5-2.交わる運命
朝一番でヤーンの神殿に出向いてみると、俺宛の文を渡された。
「神代の者現る」
どうもいきなり出会っちまったようだ。これは偶然か、それとも必然か・・・
いずれまみえねばならぬ相手だろうがいささか時期が悪い。
シズの国、そろそろ動きがあるころだ。
竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の噂も聞いた。
知らないうちに俺は中原の英雄になっていたのだ、これには驚いた。
どうも中原において竜殺し(ドラゴンスレイヤー)というのは勧善懲悪の特別な存在らしい。
そして今日は冒険者の仕事日であるのだ。
最近自分の職業が分からなくなってきている。
やはり冒険者というのは何でも屋なのだろうか?
しかしそれを言ったら以前の自分は何だ。
職業、殺し屋。か?仕事としてやったことはないんだが・・・
とにかく今日の仕事は猪狩りである。それも200㎏級の大物らしい。
森から出てきて林の恵みまでむさぼっているらしい。
狩りといっても鉄砲はもちろん無いし、毒矢も使えない。
今回は落とし穴を掘り、俺が硬気功正拳突きで眠らせた。
それからきちんと血抜き、解体して食肉とするのであるが、
200㎏級となると4人は必要だ。
なにしろユニック(※5)もウインチも無く全てが手作業なのだから。
考えてもみてほしい。200㎏の大猪の足を木の枝に結ばねばならいんだ。
そもそも一度持ち上げて、宙づりにしなければならない。
それがどれほどの重労働か。
それからあたりに気を配りながら血抜き作業だ。他の獣を呼び寄せるかもしれない。
よく野生肉は臭くて食えないなどという話を聞くが、
それはほとんどの場合、血抜き作業の問題だ。
いい加減な処理をされた肉は、味もいい加減になるものだ。
そして宙づりにした猪の首(大動脈)に深くナイフを入れる。
この時心臓を傷つけてはいけない。
そうでないと血が最後まできちんとでていかないのだ。
要するに肉が不味くなる。だいたいのケースで血は勢いよく吹き出てくる。
ついで毛皮を剥いでいく。(皮まで食べる気なら毛を焼いて皮は残す)
この皮剥作業が超大変で、俺1人だとおそらく1日かかっても終わらない。
3人の仲間と良く切れるナイフがあるので、5時間もかからず終わるのである。
ここまできてようやく内臓の摘出(解体)である。
そして3枚におろして骨抜き、ブロック分けである。
言葉で書くと簡単そうだが、これで1日が終わってしまう。
充実感はあるが冒険者というより猟師である。
地球は健全に復活しているらしくダニがそれはもうびっしりと付いてしまった。
レイメイなどは麓の街まで届きそうな大声をあげていた。
なにしろ大きいやつは7㎜~10㎜位あるからな。
麻酔効果のある牙で噛むから分かんないんだよな・・・
あれは一月以上は痒いんだぞ・・・
この時代、基本的に生き物をただ殺すということはありえない。
他の命は自分の命を継ぐ糧となる。
牛はよくて鯨はいけないなどという奇妙な論理はあり得ない。
この世界のどこへ行っても冷蔵された刺身は無いし、
真空パックのハム、ソーセージも無い。
保存技術といったら塩漬けや燻製が関の山である。
つまりほとんどは新鮮な肉で、産地調達・産地消費が原則なのだ。
だから・・・美味い!
今日捌いたこの肉も2~3日中に食されるだろう。
しかしこれで報酬は幾らなのか?ニーに聞くのが怖い。
これでは日に3頭は仕留めんと、割に合わないだろう。
まあ、報酬とは別にブロック肉をもらったので良しとするか。
野生の猪は滋味豊かでその肉もエールに合うんだ・・・
エールと言っても現代日本の良く冷えたビールを想像してはいけない。
保冷技術自体が存在しないのだ。端的に言えば食べるような感じの緩いビールだ。
樽に入っているそれを、みんな木のジョッキで直接すくい取って飲むのだ。
後でニーに聞いたが、今回のような採算度外視(銀貨4枚)
の案件をこなしていくのがB→Aランクへの近道らしい。
やはりBランクとAランクとでは箔が違うらしい。
最近アマツカサがタクシーにされている件・・・
エムトに行く際、便利だからとついつい呼んでしまう。
「文を見たのだが。」
「あの方は本気のようでした。」
「名はなんと?」
「ツバイ。」
「本気で恨まれているのか。弱ったな・・・こっちの事情など知った事ではないのかも知らんが・・・」
「事情をお話しになると?」
「こちらの知る限りの情報では、俺はそいつと闘りたくない。だが、向って来るなら別だ。」
「話して分かればよし、さもなければ闘うと?」
「俺が思うに火星に行った者のうちで地球に戻った者というのは、既に数千年以上昔の話だと思う。」
「何となくそんな気はしていました・・・」
