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4-7.火星へ行けなかった男 その1

 そこは昼暑く夜寒い、人が暮らすには最低の場所だった。

実際このあたりには誰も住んでおらず、

 獣も寄り付かない有り様だった。そこを商人の一行が歩いている。

 と、いっても2人連れだ。

 昼の暑さが弱まり、

 夜の寒さが始まる前の一番いい時間に距離を稼いでおかねばならない。

 実際ひどい道中で運ぶ荷と飲料水が同じ重さときている。

 まあ、水は飲むほど軽くなるからいいが・・・


 馬が使えればいいのに・・・ジョフィーは考える。

 この岩だらけの場所さえなければ馬車でこれるのに。

 そうすれば荷をいっぱい積んで、水だって。


 最もそうなれば誰もかれも同じ取引を始めるだろう。

 クの国との香辛料取引を。

 結局、馬車で来れるところまで馬車で運び、そこからは人が運ぶのである。

 水が傷みはじめる1週間を目途に、運べるだけの胡椒を運ぶ。

 ここの加減を間違えると、岩肌にしかばねをさらすことになる。


 事実、もう何度も目にしてきている。

 だから、必ず少しは水が余るように荷を選ぶのだ。

 ここさえ通り抜ければあちら側に馬車が待っているはずだ。

 そういう契約である。ジョフィーは商人になってもう10年。

 ベテランとは言わないが、駆け出しと呼ばれる年でもない。

 あちら側とこちら側の馬車代、それに仕入れの金。

 それを差し引いても美味しい商売なのだ。だから無茶をする奴が後を絶たない。


 そういえば去年、

 クの海の大渦を乗り越えて胡椒と丁子それぞれ1樽づつ持ち込んだ冒険者の話を聞いた。

 こういう話は尾ひれがつくもんだが、

 冒険者たちは4人いて計8樽を運び込んだという。

 しかもその内1人は女だというではないか。


 あの海を乗り切れる船や船乗りの話なんざ聞いたことが無い。

 そんなことができたら今頃港は人であふれてる。

 現にその冒険者の噂だって全然聞こえてこない。

 噂が本当なら毎週船を出すところだ。月に1度でもいい。

 それが無いってことはそんな奴らはいないのか、金貨嫌いのどちらかさ・・・

 そんなことを考えながら岩場を歩いていると、丘の上から誰かがやってくる・・・

 ありえねえ、この先にあるのは大岩ばかりだ。人なんて・・・


 だがそれは、蜃気楼でも目の錯覚でもなく紛れもない人であることを、

 さしものジョフィーも認めないわけにはいかなかった。

 思わず横にいるヤンに確かめてしまった。


「おいヤン!俺は目か頭のどちらかが、どうにかしちまったらしい。こんなところに人が見えるぜ。」

「ジョフィー、俺も同じことを聞くとこだった。」


「じゃあ、あれはホントに人か?」

「盗賊のようには見えんがな・・・」


 盗賊なら人に会う前に自分が餓死してる事だろう。

 こいつは、俺の知らない「どこか」から来たのだ。

 その男はそのまま俺達の方に近寄ってきた。


「Or words know ?」「或單詞知道?」「Или слова знаете?」「言葉分かるか?」

「わ、分かる。」

「俺も分かる。」


「すまん、人と話すのは久しぶりなんだ。今は・・・いったい何時いつだ?」

「神皇歴12091年青の月の6だ。」


「神皇歴・・・12091年・・・青の月・・・目が覚めたのは、俺だけか・・・実験は成功か?」

「あんた、いったい・・・」

「何者だ?」


「俺かい、俺は「復讐する者」さ。」

「誰に復讐するんだ?」


「火星さ。」

「火星?」


「誠に申し訳ないが、水を分けてはくれないか?」

「み、水か・・・水だけはな・・・」

「分かるだろ、水と食料ちょうどでこの荷物運んでんだ。」


「ならその荷物、俺が持ってやる。それならいいだろ。」

「えっ!、樽2つだぞ、正気か?」

「正気なのか・・・」


「力には自信があってね。」

「本当に持てるとはなあ・・・しばらく一緒に歩いていいか?」

「疑ってるわけじゃないけど、なあ?」


「構わんよ、お前さんたちは商人か?この臭いは胡椒だろ。」

「そうだ、クの国へ向かうところだ。」

「平気で歩いてるお前さんを見てると、お前さんに復讐される奴が気の毒になって来たな・・・」


          ★            ★             ★  

                            

