5-12.シズカ
「俺が生まれたのは超過去と言うことになるのかな?
少なくとも俺を呼び出したカーンはそう言ってた。」
「超過去・・・」
「だいたいカエサルで驚くくらいなら、俺が暗示や重暗示を知ってる時点で驚けよ。」
「いや、ここのやつら催眠暗示ぐらい使いやがるから・・・」
「だからさ、催眠暗示だの重暗示だのってのは俺達の時代の言葉だろ?ここで何と言うのか知らんがな。」
「成程、そういう事か・・・」
「だから俺はこの世界のことも、この世界の奴らも自分で会った分しか知らねえよ。」
「そうだったのか・・・ちょっと信じられんな。人を超過去から呼び出すなんてな。」
「俺も別にあいつがやったとは思ってねえ。だが事象の説明としては1番しっくりくるんでな。」
「元の世界に帰りたいか?」
「そりゃ、帰れるもんならな。幾ら俺でも過去遡航は不可能だと知っている。」
「意外と博学なんだな・・・話しは変わるが、アインとツバイという名に記憶はないか?」
「アインにツバイ?安直な名だな・・・聞き覚えはないな。」
「良かった。少なくともアンタは俺の敵じゃないらしい。」
「もう、その殺気は引っ込めないか?俺は敵じゃないんだろ。」
「おお悪いな。ついな、闘りがいがありそうだったんでな。」
「俺としてもここで死合って構わんのだが・・・話を戻そう、矢筒だ。矢に括り付けて届かねーかな?」
「おれの強弓なら届くさ。」
矢に括り付けた矢筒が、船の火が燃えている所へヒュン、と飛んで行った。
するとまもなく
「ドッグワァーーーーーン!」
「なんだ、あれを開けてたら終わりだったのか?」
「爆発の風で、火が吹き飛んじまったようだぜ。」
「ほー、そういう事があるのか。」
「じゃ、人助けをしたんだな。」
「で、結局どーすんだよ、こいつらは一筋縄じゃいかねーよーだぜ?」
「さっき船長が、最後に集めた土塊はどこにも・・・と言っていた。」
「それで?」
「あれは言葉通りの意味なんじゃねーかと思う。つまり土塊はどこにもいかない、ここにあるんだと。」
「あの船そのものが「魔術師の島」だって言ーてーのか、おっさん。」
「誰がおっさんだ・・・そーゆーことだ。あの船は火を消そうとした時、異常に水を貯えていた。」
「成程、あの船は何かの工場になってるって言いたいんだろう。まして火薬の工場になっていれば・・・」
「そうだ。消火用の水が必ず必要だ。恐らく火薬を精製しているのであろうな。」
「じゃあ、そいつを何処かに届けるはずだよなあ?」
「問題は海路か陸路かだな。」
「海なら追いかけられねーな。」
「陸でもシズカを抱えては無理だ。」
「話が一巡りしてないか?」
「俺もそんな気がする。お手上げだな・・・」
「俺に手はある。ここまで来てあんたには悪いがな・・・」
「何をする気だ?」
「あの船で火薬を作っている奴らごと吹き飛ばす。硝石だけなら沈める。俺は生き残った奴の後を追う。」
「・・・」
「シズカを置いてついて来るか?ついて来るなら止めないし、ついてこなくとも責めん。」
「・・・」
「大丈夫だ、次に会うまでは俺は死なんよ。それまでせいぜい腕を磨いとけ。」
「・・・嫌な奴だ。」
「俺は生み出されてから初めて面白いやつに逢ったと思っているよ。達者でな、シズカによろしく。」
「行くのか?」
「行く。やっとつかんだ手がかりだ、ここで逃がすわけにはいかん。」
「俺以外の奴に負けるんじゃねーぞ。」
「ここにシズカを置いていけんようでは、お前はシズカと一緒になるべきだと俺には思えるながな・・・」
「俺とシズカはそんなんじゃねえ。あいつは毒見役だし、俺の監視役だ。」
「2人が生きてるうちにいろいろ考えておくんだな・・・1人になってからでは全て手遅れだ。」
「それは・・・お前の事か?」
「少し喋りすぎた。お前を見ていると火星で見るはずだった夢を思い出す・・・」
「ツバイ・・・」
「ではな。」
「あばよ。」
もう1人の男は手足を縛ったまま放り出し、
俺はそのままシズカを待たせている宿屋にもどった。
