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5-5.シズの結末

 いよいよアの国の遠征部隊が本国に帰る日がやってきた。

終わってしまえばごく短い遠征であった。

 死傷者の1人もなく、拍子抜けと言えば拍子抜けである。

 だが、神代の技が誰かの手下に奪い取られたのは事実であり、

 それがファーン国王のおもてを暗くしていた。

 彼は伝説の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)から神代の技の封印を頼まれていたのだ。

 憂鬱ではあったが送別会に出席しないわけにもいかず、

 顔だけは笑みを浮かべていた。


 今回の件におけるシズの国のシズ教徒については一切を不問とした。

 少し甘いのではないかとの声も上がったが、

 シズ教徒からあさまの山の噴火を事前に聞いて家族が助かった者達が多数いるのだ。

そういう者達がいる限り、一様に重い処分を科すのもなんだか違う気がする。

それに依然としてシズ教は国内では人気の宗派である。イタズラに刺激をしたくないという本音もあった。


 そんな事情も手伝って、国民の大半がアの国の部隊の送別に来るという珍事となった。

 一般の国民からすればアの国の部隊はいつもの生活を取り戻してくれた立役者である。

 特にアの国1番隊の人気が高いのは、人の口に戸は立たぬという証明であろう。

 両国の国旗がにぎにぎしく振られる中、彼らはしずしずと旅立って行くのであった。


 これで与えられた任務はまっとうできた。

 大隊長は密かにほっとすると長い溜息を吐いた。

 万一の際はくれぐれもと王妃様から頼まれていたのだ。 

 これで逆に王妃様に貸し1といったところだろう。

 まあ、ファーン国王も覇気のある良い王ではないか・・・

 と考えつつ馬に揺られていた。


 今は普通進軍状態であったので、1番隊から7番隊まで順番に並んで街道を進んでいた。

 大隊長は4番隊である。だから気づかなかった。

 街道の真ん中に、昨日カーンが抱えていたような樽が置いてあったことを。


 だから分からなかった。何だこれはといいながら、みんなが取り巻いていることを。

 そして馬上からその様子に気づき、声の限りに叫んだ。


「兵、引け―――!兵、引け―――!」


 あたかもその声が合図であったかのように、

 その樽めがけて真っ黒な矢が飛んできてそれを射抜いた。


「ドグワァーーーーーン!!」


「うわーーー!」

「敵襲だ―――!」

「痛てーよー!」

「お、俺の手が、腕がーーー!」

「なんだーーー!」

「お、俺の脚ーーー!」

「ゲエーーー!」


 それは修羅場であった。それを岩の上から3つの影が見下ろしていた。


「これでカーンの奴も地獄で溜飲を下げておろう。もう少し人望があればいい夢を見られたものをな。」

「それにしてもさすが我が国3鬼の内が弓鬼じゃ。よくぞこの距離を・・・儂にはそちらの方が驚きぞ。」

「なるほど火矢は必要ないんですね、衝撃を与えてやればいいのか・・・運搬に困りますね。」


 1番隊の真ん中で爆発した形になったため当然被害も1番隊が一番甚大である。

 大隊長は1番隊を囲うように八方構えの陣を敷き、彼らの様子を見やった。 

 爆発の中心にいた人間は文字通り吹き飛んでしまっている。

 そして体に損傷を受けた者、また、

 一緒に混ざっていたと思われる棒手裏剣や十字手裏剣やまきびしなどで被害を負った者達。

 実は手裏剣には毒が塗ってあり、こののち猖獗しょうけつを極めることとなる。


 大隊長は頭の中で計算を終えると、

 すぐさまシズの国へ戻るよう全軍に指示を出す。

 馬や馬車は全て1番隊に譲り、兵が小走りで付き添う形だ。

 しかし、毒の種類も分からず、

 分かったとしても有効な薬とてない有様である。

 兵がどんどん死んでゆく。 傷口を水で洗ってやるのが精一杯であった。

 大隊長は奥歯を噛みしめながら誓っていた。


「俺の可愛い部下どもにこんな無意味な死に方を与えた奴ら、無事ですむと思うなよ!」


 この段階で既に1番隊の勇者たちの損耗率は50%を切っていた。


「火だ!手裏剣痕を火で焼いて消毒するんだ!口になんか噛ませとけ、舌を噛むぞ!」


 水による消毒が効かないのを見て取ると、衛生班はすぐに処置法を変えた。

 シズの国につけばそれなりの措置が受けられるはず・・・

 一縷いちるの望みを託した処置であった。


「儂らの務めは終わった。」

「それでは、我らはこの辺で消えますかな。」

「水で洗い流そうが、火で焼こうが、一度この毒を体内に入れれば意味はない。」

「・・・」


 岩の上の男達は次々と姿を消してゆく。

 ああ、まさか鉄弓が300メトル離れた岩場から放たれようとは。


 一度アの国の軍隊を見送ったシズの国では久しぶりに静かな空気が流れていた・・・のも束の間、

 また彼らが戻ってきて大騒ぎとなった。

 そして話を聞くと、シズの兵達は愕然となった。


 ただちに大広場に怪我人が集められ、天幕が張られ医者が呼ばれた。

 ただ怪我をした者ならまだいい。毒の場合は、

 毒の使い手でなければその種類が分からないのである。

 ましてこの時代の内科は漢方が主流である。劇的な回復は望めない。

 

