表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/96

5-1.約束

 南方の王宮の1室に慌てた足音が響いた。このところ毎日である。


「カラム、カラム!」

「はっ!王よ、カラムはこれに。」


「おおっ、例の件、その後どうなっておるか?」

「それが、どうしたことか進展が見られませぬ。」


「己に与えられた武器がどのようなものであったか、忘れてしまうことなどありうるものなのか?」

「それがどうにも要領を得ない話でありまして・・・そもそも武器を下賜したのは我々でありまして。」


「それが問題よな、我にも記憶が無い。どんな武器を造り、下賜したのか・・・」

「シズ教団精鋭500名のうち、特に信仰篤き者50名で謀反を成功させたのですが・・・」


「そうだ、その50名に新兵器を・・・ん、何の話だったか。」

「精鋭50名に下賜した新兵器です。何人かが実物を持っておりました。これを調べたのですが・・・」


「まさか現物があって分からぬと?」

「ただの鉄の棒と鉄の玉なのです。後は分解した時に黒い砂のようなものがでてまいりまして・・・」


「それは何だ?」

「それがとんと分からず、今は錬金術師に調べさせております。」


「今は国民も宮廷も静かだ。国民など王が誰でも関係ないのであろう。問題は税率なんだろうよ。」

「ははっ。」


「税さえ上げなければ国民は何も言わぬ。騎士団さえも近衛達を別にすれば忠誠は変わらん。儂が王だ。」

「ははっ。」


「今問題なのは例の50名を近衛兵と入れ替えたいと考えておるのだ。」

「近衛兵と入れ替えですか?」


「前国王に一番忠篤き者は間違いなく近衛の連中だ。それを入れ替え足元を固める。人件費もかからん。」

「なるほど。ただ人を増やすだけでは何処から金を出すのか、と宮廷の連中に突っ込まれますからな。」


「そうだ、そういった細かい配慮が必要なのだ。今しばらくのうちは・・・」

「しかし、彼らは信仰篤きとも剣の心得さえない者ばかり。いくらなんでも心許ないのでは?」


「とりあえず、全員に剣だけは配ったのだが・・・人を殺めたことのない者達ばかりでな。」

「それは仕方ありません、元はただの農民なのですから。だから新兵器を・・・んっ?」


「うむ、信仰心と給金で我らに従っておるわけだからな。でなければ、とうに畑に戻っておるわ。」

「それはその通りですな。それでアの国の方は何と?」


「相変わらず「僭王(せんおう)カーン」の王位に正当性は無い。シズ家に王城を明け渡せと言っとる。」

「芸のないやつらですな、我らはその間に地盤固めを・・・」


「そのための新兵器・・・んっ、新兵器?・・・どうも記憶がハッキリせん・・・」

「あの夜、天から降った火の雨で我らの拠点が焼かれて以来、どうも私の記憶もハッキリせんのです。」


「職人たちは何といっておるのだ?」

「相変わらず、言われた通り造っただけで何をするための物かは知らない、と・・・」


「うーむ、なにか大事なことを忘れているような気がするが・・・」

「それよりも近衛と入れ替えの件、よほど上手くやりませんと逆に反乱を招くやもしれません。」


「おう、それよ。儂が言いたかったことは。事は重大だ、ムスカにも協力をあおぎ上手くやるのだ。」

「それまでは50名は各々の家で待機させたいのですが、いささか王城が手薄になります。」


「それだ。逆に50名とも手元に置きたいが城内に場所が無い。物置でも納屋でも潰して造らせるか?」

「それが喫緊の課題でございますな。」


「カーン王よ!」

「おお、ムスカではないか。ちょうど良い、今お前の話を・・・」


「それどころではありませぬ!リクオ様がどこにも見当たりません!」

「「なんだと!」」


「リクオ様のことはお前に任せておいたはずだぞ、一体どうしたことだ?」

「それが実は・・・」


「「御留め役の女と一緒にいなくなっただと!」」

「い、いなくなったといいますか、何といいますか・・・武者修行の旅に出ると書置きがありまして。」


「こ、この大馬鹿者!見張りの者たちは何をしておったんだ?」

「それが、その・・・全員リクオ様の当身をくらって気を失っていたようです。」


「それはまずいぞ。リクオ様が『黒き星の者』と、もしヤーンの奴らに知られたら・・・」

「すぐに追っ手を・・・しかし、リクオ様に戻られる意思が無ければ・・・」

「その時はその時です、薬を使ってでも・・・」


「よい、問題点は明らかだ。カラムは近衛の件を、ムスカはリクオ様の件を。共に急ぎだ、よいな。」

「「ははっ!」」


 遠ざかっていく足音が3つ、そして訪れるしばしの静寂・・・


          ★            ★             ★  

                           

