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4-10.火星へ行けなかった男 その4

「こんなもんで良かったのですかな?」

「ええ、ありがとうございます。」


 エールの1杯や2杯でこれだけ情報が集まれば十分だ。

 いったんここで話を整理しよう。


「100億を超える民を従えた神代の人々は、その智慧を持って海の底あるいは星々の彼方までその手をのばすほど栄華を極めた。ところがあるとき悪魔がささやいた、君の国だけもっと豊かになれるよ、と。

 必要以上の豊かさを求めたその国は周りの国々を巻き込んだ大戦おおいくさをおこし、地上の人々が死に絶え、わずかに残った人々が歴史をやり直すことになった。そのときの初代統治者が神皇様。」


 このお伽噺は俺の知っている話のアレンジだ。

 神代の人々は俺を生み出した神代人かみよびとであるし、

 深海や宇宙にまで資源を求めるようになったんだ。


 ここで出てくる悪魔、これは象徴としての悪魔だ。

 当たり前だ、本当の悪魔がいるものか。

 つまり「迫りくる巨大隕石から君の国だけは助かるよ」という誘惑に負け

 たのだ。


 もちろん他国を巻き込んでの生き残り競争となった。

 ある国は深海へ、ある国は大深度地下へ、またある国は地球衛星軌道に。


 だが、もっとも富と権力を持つ一部の者達は火星へ移住しようと考えた。

隕石衝突の日までテラフォーミングを行い、選ばれた者だけ移住するという計画だ。

 この時のハイパーテクノロジーについは俺にも分からない。

 当時の人類にそこまでの技術があったのだろうか?


 これら各国の動きとは別に国連軍は隕石の破壊を試みた。

 だが、核弾頭はあっても宇宙ロケットが圧倒的に不足していた。

 ほんの僅かな宇宙ロケットに核弾頭を満載して地球を発進したのはいつだ

 ったか・・・

 火星避難派の宇宙船を強奪した過激派も何組かいたようだが、

 実際に運用はできなかったらしい。


 国連軍の計画により巨大隕石は大隕石程度になった。

 後は残りの大陸間弾道弾や、長距離弾道弾、中距離ミサイル果てはトライデントやトマホークに至るまで全てに核弾頭を搭載した。

 地球に衝突するまでのわずかな時間に望みをかけて世界中のミサイルが集まった。

 これは比喩ではなく、地球の反対側からも全ての核弾頭を輸送してきたのだ。


 世界人類が(一部を除き)これほど一致団結したのは有史始まって以来だと、

 俺の教育担当者は笑っていた。最初からこの行動がとれていたならば、

 地球の未来も変わっていたはずだと・・・

 しかし、いずれにしろ死の灰と核の冬は免れない。

 だから俺達は生まれた、いや生み出された・・・

 先天的に高い耐放射線能力、同じく高い生存能力を持つ俺達が。

 そして核の冬のあとで地上に出て、人類の歴史をやり直さなければならない。

 もちろんそのためには動植物にも同じような遺伝子組み換えを行い、

 新しい大地で生きてもらわなければならない。


 そこで彼等は興味深いことを言っていた。

 人類が破局を迎えるのは、その高い学習能力のせいだと。

 もし一定以上の進化がなければある種のパラダイスが発生するのではないかと。

 そして、戦争などを繰り返すのは共通の敵、天敵がいないからだとも言っていた。


 だが俺達には関わりない事だった。

 俺達アインとツバイは人類初のデザインヒューマンとして、

 あらゆる治験、実験、実戦を完璧にこなし、火星行きのパスポートを手にしていた。

 アインが突然死するまでは。


 アインの死亡理由は徹底的に調べられた。

 ここでつまずくと人類のやり直しができないからだ。

 国連軍が核を使った以上、

 人類生き残り部隊は全員デザインヒューマンでなくてはならない。


 結局のところアインの死亡理由は受精時の核の損傷だということだ・・・

もう今となっては嘘か本当かは分からない。

 分っているのは、アインと約束した分まで俺が火星で生きねばならぬことだけだ。


 俺達はもしどちらが死んでも必ずその分を生き抜こう、

 自殺は決してしないと約束していたのだ。

 俺はアインを愛していたのかもしれない。

 だが、俺達は愛について教わっていない。

 だからこの感情が愛なのか俺には分らなかった。


 結局、火星にさえ行けなかった俺は、

 自殺をすることさえできずにここにいる。

 俺に残っているのは火星に行った奴らへの復讐心だけだ。

 俺とアインとの約束を破らせた奴らへの。


 遺跡と呼ばれるものは火星行きの宇宙船であることは想像がついた。

 それが各地にあることも聞いた。

 数が多いのは、地球衛星軌道の避難用施設が混ざっているからだろう。


 しかしあれらのセキュリティセクションは、

 デザインヒューマンの手のひら認証とDNAでは開かない。

 オリジナルの人類が必要なんだ。

 あのテクノロジーは公開されなかったから、誰も動かせないのも当然である。


 だがもし遺跡を動かした奴がいるとすれば・・・


          ★            ★             ★  

                            

