4-5.火星旅行 その3
「マスターーー!」
「おおー、ハヤブサか・・・」
それは本当の意味で、ハヤブサの真の姿だった。
純白な帆に太陽風を受け小さな翼を広げている。
美しかった。ハヤブサの内部でも真空対消滅機関が稼働しており、
リミッターが外れたハヤブサはこれで本当に全ての機能を発揮させていた。
「全ての機能が働いている感じはとても気持ちいいものです、やっと本当の私に・・・」
「宇宙・・・真空状態でないと稼働しないエンジンか、難儀だな。今のうちに堪能しておけ。」
「イエス、マスター。全兵装のリザーブタンクにエネルギーを注入しておきます!」
「まあ、次がいつになるか分らんからなあ・・・終わったら帰ってくるんだぞー。」
「イエス、マスター。」
「ハヤブサちゃん、はしゃいでるわね。」
「まあ、あれが本当の姿らしいですからねぇ。」
「ソラを往くフネ・・・か。」
「神代の話は本当だった、てことよね。」
「そーいうことですねぇ。」
「星々の彼方に手をのばした・・・か。」
「じゃあ悪魔の囁きも、誘いに乗った人間もいたってこと?」
「おそらくは・・・」
「そして大戦・・・自分たちの先祖はその時の生き残りなのかもしれんな。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「 その智慧を持って海の底、あるいは星々の彼方までその手をのばすほど栄華を極めた・・・これから行くのは「星々の彼方」の方だ。大戦の前か後に「海の底」か「星々の彼方」に逃げていても、おかしくはない。」
「神代人がいまも「海の底」か「星々の彼方」で生きてるっていうの?」
「仮定の話だ。だからこうして確かめに行く。」
「・・・」
「・・・」
「食事にしよう。」
「うん。」
「ええ。」
「うむ。」
俺達は食堂に向かった。最後の晩餐ではないが、
次の食事は火星でとることになるだろう。
実はこの料理、俺ではなくアマツカサの全自動調理器によるものであった。
「これが生肉を使った、サーロイン・ステーキだ。いけるぞ!そして、新しいエールだ。」
「これ、オイヒー!エールもいける!。」
「なるほど、美味い肉ですねえ。」
「肉も美味いがエールの冷たさがたまらん。」
「さて、いよいよお休みの時間だ。」
「なんかドキドキするわ。」
「なぜかワクワクしますね。」
「うむ。」
「この箱のようなものの中に入って横になるだけでいい。疑問があれば箱が答えてくれる。」
「ふーん、そんだけ?」
「ああ、鼻と口にマスクをつける。それだけだ。」
「ん、分かった。」
とりあえず、やってみようという話しになった。
「4人揃っておやすみなさいだ。」
「ん、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
「うむ。」
カバーが閉じると自動的に無重力となり、かれらを夢の世界に誘う。
しかし、1日経ったころハヤトのカプセルカバーが持ち上がった。
「1日か、悪くはないな。機能も問題なさそうだ。」
「マスター 、おはようございます。」
「おはよう、ハヤブサ。」
「調子は如何ですか?」
「問題ない。ただ往復の約240日間、リクオに対して俺だけが修行しないという選択はない。」
「それで、お1人残られたのですか?」
「もともとその予定だった。それに・・・ハヤブサがいる。」
「ありがとう・・・ございます。」
今気がついたが、なぜか破壊力抜群のセーラー服姿だった。
さすが俺のデザイン、いい仕事だ。
ネコ耳こそ無いもののセーラーにポニテのメガネっ娘だ、
くそ、頑張れ俺の理性!負けるな俺の理性!
