5-4.シズの決戦
5,000PV、ありがとうございます。
剣と魔法ではないヒロイックファンタジーを目指したら、
何故かこうなりました。
生暖かく見守ってやって下さい。
宮廷の階段から降りてきた僭王カーンの声が大広間に響き渡る。
「互いに武器を引きませんか?」
「武器を持っとるのはお前の兵だろう。儂の大事な近衛達をよくも・・・」
「ハッハッハッ、そうでしたね。では言い直しましょう、両軍とも引かせませんか?」
「こちらに異存はない。」
入り乱れていたシズ教団員と近衛兵が左右に別れた。
「して、これからどうする?見ての通り周りはアの国の精鋭達で固められておるぞ。」
「提案があります。」
「提案だと?」
「そう、あなた方にとっても決して損にならない提案です。なにしろ死なずにすむんですから。」
「な、なに?」
「いま私が担いできたこの樽、なんだと思います?」
「その樽がどうしたというのだ?」
「この樽の中の薬に火をかけると、この大広間が跡形もなく吹き飛ぶと言ったら?」
「たんなるハッタリだ。証拠はない。」
「そう、残念ながら証拠はないんですよ。分かった時には私達はみんな死んでいますから。」
「そんな便利な道具、なぜ今まで使わなかった?おかしいではないか。」
「ごもっとも。そのつもりでしたが、作るのに今まで時間がかかってしまったんでね。」
「やはり信じられん。要はお前に火を点けさせねばよいのであろう。」
ファーン=S=シズ前国王が剣を片手ににじり寄っていく。
「実は種火はもう持っているんですよ。それをこの「どうかせん」に点けるだけでいいんです。」
「自分の命を的にするか。何が望みだ?」
「それはお互い様でしょう?なに、ここから落ちのびられればいいのです。」
「それは無理だな。今この場を凌いでも、お主は必ずや討たれる。お主は・・・やり過ぎたのだ。」
「これは耳が痛い。しかしこの技術を欲しがっている国がありましてね、迎えが来るのですよ。」
「そこまで落ちのびようというのか?無理だな。この大広間を出たらお前の最後だ。」
「分からない人ですね、このままではアの国の人達が巻き添えになりますよ?」
「聞こえたか、アの国の方々。後ろから順に大広間より退出して頂きたい。近衛以外はみな下がれ!」
「な、何を考えている?」
「お主は思い違いをしている。我らを脅していたつもりだろうが、我らがお主を脅しているのだ。」
「どういう意味だ?」
「この大広間に居るのがお前達と近衛達だけになった時、その時がお主の最後よ。分からんか?」
「き、貴様~、近衛達を巻き込んで自らも死ぬつもりか?」
「もちろん1人では死なん、お主が一緒よ。」
「おのれー、シズの戦士たちよ、狂った王を叩き斬れ!」
「近衛達よ、最後まで我儘ですまんな。カイエン、儂の剣をとれ!」
ファーン=S=シズ前国王の剣が宙を舞う。
「忝い、王よ!」
「お主は王国剣術指南役、剣で負けることなど認めぬ!」
王に襲いかかった3人のシズ教団員は、目にも止まらぬ早業で切り捨てられた。
そして彼らの剣を近衛達が拾い始める。
「どうした、早く火を点けねば手遅れになるぞ?儂すら巻き添えにできなくなるぞ?」
「こ、この狂れ人めー!」
「お主にだけは言われたくないわ、神代の技を甦らせ何を夢見た?」
「お、お前、そのことを・・・」
「前に竜殺し(ドラゴンスレイヤー)殿からな。人の命を軽くする、悪魔の技だと聞いた。」
「何を馬鹿なことを。こうして人は進歩していくのだ!」
「なるほど、そうやって人は悪魔の囁きに乗ってしまうのか・・・哀れだな。」
「だ、だまれ、だまれ、だまれー!」
僭王カーンは口元から泡を吹き出し必死に策を考えていた。
だが、シズ教団員は次々に近衛達の手にかかり、
得物をとられてますますその数を減らしてゆく。
「こうなったら、こうなったら・・・お前らまとめて・・・」
「それでは約束が違いますな。」
「だ、だれ・・・」
「約束の場所に来ないわけです、このようなことをしているのでは・・・あのお方は短気なのですよ。」
突如、僭王カーンの後ろに現われた黒装束。忍者装束である。
「お、おう、助けてくれ。約束の物ならこんなに・・・」
最後まで言葉を言うことはできなかった。
腹に苦無が生えていたから。
男は素早く樽の中に手を入れ、黒砂のようなものを手持ちの袋に移した。
そして、近衛達が近づいて来る前に宮廷の階段に消えた。
「馬鹿め、外には700名の精鋭。袋の鼠だ!」
