3-3.くノ一
リロイの街で貯蔵物資を買いためた。生野菜も忘れずに買う。3人ともそんなに野菜を摂取してなさそうのに大丈夫なのだろうか?クラムはそろそろ時期が終わるらしい。なんてこった!俺の憂いを慰めてくれるのはキャフェイン茶とポニーテイルとなった、メガネっ娘のハヤブサだけだ。
俺は今後を考えていた。馬車で襲ってきた女はシズ教団の者だろう。男2人が毒使いで、彼女が火薬使いであろうか。ハヤブサで撒いてしまってもよいし、この地で迎え撃ってもよい。俺は3人に火薬のことを最低限説明している。神代の薬品といって誤魔化してはいるが。だが、狙われているのは恐らく俺である。だから今日も1人でぶらついている。
「待ってると、なかなか来ないもんだよね~」
「レイメイ、お前・・・」
「言っておくけど、アタイだけじゃなくみんな気がついてるよ?」
「そうか・・・俺はただケリをつけたいだけだ。火薬は人を巻き込むからな。」
「このまま散歩を続ける?」
「そうだな。」
「ハヤブサの瞳の色、変わったでしょ?」
「よく見てるなぁ、あれが本当なんだと。」
「なんで変わったの?」
「俺がやっと認められたらしい。」
「アタイはもう少し早く認めてたよ。」
「・・・・・・」
「ねえ・・・」
「うん、どっかで見てるな。フレイがいればな・・・」
「ふふ、そーゆーのがやで1人で探してたんでしょ。」
「それもそうだ。お前、矢は?」
「普通矢ばかりで10本。」
「十分だな、一気に振り返り変化を感じ取れ。」
「分った!」
「1,2,の3!」
突然振り返った2人に周りの人たちが怪訝な顔をしている。どこかに違和感はないか?感じ取れ!
突然レイメイの前に小さな女の子がやって来た。
「おねえちゃん、お手紙あげる。これ渡したらお駄賃もらえるんだ。」
女の子の背中で背負子にのった火薬と、導火線が目に付いた。速攻で揉み消す。その瞬間、人の狭間を縫って火矢が飛んできたのだ。火矢を掴みとるタイミングは逸した。右手に硬気功をまとい矢を受ける。
俺は地面に落ちた火矢を左手で拾ってレイメイに渡した。
「俺はヤツを追う、その子を任せる。」
相手は25mぐらい先を走っているが、俺だって負けてはいない。人通りの多いこの通りで、俺は左側の家の壁面を山なりに全力疾走した。相手が振り返り驚いている。もう追いつく距離だ・・・と思っていたら急に人質などとりだした。何が狙いなのか?俺と一緒に爆死するつもりか?人質には悪いが俺は逃げるぞ。
「馬鹿め、あんなに全力で走れば火矢に塗ったトリカブトがお前を殺す!」
あー、なるほど。この人、火矢に毒まで塗っていたんだ。ごめんね、毒効かない体質なんだ。
「なんだ、毒が効いてないのか?」
「そういうお前は人質を離さないのか?」
「ふん、お前の中段突きは聞いている。」
「そうか。人質のひと、両手をダラリと伸ばして下さい。体に変に力を入れないで下さいね。」
「お前、何を言っている?」
「セイッ!!」
そう、俺の得意な中段突きだ。ただし、裏当てだがな・・・体を密着させすぎたのがアンタの敗因だ。
レイメイが追い付いてきたようだ。
「人質のひと、もう大丈夫ですよ。」
「どうしたの、いったい。今の人がいたのに一緒に殴っちゃたんでしょ、平気なの?」
訝しがるレイメイをよそに、俺は忍者(正確にはくノ一か)を抱えて治安兵のいる屯所まで運んだ。広場での俺は目立っていたため、騒ぎは知っていたようだ。
よく分からないが突然広場で矢を射てきた、と言っておいた。証人として人質のことを話し、レイメイが持ってきた火矢を渡しておいた。彼女の持ち物と同じだから、証拠になるだろう。
火薬はレイメイがきちんとネコババしておいてくれた。お礼にエールを奢ることにする。俺も今日は飲みたい気持ちだ。
「今日は助かった、ありがとう。」
「アタイ、何もしてないよ?」
「囮になってくれたろ。」