「すまないな、貴重な水を分けてもらって。」

「いや、これを運んでもらえるなら・・・」

「俺は少し余る計算で水を持ってきてる。」


「この岩場を抜けたらどうするんだ?」

「街まで行く馬車が待ってる手筈だ。」

「もうこれで4度目の取引なのさ。」


「これは俺からの提案なんだが、街へ行くまで俺を護衛に雇わないか?」

「護衛?」

「何故、急にそんなこと・・・」


「俺の勘じゃ、待ってるのは馬車だけじゃないからさ。」

 俺達は2人して黙ってしまった。男の言葉を笑い飛ばせないのである。


「こちらは風下だ。俺は鼻が利いてな・・・血の臭いだな。今日はここまでにしておこうか。」


 とりあえずここで夜を明かそう、ということである。


「いつもの馬車が来ていたら、護衛の件はなしでいいか?」

「構わんよ。ただし3人までの盗賊だったら、この樽1つもらうぞ。」


「それは酷い!」

「盗賊が4人以上だったら?」

「盗賊が4人なら、俺1人で2人を助けて戦うのは無理だ。その時は、どちらか死んだ方の樽をもらう。」


「・・・」

「・・・」


「どうする?」

「なんとかならんか?」

「4人までなら、1人を助けられるんだな?」


「まあ、そのくらいの自信はある。」

「何か策があるのか?」

「苦肉の策、というやつだ。」


          ★            ★             ★  

                            

「これはこれは。貴重な胡椒2樽のおでましだぜ!」

「おかしいな、話では2人組と言ってたぜ?」

「お前、この2樽かついでここまで来たのか?」

「妙だな・・・」


 盗賊4人組が話をしている最中、堂々と荷物を置くとノビを始めた。

「あー、肩こった。」


「お、お前、俺達が誰か知らねえようだな?」

「知ってもすぐ、死んじまうけどよ。」

「それにしてもこいつ、全然ビビッてねえ。」

「死んじまえば一緒さ!」


 4人目の男が、言いざまに矢を射てきた。

 男は地面に転がって矢を避けながら、手ごろな小石を弓使いに全力投球した。

 明らかに、人の頭からしてはいけない音がした。


 そこからは乱戦である。

 男は腰の後ろに差していたショートソードを引き抜きざまに一番近い男へ襲いかかった。

 盗賊が慌てて剣を抜こうとするところ、足先で剣の柄をおさえ、

 そこを支点に跳躍しながら頭を断った。

 残り2人はようやく剣を抜いたところであった。

 その1人にショートソードを投げつけ、自分が今殺した男の剣を奪い襲いかかる。

 一瞬で2人が殺られた。3人目は焦っていた。

 だから急に飛んできたショートソードに大きく体をずらしてしまった。

 そこへ、剣が槍のように飛んできて腹を貫いてしまった。

 最後となった4人目の男は、

 相手が悠々と自分のショートソードを拾い上げるのを見て激高した。


「なんだ、その出鱈目な剣は。10のガキの方がマシな剣を使うぞ!」

「ほう、剣に出鱈目とかマシとかあるのか。俺はてっきり生き残れる剣が正しい剣だと思っていたがな。」


 ショートソードを構えると高速で走り寄ってくる。

 ショートソードが軽いせいもあるが、相手の手数が見えない。

 どこを斬りつけられているのか分らない。手先に切り傷が増えてきた。

 斬り合い負けしている。

 今日は商人相手だと聞いて手甲を付けてこなかったことが悔やまれる。

 こちらの刃の方が長いんだ、突き合いになればこちらに利がある!


「突きィーーー!」


 相手の突きに慌てず、むしろ待っていたかのようにショートソードを顔面に投げつけた。

 両手を伸ばした態勢であったため、

 慌てて両手を引き戻そうとすると相手も一緒にこちらに向かってくるではないか!

 剣を向ける間もなく、体の中心が爆発するような感触を味わった。

 そして、それが生涯で味わう最後の感触だった。


          ★            ★             ★  

                            

「ありがとうございました。」


 樽の1つは彼への謝礼である。 ジョフィーはもう1樽に隠れていたのだ。

 もちろん隙間には胡椒がいっぱいだ。

 ヤンも今頃2人の水袋を胡椒でいっぱいにしながらこちらへ向かっているだろう。


「私達2人が初めから別の場所に隠れていたら、どうなっていたでしょうか?」

「俺が2樽の胡椒をいただいて、盗賊の馬車で街に向かったさ。」


「やはりそうでしたか。その代り私が危険をおかせば・・・」

「1樽とはいかないが、だいぶんましではないかな?」


「ではヤンが来るまで、盗賊の懐を漁っておきますか。」

「商人というのは時代が変わっても、ちっとも変らんな・・・」

暑さ寒さも何とやら・・・

みなさま如何お過ごしでしょうか?

次回更新日は30日となります。

このお話で楽しんで頂ければ幸いです。

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