5-8.瑠璃色 ~ウルトラ・マリン・ブルー~
「緊急モードへ移行してからの『緊急離脱プログラム』出力50%でクの国まで。最短ルートを探れ。」
「マスター、近海までアマツカサを利用された方が合理的では?」
「俺も動揺してる、任せる。」
「イエス、マスター。」
俺が動揺しているようではダメだ。
急いている時ほど慎重に、クールに、そしてクレバーに。
アマツカサは俺達をあっという間にクの国近海へ送り届けてくれた。
ここからはハヤブサで行く。
渦潮の無いせいか港には沢山の船が停まっていた。
「ようこそ、クの国へ。人も船も白の5だ・・・銀貨1の白の5な。」
「馬車を借りたいんだが、どこへいけばいい?」
「荷物持って船を降りれば幾らでも向こうから寄って来るさ。」
「そうかい、ありがとよ。」
「レイメイ、頼みがある。港がよく見える宿屋を探しておいてくれねえか。今日は泊まるぞ。」
「あいよ!」
★ ★ ★
「みんな同じ物を運んで来てるとはね・・・最初の船には、いい値がついたみたい。」
「胡椒なんて今日だけで100樽って言ってましたね。」
「しかし、丁子もシナモンもナツメグも被るとは・・・」
「午前中で締め切って今日の相場額をだすそうよ、相手も強気ね。」
「しかしこれじゃ、馬車1台ってわけにはいかないな。」
「大型を借りるより、普通馬車2台の方がよくありませんかね?」
「うむ、そのほうが安いしな。」
「前にきた時とはえらい違いね。」
「よし、相場の紙が張り出されたぞ。」
「見に行きますか。」
「そのまま買い取り屋まで行くんだろ?」
「ねー、何か様子が変よ?」
★ ★ ★
「まさかここまで買値が下がっているとはな・・・」
「僕らはともかく、あんな大型船で何十樽と持って来た連中は・・・」
「だが、売らずにおいて更に値が崩れたら・・・」
「ん、でも逆に上がる場合もあるんでしょ?」
「それはそうだが、真っ当な商人は博打を打たないもんだ。」
「そうそう、明日の銀貨より今日の白5、ってね。」
「我々ぐらいではないか、こんなにゆっくりしているのは。」
「すごいねみんな、さっさと売って次の港に行くつもりなんだ。泊まる気でいただろうに。」
「それで貸し馬車屋が競争なんだな・・・これでは今日中に順番が回ってこんかな?」
(ちょうどいい、この状況にかこつけて硝石を調べてみるか・・・)
「じゃあ宿屋を決めたら今日はもう飲んじゃおうか?」
「よく飲むようになりましたねぇ。」
「エール飲みは太るぞ。」
早速宿屋を探しに出ると、大口の客に逃げられた店の引き込みが凄かった。
「今うちの宿屋に決めてもらえれば、ウェルカム・エールを1人1杯サービスでーす。」
「4人以上のお泊りなら夕飯の品、1品サービスだよ。」
「2日以上居続けのお客様は、何と料金3割引きー!」
微妙なサービスもあるが概ね買い手市場である。
そんな中で俺達は「銀の鶴」という宿屋に決めた。
別にサービス狙いではない。港の様子が一望できるからだ。
店のBARで乾杯すると、昼飯代わりにつまみをつついてほろ酔い加減になってきた。
俺は酔えはしないが飲みの雰囲気は好きだ。
だがこれ以上こうしていると目的を忘れてしまいそうだ。
「俺は酔い覚ましがてら辺りを散歩してくる。強いやつがいるかもしれんしな。」
「あんた絶対脳みそ筋肉でしょ!」
「うーん、フォローができませんねぇ・・・」
「まあ、ハヤブサが一緒なら大丈夫であろう。」
何だ、俺は保護者付きでないと散歩もできないガキか?
まあいい、行き先の検討はつけてある。
港に着いたとき、山沿いの民家に人が大勢集まってるのを見たんだ。
あれは多分硝石集めだろう。
鼻歌交じりにハヤブサと歩いて行くと目的の民家(農家?)が見えてきた。
近くまで来てみると、
家の外にある便所の床土や鶏小屋の壁土を主に集めているようだ。
「こら!何をじろじろ見ておるか!」
現場監督みたいなやつに怒られてしまった。
「いやー、珍しい工事だと思いましてね・・・床と壁だけ新しくするんですかい?」
「そうだ、臭くてたまらんそうだ。だから我々が工事している。」
成程ね、そういう建て前か。よく見ていると、取り崩した土はわざわざ樽に入れてある。
値打ちもんだと言ってるようなもんだぜ、おっさん。
「こらっ!サボらんで作業を続けんか。遅くとも明後日にはここを発つのだぞ。」
「いや、この男がじろじろ見てやがるもんで・・・」
「女連れの酔っ払いなど相手にするな!」
「へいっ!」
俺もハヤブサも酔ってはないが、衣服に酒の匂いが染みついているからな・・・
そうか、遅くとも明後日には出発なんだ。いいこと聞いたな。余計なこと聞いてまわらずに済む。
「マスター、悪い顏してますよ?」
「何を言う、失敬な。それより散歩は終わりだ、宿に戻るぞ。」
「イエス、マスター。」
まさかとは思うが、港のひときわ大きな横帆船はこいつらの船なんじゃないのか?
