1-4.害獣
食事を終えた俺たちが緩い坂を下りてゆく。ここからアの国までは丸1日らしい。
まだ信用がないのか先頭を歩かされている。一本道だし、まっいいけどね。
俺がその視線に気づいたのは茶屋をでてから2時間ぐらいたったころだ。食事を終えた俺たちで食事にしよう、そんな感じだ。だから視線に殺気はのっていない。殺気というのとは少し違う、食気?脳内アラームが鳴りだした。
「おい、絶対知覚!何も感じないのか?」
「えぇ、え?」
「どうしたハヤト!」
「何かあったの?」
何かあってからでは遅いだろうが!
「あの林の方角から複数の視線を感じる。多分2頭いや2匹?遅めのランチをとりたいらしい。メインはもちろん俺たちだ!」
「ぼくの絶対知覚は20メトルが限界なんだ!」
「こんな場所で?確かかハヤト!?」
「なんでそんなん分るのよー!」
使えないな、絶対知覚!!なんで分るのかって?そりゃ分らなければ今まで生きてこれなかったからさ。
「もうすぐ視認できるだろ・・・」
時間にして4~5秒だろうか、確かにそれは現われた。
しかし脳が映像を拒絶した。間違いなくコンマ数秒間俺はフリーズしていた、戦闘中なら致命傷だな。次からは気をつけよう。
なるほどあれか、あれが害獣なのか?そいつは一言でいえば・・・足長ワニだった。全長3メートルぐらいか、どこかデッサンが狂っている気がする。造作の神のイタズラか?確かに想像の斜め上を行っている。そして妙に素早い動きで近づいてくる。
そのときレイメイから1枚の葉を渡された。
「なんだこれは?」
「見ての通りの木の葉っぱ、よく噛んで飲み込んでおいて。狩りには毒を使うから。」
なるほどあの弓に毒ね、確かに彼らはハンターなのだろう。槍・剣・弓のフォーメーションだ。
見ればみな刃先になんかを塗っている、あれが毒か・・・しかしあんな爬虫類?に効くものなのか?などと考えているうちにやつらが迫ってきた。
弓矢が射られたが未だ的が小さい。表皮に跳ね返されている。矢に腹を立てたのか1匹は3人組みの方へ向かい、残りは俺のお客さんだ。
妙に素早くやってきて冗談みたいな口をあけ噛みつこうとしてくる。噛みつきが1番の武器なんだろう、俺の硬気功が耐えられるか試す気にはなれない。
こいつも素早いが俺はもっと素早い。やつの突進を左にかわすと側頭に硬気功正拳突きを打ち込んだ。いいのが入ったと思うのだが全く問題にされずに振り向きざまに尻尾の攻撃だ。これは読めていたのでバックステップでかわす。
寄ってきたところでまた左にかわし同じ部位に硬気功正拳突きを打ち込んだ。しかし効いている気がしない。おそらくこいつらは鈍いのだ、あきれるほどに。
体力勝負になったら勝ち目はない。出し惜しみなしで早期決着を目指すしかない。まあ木に登れば追いかけてはこれないだろうが、下で待たれても困る。
というわけで俺はやつの背中に飛び乗った。もちろん暴れて俺を振り落とそうとし、ついには横に倒れようとした。俺はその間両足でやつを羽交い絞めにし、左手を頭に添えた・・・だけのように見えただろう。
やつが倒れるより早く飛び降りる。その後すぐにやつが横倒しになったが、そのまま動かない。これで死んでいると思うほど俺は楽天家ではないので、既に戦闘を終えている仲間たちに声をかけた。
「すまないがこいつはしばらく動けない、止めを刺してくれないか?」
フレイが、やつの急所だという両目の間の少し上の部分にこれでもかと槍を突き立てた。さあお次はお待ちかねの質問タイムだ。
「さっき長足ワニの背に乗る前になんかしたでしょ?」
「さっき長足ワニの背に乗るときに、ジャンプした後さらに空中を足場にして方向転換しなかった?」
「さっき長足ワニの頭に手を載せただけで倒したようだが、あれはなんだ?」
質問したいのは俺の方だ、という言葉を飲み込んで彼らの倒した獲物を見た。ふーん、槍で牽制、大剣で前足に切り付け、たまらず前かがみになったところへ急所に矢を立てたか。得物もいいが腕もいいな・・・
現場を見ればどう戦ったかくらいは分るさ。
しかし長足ワニね、足長ワニでもいいじゃねーか・・・と思考を明後日の方へとばす。
「ちょっと、聞こえているでしょ?答えなさいよ。」
分った、こいつは通常運転ではクールビューティーだが少しエキサイトするとアレなわけだ。心の中で残念レイメイと命名する。
「1つ目の質問はやつの目にコインを弾いた、2つ目は気のせいだ。3つ目はあれが無手で人を倒す技だ。」
「視界を奪った一瞬のうちに飛び乗った?」
「気のせいじゃない、僕の絶対知覚が君のありえない挙動を把握した。なんなんだあの動きは?」
「長足ワニを素手で沈めるなど・・・この目で見ていなければ信じられんことだ。」
そろそろ反撃に出よう。
「俺も訊きたい。あれが害獣だとして強さはどの程度なんだ?害獣とは何種類くらいいるものなんだ?」
「害獣の正確な種類や生態はまだまだわかってないのよねー、空にも海にもいるからね。」
「知られている害獣の中で長足ワニはランク10のうちランク3程度でしょうか。3人パーテイーで無理なく仕留めて冒険者ギルドのCランクです・・・1人で仕留めたら文句なくBランクでしょうね、ちなみに私たちはみなCランクよ。」
「確かに自分の身は自分で守れる、か・・・」
「あれで3ランクならランク10とかどうなるんだ?」
「ランク10は災害クラスよ、避難勧告が出るわ。」
「確かにあれは人の身ではどうこう出来ませんね。」
「でかいんだ、とにかく。体長約30メトル、体高約10メトルで歩くたびに地面が揺れる。まぁ滅多に出没しないのが幸いと云えば、幸いか。それにやつらは肉を食わん。」
「それじゃ比較的よく現われる肉食の害獣といったら?」
「ルティムね、ランク4」
「牙長タイガだよ、ランク5」
「サンティゴだ、ランク6」
「分りやすい説明ありがとう、今度は写真付きにしてくれ。ランク4を単独で仕留めればAランクでいいのかな?」
3人がうなずいた。写真て何だ、といいながら・・・
「ではランク5を単独で仕留めれば?」
「Sランクだけど、そんなこと普通はできないよ。Sランクなんて北の武神くらいで・・・」
やれるやつがいるのか・・・武神、武神ね。12,000年前から死合うのを楽しみにしていたよ。もう、元の世界のではやれなくなっちまったようだから・・・
「何をいってんだかよくわかんないけどアの国のギルドへ行けば害獣手配書が見られるから、そいつを見たらいいよ・・・さあ私らは討伐部位をあつめましょう。」
そういうと彼らは、どこかに持っていた小刀を取り出してワニの爪をはがしていく。
2匹分でちょっとした荷物になり、これは手ぶらの俺が運んでいくことになった。2匹分で金貨2枚らしい。ちなみに赤が10で白の1、白が10で銀貨の1、銀貨が10で金貨の1、金貨が10で大金貨の1だ。分りやすくていいが財布が重くてみんな困らないのか・・・