2-11.運命の子
カミーユの案内で俺達は神殿の中を歩いていく。行きかう人がカミーユに会釈するのは前と同じだったが、今回は俺達の姿を見るとギョッとしたような素振りを見せ、それから何でもなかったように通り過ぎて行くのだった。やがて俺達は1つの部屋の前で停まると、中に入っていった。
20畳ぐらいの広さだろうか、中央のテーブルに全員が腰を下ろすと部屋が寂しく感じられた。カミーユは部屋のベルをリンと鳴らし、侍女を呼ぶと全員にお茶の用意をするように頼んだ。そのあとカミーユはおかしな動作―――人差し指と中指で手刀を作って縦と横に宙を切った―――を行い、その上でこういった。
「この部屋には「目」も「耳」もおりません。」
「フレイ?」
「うん、確かに誰もいないね・・・ああ、お茶がやってくるようだ。」
すぐに侍女がやって来て茶の用意を終えると、カミーユは人払いを頼んで扉を閉めた。
「みなさんは私達巫女が何年もの修行の末、手に入れたものを既にお持ちなのですか?」
「いや。今のはフレイと俺が特別で、誰でもできるというものではありません。」
「そうですか・・・こちらには私専用の部屋が無いため、難儀しております。」
「そうでしたか。では、もうお話ししても宜しいですか?」
「はい。」
「『火』と『水』はすでにわが手に。『風』はいまだ。」
「そうですか、すでに『火』と『水』を・・・。さすがでございます、『白き星の子』よ。」
「カミーユ、あなたにはそれが・・・『火』と『水』が何を意味するかご存じなのですか?」
「いえ、分りません。私の「先読みの力」は、そこまで具体的なことは分かりません。ただ『黒き星の子』が『地』『水』『火』『風』全てを揃えるとヤーンの世は終わりをつげ、暗黒の世紀が始まると。」
「なるほど、それでは神代の時代について何かご存じではないでしょうか?」
「申し訳ありません、私の力は「先読みの力」。過去を読み解くことはかないません。ですが、巫女の中には「過去読みの力」を持つ者がいると聞いた覚えがございます。」
「そうですか・・・」
おそらく嘘はいってないだろう。しかしそれでは俺の最も知りたかったこと、「何故俺なのか?」について回答を得ることはできない。
「無理を承知でお願いする。いつか都合のつく時に、私と「過去読みの力」をもつ巫女を会わせてはもらえないだろうか?」
「ヤーンの巫女となれるのは、国の中でも1人か2人。全くいない国も多くございます。そして、その中でも聖女と呼ばれるほど特別に力のあるものは5、6人でありましょう。故に私と「過去読みの聖女」との接点は多くありません。ですが、できうる限りお力になることをお約束いたします。」
「ありがとう、カミーユ。」
「先ほどもいいましたが、あなたが礼を言うことなどないのです。ハヤトよ、『白き星の子』よ。」
「「過去読みの聖女」の名を聞いても?」
「スーと申します。「聖女スー」と。」
「ありがとう、カミーユ。俺はこれから『風』を手に入れる。早い方がいいという予感がするんだ。」
「分りました、あなたがそう感じるのであれば。お仲間は教徒の宿泊施設にでも、ご案内いたします。」
「重ね重ね、すまない。」
「・・・ハヤトよ、『白き星の子』よ、そしてヤーンの定めた『運命の子』よ。この世は変わる。安穏から混乱へ、秩序から無秩序へ、平和から争いへ・・・そなたが運命の糸車を回すのだ。」
「カミーユ!カミーユ!」
俺は彼女の両肩をつかんで軽くゆすった。一種のトランス状態なのだろうか?いままで俺とカミーユに遠慮して、静かにしていた3人組も動揺している。
「ああ、ハヤト。私はあなたといると神託が・・・視える・・・」
「カミーユ、『運命の子』とは何だ?俺は初めて聞くぞ。」
「私が言ったのですか、『運命の子』と?」
「ああ、確かに言った。俺は『白き星の子』で『運命の子』だと!」
「『運命の子』とは時代の節目に現われる大きな分岐点。その者の選択によって時代はヤーンの繁栄を迎え、その逆の選択がなされたならば、世界は暗黒の世紀を迎えるだろう。と伝承されています。」
「何故俺なんだカミーユ、何故俺が『白き星の子』で『運命の子』でなければならないんだ!?」
「ああ、すみません。ハヤト、私はただ視るだけ。理由は分らないのです。」
「無責任じゃないか!おかげで俺は・・・地上の人々の・・・運命を・・・人々の行く末を・・・・・」
