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2-12. 黒の星

 その晩、ハヤトは戻ってこなかった。レイメイ達は食堂で夕食をすませると、早々と床に就いた。実際レイメイは疲れ切っていた。慣れぬ石牢で10日間を過ごし、息つく間もなくハヤトの鬼気にあてられた。 普通の女性ならその場で寝込んでいるところであるが、さすが冒険者。なんとか耐えて、食事をかきこんだ。すると、もう目を開けてはいられない。寝床はフレイやニー達とは別であったが、石牢にいたことを思えば寂しさも感じなかった。


 翌朝目が覚めて、昨晩と同じ食堂に行くとフレイやニーと一緒にハヤトが朝食をとっていた。レイメイの心拍がドクンと上がったが、昨夜のことは無かったことにしようと決めていたので、彼女は努めて明るく声をかけた。


「おはよう、ハヤト!」

「よう、体の方はもう良いのか?」


「んー、もう少し寝てたいかな。でも、大丈夫よ。」

「なら、遺跡にもぐれるか?」


「遺跡?」

「ああ、中央広場にあるこの街最大の遺跡だ。フレイとニーは行くといってる。」


「それは聞き捨てならないわね、もちろんついてくわ。」

「分った、それから居場所を変えようと思ってな。遺跡荒らしがいつまでもヤーンの神殿でもあるまい。」


「どこに行くの?」

「いまニー達に話していたところだが、銀の羽という宿だ。昨日のうちに予約はしてある。BAR付きだ。」


 やはりカミーユのところに居ずらいのかと邪推してしまう。しかし自分達は冒険者として対等である。そう考え、昨日のことや聞きたいことなどたくさんあるが一旦忘れることにした。


「分った、出発は?」

「食事がすみ次第さ。」


「随分急ぐわね?」

「朝の九つになると、一般の教徒さん達が入ってくるそうだ。剣や槍で驚かせるわけにもいかんだろ。」


「ん、了解。」

 昨夜ハヤトが出かけた後に、もう戻ってこないのではないかと思ってしまった。そんな自分が少し恥ずかしく、当たり前のようにそこにいるハヤトが眩い。

彼女が自分の気持ちの変化に気づくのは、まだ先だった。


 朝の九つ、宿屋が始まると同時にチェックインして親父さん達を驚かせた。もっとも今日からヤーン神教の例大祭が始まるため、リヨンは人でごった返すらしい。宿屋もどこも満員らしく、昨夜の予約は正解だ。


 昼の内はローソクや長めのロープ、新しい水袋などを買い込み、侵入するのは日が落ちてからだ。幸い今日は新月だ、中央広場でもそうは目立つまい。


          ★             ★            ★  

                              

 深夜の中央広場、真っ暗でさすがに人の声も聞こえない。本来冒険者が遺跡に入るのは当たり前で、何もこのように隠れる必要はない。しかしもう何年も人を拒み続け、開かずの遺跡とまで呼ばれていては・・・

 そしてそれがヤーン神教の例大祭に日を合わせて開いた、となると話は別である。考えたくもないが、きっと大騒ぎである。無用のトラブルは避けるに限る。


 ハヤトは遺跡から少し離れたところに立った。ほとんど視界はきかない、星明りのみである。何の緊張もなくハヤトは遺跡に向かって走り出した。ぶつかる瞬間ベクトルを真上に変えて、遺跡そのものに登りだした。

 ハヤトが引力に負ける前に、右手の指がドアの窪みに引っかかった。その状態で左手を伸ばし、シルバーリンクをドアのパネルに押し当てる。何をしているかは新月が隠してくれる。


