5-3.開戦
「アの国1番隊の勇者達よ、我はシズ前国王ファーン=S=シズである。皆の前に立つことなど本来であればおこがましきことであるは百も承知。最初で最後の事である故、この無礼どうか許してほしい!」
この言葉に、1番隊はザワッと揺れた。
「最初で最後」とはこの戦で死ぬ気であるのか?
王などというものは前線から離れた砦の中で兵を指揮するものだろう・・・
皆が1番隊隊長を見たが、隊長は何も聞こえないふりをしている。
「アの国1番隊の勇者達に戦働きをさせて、我だけ後方に居ようなどと露ほども思わぬ。1番隊共々討ってでる所存である。むろん、皆に守ってもらおうなどとは思はぬ。すぐに討たれる様ならそれもまた天命。潔く散る覚悟である。ただこの戦、我が祖国奪還のためである。儂がいなくとも王妃も王女もいる。大義は我にある。王国は再建できるのである。」
この話が一体どこへ向かおうとしているのか。
今や1番隊の面々は先程までの考えも忘れて、ただただ聞き入るのみであった。
「我が古き血にかけて誓おう。我が祖国奪還がなった暁にはわが娘であり王位継承権第1位、第一王女ニケ=S=シズの娘婿となり新生シズ王国を見守ってほしい。その相手にはこの1番隊の勇者達の誰かが相応しく思う。」
その瞬間、兵たちのいる天幕を吹き飛ばすような歓声が沸き上がった。
戦の1番隊など、常であれば捨て駒、あるいは露払いである。
どこかの農家の二男坊や田舎貴族の落ちこぼれ達である。
酷い国では捕虜や奴隷が使われることも珍しくない。
それをいきなり1国の国王として(娘婿という立場ではあるが、
れっきとした王配である。)取り立てようというのである。
これは千載一遇の、いや一生一度の機会が降って湧いたのである。
この機会を逃せば次は無い、誰しもそう考えた。
そもそもこの戦、始まりは謀反である。
兵士や衛士の士気は高くあるまい。まして通常1番の強敵となる近衛兵が、
この王に弓を引けるのだろうか?いや、俺なら無理だな・・・
あちらこちらで考えをめぐらせる奴がでてきた。
僭王カーンを討てば戦は終わるのだ。
なにもシズの兵全員を相手にする必要はないのだ。
下らぬ戦で命を落とすのか。
などと先刻まで考えていたことなどきれいに忘れて、
彼らの目は輝きを取り戻していた。
1番隊隊長などは肩をすくめて「王族などというのは口が回るものだ。」
と思いながらも、やはり命を的にした演説に聞き入っていた。
「そして我が祖国奪還が果たせたのであるならば。いつか訪れるであろうわが友「白き星」、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)より我が王家の宝剣を受け取ってほしい。それこそ真の王家の証。」
その瞬間、兵たちのいる天幕を吹き飛ばすような2度目の歓声が沸き上がった。
やはり、噂通り竜殺し(ドラゴンスレイヤー)はシズの国についているのだ。
これは聖戦なのだ。こんな戦に加われる機会は2度とあるまい。
俺の運を試す時がやって来た・・・誰もが等しくそう考えていた。
1番隊の生存率は約30%である。
3人に1人は生き残れる・・・存外、悪い数字でもない。
あまりに兵たちのいる天幕が騒がしいので、
2番隊の連中が顔を出すありさまだった。
もっとも1番隊の面々は知らない顔をするだけであったが。
後は野営と飯の支度である。
今回の戦線は各国の協力を得て十分な兵站を維持している。
だから初日から温かい料理と、
僅かばかりではあったが蜂蜜酒がふるまわれた。
みな、静かに闘志を胸に秘め軍神シーハの祈りを口にするのだった。
1番隊に夜番は無い。先鋒を受け持つのだから当然だ。
だが彼らは寝なくては寝なくては、
と思いながらもなかなか寝付けずにその夜を過ごすのであった。
明けて黄の月7朝8つ、陣形は整えられた。
まず工作部隊が小舟を連ねて板を渡し、堀に道を付ける。
その後1番隊が2手に別れて破城槌を抱え城壁に突っ込み、
そのまま1~3番隊が突撃するのである。
そして道が開けたら4~7番隊まで出撃である。
そしてついに黄の月7朝9つ、進軍の法螺は草原に鳴り響いた。
「1番隊、破城槌を抱え出撃。2手に別れ敵の攻撃の薄い方から内部に入り、城壁を解放するのだ!」
「ウワァー、 ウワァー、 ウワァー」
土煙を上げて破城槌を抱えた馬が走る。
不思議なことに城壁上部からは通常あるはずの投石器や弓矢といったものの攻撃がなされなかった。
これ幸いとばかりに破城槌が城門に刺さる。
さしもの城壁もたまらずねじくれて、人の入れる隙間をつくった。
「よし、ここから飛び込め。一番危険なところだ、十分注意しろ!」
1番隊から2~3人、盾で頭を蔽うようにして内部になだれ込んでいった。
「ん?内は誰もいないぞ、何かの罠か?」
「おう、本当だ。何でもいい、城壁を開けてしまえ!」
「もう1か所の方はどうだ?」
「やはり同じような状況だぞ!」
そう言いながら2つの城壁が、いまアの国の軍の前に開けたのであった。
「4~7番隊まで出撃!1~3番隊を援護せよ!」
追撃の法螺と共に4~7番隊が飛び出してゆく。
そのころ1~3番隊はシズ前国王ファーン=S=シズを中心に王城目指して走っていた。
