2-14.EML砲(電磁加速砲)
「マスター、正気ですか?」
「当たり前だ、ほかに手段があるなら聞いてやる。」
「しかし、私の兵装は最大距離2,000㎞として設計されています。単純に17.5倍スペックオーバーです。」
「だから、ほかに手段があるなら聞いてやるといっている。」
ハヤブサに搭載しているEML砲(電磁加速砲)は、最大で光速の1%(約マッハ245)という馬鹿げた速度で物体を加速射出することが可能な、ハヤブサの持つ最大兵装である。
今回、こんな超加速は必要ない。10分の1でいいか?ダメだ、第2宇宙速度は必要だ。少なくとも初速でマッハ33が必要となるレベルだ。となると切りよく5分の1でマッハ49、十分だろう。問題は距離と射撃姿勢である。
目標は高度約35,000㎞地点にいる。ハッキリ言って全然見えない。それに加えてハヤブサがいるのは海の上で、予測射撃なんてできるわけがない。完全自立制御型量子コンピューターといえど、できないものはできない。しかしそれをやらなくてはならない。
不可能を可能にする狙撃手はどこだ。トラクターか、讃美歌か。必要なものを言ってくれ!
仕方ない、足元を固めよう。俺はハヤブサを沖にだし、砂浜のある海岸線をさがした。条件の合う場所がなかなか見つからないが止むを得ない。ついに最適な場所が見つかり、ハヤブサに命じて意識的に座礁させた。つまり、砂浜に正面から思い切り突っ込んだのである。後が大変であるが、これで波による変位は抑えらるだろう。
次はハヤブサのEML砲(電磁加速砲)フォーメーションである。中央マストの下3分の1の位置で折れ曲がり、残りの部分が砲身というわけである。仰俯角が高い、太陽とダブりそうだが何とかいけるか?
試しに一発撃ってみよう。もちろんハヤブサの火器管制システムに任せた。
「ドッグワーーーーーーン!!!」
ものすごい音だ、衝撃波で海面まで割れている。船体も陸に乗り上げているのにすごい揺れである。これは一歩間違えると船体ごと横倒しになるか?とてもではないが連続掃射は不可能だ。耳栓も必要だ。レイメイも目を回している、無理もない。
今の弾丸の予想到達ポイントとターゲットのマーカーとの差異は13mであった。これを近いとみるか離れているとみるか。偏西風がちょっと意地悪しただけで10mは狙いが狂うだろう、ハヤブサはよくやっている。このまま結果をフィードバックしながら単発で連射するしかない。
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
近所から文句どころか、モリが飛んできそうである。ちなみに今は砲身冷却中である。
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
うーん、分かってはいたが上手くいかないものである。近づいてはいるのだが、当たらない。
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「ドッグワーーーーーーン!!!」
「マスター、チャージエネルギーの限界ポイントに近づいています。 」
「なに!あと何発分だ?」
「あと2発でデッドラインです。最後の3発目を撃てばハヤブサは再起動不可能となります。」
「実質2発か・・・」
俺が悩んでいると、思わぬところから声がかかった。
「マストから何かとばして、弓矢みたく的に当てようとしてるんだよね?」
レイメイの前にはマーカーを付けた人工衛星のシルエットと、ハヤブサの着弾ポイントと思しき赤い×印が幾つも描かれている。
「要はこの黒いやつに当てればいいんだよね?私に撃たせてもらえないかな?」
「レイメイ、これは遊びじゃ・・・」
「うん、もちろん全部アタイがやっても当たんない。狙いはハヤブサにつけてほしいんだ。」
「照準をハヤブサに、トリガーをレイメイに、か・・・」
「そしてアタイが思った時に撃ってほしい。それには口で言うのか、この丸いのを押せばいいのか・・・」
「ハヤブサ、どうすればいいと思う?」
「いずれにせよタイムラグが発生します。今回に限り2発同時を提案します。」
「よし、ハヤブサがこんだけやっても駄目だったんだ。レイメイ頑張れ!」
「エへへ、アタイ頑張るよ・・・準備ができたら言ってね、ハヤブサ。」
「砲身冷却完了、エネルギー充填完了、自動追尾装置作動確認・・・システムOKです。」
「分かった。ちょっと待ってねー・・・・・」
レイメイの顔が険しくなった。何より目を空けていない。大丈夫だろうか?
心配し始めてからまだ30秒も経っていない。俺の方が焦っているようだ。
「いま!」
叫んだのと EML砲の発射ボタンを押したのと、どちらが先だったのだろうか?
そんなことはどうでもいい、確かなのは天空に見える昼の花火だった・・・
「すごいぞレイメイ、大当たり!まさにマリア様のパスだ。どうしてこんなことができるんだ?」
俺は驚きと衝撃と嬉しさのあまりレイメイに抱きついてしまった。
「アタイは遠くの獲物を狙う時、目で狙わないのさ。頭の真ん中で感じるんだよ。」
ハヤトに抱きつかれて、嫌ではない自分に驚いているレイメイ。
「でも、上手くいったのはたまたまよ。」
「たまたまで、ハヤブサにやれないことができるとは思えない。何より、お前は世界を救った。」
「へっ、救った?世界?」
「あっ、それはこっちの話だ。それより誇っていいぞ、誰にもできないことをやったんだ。」
それからが大変だった。ハヤブサを海に戻すのに横帆船をだしてもらい、3隻で引っ張った。砂浜には地元の村の男衆を集めて、白の5で50人近く総出でハヤブサを押してもらった。何とか自走できるようになるまで3時間近くかかってしまった。総帆開いてエネルギー・チャージを開始したハヤブサがほっとした顏していた。
横帆船のレンタル料を含めたら金貨10枚が消えてる計算になる。盗賊からくすねたお宝であるが、ヤーンの巫女のためにやったことだから、間接的に教徒から善意の寄付をうけたという解釈でいいだろうか。
レイメイになにかお祝いしてやるといったら、何故か真っ赤になって何もいらないと言い出した。服でも靴でも防具でも、といったら、今晩は俺の作ったジンギスカンが食べたいと言いだした。仕方がないので作ることにする。
「しかし、こんなんでホントに良かったのかよ?」
「あらアタイ、アンタの料理、結構好きよ。」
「レイメイ、気がついてるか?一人称が私からアタイになってるぞ。」
「あれっ、アタイいつから・・・」
「そのほうが、親しみやすくていいな。」
「そう・・・かな・・・。」
「おかげさまで、俺の仕事は一段落だ。遅くなったがレイメイに盗賊のお宝を半分わけとくぞ。」
「お、ありがとね、矢3本射るだけの簡単な仕事だったけどね。」
「ま、そこはヤーンに感謝だな。」
「ヤーンか・・・」
レイメイが真面目な顔で訊いてきた。
「アンタ、カミーユのこと、どう思ってるの?」
「疫病神だな。」
「疫病神?」
「口を開けば大きなお世話で、はた迷惑で独りよがりなことしか言わん。しかもそれが正論ときている。」
「そうなの?」
「そうだ。しかしあいつの一番悪いところは、悪気が無いってところなんだ。」
「でもアイツ、かなり覚悟決めてると思うよ。」
「ああ、そうだな・・・・・・」
まだリハビリは続きます。
更新も続きます。
次回更新予定日は明日です。
喜んで読んで頂けるなら幸いです。