 俺はアの国に来ていた。

 胡椒1樽をクの国で換金したので当分旅費に困ることはない。

 言語についてもどの国の生き残りグループと接触しても大丈夫なように徹

 底して叩きこまれていた。

 そして世界中の格闘術、解毒術などをはじめとした生存技術に精通してお

 り、1人旅に全く不安はなかった。


 そして俺はここ、アの国の酒場で興味深い噂を耳にした。

 リッカトーンという名の港町にあった遺跡が一夜でなくなったこと。

 それは1か月前にヤーンの巫女により予言されており、大難が小難ですんだこと。


 俺は神など信じない。俺が信じていたのは世界中でアインだけだった。

 だから俺が地下施設で目覚めた時もそれほどの失望感は無かった。

「ああ、やはりな。」といった程度のものだった。

 アインと俺は2人でいたから価値があったのだろう、

 だから俺は地球に残されたんだろう。

 アインの分も火星で生きるはずだった俺は目標を無くした。

 だからリッカトーンの事実をありがたく感じる。

 遺跡は神代人かみよびとでなければ動かせぬ。

 それが動いたとなれば意味の無くなった俺の人生に、

 復讐という意味が与えられるのだ。


 俺はヤーンの神殿に向かうことにした。

 人は群れると神や王を求めるものらしい・・・

 ここの予言者が誰なのか知りたかった。

 だが俺は国を行き過ぎてしまったらしい。

 相手は『エムトの聖女』様らしい。

 普段はエムトの国のヤーンの神殿にいるらしく、

 後戻りをしなくてはならない・・・まあ、急ぐ旅ではないが。

 

 地理だけはさっぱり分からない。

 俺の知っている地理の知識は今のところ何の役にも立たないようだ。


          ★            ★             ★  

                            

 その巫女はおかしな動作―――人差し指と中指で手刀を作って縦と横に宙を切った―――を行い、その上でこういった。


「この部屋には「目」と「耳」がおります。」


 俺は反射的に懐へ手を入れ、

 取り出した千本(※4)を壁と天井に突き立てた。

 俺としたことが隠形に気付けなかった。

 これが害獣や毒虫だったら・・・


「見かけ通りではない、ということか?」

「これが私の日常です。」


 なるほど、思っていたより簡単な仕事ではないということか。


「目と耳を患ったものに暇をだすといい、手製の毒が塗ってある。」

「そういたしましょう。」


「教徒でもない俺に、順番を無視してまで会う気になったのは「火星」のせいか?」

「今、その言葉を知るものは多くありませぬ故。」


「遺跡の消失をどのように知った?」

「私は「先読みの巫女」であるが故。」


「遺跡を動かした本人から聞いたのではないか?」

「遺跡は人の動かせるものではありません・・・何故そのようなことを?」


「今回は動いたではないか・・・確かに只人ただびとには無理だ。神代の人間でなければならない。」

「私が行うは「先読みの神託」、失せ人探しなら他をおあたり下さい。」


「呼吸も心拍の乱れもない、これが芝居なら大したものだ。」

「仮にその者を見つけて、如何されるおつもりか?」


 心の動揺を抑えるすべなど、聖巫女にとっては児戯じぎにも等しきことである。


「分かるのか?」

「目の前に参れば分かります。」


「用があるんだ、俺の人生を賭けた大事な用事だ。」

「・・・」


「どうした?」

「今のあなたを見ていたら、「アイン」という言葉が心に浮かびました。心当たりはございますか?」


「・・・」

「おそらく・・・人の名です。」


「俺は神様を信じちゃいないが、貴女あなたは本物だ。人の口からその名を聞くのはいつ以来か。」

「あなたは遺跡を動かされた方を探されている。ならば、遺跡と共にどこかへ消えたのではないですか?」


「そうかもしれん。が、そうじゃないかもしれん。俺にはもう他にどうしょうもないんだ。」

「・・・」


「この件について分かったら何でもいい、教えてはくれないか?金なら出す。もし憎い奴がいれば・・・」

「ここは神殿でございます。余りにそぐわぬ発言はお控えください。」


「しかし巫女でも暮らしには金が必要だ、それに生きていれば殺したい奴の1人や2人は・・・」

「どうか、もうそのへんで・・・」


「俺はまた来るぞ、アンタを本物と知ったからな。このツバイの名、覚えておけよ。」

「次からはどうか、礼儀をわきまえ下さい。」


 そう言うと、彼女はヤーンの聖句ルーンを唱えた。

 それは会談終了の合図だった。

 男はぶつぶつ言いながら帰って行った。

 無理やり割り込んだのだから文句は言えまい。


「あれが神代の眠りより目覚めた神代人かみよびとですか。本当に恨んでいるようですね。」


 「先読みの巫女」は1人長いため息をついて考えた。

 ドアから入ってこない男のことを。

 遺跡を動かしたのは「彼」だ。

 だが「彼」は彼の復讐の対象とはなるまい。


 もし彼の復讐に対象者がいるとするなら、それは我々だ。

 それを知ったら彼はどうするだろうか?

 

 それから巫女は半日以上残っている今日のお勤めが、

 急に面倒なものに思えてきた。

 「彼」はどうせ好き勝手しているに違いない・・・

 そう思うと無性に腹が立ってきて「彼」を蹴飛ばしてやりたくなった。




千本せんぼん(※4)・・・所謂『隠し千本』のこと。

           昔の忍者が使ったとされる、

           細長い針状の暗器。

ブックマーク登録、どうもありがとうございます。

今後の励みとさせて頂きます。


次回更新日は明後日(9月22日)午前零時です。

このお話で喜んで頂けましたら幸いです。

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