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6-1.李=F=シズカ

「俺の名はリクオではなく李=F=QUO だ。分かるか?」

「・・・」


「分からずとも良い、知っておけ。俺の家族しか知らぬ俺の名だ、お前に知っていて欲しい。」

「・・・はい、分かりました。私の名はシズカ。」


「いや、今日からは李=F=シズカだ。リー・シズカを名乗れ。」

「リー・シズカ・・・」


「お前は何か新しいものを持っているか?」

「いえ・・・」


「ならばこれを持て、最近買い求めた小刀だ。古いものは・・・そうか、あるか。では借りものは?」

「こ、この服は畏れ多くも国王陛下からの・・・」


「よし、次は・・・青いものを持っているか?」

「・・・」


「ではこれを持て。翠玉(※10)と言う宝石だ。もしもの時はこれを売って急場を凌げ。」

「そ、そんな高価なものは受け取れません!」


「最後だ、このメダルを靴の中に入れておけ。」

「これは?」


「俺の国の銀貨だ。俺の国は近年までこの国の植民地であったのだ。だがそれはもう過去のことだ。」

「一体何をなさったんですか?」


「お前が幸せになる魔法をかけたのだ。今日はお前の好きに過ごそう、したいことでもあるか?」

「何でもいいのですか?」


「ああ、何でもいいぞ。」

「街道中、みんな買い食いをしてみたい。」


「・・・」

「や、やっぱり駄目ですか?」


「いや、駄目ではないぞ。」

「本当ですか、嬉しい・・・買い食いできるのは年に1度のお祭りの時だけだから・・・」


 俺は一体どこに目を付けていたのだろうか。

 こんな簡単な洞察もできずに俺はハヤトに挑もうとしていたのだ。

 自分が可笑しくて泣けてくる思いだ。


「よし、今日は沢山買い食いできるように早めに宿屋を出立するか?」

「分かりました!」


 昼の鐘がなるまでに、俺達は焼き団子、麦飯、あけび、ハッカ飴、生姜湯、草鞋もち・・・

 後は覚えていない。覚えているのは嬉しそうなシズカの表情だった。


 どうも俺には目的地が無くなってしまったようだ。

 ハヤトとの決着すらどうでもよくなっていた。

 だからエムトに向かって旅することにした。

 あの巫女は、ツバイの言う通り只者ではない。

 今の俺を先読みしてもらうと何が分かるのか、ちょっと興味があった。

 

 旅費は相変わらず道々稼いでいった。

 リンゴの季節であったので木の前に立たせたシズカに、

 両手と頭の上にリンゴを載せてもらい20m離れた所から俺が苦無で突き刺してみせた。

 シズカは瞬き一つしない。

 正直言ってこの距離なら俺は目隠ししても苦無を命中させることができる。

 後は例によって俺が的になり、一太刀浴びせれば金貨一枚。

 結局これが一番人気である。おかげで路銀は十分に潤った。


          ★            ★             ★  

 

「お久しぶりです、みなさん。」

「誰に向かって挨拶してる?」


「私達の出番、随分久しぶりじゃないですかー。」

「まだクの国にいるしな、エムトに戻るぞ。」


「エムト?」

「火星の王が4人もお目覚めだそうだ。今になって神託にあらわれるとはどういうことだ?」


「単純に考えれば今までコールドスリープしていたが、その眠りが覚めたという事でしょうか?」

「恐らくそうだろう。眠りの覚めた理由と今回の硝石騒ぎに関連があると思うか?」


「関係ないと考えるほど、耄碌もうろくしたマスターではないと思いますが・・・」

「お前の進化ってそっち方面ばっかな!少しはマスターを労われよ!」


「硝石・・・火薬が覚醒のトリガーになったと72%の確度で推定されます。」

「文明水準が一定レベルを越えると動き出す安全装置か。なら、俺は?」


「マスターは安全装置の安全装置であると62%の確度で推定されます。」

「ということは今回、安全装置の暴走あるいは機能不全に陥る可能性が高いと?」


「暴走あるいは機能不全を促すファクターが一定以上存在するのかもしれません。」

「・・・何だそれは?」


「例えば火薬が文化として一般化してしまうとか・・・」

「それは・・・困るな。」


「後は、現段階では推論不可能です。」

「確度を50%以下としてもいい、推論してくれ。」


「イエス、マスター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パラダイムシフト・・・」

「パラダイムシフト・・・か。」


「自然科学的な、あるいは人文学的な意味合いではないとハヤブサは考察します。」

「そうだろうな、俺もそう思う。」


「手持ちの材料が少な過ぎます。推論に推論を重ねるのは無意味です。」

「正論だな、巫女の神託を戴くとするか。」


          ★            ★             ★  

 

