4-1.香辛料貿易
俺のストックした食料がなくなった。
それに新しく造った武器や投げナイフやロングソードの砥代もある。
また俺の自腹である。
俺が世界を征服した方が早いのではないだろうか・・・そんな疑問が頭をよぎる。
やはり、世界の危機を救うと俺の財政が危機になるようだ。
この時俺はかなり真剣にハヤブサを使った香辛料貿易を考えていた。
相場に打撃を与えない程度にすればよいのではないだろうか?
とりあえず胡椒と丁字を1樽づつ買っておいた。次はクの国だな・・・
しばらくシズの国近辺には顔がだせない。
そういえばリクオは何処に行ったんだ?
とりあえず、リロイに急ごう。
何日遅れてしまっただろうか?
俺は『緊急離脱プログラム』による高速運航で、
あっという間にリロイの港に帰ってきた。
ハヤブサを接舷しようとすると、港にはレイメイが待っていた。
俺が何を言う間もなく胸に飛び込んでくる。
「お帰り、ハヤト。」
「ああ、ただいまだ。悪かったな・・・少し遅くなった。」
「五体満足ならそれでいい。」
「うん・・・」
「喧嘩はどうなったの?」
「うん。痛み分け・・・引き分けってところかな。」
「引き分けかぁ・・・」
「すまん、相手が留守だったんだ。」
そこに懐かしい声が聞こえてきた。
「やっぱりハヤトさんでしたね。」
「うむ。」
フレイとニーである。俺は2人にも帰りの挨拶をした。
「ただいま、フレイ、ニー、遅くなった。」
「無事で何よりですねぇ。」
「上手くいったのか?」
「とりあえず王様一家は助けておいた。後は彼ら次第だな。」
「相変わらず、話が大きな人ですねぇ。」
「そうか。」
「それからニーにはロングソードを返しておく。砥ぎはしてある・・・役に立ったよ、ありがとう。」
「そうか、役に立ったか・・・なら、いい。」
「で、早速なんだが、明日からでもクの国へ行きたいと思う。金が無くってな。」
「王様助けたのに?」
「いよいよ香辛料貿易ですか?」
「どういう事情だ?」
俺はシズの国で起こったことをかいつまんで話した。
もちろん、ハヤブサの件は伏せる。
「正義の味方になったんだ?」
「ずいぶんらしくない気がしますねぇ。」
「・・・そういうことか。」
「そうだ、全部俺の持ち出しになっちまった。将来シズの国から返してもらえるかもしれんが・・・」
「宝剣売っちゃたら?」
「それはさすがに不味いんじゃないですか?」
「仁義にもとる。」
「だからクの国へ行きたいのさ。みんなも何か買い込んでさ?」
3者会談が始まったようなので、俺は役人に入国税を納めに行く。
戻ってきてもまだやってる。
これはもう、冒険者というよりは商人の顔だよなぁ・・・
「これが最後というわけでもないし、いろいろ試してみたらいいんじゃないのか?」
アの国の物と比べると品質は落ちるが、
全員リロイの胡椒と丁字を買ったようだ。
胡椒だけの方が儲け率は高いのだが、
上皿天秤で量っていくので買い取りにはとにかく時間がかかるらしい。
それが樽4つあるというのだから眩暈がする。
まあ、丁字もあまり変わらんが。
だが、天秤の反対側には同量の砂金が積まれるのである。
経験者にいわせれば、それは時を忘れる至福の光景であったという。
「しかしこんなんで儲けていたら、冒険者でなく貿易者パーティーと名を変えなくてはな。」
「それを言ってはダメよ、ハヤト。」
「いやあ、冒険者の矜持が傷つきますねぇ。」
「・・・」
こんな反則技が通じるのは、もちろんハヤブサによるところが大きい。
なにしろ相手国の最寄りの港までノーリスクで行けるのである。
しかも船代が発生しない。
また、港から売買する街までの護衛がいらない。
自分達が護衛を兼ねているのだから。
結局のところ港から街までの馬車代だけですむのである。
これで儲からなければ嘘である。俺は大金貨の上に白金貨、
その上に大白金貨というものがあることを初めて知った。
ちなみに大白金貨が10枚あれば一生遊んで暮らせるらしい。
俺はその大白金貨1枚と白金貨5枚を手に入れた。
だが使い勝手が悪いので全て白金貨に変えてしまった。
レイメイはこんな大きな取引は初めてらしく(それなら俺だって初めてだ)、