思っていたより俺の帰りが早かったのであろう、驚かれてしまった。
「もう一人の方はどうされたのですか?」
「今日からまた、お前と二人だ。」
「あら、まあ・・・」
「たまには2人で酒でも飲もう。もう、頼んできた。」
やがて運ばれてきた酒と肴を、シズカはそれぞれ毒見をしようとする。
俺はその手を掴んだ。
「毒見はせずともよい。」
「私の大事なお役目ですから・・・」
「ならば止めんが俺は勝手にやらせてもらう。」
「それではお毒見の意味がありませぬ。」
そう言うとシズカはふっと笑った。
俺はこいつのこんな笑顔を見たことがあっただろうか。
「それよりお前も飲め、一人飲んでもつまらん。」
「それではお相伴にあずかります。」
その日、俺はこの世界に来てから一番静かに酒を飲んだ。
そしてこんな日も悪くはないな、と思った。
明け方、俺は凄まじい爆発音で目が覚めた。
隣で寝れいたシズカも飛び起きたようだ。
「何事でしょうか?」
「港の大きな船が爆発したのさ・・・様子を見てくる。」
まだ朝早いが人が集まってきている。
爆発した船は例の船でかなり大きな穴が開いたようだ。
生き残った連中が水を掻きだしているが、とうてい間に合うまい。
沈むのも時間の問題だ。
さすがに彼等にも沈むと分ったのであろう、
今度は一人一樽づつ樽を背負って船を降り出した。
沈む前に樽を1つでも多く残しておこうというわけか・・・
そして運搬のための馬車がやって来た。
船はもう傾きかけている。この岸、水深は浅いが水に塗れては駄目だろう。
馬車が動き出した。
ツバイは後を追うのだろう。俺はやじ馬に紛れて宿屋へ戻った。
『ここにシズカを置いていけんようでは、お前はシズカと一緒になるべきだと俺には思えるながな。』
ツバイの言葉が頭に響く。俺は何故シズカと一緒にいるのか。
最初は便利なガイド程度に思っていた。
だが、今は・・・ツバイの言うように何故シズカをおいて馬車を追いかけなったのか?
おれはシズカをどう思っているのか、そしてシズカは俺をどう思っているのか。
「リクオ様は私の運命です。」
「運命だと?」
「私は小さい時に両親を亡くし、カーン様の養女として暮してきました。」
「そ、そうなのか。」
「もちろん感謝はしています。成人の儀の日に無理やり女にさせられましたが、些細なことです。」
「・・・(とりあえずカーンは殺す!)」
「それからずっと御そば勤めをしていて、私はこうして一生を過ごすのかなと思っていた矢先・・・私の前に神さま(運命)が舞い降りたのです。私は滅茶苦茶興奮しました。」
「そ、そうか。」
「そしてリクオ様づきのお毒見役兼御留め役に選ばれた時、私の神さま(運命)は動き出したのです。」
「御留め役らしいことなんて何もしてないんじゃないのか?」
「私はあそこから、カーン様から、お城から、シズの国から逃げ出したかったのです。」
「成程、そこに現われたのが俺か・・・」
「私はシズの国を出てから今までが、これまでで一番楽しい。一生の運を使い切ったくらいに。」
「・・・」
「私は国に戻れば務めを果たせなかった責任をとらされるでしょう。2度と外の世界を見ることもないでしょう。だから、もし国元に帰る時や私が邪魔になる時が来たら・・・どうか私を斬って下さい。」
「な、何を言っている?」
「幸せのまま逝かせて下さい。リクオ様の腕なら死んだことにも気付かずに逝けると思います。」
「正気か、正気なのか?」
「これが私からリクオ様へのたった一つの願い事です。」
そこにいたのは狂人ではなく、どこまでも真摯な瞳を持った少女であった。
俺はこんな傍にいた女の気持ちさえ察してやることが出来なかった。
ツバイからはさぞ滑稽に見えたことだろう。
「シズカ・・・」
「リクオ様」
リクオはその晩、初めてシズカを抱いた。
ブックマークありがとうございます、素直に嬉しいです。
感想やレビューが無い事なんてちっとも気にしてません。ええ、ちっとも。
というわけで次回更新日は来週日曜日(12月13日)です。
このお話で楽しんで頂ければ幸いです。




