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1-5.アの国

 日没前に野宿の用意だ。

 そんな大層なことはしない、ただ見晴らしの良いところに陣取って食事をするだけだ。固いパンに塩気の効いた干し肉と水だ・・・贅沢は敵だ。

 

 当然火など焚かない、獣を呼び寄せるだけだ。3人とも戦闘中は外していた背負い袋から、カッパの様なもの取り出してを身にまとった。それは旅行者用のマントで、雨でなければそのまま眠るものらしい。


 気温が高くて助かった、やはり夏なのだろうか。クジ引きで見張り番を決める、最初は俺からだった。手渡された砂時計を24まで数えたら次と交代らしい。5分計か?風上から何か来るなら臭いで分る、だから俺は風下に目を向ける。


 目を向けながら俺は先ほどまでの話を振り返る・・・夜になっても月は1つか。太陽も1つだったが星がいけない。今が夏なら見えるはずの星座が俺にはちっとも分らない。少なくとも北極星やオリオン座ぐらいは知っている、しかし俺の知る星座の形がそこには無かった。


 1日は24時間で1月は30日、1年は365日で四季があることも聞いた。そのため、いやそうであるが故に俺はここが未来の地球なのかと納得させらてしまった。


 地球でないなら日本語が通じるわけがない。過去へきたのなら弦まで不思議金属でできた大弓や、大きさの割には軽すぎる大剣が説明できない。


 彼らは遺跡からの発掘品だと笑っていた・・・何かが引っかかったが、とりあえず矛盾点がでるまでは現状を是としよう。


 これは決して逃げではない!戦略的撤退いや戦略的思考放棄だ。考えたってわからんもんは、考えるだけ無駄だ。今日1日で何日分考えただろう、みんなから離れたところで、俺は1人日課のトレーニングを始めた・・・


 翌朝は人の気配で目が覚めた、特に夜間に問題は無かったようだ。あれば俺の目も覚めるが・・・


「よう!おはよう、調子はどうだ?」


 ニーが声をかけてくる。


「問題ない、早くアの国へ行きたいよ。」

「アの国の国境は昨日の茶屋よ、もうここは領内なの。」

「そうなのか?とにかく街の様子を知りたいんだ。」


 昨夜と同じような朝飯を済ませると、早速旅路を急いだ。ここまでくれば後4~5時間らしい。街に着くのが楽しみだ。なにしろまだ人らしい人に出会っていない。この時代の人たちの人となりをこの目で確認してみたい。


「アの国は遺跡もあり港町でもある活気のあるところで、きっとハヤトも気に入るさ。」

「そうだ、魚はうまいし女は綺麗だ!」

 フレイはともかくニーがレイメイに睨まれている。本人は気が付いていなさそうだが・・・


「それは楽しみだ、俺のところでは生魚を食べる習慣があったがこちらではどうなんだろう?」


「生魚!」

「食べる!」

「習慣!ヤーンよ、ゆるしたまえ!」


 あーはいはい、仲よさそうだね3人とも。そうですか鮨はありませんか、鮨は。魚が旨いと書いて鮨なのに・・・そうか、こいつら漢字知らねえのか・・・なめろうとかもないんだろうな・・・俺、好きなのに。


「わりと旨いんだけどね、まあ魚の違いや文化の違いがあるってことか。」


「そうね、さすがに生魚はないけど焼き物や煮物にしたものが美味しいわよ。」

「僕は焼き魚が好きだね。ここに来ると必ず食事にでてくるし、美味いよね。」

 うまい、のニュアンスが若干違う気がする。


 そのうち前方に何やら見えてきた。俺の視力でもまだよく分らんが明らかに人工物だ。塀・・・か?

「ハヤトにはもう見えるのか・・・やはり目は良いのだな。あれがアの国の門と守りの壁だ。」


 ぼそりと後ろを歩いていたニーが話しだした。俺が促すような視線をむけると、続きを語りだした。


「害獣は基本的に森や林、山に棲み・・・水に棲むのもいるが・・・街や街道にはでてこない。森や林の植物を喰うヤツがいて、またそれを喰うヤツがいるんだが、例外的に群れから離れて人や家畜を喰らおうと手を出してくるヤツがいる。そのため、守りの壁を国中にめぐらせた・・・何年にもわたる大工事で、税の代わりに壁を造った者もいたそうだ。」


「それはすごいな・・・」

 何というかピラミッド並みの公共事業だな・・・


「そう、すごいんだ。丸太を打ち立て、その内側にさらに丸太を打ち立てる。そしてその間にはかた土をいれ、踏み固めてある・・・災厄クラスがこなければ、無敵の盾だ。」


 なるほど、丸太と土との複合装甲か。無敵はともかく、厚みによっては期待してよさそうだな。そんなことを考えているうちに街はだんだんと近づいてきていた。

 

 先端を尖らせた丸太が天をさし、威風堂々とした街が目の前に現れてきた。


 門は必要最低限の大きさで、塀の防御力を落とさぬよう工夫がされていた。それでもここが街道からの正門であるからなのか、槍を持ち剣を携えた門番(衛兵か?)が4人ほど立哨しているのが見える。俺たちはそこに吸い込まれていく。


「止まれー、代表者は?」


 ニーが走り寄っていく。


「旅人か?身なりからすると冒険者か?」

「はい、みなスンの国からきた冒険者です。」

「そうか、わが国には遺跡もあるし交易も盛んだからな・・・1人白の5だから4人で銀貨2枚もらおうか。」


「分りました・・・はい、銀貨です。それから衛士の方にお知らせしておきますが、俺たちが国境からここに来るまでの間に長足ワニ2頭におそわれました。」

「何っ!長足ワニか、群体ではないのか?」

「はい、2頭だけでしたのでおそらく番いのハグレではないかと・・・」

「そうか、それは仕留めたのだな?」

「はい、我々が!」

「うむ。さすがは冒険者、そうでなくてはな。だが一応警戒のふれはまわしておくか・・・通ってよし!」


 というわけでいよいよ門をくぐり街の中へ入っていった。そこは・・・何というか・・・メルヘンというかファンタジーというか、断言はできないが中世のヨーロッパというのはこんな感じではなかろうかというものだった。肌の色も褐色、白、黄色さまざまで行きかう人に交じって物売りや馬車も見受けられた。


 あー、こりゃ本当に随分遠くまで来たのだな・・・


 長足ワニの段階でうすうす分ってはいたが、ここは確かに俺の知っている世界ではない。俺の生きていた世界ではない。


 元の世界に帰ることは可能だろうか?もう何度目かになる自問自答だ。時間を遡ることはできない、物理法則が許さない。なら、ここが地球と似ている別の世界だとしたら?俺は過去から未来に来たのではではなく、別の世界に連れてこられたとしたら?


 ダメだ、異世界移動なんてハードルが高すぎる!あの風呂敷ヤローは何だったんだ?もう一度会えれば元の世界に戻れるのか?・・・いかんな、思考がループしている。ひとまずこの問題は棚に上げよう・・・なるべく高い棚がいいな。


 街の中に入ってからは3人の後ろについて歩いたが、とある建物の前でニーの足がとっまた。振り向きざま、彼は俺の顔を見ながらこう云った。


「ようこそギルドへ。」

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