付き添ってくれと頼まれた。
年若い女であるため、下に見られることが多いという。
2人で買い取り小屋に入り樽を差し出す。俺は部屋の水平を確認した。
ときどき部屋ごと水平が狂ってることがあるからな。
買い取り人は秤を取り出し、胡椒と重りとを天秤にかける。
俺のすることといえばレイメイの後ろに立って、
軽く鬼気を発っするくらいだ。
レイメイもビビッていたが買い取り人はなおビビッていた。
「旦那、勘弁してください。俺はキッチリ仕事をしてるのに、手が震えちまって目盛が読めねえ。」
「そいつはすまなかったな。ふざけた買い取り人が多いものでな。」
これで変な気はおこさんだろう。
こうしてレイメイ初の胡椒と丁子の取引が終わった。
小屋の外に出ると、
それぞれ別の買い取り屋で取り引きを終えたフレイとニーがレイメイを待っていた。
みんなが別の買い取り屋を利用したのは時間の短縮と、
買い取り量が多くなってしまうので足元を見られないようにするためだ。
そのまま乾杯しよう、ということになり近くの酒場に入った。
みんなが頼んだエールがきた時、何かが俺のカンに触った。
「レイメイ、仕事道具は持ってるな?」
「もちろんあるけど、早く乾杯しよーよ。」
「乾杯の前にこのエールを調べろ。痺れと、眠りだ。」
「「「!」」」
3人の顔が引き攣る。
「レイメイ、どうだ?」
「全部のエールに痺れ薬がはいってる・・・」
「誰かに売られた、あるいはつけられたか。」
「そんな・・・」
「つけられたのなら、僕かハヤトが気づかぬはずありませんねぇ。」
「ということは、買い取り人の誰かに売られたか。」
金を持っていると周り全てが敵に見える、
という諺がこの世界にあるが正にその通りだった。
俺だけがエールを飲み干し、気分が悪くなったといって帰ることにする。
俺達は港行きの馬車がないか探そうと、
通りに出たところで6人のお客に捕まった。
「お急ぎのとこ、悪いんだが金を都合してもらえんかねぇ?」
「俺達を冒険者と知って言ってるのか?」
「なに、命まで盗らない。金も馬車代くらい残しておいてやる。また稼げばいいだろ?」
「あの店のボーイを買収したな?」
「古いが、良く利く手だ。」
「だそうだ、3人任せていいかなハヤト?」
「俺の前の3人ならもう動けんよ。」
俺は指2本で頭から切る所作をする。
その瞬間、男は3人とも昏倒し後ろに倒れてしまった。
「俺の分は終わったぞ。」
「な、な、なにをした!」
「だから冒険者はヤバいって・・・」
「バカヤロー、こいつらは薬が効いてんだ、やっちまえ!」
冒険者に普通の男が勝てるわけないだろ、
たとえ相手が年若い女性に見えてもだ。
「で、どうするんだっけ?」
「馬車代だけ残して、後は頂戴していいそうですよ。」
「うむ、そうだったな。」
「命までは盗らない。また稼げばいいだろ?だったか。」
「早くしないと馬車がなくなっちゃうよ!」
「まったく、とんだ寄り道でしたねぇ。」
「こいつら、このままで良いのか?」
「俺の分は2時間ぐらいで目を覚ますぞ。」
「それどこじゃないわよ、早く行くわよ!」
「女性は強いですねぇ。」
「まあ、死んで無いしな・・・」
「・・・」
こうしてなんとか港行きの最終馬車にのることができた。
月に1回この貿易をすれば、1年を待たずして一生暮らせるだけの金が手に入る。
普通の冒険者は金を掴むと、故郷に錦を飾り地元で店を開いたりするそうだ。
あるいは都で店をだす者もいるという。
いずれにしろ、冒険者は長く続ける仕事ではないのだ。
もっとも北のハイネスのように、意地と矜持で生涯現役を貫く男もいる。
だが、それらは例外だ。
多くの冒険者はやがて家庭を持ち、引退していくのだ。
レイメイ、フレイ、ニー、彼らは一体どうするつもりだろう。
そして俺はどうなるのだろう?辻馬車に揺られながら、
俺はそんなことを考えていた。
新章に突入。
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次回更新日は11日のお盆特別更新第1弾です。
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