「つまり、今生きている全ての者が奴の怨みの対象ってことになりかねない。」
「それは双方互いにとって益にはなりません。」
「怨みを持った奴に損得勘定は関係ない。」
「遺跡は神代人でなければ動かせないと、そう言っておりました。」
「ちょとまて、それは俺や『黒き星の者』が恨みを晴らす相手だという解釈か?」
「彼は、遺跡を動かせる者は火星に行った者と考えておられるようでしたから。」
「そういえば俺の生体データで・・・遺跡・・・アマツカサ・・・そうか、そういうことなのか。」
「如何しました?」
「いや、疑われる理由が何となく分かった。そして疑いを晴らすことが難しいことも分かった・・・」
「では如何します?」
「どうもせん。」
「・・・」
「黙っていれば奴には分からん。」
「彼は遺跡を動かした者を教えろと、ここまで来ているのですよ?」
「教えるのか?血の雨が降るだけだぞ。ヤーンの神はそんなことを望みはしない。」
「どの口がヤーンなどと・・・調子のいいことばかり・・・」
「何か手を考える・・・奴が納得できる手を。だから少しの間・・・」
「私に嘘つきになれとおっしゃるわけですね。私はどんどん巫女失格になっていく・・・」
「人を救うための嘘だ、ヤーンも納得する。奴が手当たり次第人を殺すようになるより余程マシだ。」
「あなたは冒険者だと思っていましたが、詐欺師の才能もおありのようですね。」
「俺は只の一般人だ。それを白き星だの運命の子だの・・・俺こそ言いたい事は山ほどあるんだからな?」
「なるほど、それら全てをひっくるめて貴方なのですね。」
「お前、いま話を逸らしたろ?」
「そんなことありませんよ・・・・・・」
「おい!目を逸らすな、俺の目を見て言ってみろ。」
「・・・」
★ ★ ★
「ヤーンの匂いがします。」
「ギクリとするようなことは言わないでくれ、俺は心臓が弱いんだ。」
「前回のバイタルチェックでは、全く問題ありませんでしたが?」
「お前、分かってて言ってるだろ・・・」
「レイメイさんの前ではありませんから。」
「・・・」
「その後、王女様からの緊急発進要請コールは作動していません。」
「ロザリオの代わりにとんでもない物を渡してたな・・・」
「出過ぎた真似でしたでしょうか?」
「いや、あの王様だけでは少し不安だったからな・・・それはいいさ。」
「では何か?」
「こうなった以上、あの王女様には死んでほしくない。」
「コールが入って現場到着までのタイムラグですか?」
「そうだ。いっそのことアマツカサを海上待機させるか?」
「現実的な提案であると思われます。」
「よし、アの国近海に待機させておいてくれ。おそらく今月中には動くだろう。」
「イエス、マスター。」
「そーいえば、ハヤブサの瞳の色は本体(船)と一緒にいれば変わらないんだよな?」
「イエス、マスター。」
「興味本位で聞くんだが『水』の時は何色に?」
「瑠璃色です、マスター。」
「瑠璃色・・・ウルトラ・マリン・ブルーか、成程ね。できれば使いたくないな。」
★ ★ ★
そんな会話が当のアの国で交わされているとも知らず、
アの軍勢はシズの国手前の自由国境地帯、
すなわち街道沿いまで兵站を延していた。
アの国の同盟国は、軍こそ派遣しなかったが補給、整備、
輸送といった部分について応援をしてくれたのである。
他の国についても事情は同じで、
いきなりの正当性無き下剋上という前例を作ることを良しとしなかったのである。
これを許せば悪しき前例となり、
中原に無用な戦乱の火の手が上がらないとは限らない。
また、それとは別に周りの国々がアの国に友好的であるのは、
彼らの同盟国であるシズの前国王に竜殺し(ドラゴンスレイヤー)が合力しているという噂である。
誰も完全に信用しているわけではないのだが、
ついつい前国王の側についてしまいがちであった。
兵站も十分なアの国側は、
ついに黄の月6朝9つをもって戦前の口上の使者をシズの国に送った。
これは話し合いの用意が無いのであれば戦になりますよ、
という最後通牒である。
暫くして口上の使者が戻ってきた・・・
口上は決裂、明日朝9つをもって開戦するという内容であった。
なかば予想していたこととはいえアの国の兵士たちの胸中は複雑だ。
それはそうだ、自分達の愛する国ではなく王の妃の国だ・・・
どうしても命まで懸ける気にはなれない。
これで死んだら無駄死にというものである。
そんな気分が1番隊に蔓延していた。
そんな中、1人鎧兜に身を固め前に進み出た人物がいた。
シズの国、前国王その人であった。
ユニック(※5)・・・車両積載型のトラッククレーンのこと。
本来は古川ユニック(株)の製品のみを言う。
次回更新日は日曜零時(10月4日)です。
このお話を気に入ってもらえれば幸いです。




