4-8.火星へ行けなかった男 その2
ハヤブサが提示した2か所の写真のうち、
残りの1つはクの国の国境近くの山岳地帯であった。
そこは大変な岩場と昼夜の温度差が激しいことで知られていた。
そこが有名なのは、そこが「胡椒の道」と呼ばれる交易路となっていたからだ。
クの国の海の渦潮は暖かい時期にならないとなくならない。
しかし、胡椒が最も必要とされるのは寒い時期である。
従って、海路をあきらめてこの道で運ぶことになる。
ハヤトとハヤブサがアマツカサでここに到着したのは12091年青の月の10だった。
レイメイ達とアの国で再会を約束したのは2日後だ、十分間に合う。
アマツカサを光学迷彩オンのまま山麓におろし、2人は写真の場所へ急いだ。
そこは巨大な岩で高さは100mを軽く超えているだろう、正に天然の要塞である。
近づくと岩と岩の間に細い隙間がありそこを500mほど進むと、
光が差し込まず照明が必要になった。
そこに周囲には全くそぐわない鋼鉄の扉があり、その扉は開いていた。
「どうやら眠り姫は目覚めてしまったらしいな。」
「イエス、マスター。」
「奥へ進むぞ。」
「イエス、マスター。」
10の扉を越えると鋼鉄の広間に出た。
そしてそこには地下に降りるための階段と、
開けっ放しとなった階段ハッチが目に付いた。
ハッチの厚さは30㎝程もあろうか、2人はこの階段を下りて行った。
50階を数える頃、階段は終わり目的の地に着いた。
そこにはやはり無数のコールドスリープ・カプセルが整然とならんでいた。
「ハヤブサ、何かわかるか?」
「目覚めし姫は1人だけのようです。そしてここは24,000年眠るための場所ではありません。」
「どういうことだ?」
「ここはかつての核攻撃拠点。それを利用した、暫定的なスリープ場所と推定される。」
「というと?」
「地表が人の生存環境に適したものになれば、眠り姫達が解放されたはず。」
「なら、とうに生きている人達と一緒に暮らしているはずでは?」
「何らかのマシントラブルによるものと推定される。現に今、この施設の原子力電池は稼働していない。」
「なら、前の施設も・・・」
「おそらく。」
「じゃあ海にも同様の施設が・・・」
「その可能性は高いとハヤブサは考える。そしておそらく宇宙にこそあったはず。」
「宇宙だと?」
「イエス。陸、海、宇宙に同様の施設をつくり一定周期ごとに覚醒させ、地表の状況に合わせて送りだしたはず。遺跡と呼ばれる一群の宇宙船は、地球周回軌道から降りてきた施設の一部と推定される。」
「じゃあ俺は考え違いをしていたのか?最初から24,000年も眠る気は無かったんだな?」
「82%の確度でイエス。陸、海、宇宙から神代の子孫たちが、地表に現れる予定であったと推定される。」
「なぜ陸、海、宇宙に?」
「単純に生存確度を上げるためと推定される。その中でも宇宙はもっとも確率が高かったはず。」
「保険が有効に機能したわけか・・・」
「ヤーンに確認した範囲では、現在地球周回軌道をとる宇宙船は存在しない。故に全て地表に降下したはず。もっともステルス機能を備えた宇宙船の存在も否定はできない。」
「それはつまり地表が人の生存環境に適したものになっていた、ということか?」
「イエス。」
「ならば、全ての施設からデザインヒューマン達は地表に進出しているはずだな?」
「イエス。蓋然性の問題。」
「説明を求める。」
「地表が人の生存環境に適したものになっていたとしても、他の要因で実現が阻害される可能性がある。」
「今回のようなマシントラブルとか?」
「イエス。」
「では海の施設を探すのは無駄ではないな?」
「50%の確度でイエス。」
「この施設の他の部屋には動植物、恐竜などもいるのか?」
「種子や卵の形で保存されているはず。その他、食料や生活支援物資等があると推定される。」
「今現在、何らかの生命反応はあるか?」
「全く認められません。」
「帰ろう・・・」
「イエス、マスター。」
「そういえば、ここで目覚めた1人は良く生きていられたな?」
「おそらく生存能力に特化したタイプ。各種のタイプがいたはず。ちなみにハヤブサは特S級セクサロイド。」
「そ、そうなのか?いやに戦闘能力が高そうだが。」
「ハヤブサには全てのデザインヒューマンの能力がフィードバックされている、一番最後にロールアウトされた最新型。残念ながら奥歯に加速装置はついてない。」
「そこ・・・笑うとこ?」
「イエス。」
★ ★ ★
アマツカサに戻った2人は岩の通路だけを塞ぐことにした。
あたりを確認してアンチマテリアル・カノンで大岩を崩した。
これで当面問題はないだろう。
俺達は基本的に日中は光学迷彩をオンにしている。
遺跡が空を飛ぶのはやはり問題なのだ。
そのままアの国の沖西方10㎞に着水し、
俺はハヤブサに乗り換えアマツカサには海底施設探索の続きをお願いした。
アの国に来るのはいつ以来だろうか?
