3-5.シズの国、カチコミ。その1
頭打ちになった科学水準では、おそらくこの世界が限界なのであろう。
第一次産業が主体のこの世界が。
武器といえば剣や槍や弓。移動は徒歩が基本で、馬を使う程度である。
情報通信は鳩を使うのが一般的で、後は人が手紙を運ぶしかない。
医療レベルもお粗末なもので、内科なら漢方。外科なら神様頼みである。
それでも科学技術が発達していない空も、川も、海も目の覚めるほど美しい。
水など飲めるようだ。
糞便は畑に返し死体は焼却していたので、
大々的な疫病の発生はほとんどない。
何より、人種差別といったものが存在しない。
これは一種のユートピアではないか?
人口は医療レベルと作物収穫高で自然淘汰され、ほぼ一定である。
なお、ほとんどの国は王制が成り立っている。
放っておくと、人はこんな仕組みを求めるものらしい。
一国の人口は一万人を優に越す。
俺にはこんな世界に住む一万人の命が奪えない。
ハヤブサの言う通り、今のうちにシズの国を焼き払うのが最も簡単だろう。
必ずしもリクオがいるとは限らないが。
それができないのは俺がこの世界に住む人々を好きになってしまったからだ。
俺は今、監視衛星にリクオを捜索させている。
最悪ピンポイント・キルを行うためだ。
それでも悪魔に囁かれる人間は生まれるのだろうか。
未来は変わる・・・俺は1人の巫女を思い浮かべた。
俺は神にも悪魔にもなれるが、俺は神にも悪魔にもなれないヘタレな男だ。
俺は自分をヘタレだとは夢にも思わなかった。
世界最強を目指したこの俺がヘタレだと?
何の冗談だ。くそう、なんだか本当に弱くなった気がする。
「人は弱くなったと認識したときに強くなるものです、マスター。」
「ああ、ありがとよ。声にでていたか?」
最近のハヤブサはスルースキルを身につけたようだ。
本当にただの人型インターフェイスなんだろうか?
後の憂いはリクオの知識がもたらした火薬や鉄砲である。
現物がある以上、これらを造りだした職人達にはステルスジャマーや
ピンポイントアムネジアは効果を発揮しないのだろうか?
仮にそうだとすればこれらを消去する必要がある。
どうせ魔導師の塔から運び出したに決まってる。
「ハヤブサ、成分分析で黒色火薬や硝石や硫黄などは分かるか?」
「イエス、監視衛星ビッグ・アイにアクセス中・・・回線来ます。」
映像がスクリーンに投影される。
一見民家のように見える建物がマーキングされている。
色が変わっている個所があるな。これは地下室ということか・・・
「どこかで製造してるはずだ、黒色火薬が合成されつつある場所も調べろ。
24時間監視体制だ。」
「イエス、マスター。」
これで一週間かけて調べた場所に『火』を点けてやる。
これが俺の悩んだ末の結論である。
実行は深夜だ、人がいないから。
★ ★ ★
フレイとニーがレイメイの冷たい視線に晒されている。
でも、いろいろ元気な17歳なんだよ・・・
この世界の平均寿命がどれくらいかは知らないが、
もう成人扱いの年である。少しだけ同情する。
その後、俺は飯を作りながら一週間後にシズ教団に喧嘩を売ることを話す。
そしてこれはハヤト個人の喧嘩だから『つばさ』のメンバーは必要ない、と言った。
できた飯を食いながら、俺は1人1人の顔を見た。
レイメイは視線を合わせてくれなかった。
フレイとニーは「そんな気がしていた」と言った。
俺には飯の味が分らなかった。
南のシズの国まで船で4日(ハヤブサ基準)、
走って1時間(俺基準)である。出航まで後3日である。
俺は翌日、街の武器屋に依頼の品を受け取りに行った。一見何の変哲もない手甲であるが、丈夫さに力点をおいて作ってもらった。これで硬気功をまとえば、手を斬り飛ばされることもあるまい。また、指弾用の銅貨をポーチに入れベルトに通す。全て毒にまぶしてある。そしてナックルダスター。俺の持ち味を消してしまいそうだが、今回は戦争である。正に「何でもアリ」なのだ。
防備にはハヤブサに防弾ジャケットを用意してもらった。
これを内に着て、いつもの防刃ルックを上に着こむ。
俺が硬気功を全身にまとえるのは一呼吸の間だけなのだ、止むを得ん。
それから俺はヤーン神殿に向かった。
だが、巫女からの文は届いていなかった。
ということは俺の行動が誤ってない、ってことなんだよな?