「と言うわけでエムトへ戻るぞ。」

「船を沈めるのはもう終わりなのね?ちょっと怖かったよ、ハヤト。」

「ちょっと怖いで船が4隻沈んだら困るんですがねぇ・・・」

「私怨ならば仕方あるまい。誰にでもそういう事はある。」


 一月ぐらい滞在したのだろうか、俺達はクの国を後にした。

 さすがに牛肉料理も食い飽きた。さて、エムトの名物料理は何だったかな?

 などとのんきに構えていたが、

 ヤーンの神殿に行くとそんな雰囲気ではなくなってしまった。


「クの国から戻った貴方あなたを見ると涙が止まらないのです、お願いですから顔を見ないで下さい。」

「火星の4人の王の話を聞いた。これまでの神託にあらわれなかったのは何故だ?」


「信じられないほど深く眠っていたからです。眠り続けていたなら多分今でも分からないでしょう。」

「・・・(やはりコールドスリープか。)」


「彼らは目を覚ますと火薬づくりを始めたようです。また同様のグループが2組あります。」

「全部で3組が火薬を作りだしたということか、どこから秘密が漏れたんだ?」


「火星の方々は自前で、1組はカーンの技術を流用、もう1組は恐らくオリジナルです。そして・・・」

「そして?」


「ツバイ様・・・神代より目覚めし者・・・と『黒き星の者』リクオ様が一緒に火薬の探索を・・・」

「どういう組み合わせだ?」


「私の勘なのですが、貴方あなた様が決着をつけるのはツバイ様でもリクオ様でもない気がします。」

「アンタの勘なら信じるさ。俺も何となくそう思っていた。しかしこのままでは火薬の秘密が広まるな。」


「ええ、中原に火薬と恐らく鉄砲の技術が広まる恐れがございます。」

「『白き星の者』としてはどうすればいいんだ。」


「それが・・・今回は何故か神託が下りません。」

「何だと、今までさんざんわけの分らないこと「ハヤト様!」・・・」


「今は何もするな、そういう時期なのかもしれません。」

「へー、そうですか。カーン1人が火薬と鉄砲を使っただけであれだけ大騒ぎしておきながら・・・」


「火遊びする者達が出揃うのを待っているのかもしれません。そもそもどこの誰かは分からないのです。」

「なら、俺が調べて勝手に潰していっていいのか?」


「トカゲの尻尾だけを切っても意味はないのですよ?」

「もちろんだ、組織が絡んでいれば組織ごと。国が絡んでいれば国ごとだ。」


「・・・言っていることは正しい気がするんですが、頭痛がするのは何故でしょう?」

「いや、何もするなと言うなら俺は普通に冒険者でいるつもりだが。」


「それがいいのではないかと。・・・・・・ああ、それから以前頼まれていた過去読みの巫女ですが。」

「はい、なんでしょう。」


「いきなり正座されなくても結構です・・・巫女同士の交流会があり、今日こちらにいらしてますよ。」

「本当ですか?会えますか?話せますか?」


「彼女は逃げたり致しません。ただもう少しヤーンのしもべに相応しいふるまいをお願いします。」

「分かりました、気を付けましょう!」


「・・・」

「それで、どちらへ行けばよいのでしょうか?」


「もうじきこちらへやって来ます。白き星であり運命の子である貴方あなたに彼女も興味を持ったようです。」

「何だと!それを先に言え。」


 と、同時に何の前触れもなく扉が開き一人の白人女性が入ってきた。

 お供の女性が慌ててついてくる。


「私がフォウ=F=ターナー、通称スーよ。白き星は貴方あなたね?」


 彼女の真っ直ぐな眼光が俺を貫いた。




翠玉(※10)・・・すいぎょく。エメラルドの和名。


一週間ぶりでございます。

コンスタントに書いてきましたが、雲行きが怪しい様な・・・

ともかく次回更新日は来来週日曜日(12月27日)です。

このお話で楽しんで頂けたら幸いです。

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