「何をしているかは分らないけど、ドアは開いたみたいね。」

「何をしたか分る僕としては、何をしたかが驚きなんですけど。」

「あいつといると、自分たちの常識が揺らぎかねんな。」


 やがてロープが下りてきた。フレイが察知しレイメイから登り始める。全員が登りきるまでさほどの時は要さなかった。剣や槍は邪魔になるので宿においてきてある。


「さあ、よりどりみどりだ。どの部屋へ入りたい?」

 ハヤトが言うと、背負い袋がいっぱいになるまで略奪は続いた。こんな日が3日も続くと、買い取り屋の店主が訝しむようになった。


「お前さん達、どこでこれだけの神代の品を入手なさった。新しい遺跡の話も聞かんし、まさか盗品ではあるまいね?」

「とんでもない、ヤーン神教の例大祭に合わせて大量に持ち込んできたのさ。」


 入手ルートを疑われては手仕舞いである。そうでないと宿屋から誰かに後を付けられることになる。

 かなり稼いだし、ここは引く手だ。この辺の呼吸が分からないやつは一流になれない。 


「3日間だったが、かなりいけたろ?」

「そーね、石牢の10日分は取り戻したかしら?」

「石牢にいた間はお金を使いませんでしたからね、丸儲けでしょ?」

「うむ。新月ごとにこれができれば蔵が建つのだが・・・」


 確かにニーの意見はもっともだ。俺は世界の王なのに、実生活ではこうして金を稼がなければ暮らしていけないのである。世界の王として、これはどうしたもんだろう。


 買い取りを終えて宿に着くと手紙が来ていた。おかみさんから手紙を受け取り礼を言う。


「地は黒き星に」


 差出人も手紙の意味も、俺にしか分らない内容である。ここんとこ、展開が急すぎないか?今から行っても彼女の営業時間になるだろう。仕方ない、夜にお邪魔するとしよう。


「・・・というわけでこの時間にやってきたのだが、レディに対していささか不作法だったか?」

「迷惑ではありませんが、次からは人を通じてドアからおこし頂きたいのですが。」


「追い返されなければ、そうしよう。」

「『白き星の子』の名は、ヤーン神教においても特別なものです。あなたがその名を棄てぬ限りは。」


「ところで『地』が奪われたそうだな。本当に『黒き星の子』の仕業なのか?」

「奪われたのは本当です。奪ったのは・・・一人ではありません。多くの人達の波動を感じます。」


「仲間、あるいは誰かにそそのかされている?現状では判断できんが、複数犯ということか。」

「はい。そして近いうちにとても良くないことが起こります。・・・おそらく、地が哭くでしょう。」


「地が哭く、とは?」

「はっきりと視えませんでしたが、おそらく火の山の噴火ではないかと。」


「火山の噴火だと、やつらいきなり『地』を使うつもりか?自分たちだって無事では済まんぞ。」

「それが私の鳩によれば、あさまの山が噴火するので住人は避難せよとのふれが一月も前から。」


「それはいったい誰が、何のために?」

「ふれは、シズの国。正確にはシズの国の宮廷魔導師達です。目的は恐らく自身の力の誇示でしょう。」


「宮廷魔導師?そんなのがいるのか、魔法使いか何かなのか?」

「ヤーンの巫女も、海上を走るハヤトも只人ただびとから見れば等しく魔法使いと映りましょう。」


「力の誇示、ってのは何だ?」

「シズの国は以前より、神代の秘密を解き明かさんとする最も熱心な国の一つ。今回は示威行動かと。」


「ああ、なるほど。神代の力を手に入れて、こんなことができますよと周辺国に言いたいわけか。」

「シズの国の宮廷魔導師達は「シズ教団」という宗教団体を結成しています。今回は恐らく彼らの仕業です。

そして、この教団に加入しないと更なる災いが起こると言っているそうです。」


「なるほど、大噴火でなく小噴火をおこす気か。そんな融通がきく妖精さんかなあ・・・」

「『白き星の子』の・・・ハヤトの力で、この噴火を止めることは可能でしょうか?」


「できる、できないで言えば、できない。せいぜい2回目以降をとめることぐらいだ。」

「それは可能なのですか?」


「・・・努力する。」

「ありがとうございます。」


「俺がこうしてヤーン、いや聖女カミーユのために動いていると、あんたは敵対勢力の的にされないか?」

「それは私の身を案じる発言であると、自惚れてもよろしいのでしょうか?」


「あんたとは約束があるからな、片がつくまで死んでほしくないだけだ。」

「ありがとうございます。」

 そう言うと、彼女はヤーンの聖句ルーンを唱えた。それは会談終了の合図だった。

明日(今日の朝)から入院です。

更新は暫くお休みですが、見捨てないで下さい。

次回更新予定日は7月10日です。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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