さすがに城中門前には衛士が数十人集まり、中門上には弓手が何人も詰めていた。
「我が名はファーン=S=シズである!この名を王と認めるならば道を空けよ!」
反応が鈍い、やはり思うようにはいかぬか。
「王よ、我ら衛士は今でもファーン王家の僕であります。」
「しかし我ら一同ことごとく家族を人質にとられて前線に送り込まれております。」
「そして戦働きできぬ者は家族まとめて処刑されてしまうのです。」
「王に刃を向ける我々をお許しください。」
ここにきてファーン=S=シズ前国王の足は止まってしまった。
目の前にいるのは今でもよき民、よき家臣であるのだ。
それをどうして斬って進めようか?そこに1番隊の隊長が進言した。
「ファーン=S=シズ前国王よ、ここまで来て何を悩みめされるか?要は我々で僭王カーンの首をとればよいだけの事。奴らに処刑の隙など与えなければ良いのです。」
戦は時と勢いだ。
1番隊隊長は今まで生き残ってきた経験からそう考えている。
今、時と勢いを失ってはいけない。
「ここは彼らを相手にせず、先に進むことのみ考えましょう!」
「可能か、左様なことが?」
「1番隊!楔の陣!」
隊長の声が響くと1番隊は一糸乱れず隊列を組み直し、
中央の者は盾を頭上に、側面の者は盾を正面に掲げた。
「何と見事な・・・」
「だてにアの国の1番隊をやってはおりません。」
アの国は武の気性で知られた国ではあったが、1番隊までがこの錬度であるとは。
「1番隊、突入!衛士には目もくれるな!」
言うが早いが 1番隊はうなりをあげて城中門めがけて突っ込んでいった!
さすがに城中門が相手では1回で壊すことはできず、2回、3回と回を重ねることになった。
その体当たりしている者の中にはファーン=S=シズ前国王がいるのである。
衛士たちは矢を射ることも忘れて、その様子をただ見つめるだけであった。
やがて1人の衛士が吊り橋式の門の閂を開けて1番隊を招き入れた。
そして1番隊が門を通過する中、1人敬礼を続けていた。
その衛士はかつて夜の中、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と邂逅を果たした人物だった。
「シズの国の中にも立派な武人がいるではありませんか。」
「その言葉、嬉しく思う。」
前国王は頭を垂れた。
彼には先ほどの衛士の名がどうしても分からなかったのである。
張り出し陣や側塔からの攻撃もなく、城壁塔や門塔からも人の出てくる気配がしない。
「一気に居館を目指すぞ!」
ここまで来て怖気づくわけにはいかない。
すぐに4~7番隊も追い上げてくるだろう。抵抗という抵抗が無いのだから。
城上部に出れば居館は目の前である。勝手しったる我が家である。
シズの国の城は宮廷城であったためかなり大規模な造りとなっていた。
だが、今目指すは居館の大広間である。
おそらくそこに関係者は全て集まっているだろう。
幸い1番隊は誰1人欠けていない。このまま突入だ!
「アの国1番隊、参上!!」
隊長が大声を出し広場に飛び込んだ。
が、そこが一体どういう状況にあるのか判断がつかなかった。
分かったのは50名くらいの団体が2組、
取っ組み合いの喧嘩をしているということくらいであった。
「カイエン、何事だ!負けるなー!」
突然、ファーン=S=シズ前国王が叫びだした。
すると、取っ組み合いをしていた半分の人間がこちらを見て喜びの声を上げた。
「みんな見ろ、我らが王だ!やはり戻ってきてお出でだ!」
「それも鎧兜に剣盾だ!すごいぜ!」
「王の御前で見苦しい勝負はできん、ここからだ!」
どうも目の前で戦っているのは近衛兵らしい。
それが何故カーンの私兵らしき者達と5分の闘いをしているかといえば・・・
「近衛達は無手だと?武器が無いのか?」
「全てカーンに取り上げられていたようです。」
自分が謀反で成り上がったものだから、部下達に大量の武器を渡すのが怖いのだろう。
しかし、剣を持っているとはいえカーンの私兵は素人揃い。
それで無手の近衛達と一進一退の勝負をしていたのだろう。
周りにいるのは成り行きを見守っている兵士たちだ。
おそらく勝った方につくつもりだったのだろう。
その気持ち、怒るわけにはゆかぬ・・・
しかし肝心のカーンの姿が目につかない。
てっきりここだと思っていたが主塔の方か?
だが自分から逃げ場のないところで籠城するだろうか?
あるいは籠城しているうちに助けが来る宛でもあるのだろうか?
まさか既に逃げ出しているとは考えづらい。
とりあえず目の前の戦いだ、
近衛達に武器を渡したいがその隙をつかれてしまうだろう。
このまま見守るしかないのか。
そう思っていると後ろの方からどよめきが聞こえてきた。
今ごろ4~7番隊がやって来たのである。それは異様な光景だった。
100名近くを取り囲む700名近い集団。
さすがにシズ教団の者達も自分たちが今の戦いに勝っても負けても
ただでは済まぬと感じているのだろう。
その直感は正しい。このままただですますわけにはいかぬ。
そんな時にその声は響き渡った。
「やあ、みなさん!お揃いですかな?」
次回更新日は日曜零時(10月11日)です。
このお話を気に入って頂ければ幸いです。