 つまり、お手上げというやつである。その現場にニケ=S=シズ王女が現れた。


「ははっ、王女様。つまんねー手にかかっちまった、少し休ませてくれよ。すぐ元気に・・・」

「カッコ悪いトコ見せちまった。なに、こんなの一晩寝れば・・・」

「姫様、脚が1本無くたって立派に・・・」

「へへっ、王女様が心配なさることなんざ、1つもありませんよ。」


 輸血の概念さえない世界である。彼らの顔色を見るととても大丈夫に見えない。

 何かできることはないだろうか?自分にできることは・・・彼女は一つの結論に達した。

 しかし本当にいいのだろうか、こんな使い方をして、本当に今がその時なのだろうか?

 彼女は首にかかっていた1つの

 ―――現代知識があるものが見れば方位磁針と時計に酷似していると思うかもしれない―――

 メダルを外すとその突起部を強く押した!


「来て!お兄様、お姉さま!ニケはここです!お二人の力が必要なんです!!」


 それは、純白の船でその時を待っていた2人が想像もしていなかった呼び出しであった・・・

 

  ニケのいる場所の上方約10mメートルの空間に裂け目ができ、そこから2人は地上に飛び降りた。

 ―――実際は光学迷彩を施したアマツカサから飛び降りたに過ぎないが―――

 人の目には突然湧いてきたように見えたことだろう。

 周りの者達がどよめいた。近衛が動きかけ、王に止められていた。


「久しぶりだな、ニケ。敵はどこだ?」

「ニケ、元気だったか?」


「本当に・・・本当に来て下さった・・・ああ、この世を統べる全ての神に感謝を・・・」

「ニケ、分かるように話せ。」


「実はカーンが・・・それで第1小隊さんが・・・」

 ニケが昨日から今日までのことをかいつまんで説明した。


「悪魔に囁かれる国ってのは、俺の全然知らない国なのかもしれないんだな・・・ハヤブサ。」

「イエス、マスター。」


 ハヤブサは第1階梯用薬品と4種血液混合パックと無痛注射器をもって降りてきた。


「これは俺が歴史を変えてしまうことになるのか?」

「イエス、マスター。」


「それは・・・許されることなのか?」

「酷い歴史と、もっと酷い歴史・・・マスターが望むのはどちら?」


「・・・お前は第1階梯処理をしろ、俺は無痛注射器で輸血を行う。」

「イエス、マスター。」


 俺とハヤブサが対応を始めると目に見えて効果が現われてきた。

 それはそうだろう、超古代の叡智だ。

 噂を聞いて王妃もやって来た。

 それはいいが俺達を見ると拝み始めてしまった。これには参った。

 王や王妃が膝を折るものだから、周りのものはみな膝を折り拝み始めたのだった。


 後に言う「アの国第1小隊、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)降臨事件」の顛末であった。


 それでも処置が間に合ったのは全体の40%もいなかったであろう。

 50%の40%だ、約40名である。

 もちろん俺達が来なければほぼ壊滅であっただろうが。


「 アの国第1小隊の話は聞いた、お前は良き選択をなした。この宝剣は返そう。夫となるものに渡せ。」

 俺は腰のベルトに差しっぱなしであった宝剣を取り出し、ニケの前に見せた。


「お兄様・・・私・・・ボタンを・・・ボタンを、押してしまったの・・・」

「だからこれだけの人が助かった・・・それは誇っていいことだ。」


 俺がそう言うと、そこで張りつめていたものが切れたのかその場にへたり込んで気を失ってしまった。


「ファーン国王夫妻よ、良き娘を持たれたな。宝剣、確かに返したぞ。」

「ま、まさか行ってしまわれるおつもりでは・・・」


「もうここはあなたの国だ。余所者は去るに限る。」

「そ、そんな余所者などと!先だってのお礼すらまだ何もできておりません。何よりニケが・・・」


「これが最後というものでもあるまいよ。」

「せめて、せめてニケの目が覚めるまで待っては頂けませぬか?」


「私も王女の涙は苦手だ。一つ土産を残す故、それで勘弁願いたい。」

「竜殺し(ドラゴンスレイヤー)殿・・・」


 俺はハヤブサに頼んで緊急発進要請コールを、後1回だけ有効にしてもらった。


「これを王女様に。「その時」押していただければ私達は、いつでもどこでも現われる。」

「ああ。ニケはそれを父王と自分が死んだ時、私が代わって押すようにと・・・」


「・・・ならばニケ殿はすでにまことの王女、名もなき私より祝いの言葉を送らせて頂こう。」

「私からも祝いの言葉を・・・どうかその優しさと気高さを失わないで、そうすれば私達は必ず逢える。」


 そして2人はかき消すように空のしじまに消えていった。

 目を覚ました王女が、泣き疲れて眠るまで泣き続けたのは別のお話し・・・

ようやく涼しくなってきました。

次回更新日は25日(日曜日)午前零時です。

このお話で楽しんで頂ければ幸いです。

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