5-11.西暦生まれ
「恐らく最終的な目的地は船長以外知らんのだと思う。だから・・・」
「ネズミ獲りに気をつけろ、か・・・」
「だが念のため訊いて回ろうか、「魔術師の島」を。」
「そうだな。」
2~3軒の酒場で馬鹿話をした挙句、「魔術師の島」について聞くふりをした。
4軒目の酒場に向かう前に向こうから餌に喰いついて来た。
「アンタ達、「魔術師の島」について知りたいんだろ。俺は知ってるぜ~。これから案内する酒場で酒手をはずんでくれるなら、俺が知ってることを教えてやるよ。」
胡散臭さ120%の男の話を、俺達は頷いて聞いた。
そして男の後について行った。
村から少し外れた場所にしょぼくれた酒屋があった。
男は店の暖簾の前に立つと、店の中に聞かせるように
「お二人さん、ご案内~。」
と、陽気に叫んだ。それが合図となって俺とツバイは左右に跳んだ。
店の中から
「パッーン!」
「パッーン!」
「パッーン!」
「パッーン!」
「パッーン!」
鉄砲の連打だ。
俺達を案内してきた男は襤褸雑巾のようになって倒れこんだ。
俺達は急いで道端の草木に隠れ気配を消した。
「なんだこれは、案内人だけじゃないか?」
「ははあ、気の付く奴がいたんだな・・・」
「だが頭領の方が一枚上手だ。何しろ俺達でさえ「魔術師の島」など知らんからな。」
「仕方ない、次の案内人を雇うか。運さえ良けりゃただで飲み食いできるんだからな。」
「だが今の奴らはどうすんだ?」
「どうもせん。奴らには何もできんさ。」
手馴れた感じで死んだ男を片付け、店の扉を新調していく。
そして扉は閉まり中の声が響く。
「そして俺達はまた飲めるのさ!」
「違いねえ!」
「ヒャーハッハッハッハッハ」
★ ★ ★
「まあ、思った通りだったがな。」
「確かに船長しか場所を知らなそうだ。」
「奴らには何もできんとか、何とか・・・」
「嫌味を言うなよ・・・危険を冒して海図を盗りに行かずに良かった。」
「さて、振出しに戻ったわけだ。これからどうする?」
「船長を・・・攫うか。」
「いきなりか。顔も知らんし、船長室も分からんぞ。何よりホントのことを話すか?」
「お前に一本取られたからな、今度はこちらの番だ。」
「とりあえず、シズカのために宿をとろう。飯も食いたいし、動くのは暗くなってからだ。」
「分かった。案外まともなことも言うんだな。」
「案外は余計だ。」
「分かった、分かった。俺達も暗くなるまで飲めるんだろ?」
「まあ、ほどほどにな・・・」
「おう、ほどほどにさ・・・」
・
・
・
「そろそろ頃合いだ。」
「分かった、シズカに部屋に居るよう言っておく。」
リクオはいつものようにシズカに、
3日間待っても自分が戻らねば国元へ帰るように言っておく。
シズカも黙って聞いている。
(この男は自分を騙すことはすまい・・・)
シズカにはどこか確信めいた感情があった。
「いくか?」
「そうだな。」
「相手の手口は知れた。今日は俺の本気を見せてやる。」
「ほう・・・本気ね。」
「そうだ、だから船にはついて来るな。」
「この俺が邪魔になるかよ?」
「俺は船に火を放つ。そこで飛び出してくる船長らしき男を捕えろ。俺は本物の船長を捕まえる。」
「成程ね・・・この間の崖で待ってればいいか?」
「それでいい。では、いくぞ。」
「あいよ!」
これでこの船の前にくんのは3度目だ、4度目は無しにしようぜ。
ツバイはささっと船に乗り込んだ。
しばらくすると2~3箇所から火の手があがった。仕事が早い。
俺は飛び出てくる奴らを見つめてる。
妙だな、火を消してる奴ら・・・水の量が多すぎる。
航海にでれば水は命の次に大事だ。が、今は接岸してるから豊富に使えるのか?
すると、いかにも船長といった感じの奴が海図を抱えて飛び出してきた。
俺は闇から飛び出し、そいつの右後ろにつけて左手で左肩を叩いた。
するといきなり海図を捨て、
隠し持っていた小太刀で左側を刺そうとする。
俺はがら空きの右胴に全力の鉤突きをみまった。
「よう、仕事が早いな。」 ツバイは矢筒を持った男を1人背負ってきたようだ。
「そちらは問題ないか?」
「ああ、いきなり刺されそうになっただけで、特に問題は無い。」
「ということは、それは船長らしき男で船長ではないな?」
「船長らしい男と本物らしい海図を用意する、か。」
「そうだ。本物の船長は恐らくこちらだ。この矢筒に見えるものに海図が丸めてしまってあるんだろう。」
「早速本物に聞いてみようか。こんだけ手間を掛けさせてくれたんだ。」
「どうする?拷問でもするのか?」
「そんな手間はかけん。」
「んっ?」
ツバイは男を後ろ手に縛ると、活をいれる。
右手に火を灯したローソクを持っている。
「目が覚めたか?」
「お、俺は何も知らねえ。」
「まだ何も聞いちゃいねえ。」
「ダメなんだ、話すと俺は殺される・・・」
「話さなければ、今ここで死んでしまうぞ。」
「ダメなんだ、話すと俺は殺される・・・」
「このローソクの灯りを見て見ろ・・・右、左、右、左、・・・」
「ダメなんだ、話すと俺は・・・」
「・・・右、左、右、左、・・・」
「・・・右、左、右、左、・・・」
「そうだ、それでいいんだ。だんだん気持ちが良くなってきた。」
「だんだん気持ちが良くなってきた。」
「そうだ、俺の問いに答えると更に気持ちが良くなるぞ・・・」
「問いに答えると更に気持ちが良くなる・・・」
「「魔術師の島」とは何だ?」
「「魔術師の島」は邪魔者を集める暗号。」
「土塊を集めた船はどこへ行く?」
「土塊を集めた船は・・・土塊を集めた船は・・・土塊を集めた船はどこにも・・・ぐぐぐっ、げはっ!」
「ちいっ!」
「失敗か?」
「ああ、失敗と言うなら失敗だ。重暗示で死ぬように、奥歯をかむように暗示をかけていやがった。」
「重暗示?」
「暗示の重ねがけだ。船はどこへ行く、という問いに答えようとすると奥歯を噛むんだろう。恐らく毒だな。」
「そんなことが可能なのか?」
「暗示で自殺はできない。生存本能が優先されるからな。だが、奥歯を噛めと言うだけであれば・・・」
「できるのか、そんなことが・・・」
「ここまでする相手、ここまでさせる相手か・・・」
「なんだか嫌になって来たな。」
「そういえば、こいつの持っていた矢筒・・・」
「ああ、嫌な予感しかしねえなあ。」
「船に返してこようぜ。」
「それはいい手だな、カエサルの物はカエサルにだ。」
「カエサルだと・・・何故その名を知っている?」
ツバイの全身から寒々しい風が吹いてきたようであった。だがリクオには少しも臆したところは無い。
「何故も何も、俺が生まれた時からある諺だ。」
「お前は何時の生まれなんだ?」
「神皇暦の前の宇宙暦の前の・・・多分、西暦だ。」
「神皇暦の前の宇宙暦の前の、西暦だと!?」
次回更新日は来週日曜日(12月6日)です。
このお話で楽しんで頂ければ幸いです。