★ ★ ★
・・・・・・ハヤブサは強かった。俺の理性は場外リングアウト負けをくらった。
「マスターが気にすることはない。」
「気にするの!感情に流される自分が嫌だ・・・」
「これは元々ハヤブサの使命。やっとクリアできて嬉しい。」
「そうなのか。」
「早くシャワーを浴びて朝食を採るべき。」
「あ、ああ、分かった。・・・・・・なにげに命令口調?」
おかげで俺は規則正しい食性活と、鍛錬の時間を確保することができた。
なにしろ宇宙戦艦である。
俺1人で発勁をしようが震脚をしようが、全くびくともしない。
それはもうびくともしない。
なお、ハヤブサの義体とやらはとてもスペックが高く、
驚いたことに俺の動きをトレースしてしまう。
実戦をすれば俺が勝つだろうが、いいところまで喰いついてくる。
これは嬉しい誤算だ。
いいトレーニング相手ができた。もっとも本当の実戦は試せない。
俺かハヤブサが壊れてしまうから。
俺の流派には1つの掟があり、
継承者は自分の代で必ず新技を編み出さなければならない。
もちろん、今までにある技を改良したり連続技を組み立てるといった事でも、
工夫があればよいのだ。
俺の頭にある技は俺が実現できなくとも、
ハヤブサだと実現してしまいそうで冗談にならない。
人の限界を越える・・・この構想が実現できれば俺はまた世界最強に一歩近づく。
★ ★ ★
だいぶ火星が近づいてきた。地球を出てから120日である。
最大望遠で火星を臨めばかなり大きく見ることができる。
見たくないものと一緒に。
仕方ない、みんなを起こすか。もちろんハヤブサは服を着替えている。
アレはみんにはまだ早い・・・
俺は3人の覚醒ボタンを押したのだった。
「どうだ、調子は。シャワーでも浴びればいいと思うぞ。」
「「「そうする。」」」
ハヤブサがウェイクアップ・ドリンクの用意をしている。もちろん俺も貰う。
「スッキリしてて美味しいね。」
「体に染みわたりますね。」
「美味い。」
ハッカ味の栄養剤で、コールドスリープで不足した栄養素がまとめて入っている。体が欲しがる味だ。
「もう、かなり大きく見えるだろう。あの赤い星が火星だ、俺達が120日かけてここまで来たんだ。」
「かせい・・・明けの明星・・・120日。」
「冗談みたいですねえ、でもホントに周りは星ばかりですねえ。・・・宇宙、と言うんでしたっけ?」
「うーむ、あの赤い星を見てると怖くなるな・・・」
「大きくして見ると、もっと怖くなるんだ・・・これが最大望遠だ。」
「おっきく見えるねー。」
「ん、でも星の周りに変なのが見えませんか?」
「うむ、粒々のような・・・あれはいったい何かな?」
「これからどんどん近づいていく。アレの正体が分かる。」
「アレ?正体?ハヤトにはもう分かってるの?」
「予想はついてる、だが当たってほしくないんだ。」
「そう・・・」
最大望遠で全天スクリーンに写されたその画像は・・・
「あれは、遺跡の「ソラ往くフネ」なんじゃ・・・」
「あれが全部そうなんですか?」
「神代の昔、みなでここまで来たのだな?」
「この星の周りをまわってる・・・なんで?」
「僕らと同じようにここまでやって来て、この星で暮らそうとしたんですよね?」
「何かが、この星に何かがあって住めんようになったか。」
「3人とも正解だ。この星で疫病か何かがおこり、地上に降りられなくなってしまった。なんとか治療法を探したが結局ダメだったらしい。そして、そのままフネの中で・・・アレは、神代の棺桶なんだ。」
火星の周回軌道をまわるそれは、土星のリングにも似た棺桶の群れであった。
火星にも降りれず(降りた者もいただろうが)、
地球にも帰れず(帰った者もいただろうが)、
宇宙船の中で死んだのだ。
自分たちが暮らすはずだった星を目の前にしながら、
宇宙船の中で暮らすのはどんな気持ちだったであろうか。
最後まで原因を探りつつ、ここで果てたのだ。
「アマツカサ、12,000年経てばウィルスも死滅しているのではないか?」
「断定は危険です。ある種のウィルスは何万年の時を越えます。」
そうか、そして絶望の中で地球に戻ってきた宇宙船が、
いま地球にある遺跡となったのだ。
あるいは天変地異により飛び立つことが出来なかった宇宙船か。
飛びたてなかった人類と火星から戻ってきた人類、
彼らはどこへ行った?海かに潜ったか地に潜ったか。
彼らこそ、デザインヒューマンの礎となったのだろうか?謎は却って深まった。
お盆特別進行無事完了。
これからは平常運転に戻ります。
燃料(感想等)をもらうと単純な筆者は喜びます。
次回更新予定日は23日です。
このお話が気に入って頂けますように。