王と近衛達が階段を上がっていく、宮廷に出るが誰もいない。
「バルコニーだ!」
誰かが叫んだ。確かにバルコニーに先ほどの人物と思しき男がいた。
なにやら奇妙な扮装をしている。そう、まるでムササビのような・・・
「まて、そこの男!」
言うが早いがカイエンの小太刀が飛んだ。
ほんの数秒の差であったろう、男の判断も大したものであった。
バルコニーから飛んだのである。
と言っても人が空を飛べるわけはない。
それは滑空しながら落ちていく、という表現が正しいだろう。
男の姿が見えなくなった地点を近衛達は見定め、
半分が捜索のため城外へと出ていった。
残りの近衛達を集めファーン国王は言った。
「皆の者、見事なる忠義。そして見事なる武芸であった。このファーン、心より感服し心より礼を言う。」
近衛達の中には泣いている者もいた。
カイエンなどは歯を噛みしめ一歩も動けず感激していた。
僭王カーンが賊の手により死亡したことは、
シズの国及びアの国中の兵士の間に伝わった。
その賊を追って、シズの近衛達が捜索していることも。
そのためアの国1番隊からも捜索の手が割かれることとなった。
「この場合、誰がニケ姫の婿に相応しいんだよ?」
「そんなこと言っている場合か。」
「だが気になんだろ?」
「無し、ってことにはならんよな?」
「あの王様は、そういう王様じゃあねーよ。」
「だったら誰に・・・」
仕方ない、と言えば言えるのかもしれないが、
この手の話はなかなか終わることは無かった。
そのころ賊の捜索隊が戻ってきた。
亡骸は見つけたが持って逃げたはずの荷物は見つからなかった、
とのことである。
おそらく、待ち合わせをしていた仲間が持って帰ったのであろう。
これでまた、中原の火種は残ってしまったことになる。
ファーン国王はカーンの持ってきた樽を調べることをせず、
衛士に言いつけて城の堀の水の中へ落としてしまった。
そしてこれらを造っていたとおぼしき錬金術師たちは全員処刑された。
なお、近衛を始めとして、
衛士も兵士も一兵卒に至るまで全てお咎めなしとなった。
国民については近かじか発表を行う旨、通達がなされた。
この時点をもってアの国遠征隊はその意義を失い、
数日のうち帰路につくことになった。
ファーン国王は大隊長に断りを入れてから、
1番隊の天幕へと入っていった。
それまでざわついていた天幕は一瞬のうちに静かになり、
目を閉じれば無人の荒野に立つごとくであった。
「1番隊の勇者の諸君、誠にありがとう。そしてご苦労であったと言わせてくれ。ここに我が国の火酒を持ってきてある。」
天幕が少しどよめいた。シズの火酒といえば酒好きには有名であった。
「皆の活躍で、最も良い形で決着をつけることができた。心より礼を言う・・・ありがとう。」
「いいよおっさん、気にすんな!」
「ああ、いい夢見させてもらったぜ!」
「ニケちゃんによろしくな!」
ファーン国王は片手を挙げ言葉を制した。
「そんな皆だからこそ、儂は自分の言葉を曲げる訳にはいかんのだ。儂の代わりに門に体当たりをしてくれたり、弓矢の射線からさり気なく庇ってくれたり・・・そんな皆、だから・・・儂は・・・」
誰もがかたずをのんで王の話を聞いていた。
「我が古き血にかけて誓った通り。我が祖国奪還がなった今、わが娘であり王位継承権第1位、第一王女ニケ=S=シズの娘婿となり新生シズ王国を見守るのは1番隊の勇者達の誰かが相応しく思う!だが、娘はまだ幼き故、成人の儀を迎えそののち正式な手順を踏んでことを運びたく思う。この婚儀がなれば、アの国とシズの国の絆は更に強固で盤石なものとなるであろう。」
その瞬間、兵たちのいる天幕を吹き飛ばすような歓声が沸き上がった。
これで何度目であった事だろう。
周りの天幕ではまたかという顏をする者や、
大隊長のように苦虫を噛み潰した顔をする者もいた。
その夜の宴会だけはファーン国王たっての願い故、
無礼講となり1番隊の天幕へシズの近衛達がやって来て
上を下への大騒ぎとなった。
何故かアの国の蜂蜜酒もシズの国の火酒も途切れることが無く
追加が届き、話は夜半にまでおよんだ。
近衛達の中にもニケ姫を憎からず思う者がまた、幾人かいたのである。
1番隊隊長はそっと彼らの肩を叩いて回る。
年若くして、彼はなかなかの苦労人であったのだ。
またまたブックマークありがとうございました。
作者のモチベーションが著しくUPします。
次回更新日は日曜零時(10月18日)です。
このお話で喜んで頂ければ幸いです。




