5-1.約束
南方の王宮の1室に慌てた足音が響いた。このところ毎日である。
「カラム、カラム!」
「はっ!王よ、カラムはこれに。」
「おおっ、例の件、その後どうなっておるか?」
「それが、どうしたことか進展が見られませぬ。」
「己に与えられた武器がどのようなものであったか、忘れてしまうことなどありうるものなのか?」
「それがどうにも要領を得ない話でありまして・・・そもそも武器を下賜したのは我々でありまして。」
「それが問題よな、我にも記憶が無い。どんな武器を造り、下賜したのか・・・」
「シズ教団精鋭500名のうち、特に信仰篤き者50名で謀反を成功させたのですが・・・」
「そうだ、その50名に新兵器を・・・ん、何の話だったか。」
「精鋭50名に下賜した新兵器です。何人かが実物を持っておりました。これを調べたのですが・・・」
「まさか現物があって分からぬと?」
「ただの鉄の棒と鉄の玉なのです。後は分解した時に黒い砂のようなものがでてまいりまして・・・」
「それは何だ?」
「それがとんと分からず、今は錬金術師に調べさせております。」
「今は国民も宮廷も静かだ。国民など王が誰でも関係ないのであろう。問題は税率なんだろうよ。」
「ははっ。」
「税さえ上げなければ国民は何も言わぬ。騎士団さえも近衛達を別にすれば忠誠は変わらん。儂が王だ。」
「ははっ。」
「今問題なのは例の50名を近衛兵と入れ替えたいと考えておるのだ。」
「近衛兵と入れ替えですか?」
「前国王に一番忠篤き者は間違いなく近衛の連中だ。それを入れ替え足元を固める。人件費もかからん。」
「なるほど。ただ人を増やすだけでは何処から金を出すのか、と宮廷の連中に突っ込まれますからな。」
「そうだ、そういった細かい配慮が必要なのだ。今しばらくのうちは・・・」
「しかし、彼らは信仰篤きとも剣の心得さえない者ばかり。いくらなんでも心許ないのでは?」
「とりあえず、全員に剣だけは配ったのだが・・・人を殺めたことのない者達ばかりでな。」
「それは仕方ありません、元はただの農民なのですから。だから新兵器を・・・んっ?」
「うむ、信仰心と給金で我らに従っておるわけだからな。でなければ、とうに畑に戻っておるわ。」
「それはその通りですな。それでアの国の方は何と?」
「相変わらず「僭王カーン」の王位に正当性は無い。シズ家に王城を明け渡せと言っとる。」
「芸のないやつらですな、我らはその間に地盤固めを・・・」
「そのための新兵器・・・んっ、新兵器?・・・どうも記憶がハッキリせん・・・」
「あの夜、天から降った火の雨で我らの拠点が焼かれて以来、どうも私の記憶もハッキリせんのです。」
「職人たちは何といっておるのだ?」
「相変わらず、言われた通り造っただけで何をするための物かは知らない、と・・・」
「うーむ、なにか大事なことを忘れているような気がするが・・・」
「それよりも近衛と入れ替えの件、よほど上手くやりませんと逆に反乱を招くやもしれません。」
「おう、それよ。儂が言いたかったことは。事は重大だ、ムスカにも協力をあおぎ上手くやるのだ。」
「それまでは50名は各々の家で待機させたいのですが、いささか王城が手薄になります。」
「それだ。逆に50名とも手元に置きたいが城内に場所が無い。物置でも納屋でも潰して造らせるか?」
「それが喫緊の課題でございますな。」
「カーン王よ!」
「おお、ムスカではないか。ちょうど良い、今お前の話を・・・」
「それどころではありませぬ!リクオ様がどこにも見当たりません!」
「「なんだと!」」
「リクオ様のことはお前に任せておいたはずだぞ、一体どうしたことだ?」
「それが実は・・・」
「「御留め役の女と一緒にいなくなっただと!」」
「い、いなくなったといいますか、何といいますか・・・武者修行の旅に出ると書置きがありまして。」
「こ、この大馬鹿者!見張りの者たちは何をしておったんだ?」
「それが、その・・・全員リクオ様の当身をくらって気を失っていたようです。」
「それはまずいぞ。リクオ様が『黒き星の者』と、もしヤーンの奴らに知られたら・・・」