俺が初めて訪れた国であり、感慨深いものがある。
港に着くと早速やって来た役人に白を15をわたす。
久しぶりの港なので食料品を忘れずに買い込んでおく。
アマツカサにいるときは宇宙食ばかり食わされた。
キャフェイン茶に生野菜も忘れてはならない。
ストア(倉庫)をスッカラカンにされたからな。
もっとも牛肉だけはチャンバー(糧食用の冷蔵庫)に残っている。
そうだ、今のうちに食っちまおう。
俺は塩・胡椒だけで味付けしたサーロインを200gとサラダと白パンをミルクで流し込んだ。
ちなみにハヤブサは素材調整ドリンクを1日1回摂取すれば大丈夫らい。
一般食も食べられるが効率が悪いらしい。
さあ、久しぶりに優雅なキャフェイン茶タイムだ。
豆を炒るところから始まる。
そして臼で挽く・・・飲みたい分だけ作れて美味い・・・
などと思っていると無粋な客がやって来た。
「マスター、お客様のようです。」
「分かった、俺が外に出る。連中を中には入れるな。」
「イエス、マスター。」
「それから連中の馬車を監視し、分かったことを即時俺に伝えろ。」
「イエス、マスター。」
俺が甲板にでると、客人がハヤブサの前の岸壁に立っていた。
「冒険者パーティー『つばさ』でよろしかったか?」
「あいにく冒険者は2日後まで休業中だ。」
「そこを曲げて本日依頼をしたい。」
「無理だ、俺は新参の留守番だ。決定権は無い。」
「いや。我々は君とこの船に用があるのだよ、ハヤト君。」
(マスター、馬車はランキャスター伯爵の銘が入っております)
「そうランキャスター伯爵に言われたか?」
「何故当家を?私の顔も有名になったものですな。困ったことです、私は裏役ですのに・・・」
「で、用というのは何だ?」
「依頼を受けてもらえるのですかな?」
「依頼内容を聞かずに受諾する馬鹿者はおるまいよ。」
「依頼を承知してもらわねば、内容は話せぬ。」
「では依頼決裂だ、この話断らせてもらう。」
「君に決定権は無いのでは?」
(マスター、馬車の中に弓射ちが。矢が狙っています。)
「だが、俺と船が必要なんだろ。クの国まで行けるこの船が。」
「貴様、何故それを!」
「おや、当たりだったかい?」
「おのれ~、貴様、何故クの国と貿易せん?アの国の胡椒の品質は知っておろう!」
「だからだよ。」
「なにィ!」
「冒険者が渦潮横断に挑むのは冒険だ、ご褒美に胡椒が金貨に変わる。だが2度目、行けると分かっている海を渡って貿易するのは冒険者じゃない。それではただの商人だ。」
「みすみす手に入る金貨を見逃すというのか?」
「この仕事を受けるということは、アの国の商人ギルドを敵に回すということだ。」
「そんなものが何だ、ランキャスター家が後ろに着くのだぞ?」
「だから表の怨みを俺達に受けろと?ご免だな・・・」
(マスター、矢が来ます!)
俺は1歩だけ左に動いた。その空間を矢が通り過ぎていく。
「冒険者に喧嘩を売るように言われてきたのか?よし分かった、買ってやろう!」
「ま、待ってくれ。これは何かの手違いだ、敵対の意思はない。本当だ!信じてくれ!」
「手違いで矢が飛んでくるのか?次に手違いがあるとアンタはこの海に沈むぞ?賭けてもいい。」
「わ、分かった、2度の手違いは無い。だがもし貿易をするのであれば当家のことを思い出してほしい。」
「・・・パーティーリーダーに伝えておくよ。これ以上、俺のティータイムを邪魔しないでくれ。」
「確かに伝言は伝えたぞ。ではこれにて失礼する。」
「最初からそう言えばいいんだ。まったく・・・」
次回更新日も日曜深夜零時(9月13日)です。
このお話を気に入って頂けたなら幸いです。