どんだけ大規模な集団なんだ。あるいは裏で国が動いているのか?
ならばカーンなど目じゃないな。
こいつは沈めるよりも後をつけるのが正解なんじゃないか?
俺は1人の巫女の涙を思い出しかぶりを振った。
こいつらの船には沈んでもらわねば間尺が合わん。
俺とすれ違ったおかみさんが震えていた。
俺の顔に何かついていたのかもしれない。
「ただいま。」
「ただいま帰りました、みなさん。」
少しみんなが引いてる。おかしいな、殺気は鎮めたはずなんだが・・・
「あんたすっごい顏してるわよ。」
「ハヤトさん、ちょっと近寄りがたいですねぇ。」
「お前、今日はもう部屋から出るな。」
散々な言われようであるが、甘んじて受けよう。
俺と縁もゆかりもない人達を殺すんだ・・・
いや、そうしないと俺が縁もゆかりもない国を滅ぼすのか・・・?
あれ?分かんなくなってきたぞ。
「それが先の時間を覗き見ると言う、超常の力に対して発生する因果律の崩壊です。」
「ここで何もせず、指をくわえて見ていたらアイツの予言通りになった。なんてのはゴメンだ。」
「マスターの好きなように判断し行動すれば良い。マスターにとって最良な結果となることを祈る。」
「俺の巫女に散々な未来を見せてくれたようだからな。そんなモンは潰しておかねーとな・・・」
ついにその日が来た。
朝からよく晴れて水平線の向こうまで見通せるような良い天気だった。
宿屋の窓から見る港には、
でかい横帆船2隻に幾つも樽を運び込んでいる光景が見える。
じき積み込みも終わるだろう。そうしたら港まで散歩だ・・・
朝食前だけどな。
「ハヤブサ、行くぞ。」
「イエス、マスター。」
俺達が港に着く頃にはすっかり荷積みは完了したようだ。
既に錨を巻き上げ行き足をつけている。
例え横帆船であろうが、乗員の腕が良ければ風に切りあがることはできる。
潮流に乗って沖まで出た2隻の船を2人で眺めている。
1㎞越えたぐらいだろうか?
「ハヤブサ、『水』を使う。奴らを水底まで案内してやれ!」
「イエス、マスター。」
ハヤブサの瞳が鳶色から『水』の瑠璃色に変わっていく。
港からも分かるくらいに潮目が変わりだした。
変化に気付いた港の人達がざわつき始めた。
カンのいいやつは船を岸壁に固く結びつけだした。
人がどんどん集まりだし港や沖の船を見ている。
ゆっくりゆっくり、その変化は現われた。
沖を行く2隻の船が静かに円を描きだした。
船尾からの風を受けてのランニングだったが、
完全に変わった潮目に逆らえないでいる。
とうとう櫂を使い出したようだが焼け石に水だ。
2隻の船の円運動は、最早誰の目にも明らかであった。
それと同時に港へ打ち寄せる波が荒くなった。
救命艇を下ろし始めたようだ。
無茶な奴らだ。もうその段階はとうに過ぎたんだ。
船の円運動がますます激しくなり、
クの国の名物である渦潮であることは誰もが気づいていた。
だがこんな渦潮は知らない。これはまるで、これではまるで・・・
「メイルシュトローム・・・」 ハヤブサから小さな声が漏れた。
クの国で何十年、船に乗っていた船乗りでさえもこんな渦潮は知らない。
ただ彼らは昔話に聞いたのだ。
悪魔が船を捉えて水底まで引きずり込むことがあるという。
仲間(悪人)を迎えに来るのだという。
みんな昔話だと思っていた。みんなお伽噺だと思っていた。
だが目の前の光景はなんだ?
巨大な渦潮は、
もう悪魔の手となって2隻の大型船を水底に誘おうとしていた。
助けを求める声が聞こえたような気がした。
だが、みんなはヤーンの聖句を唱えるだけだ。
悪魔が迎えに来た船やその仲間を助けると、
一緒に水底へ連れて行かれるという言い伝えだから。
最早、海上に船の姿は見えない。
だが海が大きなすり鉢状になっていることだけは分かる。
水底へ連れて行かれたのだ、言い伝えは本当だったのだ・・・
なら、あいつらは悪人(悪魔)だ!
今日より以降、誰もこの船や男たちの話はしなくなった。
船乗りたちは験を担ぐ。
それからしばらくして同じような船がやって来た。
そして同じような取り引きを持ちかけてきたが、
誰一人取り引きに応じる者はいなかった。
そしてその船はやはり水底へ誘われていった。
ハヤブサの瞳が瑠璃色から鳶色にもどっていった。
ブックマークありがとうございます、正直とても嬉しいです。
次回更新日は来週日曜日(11月15日)となります。
このお話で楽しんで頂けたら幸いです。