「それで他国の具合はいかがなものかや?」

「これは姉上、朝早くから申し訳ない。」


「仕方あるまい、それもこれも情けなき弟のためよ。」

「これはしたり・・・今のところどこも様子見、と言ったところかと。」


「ふん、無理もあるまいな。理はこちらにあれど実際に軍を率いてシズを目指すとなると、なかなかな。」

「自国のいくさでない上に、兵站費用が馬鹿にならぬ金額でありますからな。」


「何を他人事のように・・・」

「これでも気を使っておるのですよ・・・もし奴らが善政を布くのであれば、それで良いではないかと。」


「お前にその自信は無かったというかや?」

「少なくとも悪い王では無かったと自負しておりますが・・・それは国民が決めることでありましょう。」


「なるほど、落ち込んでいるわけよな。」

「それでも頑張っていられるのは、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)殿の合力ごうりきがあればこそ。」


「何度も聞くがその話、誠に真実であるかや?この大陸でその言葉の持つ意味、分かっていような?」

「むろんです、姉上。だからこそ幼いニケまでも頑張っていられるのです。」


「そういえば見慣れぬ髪型をしておったような・・・」

「あれは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)殿の細君の髪型を真似ているのですよ、仲良くなったようで。」


「ふむ。噂を流してみるかや・・・」

「何の噂ですかな?」


「シズ前国王には竜殺し(ドラゴンスレイヤー)が合力ごうりきしているという噂をな。」

「そのようなこと、万一不興を買ったら本末転倒・・・」


「なに、構わぬさ。人の噂なのだから。そうとなれば早速夫に相談しなければの・・・」

「申し訳ありませぬ。」


「構わぬ、今となってはそれがアの国の益でもある。それに、できるものなら一度会ってみたいのでな。」

「私ももう一度まみえたいものです。サーガの中の英雄という者は、きっとあのような者なのかと。」


「お前はそのサーガの真っただ中にいるのだということを、もっと自覚せよ。」

「しかし、夢にも等しきことなれば・・・」


「私とて義妹やニケ、それに近衛達の話がなければ誰が信じるものかや。人が船を斬るなど。」

「然り。」


「そう、その近衛達の忠義篤きうちにことを運ばねばならぬ・・・この戦、時間が肝要じゃ。」

「この国、動きますかな?」


「そうでなければ、わらわがこの国に嫁いだ意味がなくなるであろ。」

「確かに・・・」


「時がきたら伝えに来る。それまで、心残り無きようにな。」

「心よりお礼申し上げる。」


「少しはマシな目をする男になったかや。」

「姉上の弟でありますからな。」


「ククッ。言いよるわ、あの泣き虫坊主がのう・・・」


          ★            ★             ★  

 

「ニケはその髪型がずいぶんと気に入ったようね?」

「魔女のおねーちゃんと一緒。」


「そうね・・・魔法使いに魔女なんて、お伽噺にしかいないものだと思っていたわ。」

「魔女のおねーちゃんに、もらったものがあるの。」


「あら、何を戴いたの?お礼も言っていないわ・・・なぜもっと早く言わなかったの?」

「魔女のおねーちゃんに、人に話すなと言われた。」


「・・・それはお母様が聞いてもいいお話なのかしら?」

「もしものため。」


「もしも?」

「ここのでっぱりを押すと、お兄ちゃんとお姉ちゃんがやって来る。必ず来る。その時が来たら押せと。」


「その時・・・」

「その時、お父様とニケが死んでいたら、お母様が代わりに押す・・・約束。」


「ニケ、お前・・・」

「約束。」

これを書いている今、窓の外は大雨です。

洗濯物を干していたのを忘れていたのは内緒です。

次回更新日は次回日曜日午前零時(9月27日)予定です。

このお話が皆さんに喜んで頂けますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