「ハヤト・・・」
「力こそ正義、そんな時代こそ俺にふさわしい。それこそ俺の世界だ。だが俺はそんな世界を望まない、多くの人達がいることを知っている。何故それを俺に選ばせる?我が瑞樹流2,000年の悲願はどうなる?」
「誰も強制はしません『白き星の子』よ。いえ、『運命の子』に強制などできないのです。あなたは、あなたの信じるままに生きて下さい。私は、私達はその結果をただ受け入れるだけです。」
「戦争がおきるぞ、大戦だ。人が大勢死ぬんだ、弱いものから死んでいく。子供や年寄り達だ。」
「それがあなたの望みであるのなら。」
「受け入れるというのか?・・・狂ってる!!」
「私は始めから何度も、「 あなたが礼を言うことなどない」といってきました。それは私達があなたに大いなる選択を強いているからです。ハヤトが望むのであれば、私は私自身さえ犠牲にするでしょう。」
「しかし貴女は先ほど「この世は変わる。安穏から混乱へ、秩序から無秩序へ、平和から争いへ・・・そなたが運命の糸車を回すのだ。」といった。これは俺の選択がもうなされているということではないのか?」
「『白き星の子』いえ、ハヤト。未来は決まっていません。私が述べた未来は、私達がこうして出会うことをせず、あなたが自分を『運命の子』と知らず、好き勝手に生きた先にある未来の1つなのです。」
「なに?」
「そのような不幸な未来を選択しないよう私達は神託を受け、より良き未来の道しるべとなるのです。」
「つまり暗黒の世紀とするのも、ヤーンの繁栄とするのもこれからの俺次第なんだな?」
「その通りです。」
その瞬間、俺は気の解放を行った。今までのようなお遊びとは違う、俺の本気の鬼気が噴き出した。カミーユはかなり顏をしかめたが、それでも立っている。気丈な女だ。レイメイは腰が抜けたようだ。後の男2人は得物に縋りついてかろうじて立っている状態だ。俺は一言一言、区切るように言った。
「俺がどんな未来を選んでも受け入れると言ったな、自身さえ犠牲にすると言ったな、確かに聞いたぞ。」
俺はみんなの前から消えた・・・ように見えただろう。こんな神殿の警備など穴だらけで、俺は誰にも見とがめられずに表に出た。行く先は街の中心である遺跡だ。間違いなくあそこには『風』がいるはずだ。
★ ★ ★
鬼気の縛りが解けると、まずカミーユが気がついた。
「ハヤトが、いない・・・」
「あの殺気のせいで絶対知覚が働いてくれませんでしたねぇ・・・遺跡に行ったんでしょうけど。」
「あれは殺気なんてもんじゃねえ、鬼気だ。覚えてとけ、未熟者なら立っていられんとこだ。」
レイメイは元々弱っていたところに追い打ちがかかり、ヒイヒイいっている。
「ハヤト、怒ると怖いね・・・」
それをカミーユが聞きとがめる。
「あれは、やはり怒っていたのでしょうか?」
「そうですねぇ、運命を文字通りその手で切り開いてきた人みたいですからねぇ。」
「うむ。その運命をしかも世界の運命を預けるとか、任せるとか、そういうのは我慢がならんのだろう。」
レイメイが疑問を口にする。
「こんな大変なことなのに、王様や貴族様には伝えないの?」
「国はヤーン神教を敬ってはいても、その神託を信じてはいません。」
「国政に宗教がからんでくるのを恐れているんですよ。」
「逆に、国政のために宗教を利用されるよりはましかもしれん。」
いずれにしても、とニーが言う。
「カミーユさん・・・いや聖女カミーユ、貴女は大変な約束をした。いまさら冗談ではすまされんぞ?」
「私も聖女の名を持つ巫女です、自らの言葉に偽りはありません。」
「うむ、さっきの鬼気は本物だった。つまり、いつでもお前の命を奪うぞ、奪えるぞという警告だ。」
「私が約束を守っていれば、何も問題はありません。私にはその用意があります。」
「用意?」
「そ、それは、つまり、その、こ、この身を、差し出す、と・・・いう・・・」
「や。ハヤトという男、そういう話とは無縁だ。カンだがな・・・」
真っ赤になったカミーユの顔など、誰も目にしたことはないであろう。
だから、今日の話もカミーユの顔のことも全て無かったことにしようと決めた。
そういうことになった。
明日更新すると入院です。
復活まで温かい目で見守って下さいませ。
18日には復活予定です。(リハビリ次第)
というわけで、次回更新は明日です。