神殿には出航の日まで毎日通うつもりである。
後はいつも通りの鍛錬を繰り返すだけである。
ここまできて特別なことは何もない、いつも通りである。
なお、武器は現場で調達する、これが俺の基本である。
★ ★ ★
いよいよ明日、出航である。特に高揚はしない。いつも通りに飯をつくり、食う。みんなも一時的にハヤブサを降りるため、荷造りを終えていた。俺は後片付けを終え、シャワーを浴びて部屋へと向かった。
深夜、レイメイがハヤトの部屋を訪れたことを知るのはハヤブサとフレイだけだった・・・
やがて夜が明け、旅立ちである。俺は船を降りるみんなと挨拶をした。
「じゃあな、レイメイ。ちょっと行ってくる。」
「手を無くしてもいい、足を無くしてもいい、必ず生きて帰ってきなさい!」
「じゃあな、フレイ。ちょっと行ってくる。」
「僕は昨日、すぐに寝てしまって何も知りませんよ?」
こいつは・・・相変わらずいい性格をしている。
「じゃあな、ニー。ちょっと行ってくる。」
「こいつを持ってけ。」
そういって差し出したのは金貨10枚のロングソードである。
「何故こいつを?」
「以前やった一寸の見切り、あれは剣術の理だ。
お前は剣をつかうし、それも相当の腕だ。」
「なるほど。」
「こいつは餞別じゃない。貸すだけだ、だから必ず返しに来い。俺はまだ、お前に借りを返してない。」
「分かった、覚えておこう。」
こうして俺達の別れはすんだ。
予定通りなら一週間後にここにいるだろう。一時的にサヨナラだ。
俺にはこんな喧嘩で死ぬ気などこれっぽちもない。
ハヤブサのセーラー服姿を拝まずに死ぬものか。
かくして俺は航海に出た。4日後到着を逆算して速度を調節してもらう。
4日後深夜、俺はデスクスクリーンとにらめっこしていた。
リクオが探索できないのである。確度を50%まで落としても探せない。
これはもう、この国にいないと考えるしかない。
止むを得ない、シズ教団だけでも叩く。
赤くマーキングされている建物を睨みながらハヤブサに指示を出す。
今は夜だが『火』のリザーブ・チャージャーに蓄えたエネルギーだけで十分である。
「対象表面温度4,000度に設定。照射時間0.4秒、ソーラー・レイ連続照射!」
「イエス、マスター。」
スクリーン上の赤マークに照射済みの×印がどんどん増えていく。
後はオートでいい。
ハヤブサを岸につける。
俺は、いや俺達はシズの国の目前にいる。
内陸にあるシズの国に行くにはスルの国を横切る必要がある。
約1時間、ちょうどいいUPであるが背の剣がうるさい。
驚いたがハヤブサも俺についてきている。
「本体から離れられるようになったんだから、同じ名前だといろいろ困るよなぁ?」
「・・・」
「今のお前にいい名前があるんだ。ナガ「ハヤブサはハヤブサです。」・・・」
「旧海軍の戦艦なんだが・・・」
「・・・」
「お前の頑固さに負けた。」
「この状況下でそんなことを言っているマスターに驚嘆です。さすがです。」
物の焦げる臭い・・・だんだん近づいてきたな。
小高い丘に登るともう、シズの国の城壁が見えている。
高さは10mなさそうだ、いける。俺はそのまま城壁に向かって真っすぐ走った。
そのままの勢いで城壁を駆け登り、頂上の返しの部分に手をかけて、一気に城壁をまたぎ越した。
ハヤブサは、俺に少しも遅れず城壁を垂直跳びで越えてきた。
やっぱり人間じゃない。
そのまま王城の方へ行こうとすると、待ったがかかった。
「いやいやいや、とんでもねえ城壁の越えかたがあったもんだ。しかも女づれとはね・・・」
「こんな時間に真面目な衛兵だな、見なかったことにならないか?」
「すまんが、これが俺の仕事でね。」
「王城の方の騒ぎが気にならんのか?こんなところにいるよりも、
あっちの応援に行ったらどうだ。」
「向こうには、向こうの担当がいるのさ。残念だがな・・・」
「本当に残念だ、こんな真面目な王国の衛兵を斬りたくない。急いでいて加減ができないんだ・・・」
俺は背中からロングソードを抜いた・・・若干抜きにくい。俺は気を解放する。
「うお、なんだお前。この感じ知ってるぞ・・・お前、リクオ様の知り合いか?」
「実を言えば会いに来た。だが留守のようだな・・・」
「そうだ、よりにもよって御留め役と一緒に・・・」
「どうあれ、今この国にはいないようだ。なら、残るはシズ教団。」
「なんだ、お前の目的はシズ教団か!ならこの通りを真っすぐ、突き当りを右だ。」
「いいのか?」
「理由は2つ。1つはお前には絶対勝てねえ。もう1つは今の魔術師長官は気に入らねえ。」
「魔術師長官?」
「そうだ。そいつがシズ教団を裏から操っている。他の雑魚はいい、こいつを屠れ!」
「分った、協力感謝する。だから名乗らずに行こう。でないと後で互いに困ったことになるからな。」
「分った、聞かずにいよう。」
「この先、仕える国を間違えるなよ・・・」
「えっ、なんだって?」
答えるべき相手は、既にいなかった。構えていた槍は汗でびっしょりだ。
リクオ様も化物だったが、今の相手はなお化物だ。
世の中は広い・・・当番日誌には、何もなかったと書いておこう。
感想が制限付きになっていたことに気がつき、慌てて制限なしとしました。
今一つラノベらしからぬ小説のような気がしますが、如何なものでしょうか?
なお、明日(今日か?)は祭日につき更新予定であります。
みなさまに楽しんで頂ければ幸いです。