「そっかぁ。」
ふだん生野菜が少ないので、この時とばかり食べさせる。
「生野菜に含まれるビタミンという成分が体にいいんだ、美容にもいいんだぞ。」
「それも神代の知恵?」
「そうだ、だからたくさん食べろ。」
「それでハヤトがご飯をつくると、必ず野菜サラダがつくのね?」
「そうだ、気づいてたか。」
「まぁね~」
こんな時、酔えなくなった体質が少し恨めしい。
「この後どうしようか、少し悩んでいる。」
「どういうこと?」
「この前まではシズの国と戦争してやろうと思ったんだが・・・」
「や、さすがにそれは無理でしょ。」
「うん、さすがにそれは諦めた。」
「じゃ、どうすんの?」
「要は『黒い星の子』であるリクオ1人を倒せばいい。アイツも俺と闘りたがっているはずだ。」
「リクオって、もう1人の神代人のこと?」
「そうだ、もともとヤツと闘っていてここに跳ばされたんだ。あと一歩だったが・・・」
「なら、ハヤトに勝つ自信がつくまで修行してるんじゃない?」
「俺もそう思う。そして時が来れば、ヤーン神教を通して俺に連絡をつけようとするだろう。」
「なるほどね・・・あ!にいちゃん、フライドポテト追加ね!」
「いっそ、おれも武者修行に・・・おねーさん、葡萄酒追加ね!」
「ハイネスでもダメだったんでしょ?無駄だと思うよ。この世界では人より害獣が脅威だかんね。」
(そうなんだ、神代の智慧は実に的確に効果を上げている。伊達に12,000年続いてないな。)
「しかし、リクオに勝てなきゃ時代は暗黒の世紀になるんだ。それでいいのか?」
「それがどんな時代かしんないけど、ハヤトがいないんじゃヤダなぁ・・・」
「そ・・・そうか、ありがと・・う・」
レイメイの直球に、俺はさすがにどもってしまった。だが何とか再起動する。
「だから、みんなにとって一番いい未来を考えなくちゃならない。俺も含めてね。」
「なんか、めんどそう・・・」
「実際、めんどいんだ。」
俺は背中に殺気を感じた。誰かが視線に殺気をのせて俺を見ている、いや試している?
俺が後ろを振り向くと1人の男が立っていた。
「何か用かな?」
「先ほどのアレは「裏当て」ですかな?」
「如何にも。空手をやるものなら誰でもできる芸当です。」
「存在すら疑われていた技です、あなたはどういうお方ですかな?お連れさんは冒険者のようだが。」
「私もただの冒険者ですよ、彼女とは同じパーティーです。あなたこそ、どちら様で?」
「これは失礼、私はこの街で道場を営んでいる者です。しかし悪いがあなたはとても冒険者に見えない。」
「よろしかったら一緒にやりませんか?」
「お言葉に甘えましょう・・・座った途端、左足が飛んできそうですが・・・」
「ははあ、お分かりになりますか。こんなのはどうです?」
「テーブルを蹴り上げての下段蹴り・・・2枚蹴り、というやつですか?」
「実のある話ができそうですね、私はハヤト、こちらはレイメイといいます。レイメイすまんな。」
「私はシーマと申します。よろしく、冒険者のお嬢さん。」
「・・・よろしく。」
「早速だがシーマさん、あなたが道場で教えているのは何ですか?」
「あなたと同じ、対人格闘技です。」
「害獣用ではないんですか?」
「むろん基本は教えます。しかし、この世で最も怖いのは害意を持った人間ではありませんか?」
「おっしゃる通り。」
「ならばお互い同じ道を往く者として、高め合えるのではないですか?」
「ははあ、そういうことですか。しかし私の場合、死合いとなってしまいますが・・・」
「これは極端な御仁ですな、掛け試しではいかんのですかな?」
そう言うと、シーマはニコッと笑った。
何とか頑張って20日まで連続更新を狙います。
その後はおとなしく、毎日曜日更新(正確には月曜日早朝?)の予定です。
というわけで次回更新日は明日です。
お話が気に入って頂けましたら幸いです。




