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3-1.刺客

 俺達はリヨンの街で最後の荒稼ぎをしている。この街の買い取り屋に目を付けられたため、他の街で売りさばくのだ。ほとぼりがさめた頃、また来るのもいい。とにかく金貨10枚は稼がねば、まるまる俺の持ち出しである。他の3人も、背負い袋はパンパンである。


「もう少し大きい背負い袋にすればよかったかなあ?」

「十分大きいと思いますよ、レイメイさん。」

「全くだ、それでロープを降りられるのか?」


 俺は、お宝の他にハヤブサからリクエストされた品を探している。ここ「ファクトリー」には必ずある、といわれた物である。俺が目的の品を見つけたころには、みな帰る準備が整っていた。最初にフレイから降りてもらい、辺りの気配を探ってもらう。そしてニー、レイメイの順だ。最後の俺はロープをほどき、ドアを閉めると同時に飛び降りた。月もだいぶ明るくなってきた。

 そのまま宿屋「銀の羽」へ向かう。こことも今日でお別れだ。あまり泊まってないような気もするが些細なことだ。なお、街を出るときは声をかけるように分隊長のサニー殿にいわれていたが、聖女のお力で、お咎めなしらしい。


 ヤーン神教の例大祭も終わり、街の中に人の数も減った。だから、より一層視線が痛い。俺はニーに背負い袋を預けると、耳打ちした。


「お客が1人いる、かなり厄介そうだ。宿にもいるかもしれん。」

「お前の客か?」

「それが分からん。特に心当たりはない。」

「分った。」


 3人先に戻ってもらう。宿まで案内する義理はない。


          ★             ★            ★  

                       

「私の尾行が下手でしたかな?」

「尾行だったのか?俺を誘っているのかと思ったが・・・」


「若造が、舐めた口をきく・・・」

「若さの特権さ。」


 俺が嫌味を言うと、俺の後ろの家の影から1人の男が現れた。全身黒ずくめの忍者スタイルである。月明りが無ければ、闇に溶け込んでしまうだろう。


「お前に怨みは無いのだがな・・・」

 最近どこかで聞いたセリフだな。


「お前の首を聖女に届けなければならん。」

「そいつは悪趣味だ、止めとけ。」


 だんだんと近づいてくる。俺はバンダナから投げナイフを1つ取り出した。


「ククク。そいつで相手をしてくれるというのか、面白い。」

「できれば名前を教えてくれないか?」


 ヤツは脇に差した忍者刀を抜いている。


「そうだな、「兵」とでも言っておこうか。」

「お前1人か、何故俺を狙う?」


「そんな質問に答えるとでも?」

「だろうな・・・」

 あと一歩で刀の距離である。俺はそこで右手のナイフを相手の左目めがけて力いっぱい撃ち込んだ。


「ぐおっ、き、貴様、何をした?」

 もちろん教えてやるほど俺はお人好しではない。左手の指弾を死角から左目に撃ち込んだのである。


「貴様っ~!」

 いきなり片目で切り込んできても、遠近感が狂ってるだろ。俺は相手の刀を避けざま、左の膝関節の横上方から踵を落し再起不能にしてやった。左側は見えんだろ。


 左足を壊しても、まだ男は元気に手裏剣を撃ってきた。もしかすると、麻薬の類をやっているかもしれん。

躱さねば当たる手裏剣のみ叩き落としておく。特に難しい技ではない、手裏剣の回転面に対して垂直に打撃を加えればよい。触ってみて分かったがこの手裏剣、何か塗ってある。おそらく毒だ。


 刀の方も同様らしく、俺を斬るというよりは傷をつけようという刀法である。このまま付き合うつもりはないので、投げナイフを相手の右目めがけて力いっぱい撃ち込んだ。もちろん死角から指弾を撃った。どうしてもナイフという得物に目がいって、その影の赤銅貨まで気づくまい。まして今は片目だ。


 これで両目とも見えないだろう。俺の指弾にも目つぶしがタップリ塗りこんであるからな。3つ目、最後の投げナイフを額に撃ち込んだ。反射的に刀で額を守ろうとした男に、俺は『飛天』で近づき硬気功正拳突きを水月にみまった。ところが手ごたえが変である。フトコロに何かを呑んでいたようである。


 勝ち誇ったように男が叫ぶ。

「馬鹿め、調子に乗りおって得意の正拳突きを水月にみまったな?ここには毒を塗った剣山が縫い込んである。貴様の得意技が水月への正拳突きであると、リクオ様から聞いていたのでなあ。ククク・・・」


 そうか、リクオのところから来たのか。なら十中八、九はシズ教団とやらであろう。ちなみに硬気功をまとっていた俺の右手に傷はない。剣山が負けたのだろう。毒の方は大丈夫だろうか?