「すぐに追っ手を・・・しかし、リクオ様に戻られる意思が無ければ・・・」
「その時はその時です、薬を使ってでも・・・」
「よい、問題点は明らかだ。カラムは近衛の件を、ムスカはリクオ様の件を。共に急ぎだ、よいな。」
「「ははっ!」」
遠ざかっていく足音が3つ、そして訪れるしばしの静寂・・・
★ ★ ★
「それで他国の具合はいかがなものかや?」
「これは姉上、朝早くから申し訳ない。」
「仕方あるまい、それもこれも情けなき弟のためよ。」
「これはしたり・・・今のところどこも様子見、と言ったところかと。」
「ふん、無理もあるまいな。理はこちらにあれど実際に軍を率いてシズを目指すとなると、なかなかな。」
「自国の戦でない上に、兵站費用が馬鹿にならぬ金額でありますからな。」
「何を他人事のように・・・」
「これでも気を使っておるのですよ・・・もし奴らが善政を布くのであれば、それで良いではないかと。」
「お前にその自信は無かったというかや?」
「少なくとも悪い王では無かったと自負しておりますが・・・それは国民が決めることでありましょう。」
「なるほど、落ち込んでいるわけよな。」
「それでも頑張っていられるのは、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)殿の合力があればこそ。」
「何度も聞くがその話、誠に真実であるかや?この大陸でその言葉の持つ意味、分かっていような?」
「むろんです、姉上。だからこそ幼いニケまでも頑張っていられるのです。」
「そういえば見慣れぬ髪型をしておったような・・・」
「あれは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)殿の細君の髪型を真似ているのですよ、仲良くなったようで。」
「ふむ。噂を流してみるかや・・・」
「何の噂ですかな?」
「シズ前国王には竜殺し(ドラゴンスレイヤー)が合力しているという噂をな。」
「そのようなこと、万一不興を買ったら本末転倒・・・」
「なに、構わぬさ。人の噂なのだから。そうとなれば早速夫に相談しなければの・・・」
「申し訳ありませぬ。」
「構わぬ、今となってはそれがアの国の益でもある。それに、できるものなら一度会ってみたいのでな。」
「私ももう一度まみえたいものです。サーガの中の英雄という者は、きっとあのような者なのかと。」
「お前はそのサーガの真っただ中にいるのだということを、もっと自覚せよ。」
「しかし、夢にも等しきことなれば・・・」
「私とて義妹やニケ、それに近衛達の話がなければ誰が信じるものかや。人が船を斬るなど。」
「然り。」
「そう、その近衛達の忠義篤きうちにことを運ばねばならぬ・・・この戦、時間が肝要じゃ。」
「この国、動きますかな?」
「そうでなければ、わらわがこの国に嫁いだ意味がなくなるであろ。」
「確かに・・・」
「時がきたら伝えに来る。それまで、心残り無きようにな。」
「心よりお礼申し上げる。」
「少しはマシな目をする男になったかや。」
「姉上の弟でありますからな。」
「ククッ。言いよるわ、あの泣き虫坊主がのう・・・」
★ ★ ★
「ニケはその髪型がずいぶんと気に入ったようね?」
「魔女のおねーちゃんと一緒。」
「そうね・・・魔法使いに魔女なんて、お伽噺にしかいないものだと思っていたわ。」
「魔女のおねーちゃんに、もらったものがあるの。」
「あら、何を戴いたの?お礼も言っていないわ・・・なぜもっと早く言わなかったの?」
「魔女のおねーちゃんに、人に話すなと言われた。」
「・・・それはお母様が聞いてもいいお話なのかしら?」
「もしものため。」
「もしも?」
「ここのでっぱりを押すと、お兄ちゃんとお姉ちゃんがやって来る。必ず来る。その時が来たら押せと。」
「その時・・・」
「その時、お父様とニケが死んでいたら、お母様が代わりに押す・・・約束。」
「ニケ、お前・・・」
「約束。」
これを書いている今、窓の外は大雨です。
洗濯物を干していたのを忘れていたのは内緒です。
次回更新日は次回日曜日午前零時(9月27日)予定です。
このお話が皆さんに喜んで頂けますように。




