3-7.シズの国、カチコミ。その3
「王よ、敵はしつこくこの先にて我らを待ち伏せております。」
「何っ、まことか!」
「如何にも。私はこれより風の魔法を使います、いささか不快でしょうが耳を塞いでください。」
俺はハヤブサにEF3クラス(※1)のトルネードを要請、
前方の連中のただなかを横切らせる。
俺がシルバーリンクでハヤブサにオーダーを囁けば、
周りは勝手に魔法の呪文だと思ってくれる。
ハヤブサの瞳が鳶色から『風』の銀色に変わっていく。
風がざわめき始める。耳がツンと痛い。風がゴウッ!とうなる。
耳の奥がキーンと痛くなってくる。
まるで悪魔が召喚に応じるように、それは出現した。
風速70m/Sで荒れ狂う暴君の降臨である。
木も人も区別なく、
手当たり次第に地面からむしり取って空中へ放り投げるのだ。
容赦のない見えない巨人が、街道を右から左へと横断していく。
やがて耳の痛みが治まるころ、嵐は去り、風は凪ぎ、そよ風だけが残る。
ハヤブサの瞳が銀色から鳶色にもどる。
「い、いまのは何であるか?」
「古来より、竜巻と呼ばれております。」
ドサッ!空から人が降ってきた。小さな女の子ではない。
鉄砲を握りしめている。
ここまで飛ばされてくるのか、馬車に当たらなくてよかったとほっとした。
「やはりシズ教団でしたな。人が降りやむのを待ちましょう。」
「天から人が降るなどと・・・2度と経験するものではあるまい。」
「おねーちゃんのひとみ、きれい・・・」
王女様はハヤブサの瞳に気がついたようだ。ネコ耳だしな・・・
そろそろと馬車を動かし始める。まばらに人が倒れている。
どこまで飛ばされて行ったのだろうか?
あれに巻き込まれて無事な人間など1人もいないだろう。
とりあえず国境を越えた。ここはもう辺境の街道である。
まっすぐ行けばスルの国で海にでるし、左に曲がればアの国へと続く道である。
難しいのはこれから先である。
追っ手や待ち伏せを恐れながら陸路を行くよりも海路を選ぶべきだろうか?
この場合、問題となるのは俺とハヤブサである。
今の世界文明を超越した神代の神器たるハヤブサを直接見せることになる。
そしてハヤブサの実力を知れば王達は―――脅威を感じるだろう。
そう、俺達は強すぎるのである。
当たり前だ、何しろ俺は「世界の王」なのだから。
しかし為政者の目から見ると大きすぎる力は脅威である。
あたかも今回シズ教団に国を追われたように・・・
火薬と鉄砲でこの始末である。
ハヤブサのEML砲(電磁加速砲)など見せようものなら大変なことになる。
ただでさえ俺達は、魔法使いという訳の分らないポジションにいる。
目の前で何度も「魔法」を見せている。
今は命の恩人である俺達を疑うようなことはないだろう。
しかし、いったん落ち着いて考えた時、
俺達の力はシズ教団の力と何ら変わりのないことに気づくだろう
―――個人が持つには大きすぎる力であると。
こうした力を目にした為政者のとるパターンは2通りしかない。
1つは懐柔して味方にする。もう1つは敵となる前に暗殺する、である。
いずれも今の俺達には好ましくない・・・と、ここまで3秒で考える。
しかしここまで奇跡的に無事に来れたのである。
王城の執務室で鉄砲に当たらなかったのも、
トルネードに巻き上げられた人等が落ちてこなかったのも偶然である。
この先も偶然を期待するわけにはいかない。
「王よ、海路をとりましょう。」
「こ、これがお主の船であるか・・・」
「いかにも。これが我らのねぐらであります。」
「ずいぶんと見慣れぬ形であるが・・・櫂も見当たらぬ・・・このような船が動くのか?」
「この船は縦帆船といい、都の新型でございますれば・・・」
「おお、なるほど。そうであったか・・・」
沖にとめておいたハヤブサは、岸に呼んでおいた。
俺達は馬車の荷物を全て抱えて乗り込んだ。
本当なら馬車まで積み込みたいくらいだ。
さすがにそれは無理なので馬車は置いて、馬だけは放してやる。
「こちらが居住ブロック・・・寝起きのための場所でございます。
何分船のことであれば、狭さはご勘弁いただきたい。」
「うむ、それは無論じゃ。」
「では王と王妃そして王女様はこちらの部屋をお使いください。残る1つは私が使います。」
「ふむ、それは分かったが魔女殿は如何するのじゃ。お主と一緒ではないのか?」
「そ、それは・・・」
「なんじゃ、お主たちは夫婦と思うておったが?」
「もちろん私達は一緒の部屋。2人はエンゲージしている。」
さらっ、と爆弾発言するハヤブサ。
こいつ、普段のことを根に持っているのではあるまいな・・・
