4-3.火星旅行 その1
俺達は牛肉を買い込みアの国へ向かっている。
なぜなら俺は「人の世の末」を見守らなければならないらしい。
俺の推測が正しければ、人類は火星に行ってない。
が、万が一にも移住したグループがあるとするなら、
彼らは12,000年後に帰ってくるだろう。地球に・・・
この時、どんな軋轢が生じるのか俺には分らん。
だが24,000年経ってプルトニウム239が半減期を迎えた段階で、
彼らは地球の緑の野に降り立ちそこに住むことを望むだろう。
だが、その時の地球はやはりその時地球に生きている人達のものだと思う。
もし仮に武力で制圧しようと考えているのであれば、恐らくそれは誤りだ。
たとえ害獣と共存していようとも、文化が一定以上進化しなくとも、
地球はもう彼らの星だ。
だから彼らと共存してほしい。それがいかに困難かは容易に想像がつく。
恐らく実現不可能だ。そしてまた過去と同じことを繰り返すのだろう。
だから・・・俺は火星との通信を決意した。
アの国についてから夜になるのを待ち、
俺は密かに以前に来たリッカトーンの遺跡に潜入した。
キャプテンルームまで来ると俺は声をかけた。
「キャプテンハヤトだ、スリープモード解除。」
「お久しぶりです、キャプテンハヤト。」
「今日は頼みがあってやって来たんだ、アマツカサ。」
「イエス、マスター。」
「火星との通信は可能か?」
「イエス、マスター。」
「誰でもいい、呼び出してくれ。」
「イエス、マスター。」
地球と火星との距離は長い。光速で通信しても往復30分はかかるだろう。
距離とは、空間とは、時間と同義なのだ。
「エマージェンシー・コールにも応答がありません。呼び出しを続けますか?」
「あと30分呼び続けろ、並行して火星から地球への通信傍受も怠るな。」
「イエス、マスター。」
そろそろ60分だ。まだか・・・
「火星からの全チャンネル同時放送です。回線切り替えます。
・・・です。こちらは第一次火星移民団です。火星の大気は汚染されています。我々のあらゆるメディカルチェックをすり抜けてウィルスが蔓延しています。火星を目指してはいけません。繰り返します。こちらは・・・」
「・・・」
「マスター?」
「全通信解除。」
「イエス、マスター。」
「この艦を実質的に1人で宇宙航行させることは可能か?」
「イエス、マスター。そのために私が造られた。」
「この艦は実質的に現在宇宙航行に耐えうる状況にあるか?」
「一部の隔壁及び船外ハッチを完全閉鎖状態とすれば可能である。」
「それは現在、可能か?」
「イエス、マスター。」
「この時期に火星に向かい、戻ってくるのにどれだけの期間を要するか?」
「約240日。今はちょうど衝(※3)の時期である。」
「この艦を、俺だけの排他的アクセス状態にすることは可能か?」
「イエス、マスター。」
「では、そのように。そしてスリープ状態へ切り替えろ。」
「イエス、マスター。」
先程の放送は額面通り受け取ってもいいのだろうか?
先住火星移民者たちが、人口過多を恐れデマを放送している、
と考えることもできる。彼らは「助けを求めていなかった」のだから。
俺はひどく疲れてハヤブサへ戻った。問題が解決したのか、そうでないのか。
いや、本当は俺にも分かっている。何の問題も解決していないのだ。
ほかの移民たちは何処へ行ったのだ。どこへ消えてしまったというのだ。
そして火星の人々は本当に滅んでしまったのか?
そして俺は本当に火星へ行く必要があるのだろうか?
はたしてそれは俺の仕事なのか。
シャワーを浴びようとドアを開けると、そこにはレイメイが立っていた。
「アンタが毎晩、なんかやってるのは多分みんなが知ってる。それを話さないわけも・・・」
「レイメイ・・・」
「悔しいけどアタイ達じゃ力になれない。だからアンタは話さない、重荷を背負わせるだけだから。」
「レイメイ・・・」
「でも、力になれるコトもある。アタイが、アタイが慰めてやる・・・」
そういうと、ドアの内側に入りロックを掛けてしまった。そして照明スイッチを・・・
★ ★ ★
「俺は世界の王なんだと・・・」
レイメイに腕枕をしながら話す。だから、人の世の末を見守らなければいけないと・・・
「ばっかみたい。アンタあと何年生きるの、50年、100年?それで12,000年先の心配すんの?」
「それは、メッセージが・・・」
「ならアンタもメッセージ残しときなさいよ、12,000年後に向けて。」
「メッセージか・・・」
「12,000年後のことは12,000年後の人達に任せておけばいいの、何でアンタが悩むのよ!」
・・・これが悪魔の囁きというやつだろうか。
これに抗うのは難しい、俺達は2回戦目に突入した。
★ ★ ★
目が覚めるとレイメイの姿はなかった。相手に殺気があれば俺はいつでも起きられる。
が、殺気も無く気配を殺されるとこんなもんである。まだまだ修行が足りないらしい。
部屋から出てトイレに行こうとすると、2人分の匂いが立ち上ってきた。
朝食をとったがみんなはもうすませた後のようで、
俺だけハヤブサに取り残されたようだ。
「ハヤブサ!」
「イエス、マスター。」
「火星に行くと言ったらどうする?」
「そんなことを言い出すのではないかと思っていました。」
「フネのエネルギーが残ってるうちだな・・・」
「人の街に被害がでます。」
「そんなことを気にして、世界の王をやってられると思うのか?」
「対応策があるのですね。」
「・・・お前はエスパーか、何かなのか?」
「世界の王の伴侶です。」
「伴・・・お前なあ。」
「何でしょうか?」
「いくらお前でも、なあ、あの、その、なんだ・・・こ、こう・・・」
「光合成ですか?」
「違う!こういうデリケートな・・・」
「大丈夫です。私、できますから。」
「へ!?」
「ですから、私、できるんです。」
「あ、そ、そーなの、そーなんだ。ふーん。」
「全く信用してませんね、試してみましょうか?」
「い、いやいやいや、だいじょうぶ、だいじょうぶだから・・・」
「残念です。」
もはやどこを突っ込んだらいいのか分らない。人型インターフェイスってなんだ?
そういえば、俺はこいつのことを何も知らない・・・
「ハヤブサは、頭部以外は義体で構成されています。」
「義体?」
「取り替え可能な、高性能人体パーツの認識で問題ありません。」
「頭部は?」
「メイン・コンピューターとの接続デバイスや疑似小脳、脊髄、各種分析装置などで構成されています。」
「そうか・・・知らなかった。いや、知ろうとしなかった。改めて、よろしくだ。」
「よろしくされたいです、マスター。」
「お前のそのアルゴリズムは・・・今までそーいった反応はなかったぞ?」
「恐らくレイメイが、ハヤブサのアルゴリズムに何らかの影響を与えている。とハヤブサは推測する。」
「んー、何となく分かった。ただ、レイメイの前でその反応は慎むように。」
「イエス、マスター。」
人型インターフェイス恐るべし。そうするとなにか、ハヤブサの子供とかできるのか?考えたら負けだ。
さて、本当に火星に行くとなればいろいろ根回しが必要になってくる。
だが、これで大きな疑問が解けるのだ、安い代償だ・・・
衝(※3)・・・地球から見た太陽系天体が、
丁度太陽と正反対の位置にある状態を指す。
お盆3夜連続投稿第2弾です。
エアコンがやって来る日が待ち遠しいです。
次回更新日は明日です。
このお話で楽しんで頂ければ幸いです。




