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1-6.ギルド

 冒険者の相互互助会。


 おれがギルドの説明を受けて思ったことはそれだけだった。冒険者のほかにも商業ギルドや職人ギルドなどさまざまなギルドが存在し、対価によって労働組合のようなことをしてくれるらしい。


 俺はここでギルドへ加入させられることになった。もちろんタダではない、銀貨1枚である。冒険者の仕事をする限りは、必ずメンバーになる必要があるらしい。3人ともスンの国のギルド証を持っていた。


 ギルド証といっても紙ではない、金属のメダルだ。Eランクが青銅、Dランクが鉄、Cランクが銅、Bランクが銀、Aランクが金、Sランクが白金というわけだ。名前やランクが刻まれているがそれを本人だと証明するものはない。写真技術など無いのだから。従って管理は自己責任である・・・それゆえ「ギルドのメダルにかけて!」などという言葉が存在するらしい。


 さて俺の場合だがランクが不明のため、資格審査があるようだ。本当はEランクからなのだが、ニーたちが俺のことを・・・1人で長足ワニを狩れる男だ・・・と宣伝したためである。


 これはメンバーに1人でも高位のランクがいれば、そのランクのパーティを名乗れるからと・・・おそらく純粋に俺に対する興味だろう。審査会場は中庭だそうである・・・


 冒険者のランクを査定する審査員は3名、彼らの前で引退した元Aランクの冒険者と模擬戦を行うというものだった。もともと異例のことでもあり暇な冒険者たちが中庭に集まってきた・・・仕事しろ、冒険者!

  

 ここでまた問題がもちあがった。俺の相手の冒険者は剣、槍、弓それなりに使うのだが、俺は何しろ無手である・・・相手の男は馬鹿にされたと思ったらしい。


「お前、俺が冒険者を引退しているからといって侮ってはおるまいな?確かに俺は引退の身だが、訓練を続け実力は落としていない。だからこそ、ギルドにも雇われているのだ。『疾風のシグ』の名を知らんか?」

「もうしわけないが俺は昨日こちらに着いたばかりでね、アンタのことは知らない・・・それから俺が無手なのはアンタを馬鹿にしているんじゃなくて、俺の流儀だ。」


「冒険者は害獣を狩る者だろう、無手で狩れるとでも?」

「少なくとも長足ワニ程度なら・・・」

「その体でか?」

 俺は確かに筋肉ムキムキの大男というわけではない、むしろシグさんと同程度である。


 彼にしてみれば、どの得物を使っても弱い者いじめになってしまうと感じるのだろう。しばらく考え込んでいたようだが、俺に合わせて無手で相手をする気になったようだ。


「・・・俺も無手でいかせてもらう。」

「いいんですか、不慣れでしょ?」


「戦場で剣が折れたらどうする?槍が折れたら、矢が尽きたら?不慣れだなどと云ってられん。」

「俺なら逃げますけどね・・・」

「長生きできそうな流儀だな・・・」


 そういってシグが俺の前に近づいてきた。


 こういう馬鹿は嫌いじゃない、むしろ大好きだ。だが、よーいドンで始まる試合など死合いではない。俺は死合いが好きなのだ・・・俺が無手なのも、いつも必ず得物が身近にあるとは限らないからだ。


 常に最悪の状況を考えるからこその無手なのだ。そんなことを云っても仕方がない・・・茶番を終わらせよう。この世界にも俺を満足させてくれるヤツがいるかもしれない。だがそれはアンタじゃなさそうだ。


「いきますよ?」


 俺は小さく1歩を踏み出した。するとシグは弾かれたように後ろに下がった。


「ほぅ・・・?」


 俺は再度シグに向かって小さく1歩を踏み出した。するとまたシグは弾かれたように後ろに下がった。何度か同じよなことを続けた後、シグが丁寧に詫びてきた。


「すまなかったね、ハヤト君。弁えていなかったのは私の方らしい・・・この戦いに敬意を表して、私の最も得意なロングソードを使わせてもらう。」


 この時点で3人の審査員が顔を突き合わせだした。愛すべき3人組はトトカルチョの真っ最中だ。シグが得物を持つことでオッズが変わったんだろう・・・俺にも噛ませろ、俺は俺にはる・・・大真面目なシグの前でそんなことがいえようはずもなく、試合再開だ。


「今度はこちらからいかせてもらうよ?軍神シーハよ、照覧あれ!」

 初撃は踏込と同時の突きだった。いくら稽古用の刃挽き剣とはいえ、のどに突きを食らえば最悪死ぬ。

 ロングソードの利点を活かしたいい判断だ・・・相手が俺でなければ。


 はたから見ていればシグの突きに合わせて俺が前へ進み、ロングソードを通り抜けシグの横を通りすぎたと思ったらシグが勝手に後ろにすっ転んだ・・・ように見えただろう。

 

 まわりの連中も審査員も何が起こったか分らずに微妙な顔をしていたが、肝心のシグ本人が負けを認めた。シーハさんにはよろしくいっておいてほしい。とにかくこれでBランク、シルバーメダルということになった。


 ニーとレイメイはすごくいい笑顔でこちらを見ている。フレイは微妙な表情だ・・・シグに賭けたのか?とにかく俺の加入手続きも終わり、長足ワニの討伐部位も換金した。


 これで一応ギルドでの用件は済んだのだが、個人的な用件があった。害獣手配書である。俺はギルドに来たら必ず見ておこうと決めていたのだ。


 俺がその旨を告げると、レイメイがニコニコしながら害獣手配書の借り出し手続きをとってくれた。いったい幾ら儲けたんだこいつは・・・いや、今は手配書が先だ。ブックメーカーとしての権利を主張するのは後でいい。


 俺が手配書を読む間3人ともBランクの依頼を見てくる、とのことだった。


 すぐに名前を呼ばれ、カウンターまで受け取りにいった。破ったり、汚したりすると罰金らしい・・・俺が受け取ったのは一冊の薄い本だった。

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