「やはりそうであったな、似合いの2人じゃ。」
「それから従者の方には申し訳ないのですが、寝室が無くストア・・・倉庫にて寝起きをお願いしたい。敷物と毛布は用意いたします。」
今は夏だから、そんなに寒くあるまい。
「不満等ございません、横になれるだけで十分です。」
「私も不満など、一切ございません。それどころか王と共にこのような船に乗り旅をするなど、まるで吟遊詩人のサーガの登場人物になったかのようです。この航海は後の世まで唄われることとなりましょう。」
それからみんなに水の飲み方とトイレの使い方を説明した。
王妃と王女にはハヤブサから説明してもらった。
王妃はトイレにいたく感激して、持って帰るとダダをこねた。
だが、王女が眠さを訴えたため、本日はもう眠ることとなった。
「ハヤブサ、エンゲージって何のことだ?」
「マスターはハヤブサのことを好きにしていい。だからエンゲージ。」
「微妙にニュアンスが違うような気がするが・・・それでお前は今夜はどうするつもりだったんだ?」
「いつものようにキャプテンルームへ行く。」
「誰かに見られたら説明に困る。この旅の間はこの部屋にいろ。」
「イエス、マスター。」
誰に見られているわけでもないが、俺は妙に新鮮な夜を過ごした。
朝になり、ギャレー(調理場)に行くと近衛の人達が朝食を作ろうと苦労していた。
俺は笑って2人に代わろうとして、あることに気がついた。
「ハヤブサ、お前ひょっとして料理ができるんじゃないか?」
「イエス、マスターが一度作ったものなら。」
「それでいい、作ってみてくれ。」
「イエス、マスター。」
白パンにオムレツ、野菜サラダに冷えたミルク。
船の朝食としてはこんなものであろう。
元々の貯えに馬車から運んだ食料もあるので、
アの国へ着くまでは十分だろう。みんなを呼んでくる。
「おお、これは美味い。」
「ミルクが冷たいわ!」
「うむ。」
「美味しいです、おかあさま。」
「いける!」
「ありあわせなのですが、お口にあって何よりです。」
食後にキャフェイン茶をだしてみたが、女性陣には不評であった。
食後の片付けを終えると俺はいつもの鍛錬を始めた。
最初の内はみんな面白がって見ていたが、
俺がマストに駆け登るころにはあきれて誰もいなくなってしまった。
王様達はようやく落ち着いて物事を考えられるようになったようで、
いろいろと話をしている。近衛達は剣術の稽古をしていた。
みんなの前で帆のない船が進む姿を見せたくないので、
風任せ航海である。それでも空と海が静かなら、
一週間ぐらいでアの国に着くことだろう。
こいつの切り上がり(※2)は40度を切っている。
「魔導師や魔法使いなど体を鍛えないものだと思っていたが、お主は違うのだな。」
「剣も使えませんと、呪文を唱える前に斬られてしまいます。」
「それは確かに。」
俺のところへ近衛と衛士がやって来た。
「ですから余計にシズ教団の武器は脅威なのです。」
「あれはカーンの言うように、魔道の武器であるのか?」
「いえ、あれは魔法でも魔道でもない神代の技の一部です。ですから人を選ばず、修行もいりません。」
「なんと、そんなものがあれば戦のありようが変わってしまうぞ。」
「人を選ばず、修行もせず、近衛を倒せる技・・・」
「だからカーンも必死だったのでしょう。シズ教団全員に鉄砲を持たせれば、城は落ちます。」
「むむっ。」
「認めたくないが、確かに・・・」
「私が動いたのはそのせいです。あの技は人が手にしていいものではない。命を軽くしてしまう。」
「命を軽く・・・」
「しかし、どうやって?」
「それは儂も知りたいな。」王様の声が響いた。
「鉄砲を全て焼き払い、鉄砲の製法を知るもの、火薬の製法を知るもの全員を処断するのです。」
「む、しかしそのようなことが実際にできようか?」
「できる、できないではありません。やるのです。」
「もし、できなければ?」
「神代のお伽噺にあるように、シズ王国の僭王カーンの耳元で悪魔が囁くことでしょう。」
「馬鹿な、あれは単なるお伽噺・・・」
「王よ、私は悪魔と闘うためにここにいるのです。」
「魔法使い殿よ、お主は一体誰の味方なのだ?」
EF3クラス(※1)・・・EFスケールにおけるトルネードの階級のこと。
風速で約61~74m/Sクラス。
切り上がり(※2)・・・切り上がり角度の事。
この角度が小さいほど風に向かって走ることができる。
後書きを忘れたみたいなので、追加修正いたします。
コミケ3日目に当選です。どうしよう・・・時間ないし。
でも次回更新日は日曜日です。
このお話が喜んでいただけますように。