「言いたいことはそれだけか?」

 どこの世紀末覇者だ。俺は気配を消して近づくと、ヤツの刀を両手でつかみ優しく腹につきたててやった。自慢の毒をよく味わうがいい。俺はヤツが痙攣を始めるのを見届けると、投げナイフを回収した。


 仕方なく、俺はカミーユの部屋へ急いだ。放っておいて彼女に死なれても寝覚めが悪い。


「・・・ですから、いらしゃる時にはドアからおこし下さいと・・・いえ、何でもありません。」

「すまんな、こんな時間に。俺の生首をアンタに届けたい、というやつと出会っちまってな・・・」


「それで、どうされたのですか?」

「俺の首はまだ繋がっている、それだけだ。」


「血の臭いがひどいです。」

「ヤツらはアンタも狙うかもしれん。俺が1日ついていてやるわけにもいかん。」


「それで私が死んだのなら、それがヤーンの運命さだめなのです。」

「そいつはきけないな、アンタは俺に神託を授ける義務がある。約束を忘れたか?」


「忘れてはいませんが、私は戦い方を知りません。」

「剣をとるだけが戦いではない。最後の一瞬まで死に抗い、俺に神託を残して見せろ。」


「厳しいのですね・・・」

「喜べ、俺が厳しくするヤツは見込みのあるヤツだけだ。」


「私、今回の使命が終わったらハヤトと冒険者の旅をしてみたい。色々な国、色々な街、色々な人・・・」

「簡単だ、生き残ればいい。そうすれば俺がどんな手段を使ってでも必ず実現させてやる。必ずだ。」


「そのころには、私の借りもいっぱいになっているのでしょうね。」

「・・・・・・」


「約束ですよハヤト、必ず私の借りを取り立てに来てくださいね・・・」

「アンタはそんな女だったか・・・?」


「自分でも驚いています。いえ、これが本当だったのかも。」

「・・・そいつがいつになるか分からんが、必ず来よう。」


「ハヤト・・・」

「カミーユ・・・」


 2つの影が重なって見えたのは、きっと月の気のせいだろう。それはしばらくすると2つの影に分かれた。


 ハヤトが宿屋に戻るころには、もう夜が明けようとしていた。そして宿屋の前にも忍者が1人倒れていた。


「こっちにもいたのか?」

「うむ。完全な隠形だったのだがフレイが気づき、レイメイが射止めた。」


「問答無用か。騒ぎになると面倒だ、埋めておくか。」

「そうだの。」


 短い仮眠をとると、もう朝食の時間だった。俺は念のため毒のことをレイメイに話し、朝食を見てもらった。何種類もの試薬を試していたが、問題なしとのこと。これなら、よそで食べた方が早かった。


 もっとも、ここで俺以外の3人が死ぬようなことになったら、シズの国は今日限り地図から消えるだろう。


 朝食を食べ、パンパンの背負い袋を背負って朝一番の辻馬車を待つことになった。とりあえずリロイの街でお宝をさばいて身軽になる。決まっているのはそこまでで、冒険者には計画性という言葉に縁が無い。


 だいたいカミーユがいけないのだ。いつ、どこで、どんな選択をすればよいのかきちんと教えてくれれば悩まずにすむのに・・・もっともそれが分かるようなら伝えてくれるだろう。俺は知らず手のひらを唇にあてていた。


 やがて朝一番の辻馬車が出る時間となった。乗り込んだのは俺達と、若い女が1人。籠を背負っている。

俺達にはすぐに敵と知れた。しばらく走っていたが何もしかけてこない。俺はカマをかけてみた。


「お前が3人組の最後の1人か、名はなんという?」

「なっ、「臨」も「兵」も死んだのか?私の名は「闘」!」


「なるほど、それでどうする?このまま馬車を降りれば追いかけはせんが・・・」

「ふふふ、ありがたくて涙が出るわ、忍びが名を明かすは死す時のみ!」


 女はそう言うと、籠をおいて馬車の外へ飛び出した。俺は慌てて籠に向かうと馬車の外へ放り捨てる。


「みんな、身を伏せろ!」

 俺は全身に硬気功をまとい、レイメイの上にかぶさった。


「ドドドドドーーーン」


 ものすごい爆風に、幌は破れ飛び、馬車が一瞬持ち上がった。火薬に仕込んであった棒手裏剣やまきびしが飛んできたが、角度の関係で当たらず、馬車板を打ち抜くほどの威力でもなかった。一番災難だったのは御者で、棒手裏剣を右肩に受けてしまっている。頭でなくて幸いだ。今回は毒を用いていないらしい。


 馬はびっくりして目を回している。俺は火薬の臭いを覚えておく。この世界でとうとう火薬が使われたのだ。ついに一線を越えた。それは人類進歩の兆しかもしれないし、破滅の兆しかもしれない。

連日UPでございます。

次回更新日も明日の予定です。

楽しんで読んで頂けているのでしょうか?

そうであれば幸いです。

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