」
「いや、的中率が下がるだけで決して侮れるものではないぞ。それに他に手がかりはないのだ。」
「まあ、そうなんだけどね。」
「狼の目と言うのはあれだろ、琥珀色の目の事だろう?」
「うむ、対象範囲が広すぎるな。それよりも真昼の花火だ。この言葉を探させてみよう。」
「我々火星倶楽部ともあろうものが・・・これではまるで少年探偵団だ!」(真実はいつも・・・)
「仕方あるまい。第5階梯措置を行った以上、新たに神代のマシンは扱えない。」
「今更だが、最初から言ってほしかったものだな。」
「まったく今更だ。原形質レベルで代謝機能が変わった結果、前とは別人と認識されるなんてな。」
「放射線を気にせずに地表に出られると喜んでいたからなあ。他のことは正直考えてなかったよ。」
「どんな形で「個人」というものを定義すればよかったんだろうな。」
「だがようやく結論が出た。真昼の花火を探してみよう。」
「そしてサトの国へ裏交渉だな。気の短いランス坊やの様子も注意しながらな。」
「随分と遠回りをした気がするね。」
「まさに会議は踊る、か。」
★ ★ ★
「それで具合は如何であろうか、リクオ殿。」
「アーサーは確かに飲み込みもよく聡明な男だ。ローズ王女とも話をしたが約1年だな。」
「1年、でありますか・・・」
「父上、1年がどうかしたのですか?十分な時間だと思いますが。」
「ローズよ、いつもお前が言っている台詞だ。」
「いつ、誰が狙って来るか分からない・・・まさか!」
「そのまさか、だ。」
「いつ、誰が?」
「1月もしないうちに、気の短い陛下がやって来るそうだ。」
「ランス王国が?何故?」
「新型の鉄砲部隊の実戦試験に、由緒正しくちっぽけなサトの地が選ばれたらしい。」
「新型の鉄砲!実戦試験!もっとも危惧していた事態だ・・・どこからの情報ですか?」
「「光の神」教団だ。あまりに非道の行い故、場合によっては力を貸すと。」
「金ですか?」
「我が国の財政事情から30年の分割払だ、それと教会だな。我が領地内における教会建設の自由だ。」
「・・・と言うことは教団の狙いは少なくとも金ではありませんね。奴らも新型を試したいのか?」
「ローズよ、お前はどうして男子に生まれてくれなかった・・・その洞察力、行動力。」
「家の事なら私が婿をとればすむことでしょう!リクオ様の前で止めて頂きたい!」
「・・・そうであったな。それでその時には最低でもお前達4人は何処かへ隠れていて欲しいのだ。」
「父上はどうするのですか!」
「国王が討たれねばな。「光の神」教団だとて介入の口実が欲しかろう。国王の最後の務めだな。」
「そんな馬鹿な話しがあるもんですか、国境を越えた段階で助力を申し出れば・・・」
「彼等とて無傷の新型鉄砲の相手はしたくあるまいよ。我々相手に散々疲弊したころ仲裁に来よう。」
「ランスの兵がわが国にしたことを、今度は「光の神」教団がランス兵を相手にやるわけですか!」
「それでも彼等が来てくれなければ、常々お前が言っていた通り我が国は終わりだ。」
「だから父上を見殺して、私やリクオ様は安全なところに隠れていろと・・・」
「お前さえ生き延びればサトの国は続く。リクオ様とアーサーがおれば、今度はわが国でも新型が造れよう。サトの未来を頼んだぞ。」
「無茶だ!リクオ様も何か言ってやって下さい・・・」
「・・・一国の王たる武士の決めたこと、我らに何が言えようか。」
「忝い。リクオ殿、ローズ、アーサーのことよろしく頼む。」
「父上!」
「心得えた。」
「は、ははっ!」
「なに、必ず死ぬと限ったものでもあるまい。ようは「光の神」教団が介入するまで保たせればよいのだ。確かに小さき城であるが予め籠城を決め込み、死ぬ気で立て籠もっておればよい。後は教団が何とかしてくれよう。他人任せは業腹だがのう。」
「カール国王よ、鉄砲の玉除けとして今から急ぎ用意したい盾があるのだが。」
「リクオ殿、それは?」
「相手の鉄砲がどんなものか分らぬが、必ず一定の効果をあげてくれる盾がある。急ぎ用意されたい。」
「わ、分かった、詳細を伺い次第すぐに用意させよう。」
「ではお話ししましょう。なに、難しいことは何もありません。実は粘土を・・・」
「・・・そんなことで宜しいのか?すぐに人をやって手配させましょう。他には?」
「ふむ、余裕があれば古着や布、それもなるべく大きな厚手の布を用意して頂きたい。」
「すぐに用意させよう・・・成程、そういうことであるか。」
「新しい武器を考案する時は、同時に防ぐ手だても考えておくものだ。アーサーもよく覚えておけ。」
「はいっ!師匠!」
「後は相手がいつやって来るかだな。今のうちに両隣の村に人をやり鳩を飛ばせる準備をしましょう。」
「それで相手の来る日を知るわけですね、リクオ様!」
「そうだ。おそらく街道沿いを真っすぐこちらに向って来るだろう。民人の避難の準備は?」
「鳩の到着を待って裏山へ避難いたします。糧食も2~3日は保つかと。」
「獲物がおらず焦れたランス兵どもがサト城へ来た時が勝負だな。塹壕を掘れるかな?」
「塹壕とは何でありましょうか?」
「一言で言えば地面に設ける溝だな。いま概略を教える。間に合うと思えば着手しろ。勝負が変わる。」
「・・・これは、確かに。攻めてはいけぬが守りは固い・・・こんな方法があったのか・・・」
「だが、奴らが無人の国に怒って家に火を放つとなると、戦は凌げても後が辛いぞ・・・」
「今は生き残ることに全力です。その後のことはその後で考えます!」
「いい覚悟だ・・・全く惜しい。シズカ、来い。俺達は何時でも逃げられねばならん、傍を離れるな。」
「はい、リクオ。」
初めてシズカにリクオと呼ばれ、
一瞬きょとんとしたがすぐに唇に微笑が広がった。
一見すると全く分からないが、それは確かに微笑だった。
それは長い間シズカを幸せな気持ちにしてくれた。




